【短編】邪神に出会った私は
少しグロい話です。
苦手な方はお気をつけください。
自然洞窟に作られた円形の広場に松明の明かりがポツポツと灯っている。
私はその端にある台座の上で仰向けになり、両手両足を拘束されている。
左を見ると石像が置いてある。
体はゴキブリ、足はムカデ、手は蛇、頭はネズミ、目は蜘蛛。
気持ち悪い。
右側では、目の部分だけを切り取った頭陀袋をかぶった人たちが50人ほどいる。
意味の分からない言葉を繰り返しながら跪いて拝んでいる。
先頭に偉そうな頭陀袋が出てきて声を上げる。
「同士達よ!
皆の命をかけた献身により、ついに場が整った!」
-ウオオオオオオオオオオ-
歓喜の声が轟く。
「今こそ我らが悲願成就の時!
同士達よ!
声を合わせよ!」
偉そうな頭陀袋が杖を両手に持ち、歌うように唱え始める。
「我らは願う。
我らが神に。
我らは願う。
我らが神の降臨を。」
後ろの頭陀袋たちも杖を持ち、輪唱するように同じ言葉を繰り返す。
「我らは願う。
我らを救いたもうことを。」
ようやく目的がわかった。
そんなことのために私は。
私達は。
「我らは願う。
我らが捧げたる贄を代償とせんことを。」
日和った。
命をかけたとか言ってたのに。
「今こそ降臨せよ!」
頭陀袋たちが両手に持った杖を突き上げる。
-ズゴゴゴゴゴゴ-
洞窟が振動する。
杖から吹き出した黒い光が煙のように集まり渦を巻く。
その中心は石像だ。
黒い光が集まり石像が闇に包まれる。
「ついに降臨される!
我らが神よ!」
偉そうな頭陀袋が叫ぶ。
激しい揺れとともに闇が形を変える。
揺れが収まった時、そこに何かが立っていた。
体はゴキブリ、足はムカデ、手は蛇、頭はネズミ、目は蜘蛛。
間違っててほしかった。
ネズミの顔がこっちを向く。
「こんにちは、お嬢さん。
ああ、今の時間だとこんばんはだね。」
姿に似合わぬ紳士的な対応に拍子抜けする。
「あなたは誰?」
「僕は、そうだね。
邪神ということにしておこうかな。」
「その邪神様が私に何の用?」
「君に会いたくて来たんだ。」
そう言いながら私の手足を拘束していた鎖を蛇の手で触ると、サビだらけになって朽ち落ちた。
「ありがとう。」
ネズミの口がニイッっと歪む。
「どういたしまして。
ところで、こんな状況なのに随分落ち着いてるね。
僕を見ても平気みたいだし。」
「あなたは気持ち悪い。」
口が開いて目がぐるぐる動く。
「このかっこよさが分からないなんて。
この世界の文化はまだ追いついていないんだな。」
この世界がその方向に進むことは無い。
さっきの質問に答える。
「なんで落ち着いていられるのか私もよくわからない。
怒りと絶望でどうにかなりそうなのに。」
周りには私の住んでいた村の全員がバラバラになった状態で積み重なっている。
横を向くと目を開いたままの弟の頭が転がっている。
私の怒りと絶望の原因だ。
「それだ。
その感情に僕は惹かれて来たんだ。」
ネズミの口がニイッっと歪む。
ふと、さっきまで拝んでいた頭陀袋たちがやけに静かだと気づく。
見ると、全員目を開いたまま転がっている。
「あの頭陀袋たちはどうしたの?」
「頭陀袋って、ああ彼らか。
僕を見て衝撃を受けたみたいだね。」
私は復讐すらできなかったのか。
「もうどうでもいいわ。
あなたが邪神なら私の魂を持っていって。」
「君の願いを叶えるのは簡単だけど、その前に提案がある。」
蛇の手をウネウネさせる。
「邪神の使徒になって世界を滅ぼしてみないか?」
「バカじゃないの?」
口が開いて目がぐるぐる回る。
「僕は真面目に言ってるからね!?」
「真面目なバカ?」
「言い方変えてるけどバカにしてるとこは変わってないよね!?」
そもそも変えてない。
「私には何も残っていない。
それに村娘に世界を滅ぼすなんてできないわ。」
「いやいや残っているじゃないか。
さっき言っただろ?
君の感情に僕は惹かれて来たんだ。」
自分の手で復讐できなかったから怒りと絶望はまだ残っている。
だがそれがどうしたというのだ。
「使徒の力は感情に左右される。
君は全てを失った結果、純粋で強い感情のみが残った。
使徒として最高の逸材なんだ。」
蛇の手をウネウネさせる。
「詳しい話は僕の家でしようか。
冥界にあるから魂だけ連れてくね。
それでは一旦おやすみ。」
結局持っていくなら最初からそうしろ。
私の意識が途切れる。
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台座の上に乗ったままの私の体を内側から押し開く。
贓物を押し出して手を突き出す。
肋骨をへし折って頭を出す。
両手で支えて体を引き出す。
「ちゃんと戻ってこれた。
あいつが約束を守るなんて。」
あいつの文句が頭に響く。
煩い。
「出口を私の体の中に設定した理由は?」
くだらなかった。
あとで殴ろう。
あいつの家で世界の滅ぼし方は教えてもらった。
色々準備が必要だけど、使徒になったお陰で寿命が無くなったから気長にやろう。
まずは街に行ってお金を稼がないと。
寿命はないけどお腹はすく。
外に出る前に服を調達する。
転がっている頭陀袋達から服を剥ぎ取ろうとしたら目に蛇が映った。
「は?」
体を見回す。
手は蛇、足はムカデ、お腹は虫っぽい。
まてこら。
<終>
お読みいただきありがとうございました。
ダークな話が好きなので、こんな感じになりました。