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パーティーを組もう

「今は力になれそうにない」

「いいわよ。それと、これから行く依頼は別のことだから」


 無念を隠し切れない頭を上げて、セシルは立ち上がる。

 だが、これから熟す依頼について、一言二言付け加える。


「うん?」

「魔物の前で無理に私を気にかけないでってことよ。私も今のことは抜きにして、貴方が危なかったら守ってあげるわ」

「それは心強い」

 

 ノームの中に遠慮する気持ちは全くなかった。

 魔物を前にして、余計な心配をしている余裕が自身にはないことなんて知り尽くしている。不慮の事態に陥れば、セシルを助ける為ならば、力を使ってしまうという未来もあるかもしれない。

 三人と話し合った交換条件でそれは許容されている。仲間を守るため、自分を守るためという所まで限定されれば、無闇矢鱈とは言い難いだろう。

 加えて有事の際に自己判断が奪われることをノームは容認しなかった。また、厳しく禁止して、死なれてしまっては目も当てられない。


 叱れど、これは何処まで行っても、ノームだからであって、ノームは自分が特殊だと重々理解している。

 魔物を前にしても、それまでの縺れをスパッと切り離すことなどできないだろう。上級者でも難しい、況や新人など猶更だ。

 ……少なくともノームは頭を悩ませていた。

 

 だが、事実は異なるルートを選択する。

 勿論ノームも当たり前だと認識を改めたわけではない。彼女も特別なんだと諦念を得ただけだ。


 それでもーー


(まさかゲシュタルトアイ、解析眼を使わなければ、俺はこんなにも人を測れないものなのか)


 空笑いがノームの顔面を陣取っている。


 目的地に着くまで二人はそれ以降口を開くことはなかった。



====== ======= =======



「切り替えないとな」

「いい心掛けだわ」


 ノームは下手に入った力を抜くべく、数回ジャンプする。刹那の浮遊感がノームを包みこんだ。

 膝と頬を叩くことで、己を鼓舞した。


「じゃあ、行くわよ」

「ああ」

 

 馬車に乗る前の武器屋で買った短剣二つをチャラチャラ鳴らすと、数歩先を進むセシルの後を追う。

 

 セシルにはある種の余裕が見られた。自分の力を過少にも過大にも見誤らない。慢心的なものでないことはその後ろ姿から明らかだ。

 迷いなく進んでいるが、注意すべき個所は網羅している。

 赤髪が時々拭く風に靡くことはあるが、姿勢がいい。セシルが歩くだけでは、ほとんどブレなかった。

 

 金色の瞳が獲物を捕らえた。


「いたわ。こっちに来て」

「りょうかい」

 

 ノームはセシルの手招きに従う。

 全身緑色の体を持ち、醜い顔をした小鬼……ゴブリンである。長い耳はエルフのそれに似ているが、そんなことを言えば、戦争開始だ。

 美しいと対極にいる存在といえよう。

 片手にこん棒を持ち、周囲をきょろきょろしている。


「貴方がいって」

「俺が一人でか?」

「ええ。私は貴方の実力は知らないもの。見たところ一体ですので、仲間を呼ばれる心配もありません。それでも危なくなったら助けてあげますわ」

「りょうかい」

 

 ゴブリンはというか、ほとんどの魔物の弱点であるのが……目だ。

 ノームは徐々に近づいていき、間合いを詰める。

 ーーいける。そう感じた瞬間に一気に迫った。


 ザクッ。


 ゴブリンの眼球が潰された音だ。


「よし」


 ノームは敵の視界を奪うことに成功する。

 ……それまでだった。出鱈目にこん棒を振りゴブリン。攻めあぐねるノーム。

 打開してほしいとセシルに助けを求める眼差しを向けられた。


「全く」


 抜刀しながら走り寄るセシルの姿は唯々美しい。

 ゴブリンがこん棒を振りぬく、そのごく僅かな合間で止めを刺す。体を深く切り裂かれたゴブリンに反撃の時間は来なかった。

 髪を払いながら、ゆっくりとノームの元に近づく。驚くことに血があまり付着していない。

 静かな怒気を孕む表情は、ノームを後ずらせるのに十分たるものだった。


「十点といったところかしら」

「……もしかして、満点だったりする?」


 剣をしまい、セシルは採点結果を発表する。

 短剣にべっとり付いた血を払いながら、ノームは呆ける。

 残念なものを見つめる目をして、何も言い返されなかった。


「何か言ってくれないと、逆につらい」

「なら、最初から言わなければいいことですわ」

「はい」

「何で目を潰したんですの?」

「有利になるかなって」

「それで、結果はどうでしたか?」

「動きが予測できなくなりました」

  

 反省会が行われる。

 ゴブリンとの戦闘を思い出しながら、ノームは淡々と素直に告げていく。

 セシルは常に周囲に気を配っていた。

 それを推定できたのか、彼の中でセシルの株は上がっていく一方である。自分より魔物との戦いを経験しているーーなんてことは絶対にないだろう。しかし、こと近接戦闘においては自分より詳しいかもしれないとノームに思わせるだけの格があった。


「それで、何で最初みたいに飛び出さなかったんですの?」

「無理だと思ったから」


 暴れまわるゴブリンを脳内再生する。動けなかった自分もセットで。

 ノームの動きは解析眼とゲシュタルトアイの合わせ技で、プロの動きを自分の適した形にアレンジしているだけだ。そこに自身などあるはずがない。


(結局、他人を頼るのか。俺があそこまで執着的にパーティーを組みたかったのも何処か縋る気持ちがあったからだろうな。お前はまだ大人にはなり切れていないなんて団長に言われたけど、まさにその通りだ。甘かったな)


 助けを求めるのが早すぎだと激しい自己嫌悪に陥っている。


「貶してから褒めるのと、褒めてから貶すの、どちらがいいかしら?」

「耐えられそうにないから、褒めてから貶してくれ」

「わかったわ」


 ノームに近づくセシル。こつんと彼の胸を叩いた。


「悔しいけど、ここまでくる技術は貴方の方が上ですわ。三十点。だから、暴れるゴブリンに近づくのは貴方にもできます。でも、自信がないのか、助けを求めたからから-二十点。自信をもちなさい」

「手厳しいな」

「何を言ってますの? 今のは褒めです」

 

 敵にビビるのは当然だ。ノームの周りには常に味方しかいなかったのだから。

 残酷な現実に既にライフがゼロのノームは固い笑みを浮かべる。


「貶す部分はこれからですわ」

「お、おう」

「目を潰したのは余りいい策ではありませんわ。遠距離攻撃の手段がない私たちでは、魔法など遠距離攻撃を持つパーティーに比べて、相手の視界を奪うことは有効的とは言えませんの。ヒット&アウェイ作戦が貴方には一番合っていますわ」

「……強いな、セシルは」


 自然に溢れ出た気持ちを吐露する。

 ノームは自分をまだまだ理解できなていなかったと心の中で喝を入れた。

 

 すると、なぜかセシルは顔を紅くして、一歩引く。


「プラス五点捧げますわ」

「何で?」

「普通は魔法使いをパーティーに入れればと他力本願する所ですわ。私のことを強いだなんて……」 


 最期の方、セシルはぼそぼそ声を落とした。

 初めて言われたその言葉に彼女の胸は高鳴る。整った毛先を指でくるくると巻いた。


「俺自身が碌な魔法を使えないし、他力本願は散々してきたからな」

「そういう所が変わっていますの」

「セシルも同じだろ」

「だから気に入ったといっていますの!」

「言ってないだろ」


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