黒衣の彼の者-緋の焔、蒼の翼-月の檻
何処とも知れぬ、場所。
観るものが観れば閉鎖的とも視るものが視れば開放的とも思える空間に、
数多の星を観測して廻り、荒れ果てた大地を一歩ずつ進む黒衣の男が居た。
幾多の別れや人の気持ちを経験し接して来ただろうその男は、
過去、自らの事が好きじゃないと、人々に付いて来れる者は付いてきてほしいと常々口にし、
死色の強い作品を作り、心地の良い難解な曲を作り上げ、自らの路を奏で、
複雑さを突き通したような彼の姿は、
時には嘲笑されながら、馬鹿にされながらも月日を重ねる毎に、
観る度に濃く強く、映ってきた。
そんな男が次に向かう場所は何処なのだろうか。
緋色の焔と深紅の薔薇を持ち、観測する人間に想いを伝える。
想いの解釈は人の数、世界の数程在るといい、一人で蓄積、体感するには途方も無い数の想いや人の路を伝えていくその姿はまるで、飽くなき無限の世界を廻り廻る詩人のようで、柔らかく、鋭く強い。
彼の男はある面で生きる事は理屈じゃなく生まれ故の自由だと言い、
彼の男はある面で、女性の気持ちや時代の感性すらも言葉として創り出す。
月に浮かぶ心情や、夕陽を眺めた気持ち。
変わりゆく檻の感触。
眩く燃える焔の温かさ。
其れらをまるでその地に足を踏み入れた記憶があるかのように。
紡がれた言葉が、彼個人の根源や根本から染み出した言葉であったとしても、
そうで無かったとしても、込められた想いの強さを、
感じることが出来る詩人であることは変わりがないのかもしれない。
昔話に落とし込めるならば、白い鴉、白馬、獅子、兎等々に懐かれている彼は、
現代の桃太郎と言っても良いかもしれない。
その彼の男は今日も何処かの世界を眺め、歩き進んでいる。
今はチャームポイントや象徴とも言われる黒いサングラスをかけて。
彼の眼前の其処にあるという風景。
彼の歩く路、歩く場所、歩く世界のその風景はどんな色をしているのか――。
其れは彼と、前を往く白い鴉しかワカラナイ。
別の世界――――心を荒らすような記憶を振り切るように、
白髪とも銀髪とも、観えてしまう青年が、
空を切って進む黒斑の鳥を、眺めながら星を見る。
青年は知っている。
黒斑の鳥が翼と身体を昇華させ、蒼い焔となって星を照らし続ける事を。
限りある今、この瞬間でさえよだかは炎々と燃え続けている。