本領発揮4
「じゃあ、……これからの話をしよう」
「詳しい説明をお願いしますわ」
「はっきり言うが、今回セシルに手を貸したのはフローラの意志を汲み取ったというのが大きい。セシルにはこの場で引くという案もないことはないが」
ノームはフローラ最期の願いを実現した。
彼の魔法を知ってしまったからには、物騒な言い方だが、……セシルを野放しにしておくことはできない。たった一人の少女がべらべら言い触れ回った所で、誰も真に受ける者はいないだろう。しかし、それは不安材料を残していいという理由にはならないのだ。
今のセシルには二つの選択肢がある。
馬車内での会話を全て忘れて、他人になるか。組織に加入して、秘密を共有するか。
ノームは如何やら後者を選んでほしいらしい。煮え切らない言い回しから伺える。
彼はセシルを高く評価している。追い打ちをかけるならば、涙を見せた数少ない相手でもあった。関係を白紙に戻すのは、忍びない。
「そんなことは別にいいですわ。救われたのは事実ですのよ。……それと、ここで逃げ出すなんて絶対にありえませんわ」
火を見るよりも明らかで、セシルにもその気はない。長年追い続けてきた謎を明かせたのだから。
――それに。
「実は不名誉な団だったと知って、見損なっていると危惧していたが」
「そんなことはありませんわ」
セシルは確かに、ナイツオブノーネームを何事も完璧にこなせる最強集団だと妄想していた。
そして――心細くなっていく。自分の実力では例え見つけたとしても、本当にやって行けるだろうか。いっそのこと探さない方がいいのではないだろうか。
自分が嫌になってくる。
過去、そんな悪循環が数えきれないほど巡り巡った。
故に自分が必要な存在であれることが曇りなき幸せとなる。
「それとセシルには適正がない。どんな魔法を発動させても適正崩壊に陥り、信号の依存化を加速化させる。五回も使えば、魔法がつか……」
「私を欲しいんですの? いらないんですの?」
魔法には属性があり、万人がそれら全てを自由自在に扱えるなんて夢物語。使える属性、使えない属性がある。それが適正だ。
適性はあるorなしを決めるのみ。上限を定めるものではない。上達が早いことを人は適性が高いと耳にするが、それは間違いだ。
じれったい。セシルはノームに顔を寄せる。
「……俺は君が欲しい」
「最初から素直にそういえばいいのですわ」
喜悦が這い寄ってくる。
捕まってはいけないと、セシルは抗った。
「イタ。……おっ?
団長さん、この馬車は何処に向かってるんだ?」
視界を閉ざしていたカーテンが僅かに舞い上がった。
その隙間から外の景色を見たノームは不審がる。
木、木、木。
経過した時間を踏まえると、......王都についている、少なくとも森は抜けている。けれど、人口建造物は一切目視できない。
「最初の任務を与える。ダンジョンから外に出てきた魔族の討伐だ」
自ら手綱を握るアデラードが所以を投球する。
====== ====== ======
「やったぜ!!」
一人の青年が喜悦に浸る。魔法で傷を癒しながら、次のフロアへと歩いていった。
「くそーー。ふざけんなよ。覚えておけ人間ども」
残されたのは血塗れの魔族一体。本来は真っ黒な体だが、淀んだ緑色に汚されている。
羽も折られて、冷たい地面と密着している。
彼の心情は怒気一色だ。
すると、怪我が驚きの早さで完治する。凸凹に歪んだ部屋も元通りになった。また新たな挑戦者が彼の元に訪れたのである。
(許さない。許さない)
けれども、心まではリセットされない。
恨み数える日々が限界を超えた。彼は遂にダンジョンという名の箱庭を飛び出して行く。
セシルとヴォーレグとの試合前日のできごとである。
「ははは。あんなところでやっていけるかよ。俺はこんなにも強いんだよ」
24時間というのは彼には十分過ぎる時間だったらしい。屍となった村の住人、燃やされた家畜、倒壊した家々......全てこの者の所業として挙げられる。
高笑いが響き渡った。
「こいつはあの時のガキじゃねぇか。ざまぁみろ」
積み上げた死体の中から見知りの顔を見つける。ダンジョン内で自分を殺した者の一人だ。そうはいっても、第一フロアボスを任されている彼を倒した人数など、百は越えている。
山を崩して、頭を掴む。
「死になさいですわ」
爛れた皮膚を見ながら、悦に入った魔族。
そんな至福の一時を透き通った声に邪魔される。
「ふざけんじゃーー、ギャアーー」
黒みがかった炎とは比較されるだけで鼻につく。
真っ青な炎の大剣が魔族の体をこの世から消し飛ばした。
====== ====== =======
「酷いですわ」
「魔族なんてこんなものだ」
現場に到着した二人。
セシルは荒れ果てた惨状を見て、声が漏れた。
ノームが平静を保てているのは、慣れたからだ。目の前に広がる地獄は冒険に身をおく者達でさへも、心を痛めて不思議はない。
「ねえ、あれうヴ......」
「静かにしろ」
突然、声を挙げたセシルの口はノームの手によって塞がれる。
驚きと恥ずかしさからヴヴーと声にならない音は続く。それでも気付かれるよりは断然いい。
「敵か?」
「はいですわ。……それに私の村を襲ったやつですの」
「それはフローラを殺したということか」
セシルは首を一度縦に振る。
【沈め】
ノームは立っている地面が消滅する錯覚に陥った。
【魔法コード、既存展開……βF7、破棄。βF8に変更】
(折角だからこちらの方がいいだろう)
ノームはフローラが使っていた魔法に組みなおす。
【範囲指定、有効……1010101010111,101,110。
発動準備完了】
【情報隆起】
ノームの手で、魔力が揺らめいている。
「見ていて気持ちのいいものじゃないし、それそろ行くか」
「はいですわ」
その手を優しく肩に置いた。
【魔力譲渡――βF8・1010101010111,101,110/Δ】
「暖かいノームが入ってきますわ。アアー」
セシルの喘ぎ声が魔族に届く。
「死になさいですわ」【クラウ・ソラスフォール】
それでも何とかプライドを立て直した。
発動した魔法は火属性第八段階魔法。遥か上空に現出した炎の剣が光の速さで落下する。
熱に速さがブレンドされた莫大なエネルギーは魔族の肉体一塊も見逃さなかった。
「なぜ余波がでないんですの?」
「範囲指定をしているからだな」
残り続ける死屍累々に目を向けた。
「辛くはないのか?」
「二度目ですのよ」
何となく、ただ何となくノームはセシルの頭を撫でた。
セシルも何となくノームに甘える。
第二章はまだ終わりません。
次はクレハ――覚えているかな? の話になります。そこまでを第二章にするつもりです。
感想評価・誤字脱字報告何でも気軽にお願いします。




