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マイウェイ

作者: 田中

網の上に置かれた肉を焼きながら、今後のプランを考える。


やましい気持ちなど、あの日にすべて置いてきた。


お金と自由が欲しいと切に願っていたあの頃、それを叶えられるかもしれない、そんな話をしてくれたひとについていこうと決めた日。


3年間いっしょに走った。手元に残るお金はあまり変わっていないが、この環境を去ることなどすっかり考えられなくなっていた。


友と呼べる人は去った。だけど友なんか比ではない、仲間と呼べる存在が出来た。元友ダチは目を覚ませなんて諭してくるけど、お前達が私に何をしてくれたというのだ。わたしはいっしょにいたいひとたちといっしょにいるだけだ。


はじまりは偽りの関係だったのかもしれないが、今更、もう、戻れないのだ。無くしたものも、手に入れたものも多すぎて。


目の前にいるのはさとみ。居酒屋で女子三人で飲んでいるところに声をかけた。どこかぶさいくな愛嬌のある顔をしている。性格はよさそうだが、少しぬけていて世間知らずのお人好し、そんな気がした。かすかに香る甘い香りと、ふくよかな顔がマシュマロみたいでかわいらしい。


さとみを自身のパーティーに誘い出すのは簡単だった。居酒屋で声をかけた時から、わたしに気があるような気がしていたからだ。もっといえば連絡先は向こうから聞いてきた。次はいつ会えますか?の問いに、今回の場所を指定した。友達も連れてきていいからさ、の返事に、彼女はひとりでやってきた。


今日は河原でのバーベキューである。

網の上には色とりどりの肉、肉、肉、野菜。

そして酒。


酒は時として行動の原動力となりうる。

いま隣にくっついて離れない、かなさんのように。


「ゆうくん、あいたかった。」


かなさんはとても面倒くさいお相手である。

いつもふたりで会いたがってはこちらの気持ちもお構い無しのアピール大会がはじまる。


かなさんも仲間に引き入れたが、仲間になってもそのスタンスは変わらない。むしろひどくなっている。非常にやりにくい。上の人たちはそれさえ利用せよなんていうけど、わたしにも好みがあるってもんだ。


「かなさん、今日はさとみ」


それだけいって引き離すと、新作のリップを塗った唇を歪めて、さとみのところへ行った。


「こんにちは、ひとり?お肉食べてる?誰の紹介できたの?」


かなさんがこれでもかと作り笑顔で話しかける。


「あ、、はじめまして。ゆうとさんの紹介で来ました」


お決まりの知らないふりの会話、いいひとぶりっこ大会、とにかく話を聞いて肯定しまくる作戦。やっている側しか知らない裏側、やられた側はイチコロ、自分の居場所をやっと見つけられたような、甘美な体験。


だから、誰の忠告も受け入れられなくなる。



だけど、結果から言うと、さとみはとても難しかった。

騙す側が、みんなさとみのことをすきになってしまったのだ。

話を聞いて肯定しまくってくれたのはさとみの方。

自分の居場所を見つけられたような、甘美な体験をしたのは我々の方。


仕事を頑張る姿勢に感化されたやつらは、また社会復帰を目指して就職活動をはじめてしまった。



決まった時間に起きて、決まった時間に出社して、適度なストレスを同僚とお酒で解消する、そんな健全な生活、否定していた当たり前の生活、それが一番だと気付かされてしまった。


これぞまさにイレギュラー。まさかの反逆因子。



世間知らずのマシュマロガール、彼女もまた、マイウェイを貫き通す。




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