表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

七話 一ヶ月後について

指摘、問題点など、感想を書いていただき有難うございます。

一応、簡単な手直しはしておきましたので、もし、他にも気になる点がありましたら教えていただけると助かります。



俺たちが異世界に召喚されて、早一ヶ月。

鍛えられた俺たちの身体はもはや以前のものとは全く違うものとなっており、訓練でヒィヒィ言わされることもなくなった。

さて、そんな毎日を送っていた俺たちだが、今日は皆少し緊張気味である。

それもそのはず、なぜならーーーーー


「うむ!では、皆集まったところで、近日中に行われる迷宮ダンジョン探索に向けて、実力試験を執り行わせていただく!」

「「「はい!!!」」」


そう、もうすぐ迷宮ダンジョン探索が始まるからだ。

……ちなみに、今でもこの訓練を取り仕切っているのは、あの騎士見習いのおっさんである。

騎士団長とは言わないまでも、せめて正式な騎士にさせれば良いのに、いまだにしているのは、騎士見習いである。

なんか、いろいろツッコミたくて堪らないが、そんなことよりもまずは迷宮ダンジョンである。

迷宮ダンジョンは、通称魔素溜まりとも言われていて、主に洞窟のようなところに溜まることで、そこにいたもしくは立ち入った生物を魔物化させていっているところである。

ここは、定期的に魔物を狩らないと迷宮ダンジョンから溢れ出るようになり、近隣住民に多大な被害を被ることとなる。

そのため、主に冒険者と呼ばれる魔物狩りの専門家達が対処している。

そして、今回、その迷宮ダンジョンの中でも最も等級が低い迷宮ダンジョンで、俺たちにある程度戦闘の経験を積ませようという話になった。

そこで、チーム分けはどうするか、となった時に、うちのクラスは揉めに揉めた。

できれば、強い人を自分のチームに入れて安心感を持ちたいし、できるだけ弱い人を入れずに、足手纏いは減らしたいと思っているのだから……。

そのため、この議論が白熱しすぎて、収拾がつかなくなってしまったところに、騎士見習いのおっさんが、「なら、実力で決めれば良いんじゃね?」と発したのが原因で、今回の実力試験が行われることとなった。

要は、試合をしましょう!ということなんだが……。

皆の目が血走りすぎていて、“試合”ではなく、“死合い”になってしまいそうな気がするのは俺だけだろうか?

もちろん、気のせいなら良いんだが……。

試合形式はトーナメント形式で行われるため、完全な実力とは言えないところがあるかもしれないが、時には運が試されることもあるので、そこはある程度皆には諦めてもらう方向になっている。

試合会場はいつもの訓練場、ではなく、模擬戦場と呼ばれる決闘をするための専用の施設があるらしいので、そこで行われる。

この会場は、幻夢結界というものが施されており、この結界内で死んでも結界がなくなった時に無傷の状態に戻るようになっているらしい。

そのため、今回は相手を配慮して仕損じた、ということはない、純粋な実力勝負となるだろう。

ちなみに、俺の一回戦の相手は、光羽獅鷹、つまり勇者様である。


「はぁ〜、これは負けるしか選択肢はないんだろうな……」

「どうかしたの?そんな長い溜息して」

「ん?マリス姫か?」

「ええ、」

「どうしてここに?」

「いや、普段なら素通りなんだけど、貴方が丁度溜息しているところを見ちゃって、つい気になっちゃって……」

「そうか……」


マリス姫。

出会いというか関係を持つキッカケは中々ゲスい付き合い方だったような気がするが、今では俺の相談相手として打ってつての人材になっている。

まあ、つまり信頼できる関係にまで発展している、ということだ。


「いや、実はさーーーーー」


こうして、トーナメントの愚痴を言うぐらいには仲良くなっている。

俺は、これから行われるトーナメントの旨と、その対戦相手についてのことをちょっと端折って説明した。


「そうですか……」


全部聞かせると今度はマリス姫が暗い顔つきになる。


「どうしたんだ?」

「いえ、実はその迷宮ダンジョン探索は、私たち王族も同行することになっているんです。」

「え!?それ、本当か?」

「それで、そのトーナメントの成績上位者のチームに入らされるらしいんです。」

「ああ……」


そこまで聞けばなんとなくわかった。

多分、今回のトーナメントは、俺以外の人間で構成されたチームになるはずだ。

だが、俺の力を知っている姫様からすれば、一番強い人間が身近に居ないというのは不安になってしまうのだろう。

もし、万が一自分の身に何かあったらーーーーー

例え、最下級迷宮ダンジョンでも、万が一がないとは限らない。

そのため、できるだけ危険は避けたいのだろう。

そう考えた俺は、マリス姫を安心させるために精一杯の笑顔で、安全性を説いた。


「大丈夫ですよ、マリス姫。勇者だって、俺よりは劣っていたとしても、それなりに強いことは確かです。なので、マリス姫に怪我が及ぶようなことは一切ないと思いますよ」

「……(そういうことではないです)」

「えっ?今、なんて言った?」

「なんでもありませんッ」

「……?」


プイッと、顔を俺から背けると、すごい勢いで宮殿の方へ戻って行った。

……どうしたのだろうか?

俺は何かデリカシーに欠けるセリフを口にしただろうか?

よくわからないが、俺はとりあえず実力試験を受けるために、その場を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



模擬戦場に着くと、そこにはもう、大勢の観客(うち半分がクラスメイト、残り半分がどっかの有力な貴族、後、残り五分程度に騎士団の少しぐらい)いた。

有名貴族は多分、この機に俺たち勇者やその他の将来有望そうな人材をチェックするために、クラスメイト達は、最初の人たちがどういう戦い方をするのか、敵情視察に、騎士団の人達は……よくわからん。

とりあえず、そんなこんなで白熱した試合になるだろう。

模擬戦場は全部で八つあり、俺は七番の札番号ですることになっている。

ちなみに一番観客が多いのも七番だ。

皆、勇者の強さが気になるのだろう。

こうして、俺は多くの観衆の目に晒されながら試合をする羽目になった。


「やあ、ジン君、おはよう」


道中、勇者ヒカリバネに会った。


「ん、ああ、おはよう、光羽」

「凄い人の量だね?」

「ああ、そうだな、こんなに人数がいると緊張しちまうよ、まったく……」

「まあまあ、とりあえずお互い悔いの残らない試合をしようね?」

「ああ、そうだな」


勇者様の光エフェクトが妙に眩しい。

彼は所構わずその光エフェクトを周囲の人に振りまくため、非常に愛想のいい人間に見える。

そして、彼のその甘いマスクから放たれる笑顔は、周囲の貴族の令嬢達の姦しい悲鳴をあげさせる。

ついでに、貴族達からの勇者コールが流れ、完全にアウェーな状態になってしまう。

例外は、観客の中に紛れ込んでいた本多や比金、そしてマリス姫ぐらいのものだろう。

……

さて、ここで一応二つの選択肢がある。

いや、もちろん勇者に負けるのは決定事項なのだが、その負け方である。

一つは、勇者に綺麗に負けて、気持ちよく勇者に勝利を捧げる方法。

もう一つは、勇者とある程度善戦して、苦戦させながらもギリギリで勝利を拾わせる方法である。

前者を選んだ場合、勇者には好印象を得られることになるが、貴族達から相手にされなくなり、ある程度この国の人間から見放されることになるだろう。

いわゆる冷遇落ち、というやつだ。

後者を選んだ場合、勇者には嫌われるだろうし、勇者信仰者の貴族からも睨まれることになるが、その代りに貴族達の中から何名かぐらいは俺に援助してくる人達が出てくることだろう。

仲間というか、つながりもある程度できるが、その代りに嫌うやつも相当出てくるだろう・・・

悩みどころである。

本来なら、真っ先に前者を選ぶべきなのだろうが、先ほどのマリス姫を見ていると、俺もある程度好成績を残して、チームに入った方が良いのでは?という気持ちになる。

このトーナメント戦は、負けたら即終わりではなくて、その戦闘をしている最中の立ち回り方なども採点に入っている。

なので、審査している騎士団長と騎士見習いに自分は使えますよ、とアピールできれば、もしかしたら最下位でもマリス姫護衛隊に入れてもらえるかもしれない……。

もちろん、これは結構至難の技になると思うが……。

俺の悩んでいる姿が、光羽にはどう見えたのか、変な助言をいただいてしまった。


「ジン君、君はそうやって思い悩んでいるみたいだけど、大丈夫。僕のステータスは今では最高で二百に届きそうだし、最低値でも百前半はある。だから、君は僕に負けることを恥とは思わずに、是非、次の機会に活かして欲しいと思っている」

「……」


なんだろう、この世界は俺中心に回っているんだ、みたいな発言は……。

正直に言ってしまうと引いてしまいそうなのだが、彼のおかげで良いことが聞けた。

そうか、こいつはそろそろステータス値が二百に入るのか。

なら、マリス姫も大丈夫だな……気合い入れて負けることができる!

俺は自身の悩みがなくなったことへの爽快感を感じつつ、その功績を担ってくれた光羽にお礼を言う。


「……確かに、そうだな。すまない、的確な助言、感謝する」

「いやいや、僕は当たり前のことを言っただけだから……」


俺たちはともに模擬戦場のステージに登ると、握手を交わし、距離を置いた。


「準備は整ったな?試合……開始ッ!」


騎士見習いのおっさんの合図と共に俺は駆け出した。

一応全力でしているふりをしなければいけないので、俺はできるだけ早く決着がつくように、あえて彼の得意な近距離戦に持ち込んだ。

光羽はその場でジッとしている。

多分、余裕のつもりなんだろう。

俺はできるだけあからさまに見えない様に、しかし避けやすい様な突きをする。

もちろん、光羽は余裕を持って剣で払う。

そこから俺は、剣が横にずれたのを利用して、受けやすい様に丁寧に薙いだ。

光羽は、俺の(必死そうに見える)剣技をゆったりとした調子で、半歩後ろに下がる。

彼のその余裕な回避に会場が湧く。

どうやら、光羽は簡単にこの試合を終わらせる気はないらしい。

俺としては嬉しくない限りなのだが、胸を借りるつもりで挑む新米兵のような戦い方を演じておく。

俺が突きを放てば華麗に躱し、横薙ぎなら打ち落すかバックステップで避ける。

たまに入れる振り下ろしは受け流すか体捌きで避けること数合。

ある程度観客に見せ付けたら満足したのか、俺の剣を強めに叩いて弾き飛ばした。

そこで俺は降参する、と言おうとしたところで、鋭い突きが俺目掛けて繰り出された。

当然してきたのは、光羽だ。

この時に俺がわざとで良いから攻撃を受けておけばよかったのだが、反射的に首を引いてしまった。

後から考えてみれば、これが一番いけなかったように思える。


「剣、広いなよ」


そう言って光羽は俺目掛けて剣を投げてくる。

パシッと俺がキャッチしたのを見届けると、仕切り直しと言わんばかりにもう一度構え直した。

当然観客のほとんどからは失笑をいただいた。

なんであいつは敵に施しを受けているのか?と。

他にも、あいつが不甲斐ないせいで勇者様の力が全然わからなかったなど。

模擬戦場は俺へのブーイングの嵐となっていた。

そのブーイングを聞いてニヤリと笑う光羽。

……そういうことか。

まあ、良い。

相手の術中に今回は完全に嵌ってしまったようなので、後は相手の好きにさせてやろう、と光羽が満足するまで俺は剣を振るい続けたーーーーー



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「優勝はぁ〜、『勇者』シオウ・ヒカリバネ!」

「「「ワァアアアアッッッッ!!!」」」


吹き荒れる大歓声の中、光羽はまさに勇者のごとく綺麗なお辞儀をして、表彰を受け取っていた。

俺はそれを模擬戦場の会場の端っこの方で眺めながら、水を飲んでいた。


「あ、あの……」

「ん?」


すると、後ろから一人、か細い声で俺に話しかける者がいた。

いや、だいたいこの声音でわかる、相手はーーーーー


「珍しいですね?騎士団長様が自ら私に声をかけてくださるなんて……」

「え、あ、その……うん」


実際珍しいことではある。

彼女はとても内向的な性格で、俺たち一人一人には声をかけるどころか、目も合わせないことが多い。

そんな彼女が俺に一体、なんの用があるというのだろうか?


「あ、あの、その、えっと、ね。八時に、ここに、来て、欲しい、の……」

「……」


手渡された紙にはここの宮廷の地図が精巧に描かれていて、その中の部屋の一つに丸印で囲ってあるものがある。


「ここに行け、ってことですか?」

「う、うん。だ、ダメ、かな?」

「いいえ、大丈夫ですよ、八時にここに行けば良いんですね?」

「う、うん。お、お願い……」


そう言って彼女は小走りに出て行った。

ふむ、八時にここに来て、か。

なんか厄介ごとの予感がするなぁ、と思いながら、俺は飲みかけの水を煽るようにして飲んだーーーーー



次回予告

騎士団長の実力について

ついに、あのおどおどしている彼女の本性が明らかになる!?かもしれない・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ