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七年越しのクリスマスイブ

作者: 五月雨葉月

登場人物



皆月星羅みなづきせいら


如月聖夜きさらぎせいや


「結局、寝れなかったな〜。はぁ……」


 クリスマスの朝。

 私は昨日、クリスマスイブの夜にあった出来事を思い出してため息をついた。


 昨日の夜、幼稚園の頃からずっと一緒だった幼馴染みの男の子、聖夜に、隠れたデートスポットと名高い小高い丘の展望台で告白されたのだ。




 私と聖夜は同い年。田舎なこの街では学校も一学年一クラスしかなく、今年県内にある高校に入るまではずっと一緒だった。

 初めて離れ離れになった。思ったより重く、深くのしかかっていたその重石は、入学から半年以上経った今でも消えることはない。


 私はずっと、それをただの寂しさだと思っていた。

 …………昨日の聖夜の告白までは。


 ずっと幼馴染み、言うなれば家族同然の聖夜からの告白に、初めは驚きと、戸惑いと、嬉しさがあった。

 普段素っ気ない聖夜の、聖夜らしくない、真面目で、想いの込もった告白に、私は自分の中にあった本当の気持ちに気付いた。

 気が動転していて思わず保留にしてしまったけれど、本当は言うまでもなく勿論OKに決まってる。周りに明かりが少なく見え辛いとはいえ、一刻も早く、熟れたトマトのように赤くなった顔を隠したくて、逃げるように帰って来てしまった。


「どうしよう、嫌いだって、思われてないかな……?」


 帰ってきて、布団に潜って気が付いた。これって普通、嫌がってる時にする事じゃないの……? と。

 時既に遅し。怖くてSNSの通知も見れなかった。嫌な想像が頭の中を次々によぎり、結局昨日は一睡も出来なかったという訳だ。


 悪い予感がしたけれど見るしかない。チラッとスマホの通知欄を見ると、案の定、


『ごめん、迷惑だった?』

『気分が悪くなったんならごめん、謝る』


 との文字が。


「そんなのじゃないのに……」


 と呟いても虚しいだけ。

 そっとスマホを持ち、聖夜にメッセージを送る。


『今から会える?』


 と。

 朝早いのに、数秒後には返事が来た。嬉しかった。だって、それだけ気にしてくれていた、と言う事だと思うから。




 数分後。私の家の前には、自転車片手に、着替える時間すら惜しんだ聖夜が息を切らして立っていた。

 普通に自転車を走らせても十分はかかる距離。その倍以上の速さで来てれた。


「ごめん、こんなに朝早く」

「ううん、良いよ。……あのさ、昨日の事はごめん、俺が――――」

「違うの!」


 私は謝ろうとした聖夜の言葉を遮り、自分の言葉を、自分の想いを伝える。やっと気付けたこの想いを。やっと知ったこの気持ちを。


 ……私も必死で、あの時に何を言ったのかは覚えていない。ただ、あの後聖夜が突然抱き締めてきたかと思うと、急にキスされた事は覚えてる。私のファーストキス。いきなりだったけど、嫌じゃなかった。


 この日から私たちは、晴れて恋人同士になった。






 これが7年前、高校1年生の頃のお話。


 あれから楽しくて幸せな想い出も、喧嘩もあったけど、結局仲良く二人で乗り越えてきた。

 4年前の高校3年生の時には、聖夜と久々に同じクラスになれてとっても嬉しかった。

 揃って同じ大学に進学した。毎日のように一緒に出掛けた。いつも隣で過ごした。

 当たり前のように腕を組んだ。抱きしめあった。キスをした。


 そして今日、7年ぶりに訪れた展望台。そして今日もクリスマスイブ。


「ここに来たの、久しぶりだね」

「そうだね。……今日はどうしたの?」

「あははっ、ちょっとね……」


 そう言うと、会話が途切れる。私たちは寒空の中でも手袋をせず、そっと手を繋いで、満天の星空を眺めていた。


「ねえ星羅」

「なに?」

「…………」

「…………」


 聖夜の言わんとしている事は痛いほど分かる。だって、私と聖夜の仲だから。

 でも、それを私から言ったりはしない。だって聖夜からそうしたい、そう思っているに違いないから。


 私は星空から視線を外し、そっと聖夜を見つめる。

 視線を向けると、聖夜も私を見ていた。


 聖夜は意を決したように、小さく「よしっ」と気合いを入れたかと思うと、すっと立ち上がった。


「話が、あるんだ」

「そっか」


 私に背を向けたまま早口で言ってきた。きっと聖夜は、今までに味わった事のないほどの緊張をしているんだろう。私には分かる。聖夜は、その緊張に負けないって。聖夜なら、私に想いをしっかりと伝えてくれるって。


 ゆっくり、ゆっくり振り返った聖夜は、夜目でも分かるほど顔を赤くし、緊張に震えていた。聖夜は必死にそれを隠し通そうとする。


 ……そのままでいいのに。ありのままでいいのに。

 でも、そうしてくれる聖夜が好き。やっぱりそこが聖夜なんだな、って思える。


「なぁ、星羅」

「なぁに、聖夜」


 心臓の鼓動が高鳴る。

 刻一刻とその時は近づく。


 ――――そして。


「…………結婚、しないか?」

「…………もちろん。喜んで♪ ……。っ、えっぐ、ふぇぇぇ……」


 そう言った途端、私は嬉しさのあまり泣き崩れてしまった。


 やっと、やっとついに、この七年という長い時間を経て、次の段階へと進む事が出来た。


 ――――私たちは晴れて、夫婦となった。




日下部良介さまの企画、『クリプロ2016』に参加させて頂きました。


もうちょっと感情移入出来るようにしたかったのですが、2000字ジャストはキツかったです(笑)


……なんとか収めましたがね。


では、また何処かでお会いしましょう。

お読み頂き、ありがとうございましたm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 クリプロお疲れ様です。 やばいです。 やばいくらい私の作品と設定が被ってます(笑) 幼馴染、七年、大体考えていることわかる、泣く。 ネーミングセンスも被っているような……。…
[一言] 拝読しました。 幼なじみ設定が大好きです。 いいですよね、ずっと想い合う二人。 プロポーズ前の緊張感がよかったです。
[一言] 幼馴染で家族同然に付き合ってると、案外、友情だけでおわる事もありますよね。たたらを踏みつつも、二人の一途さが素敵。素朴な純愛の様子が好感がもてて、素敵でした。
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