四話 訓練について(前編)
コンコン
耳に心地よい規則的なノックが部屋中に響き渡る。
俺はと言うと、もとからそんなに熟睡しているわけではなかったので、そのノック音で意識が完全に覚醒してしまう。
部屋に掛けてあった時計を見て、起こす時間の早さにぞっとするが、これでも家では早起きしていた方なので、さっさと布団(いや、布団じゃないな、これ、なんだろ?)から出る。
「シェスカです。ジン様、もう起床なされたでしょうか?」
「あ、はい、すぐ出ますんで……」
そう言って俺は部屋の扉を開ける。
すると、シェスカはいかにも使用人らしい行儀の良い礼をして、朝の挨拶をする。
「おはようございます、ジン様」
「あ、うん、おはよう」
そんなシェスカに気圧されながらも、俺は彼女を自室に入れると、今日の予定を聞くことにした。
「それで、シェスカ?こんな朝早くに起こしに来て、一体今日は何の予定があるんだい?」
「いえ、今日はたまたま、ジン様が起床しているかどうかを見にきただけですので……。
今日のようにジン様が早く起きる必要はありません」
「……なら、なんでこんな早くに?」
「私達使用人は、ジン様達お客人に退屈な思いをさせてはなりません。ですので、もしこの時間に起床なさっていた場合は、退屈しのぎに話し相手でも努めようかと思いまして……」
「そうっすか」
「ダメ、だったでしょうか?」
「いえ、全然そんなことはないですよ、ちょうど聞きたいこともありましたし……」
「そうですか、ならよかったです。」
……つまり、何か?
俺たちは起きた瞬間の暇すら与えないと?
そうこの使用人は言い切ったわけだ。
全く、プライベートなんてあったもんじゃないなと思いながらも、折角の機会なので、俺は今のうちに聞けることをどんどん聞いておいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
質問をしばらく続けた後、七時の鐘が鳴り、俺たちは食堂へと向かった。
クラスメイト達は相変わらず来るのが早く、どの席もほとんど満席だった。
俺は、たまたま空いていた本多の隣の席を獲得すると席に着いた。
シェスカは黙って隣に立った。
……
「あの……」
「はい、なんでしょうか?」
「いや、なんで隣に立ってんのかなぁ〜、と思って……」
「はい、私達メイドは、いかなる時でも皆様のサポートを行うために、食事などはずらして摂ることとなっております。なので、心配しなくても皆様が訓練している間とかに食事をしますよ」
「あ、そうですか、なら、良いです」
いや、俺が言いたかったのは他人に見られてると食べづらいから、居なくて良いです、ってことだったんだが……。
もう、いいや。
気にしないで食べることにしよう。
俺はメイドの存在を記憶の彼方へと置き去りにし、食事と本多との会話を楽しんだ。
途中、『女帝』が話に割り込んで来て気分が少し悪くなったが、そんくらいは日常茶飯事だったので、気にせずに食べ続けた。
「なんで無視すんのー!!!」とか「人の話聞きなさいよ、このアホっ!!!」とか聞こえた気もするが、気のせい気のせい。
こうして、楽しい朝食を終えた俺たちは、使用人達と別れて、訓練室にやって来た。
「では!これから系統別の訓練に入りたいと思うので、それぞれ各グループに別れて並ぶように!」
うわっ、朝からこの声量はきついな。
俺の心の中のブーイングに気付くことなく、(当然だが……)俺たちに指示していく。
グループ分けは以下のように行われた。
・一班、戦闘職近距離グループ
・二班、戦闘職遠距離グループ
・三班、戦闘職支援グループ
・四班、生産職支援グループ
計四つ
一班、二班はわかると思う。
そのまんまだ。
強いて例を挙げるなら、一班は俺や本多みたいな奴。
二班は、ジョブが弓師とか、魔術師みたいな奴らのこと。
で、次からの話だが……。
この三班は、たぶんヒーラー職の人達のことを指しているんだろう。
例としては、治癒術師とかかな?
四班は、生産職の面々なんだろうが、そもそも生産職が内のクラスにほとんどいない。
と言うか、聞いた覚えすらない。
現に、こうやってグループ分けしてみたが、誰一人として生産職には行っていない。
多分、生産職だったのは、俺の『詐欺師』ぐらいだろう。
ん?でも、『詐欺師』って何生産してるんだろ?
どちらかって言うと、騙しているだけのような……。
もう、いいか、この話は。
とりあえず、こんな感じで俺たちのところのグループ分けは無事に終わった。
ちなみに、『女帝』のジョブは『魔女』という話なので、訓練場所は一緒にならない。
やったぁぁあああああ!!!ざまあないっすよ、あの野郎!!!
ひとしきりに盛り上がっといてなんだが、魔法使えると言う話に嫉妬しただけです。
閑話休題
無事にグループ分けが終わったところで騎士団長から声がかかる。
「では、皆さん!今から訓練の時間割りを発表しておくので、しっかりと見て、把握しておくように!」
こいつ語尾に!しかつけられないのか、と思うくらいの大声で叫ぶ。
訓練の時間は皆一緒みたいで、違うことといったらしていることぐらいみたいだ。
ちなみに、訓練の時間割りは次のようになっている。
・午前中
一班と二班は合同で基礎トレーニング。
三班は魔法講座。
四班はないので、明記なし。
・午後
一班と二班はそれぞれの訓練場でスキル習得及び実践
ついでに、二班の魔法職や魔法を覚えたい人は、魔法講座の執り行ないが可能。
三班は修道院で治癒の実践、その他付与の実践など。
うむ、なんか三班が楽なように見えるが、実はそうでもないらしい。
魔法講座は一から魔法の概念について詰め込まれるので、色々覚えるのが大変だし、修道院では、結構な重傷患者が連れ込まれるため、なかなかスプラッタな場面が多いそうだ。
精神的に辛い、と後に彼女は語っていた。
この語っていた彼女は、ジョブで『聖女』を手にしており、内のクラスでも上位に入る、リア充組の一人である、白川聖奈である。
名前からしてわかる通り、本当に母性にあふれており、天使のように優しい人、として校内でも結構人気な人である。
目鼻立ちの整い方もまさに聖女を思わせるもので、バストサイズも中々あるのでそういう意味でも男子から人気だ。
こいつと話すのは気が楽で良いのだが、その光景を見られる度に比金が凄まじい形相で俺を睨んでくるので、滅多に話すことはない。
この時はたまたま比金が魔法講座でいなかったから話せたが……。
そんなわけで、辛くないグループなんてない!と無理矢理自分を納得させると、俺は一班と二班の合同訓練場へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うむ!皆、集まったな!」
これが騎士団長なりの点呼のとりかたなのだろうか、一声あげると、早速準備に取り掛かった。
「よし!それでは今から皆の持久力を測らせてもらう!途中、止まっても良いので、皆トラック十周分、走れ!」
「「「はいッッッッ!!!」」」
いきなりの持久走開始。
全くどんな神経してんのやら、と思いながら俺たちは走った。
「「「はあ・・・はあ、はあはあ」」」
数十分後、くらいだと思う。
皆、ようやく走り終え、地面にへたり込んでいる。
騎士団長はその姿を見て、満足したのか、満面の笑みを浮かべて俺らにさらなる試練を与える。
「よし!では、腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワットをそれぞれ百回、それを十セットしてみるぞ!」
「「「え!?」」」
「では、よーい、始め!」
そう、まだ悪夢は始まったばかりなんだ……。
この言葉で俺たちは魔王退治がどれだけ困難であるかを知ったのだったーーーーー