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本領発揮2

遂に出ましたノームのガチ。お楽しみに

「何があったんですか?」

「そ、その……」

「まずは立ち上がってください」


 一人の女性がセシルに尋ねる。

 セシルは何から説明すればいいのか、咄嗟にまとまらなかった。

 差し伸べられた手を取り、腰を浮かせる。


「話にくいことでしたら、こちらへ」

「……わかりました」


 少しは落ち着けるかもしれないとセシルは女性の軌跡をたどった。


「俺もついて行っていいか?」

「どうしますか?」

 

 張り付いた布地が生み出す不快感を和らげようとノームは湿った服を引っ張る。

 ノームの提案をそのままセシルへと流した女性は、セシルがコクコクと首を振るのを確認する。


「出そうですよ」



====== ====== ======

 

「こちらが詰問室になります。お入りください」

「分かりました」


 女性に案内されて、二人は詰問室に足を踏み入れる。

 ガタンと扉の閉まる音が響くと、セシルが怯えた。言葉遣いや毅然とした態度が崩れている……相当精神的に来ているのだろう。

 

「私は当ギルドの管理、主に冒険者通しのいざこざを担当しているものです。アイラとお呼びください」

「では、アイラさん。まず前提として、この一件はタックルをかました俺と魔法を放った彼に責任があるものと思われます。セシルは被害者であり、俺を助けただけに過ぎません」

「えっ?」

 

 ノームは一歩前に出て、進言する。

 両手を後ろに回して、胸を張る。まっすぐとアイラを見つめて、てきぱきと言葉を発していく姿は冒険者にしては珍しいものだった。

 アイラにも好感触を与えたが、ーーそれが結論に大きく関わってしまうなら、管理職失格である。


「それでも原因を作ったのは彼女でしょう」

「それは……」

「痴情の縺れならともかく、私は、私の権限でこれを彼女と逃げた男性で決着をつけるものとします。冒険者は力が全てです。話し合いで解決できないなら、戦いで決着をつけてください」

「ありがと、ノーム君。私は大丈夫だから」

「そうか。……そう言ってくれると信じてた」


 もともとノームにヴォ―レグと本気で争う気はなかった。

 セシルを焚きつけたのだ。あの場で動けたセシルなら、今度は自分で動けるだろうと信用していたから。


「それは無粋なことをしましたね。では、私は失礼します」

 

 ノームの服を摘まむセシルとノームの顔を見たアイラはそう言って、詰問室から去った。



「話、していい?」

「口調を戻さないのか」

「それも含めて、ちょっと聞いてほしい」


 しかし、二人の足は動かない。

 ノームはセシルが顔を見せたくないことを雰囲気で勘付いた。


「私はね、小さい頃は魔法が使えなくて、虐められていた。それが嫌で魔法なしでも魔物を倒せるようになったら、今度は汚いって言われた。仕方ないじゃん、泥だらけになりながら必死に努力したんだもん」


 堰き止められていた涙が放流を再開した。


「だが、努力の成果はちゃんと出てるじゃないか」

「師匠のおかげ。村を襲った魔物から私を守ってくれた」

「まさか、その師匠がナイツオブノーネームか」

「うん。任務に行く途中なのに、魔法も使えないのに何で助けてくれたの?って聞いたら騎士の役目だからって魔法を使えないことを誇っている感じだった」

 

 涙をノームの服で拭きながら、セシルは過去を言葉という形で浮上させる。


(しっかり騎士をやれてたのか……)

 ノームは自分の胸が熱くなっていくのを感じた。

 


「凄いな」

「でも、……殺されちゃった」

「戻ってきた時には瀕死の状態で、あれほど魔法を使えないことを恨んだことは無かったけど、師匠は君が魔法を使えなくてよかった。私の後をお願いできる。そう言って、ディアの貴族名を貰った。だから私は師匠のように美しくあろうと容姿を整えて、言葉遣いもお嬢様っぽくした」


 騎士団の貴族名はみんなハルトになってしまうので、ノームもディアが彼女のものだとは知らなかった。

 その者の名はフローラ・ディア・メラルーダ。ナイツオブノーネームの団員で任務以外で命を落としたメンバーは彼女しかいない。

 それは一重に騎士団長から日常を保護されていたからだ。

 フローラを除いて。彼女は責任感が強く、貴族としての役割と両立していた。


「やっぱり私じゃ、師匠の真似なんて出来ないのかな」

「できるさ。フローラ自身が認めたんだからな」

「ありがと。……師匠の名前、出したっけ?」

 

 言い切るノーム。今まではフローラに逃げ出したとか嫌だったとか後ろ向きな考えを持っていた彼だが、評価が一変する。

 壊した、壊れたなんて考えていたのは自分だけかもしれない。

 今なら胸を張って言えよう。--ナイツオブノーネームは最高だったと。

 

「ああ。それより、アイツはフローラについて何かいってたか?」

「うん。魔法が使えないのに騎士とか粕だろとか言って馬鹿にしてた。そんなんだったら俺でも勝てるわとかも」


 だからこそ、馬鹿にする奴は許せない。

 況してや何も知らない奴が吠えているのを黙ってみていられようか。


「そうか、見せてやるよ。……どうやら俺もこの戦いに参加しなければいけないらしい」

「えっ?」

「心が燃えているんだ」


 ノームは塩の雫を垂らしていた。




「アイラさん。俺も参加させてください」


 場所は移り、一階にある受付場。 

 ノームはセシルを慰めた後、一人でアイラと邂逅する。


「いきなり……変わりましたね」

「はい。久しぶりです」


 仕事をこなしていたアイラだが、手に持っていた書類を落としてしまうほど目の前の顔に驚きを示した。

 紙の束を拾いながら、ノームは嬉しみを練りこむ。


「本来そういった条件は私が立ち合いの元で話し合って決めるのですが、……ヴォ―レグさんは権利を放棄したと言っても過言ではないでしょう」

「そうですね」

 

 伝染したのだろうか。明日出直すでもよかっただろうに。

 何か面白いことが起こると長年の感が導かれた。 


「ですので、私が平等と判断したならば、認めます」

「セシル陣営とヴォ―レグ陣営に分かれて戦うなんてどうですか?

 纏めて叩き潰す」

「相対的平等ではありますね。……認めます」


 成長の瞬間に立ち会えたことに喜びを覚える。

 


====== ====== ======


「おい、ヴォ―レグ。試合に勝ったら本当にこの女を好きにしていいんだな」

「はい」


 後日、文書で正式に発表された。

 ヴォ―レグはセシルの体を餌にして、性に飢えた獣を集めた。


「面白い話をしてんじゃねえか。俺も混ぜろよ」

「俺も。うひょー、可愛いぜ」



 自信満々に試合当日を迎えた。

 相手は二人。自陣は六人。それもBランクまで混じっている。

 ノーム陣営にも、正義感強い有志は幾許か現れたが、埃の如くひと吹きだ。

 断りを入れるセシルに実は? なんて不名誉な称号を享受する者も出てきた。それをヴォ―レグが知っていようと知っていまいと大した影響はない。

 残された事実は二対六、それだけだ。

 

「お前らは二人だけか。残念だったな」

「こりゃ楽勝だぜ」

「おい、早く始めろ」

「では、開始します」


 アイラの手が風を切る。

 --六人が発動させた魔法は全て、……消し飛ばされた。怪物の手助けを受けたセシルの輝きによって。



「大丈夫ですの?」

「その方がいい」 

「別に貴方の為じゃありませんわ」

  

 時は少し戻って、セシル陣営。

 この状況で、勝利を信じていられようか。……いられる。

 セシルに絶望的な人数差だが、負ける気がしなかった。

 

 ……ノームはこれまた揺るぎない眼差しをセシルに向けている。


【ゲシュタルトアイ】 完了。

 人は誰でも魔力を内包している。魔法が使えないのは、魔力がないからではない。この常識に例外はなく、セシルの魔力はノームの視界では全体性が失われ、三つに分けられる。

 半透明な液体、色、もやっとした煙。


【解析眼】 オリジナルコードをΔと認定……保存。

 そして、ノームはもやっとした煙を解析する。

 自分の魔力と他人の魔力が全く同じではない。ノーム命名、オリジナルコードとはその違いを記号化したものだ。


【沈め】

 ノームの精神体は記号と数字の乱雑に散らばった空間を落下していく。それらは全てノームの記憶に保存された情報である。

 

【魔法コード、既存展開……Z[muryokuka]

 範囲指定、有効……111,1101,1101。

 発動準備完了】

 指を動かす。感覚的なものだから、イメージに近い。

 数字が移動し、列が組みあがっていった。

 終了すると、ノームの目はセシルと審判と敵と……数字でないものを認識し始める。


「それでは、開始します」

「頼んだ」【魔力譲渡ーーZ[muryokuka]・101,1101,1101/Δ】

「何か入ってくる。えっ??」


 開始と同時にノームはセシルの肩をポンと叩いた。

 すると、セシルの魔力が活性化される。温水に漬かるように心地いい。次第に湧き水のように体外に噴出していく。

 ノームから譲渡される魔力に込められた記号に従い、ある魔法が自動的に発動した。


 ーー【無力化】。ノームが生み出した認識阻害魔法に限りなく近い固有魔法だ。光に包まれたこの会場で、誰もが魔法の存在を忘れた。


 当人とノーム以外。効果範囲から外れている。


「どうした、行かないのか?」

「でも、何を……」

「彼方さんは殴りに来てるけどな」


 一方的だった。

 


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