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本領発揮3

謎が全て明らかに。

「如何なっていますの?」

「それは後にして、……前を向こうぜ」

「少しばかり可哀想になってきますわ」

「優しいな」


 ヴォーレグ含めた六人は魔法という概念を忘れた。さも当然のように、物理攻撃にひた走る。

 お世辞でも打撃に使えるとは言えない、細杖を振り上げてーーその光景にセシルは同情を覚えた。奇々怪々、この状況を魔法を使用したはずのセシルでさえ呑み込めていないのだから。

 絶対に何かを隠している。

 それでも、今やるべきことだけは理解していた。心苦しさも確かに存在しているが、駄々っ子のように暴れるヴォ―レグたちを地に伏せていく。

 

(後で絶対に聞き出して見せますわ) 


 幾つもの意志が絡み合った糸を解くのは簡単だった。

「そこまでです」


====== ====== ======


 戦場を囲っていた光の泡が霧散する。


「お、……俺は?」

「くそ。一体何が起きたんだ?」


 敗者は自分の戦い方を思い出した。

 自分の中にある情報が、自分の記憶として処理できない。ある者は周囲を呆然と見渡し、ある者は間近に見える土へと怒りを叩きつける。

 また、ある者はその場を動かない。


「それでは事前に決められたルールに則り、ヴォ―レグ延べ六名をセシルとの過度な干渉を禁止します」

「はっ? ふざけるな! 無効だろ」

「私の目には勝負は対等に映りました」

  

 --映ってくれたか。ノームの内心は穏やかだ。

 こんかい行われた決闘には対等な戦いであることという大原則がある。これがなければ、上位ランクの冒険者はやりたい放題できてしまうので、必然だが。

 即ち冒険者ギルド総長に複数戦闘時においては、Sランクに値すると直々に任命されているノームが受けられる勝負ではなかった。

 会場に立てたのは、ノームは一週間という準備期間に、懸命にラーミアを拝み倒した成果だ。

 フォアラの元にも出向き、確認を取るなど忙しい日々を思い出す。


「ふざけるな。魔法を使えないなんて、聞いてないぞ」

「ルールとしてならともかく、魔法が使えなかったのは明らかに彼女が原因だと思います。無効ではありません」


 騙している。そのような後ろめたい感情は……微塵もない。

 ノームは自分に全てを助けられる力はないとずっと学んできた。だからこそ助けたいと思った人間は何を賭してでも、達成できる。

 

「ふざけるな! 【ウォーターボール】」

「【サンダーボール】」


 駄々をこね続ける人がいる。

 我慢ならなかったヴォ―レグの足掻きは、アイラに制圧された。雷球は水を蒸発させてもなお止まらず、反則者を無力化する。

  

(罰則が増えるだけだろうに)

「初めてですし、違反による罰則はこれでなしにしましょう」



====== ====== ======


「それで、あれは何でしょうか?」

「俺に聞きますか。……それに先程、アイラさん自身がご説明していたでしょう」


 呼び止めるアイラの目は実に物々しい。

 弓で例えるならば、弦が軋み始めている……と言ったところか。身の毛よだったセシルの動きは膠着するが、弓は外れない。ノームには行かなければならないところがある為にそそくさとフェイドアウトしていく彼に向けられてた弦がよりひん曲がった。

 立場を悪くしたくないノームもやがてアイラへと振り返る。



「本当にそうですか?」

「はい。俺はセシルを励ましただけに過ぎません」

「では、なぜセシルさんは劣等感を抱いていたのでしょう?」

「魔物は力が強いものが多いです。魔物との戦闘に限定すれば、魔法を禁止する魔法はデメリットになる可能性が多いからではないでしょうか?」


 セシルは首を横に振りたかったが……遂にしなかった。

 嘘を吐くにはそれなりの理由がある。アイラはノームの不利益になりたくなかったからだ。


「それではヴォ―レグさんに怯えていた理由が説明できません」

「その通りです。ですので、自分で言うのも恥ずかしいですが、俺の力で覚醒したんだと思われます」

「……わかりました。結果を書面に残す必要があったので、申し訳ありません」

「……こちらこそ」


 一週間前の彼も経った数十分で劇的に変わっていた。

 戦いに身を置く者ならよくあることなのかもしれないと、アイラは自身を抑え込んで弓を降ろす。


====== ====== ======


「さて、行くか」

「どこにですの?」

「今の説明で納得したなら、別にいいが」


 跳ねる。--心が跳ねる。アイラには教えなかった秘密を自分には明かしてくれるらしい。

 ノームの中で特別になれたことがセシルに歓喜を催させた。


「来ていたのか?」

「友達ですの……って、アーデル・ハルト・ウォーロード騎士団長様!!」

 

 開けた視界の先で、ノームはアーデルと鉢合わせした。

 無礼な態度は彼だから許されるもの。ノームの背中に隠れるようにして、慎重にその人相を伺たセシルには仰天ものだ。

 心臓が掴まれた感覚に陥り、背筋をこれでもかと伸ばす。

 

「フルネームかよ」

「どうしてそんなに平気でいられますの。この国の騎士団長ですわよ」

「お、……おう」


 只でさえ騎士に憧れるセシルには、衝撃的だ。ノームの頭をペコペコとお辞儀させる。

 頭を揺らされながらもノームは何とか言葉をつくった。


「それに来ていたのかなんて……失礼ですわよ」

「まぁ、その辺にしておきたまえ。……では、こちらに来てもらおう」

 

 気になること沸騰のごとし。処理が追い付かないセシルの暴行は続き、ノームは今度は襟元を掴まれる。

 白目なりかけた彼を心配して、アーデルは手で落ち着かせる。それだけで止まってしまうんだから、鶴とは偉大であろう。


「おっと、忘れていた。ナイツオブノーネームへようこそ」


 ビシッ。アーデルは数歩歩いた先で、振り返ると敬礼を決める。


「別にナイツオブノーネームに……そうか、それがフローラの願いか」

「しっかり説明してくれるんですわよね」

「もちろんだ」


 豪勢な馬車までの徒歩を、……ノームはセシルの肩に寄り添った。

 


====== ====== ======


 アーデルとノームはアイコンタクトする。

 まずは、自分とセシルで話したいという意志を伝えると、ノームは真剣な顔つきになる。


「まず俺の話を聞いてから、細々と質問って感じでいいか?」

「はいですわ」

「ナイツオブノーネームとは俺を中心に置いた騎士団なんだ」

「えっ、なんて言いましたの?」

「落ち着いてくれ。お前も感じただろ。俺は譲渡する魔力に発動させたい魔法を誘発する記号みたいなものを組み込んでいるんだ」

 

 セシルには、大抵の人には想像すらできない方法であることは疑う余地なし。

 ーーだが、それでいい。中途半端に解説したことをノームは訂正した。


「すまん。変に言っといてなんだが、仕組みについては詳しく言うつもりはない。これは信用していないとかじゃなくて、……単に果てしない時間を要するからだ。今は事実だけを受け取ってほしい」

「わかりましたわ」


 セシルに影が差したのを見て、ノームは適当なフォローを入れる。 

 割り切る所は割り切ろうと覚悟を決めたセシルは考えることを投げ出す。パカッと空いた脳のスペースに他の疑問点が滑り込んでくる。


「これで一旦区切って、質問を聞こうか」

「何で、秘密にしているんですの?」

 

 それを知ってか知らずか、ノームは質問タイムへと移行させた。

 ナイツオブノーネームの名が世に知れ渡らないのは歯がゆい。やはりこれに終着する。


「それは……俺自身は強くなれないからだ。これも事実として認識してほしいが、俺が使えるのはあくまで魔力譲渡だけだ。他人に発動させるに過ぎない」


 【ゲシュタルトアイ】と【解析眼】では、ノーム自身の魔力は測れなかった。理由は至極単純で、自分の魔力は視界に入らないからである。偽装魔法はもちろんのこと鏡で試してみても、駄目だった。


「過ぎないなんて……それの何が問題ですの?」

「俺と一緒なら、戦争に勝てます。どうしますか?」

「無理にでも奪いたくなるなりますわ」

「そして、俺には自営手段がない。……だからだ」


 奪うなら拒否すればいいだけ。

 だが、ではいっそのこと始末しようかとなれば、ノーム単体では絶望的だ。


「なら、守ってもらえばいいじゃないですの」

「わざわざ理論立てたが、結局は危険に身を置きたくはないからだな」


 当然として、その策にたどり着く。

 しかし、できない理由とやらない理由がそれぞれある。やらない理由、……目立ちたいという欲が他の人よりも少ないのだ。


「そうですか……」

「それに、信じられない位のデメリットがあったからだ」


 不可能な理由である。

 懺悔が濃縮されたノームの一言に、セシルは体から汗が噴出した。


「……聞いてもいいですの?」

「というか、これはぜひ聞いてほしい。

 俺の魔法に頼りすぎていると、俺は『信号の依存化』と呼んでいるが、俺の魔力譲渡なしでは魔法が発動できなくなってしまうんだ」

「そうですの……」


 魔力譲渡で渡される信号が当たり前のものになってしまうから。

 魔法が使えない自分からすれば、なんてこともないという態度だが……大きな勘違いだ。明日急に魔法が使えなくなる恐怖を知らない。


 その後も、ノームは自責の念という器に言葉を流し込み、濃度を下げていった。


「ずっと知らなくてな。魔王討伐に出向いた時に偶然知ってしまって、……躊躇してしまったんだ」

「…………」

「そのせいで魔王討伐も失敗して、団員も八割が死んだ」

「…………」


 無意識の内にノームの涙腺は決壊していた。

 だらだらと流れていく涙を見て、セシルは次は自分の番だと意気込む。恥ずかしさと格闘しながら、ノームの頭を抱き寄せた。

 膝枕という、――包み込まれるような幸せ。

  

「その癖に、俺はその責任から逃げたんだ。過去を探すなんてのは今を逃げるための方便だったのかもしれない。――それが、俺の弱さだ」

 

 ノームは赤い目を手で隠しながら、自白する。

 ナイツオブノーネームから離れたかったのはアーデルに全てを押し付けたかったからかもしれないと。

 

 セシルは黙って耳を傾ける。

 

「ありがとう。まぁ、失ったものじゃなくて、俺が拾った人間の声を聞いて、少しは認められた気がして、楽になったから。……君を大切にするよ」

「バカっ」


 起き上がって、ノームは泣き笑う。

 アーデル、ラーミア、それからフォアラとの出来事だ。フローラが託した少女と出会う。これもある意味で失った繋がりを取り戻したといえるかもしれない。


 


 


 

微シリアス、微を排除するべきでしょうか?

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