過去と未来
全国のロードスター乗りのみなさんスイマセン。
ロードスターになんの恨みもありません。
むしろ、車の中ではかなり好きな車です。
「あのクソロードスター!!!どこ逃げやがった!!!!!!!!」
周りは妙に苔生した瓦礫だらけでロードスターの残骸は何処にもない。
くっそ当て逃げまでしでかしやがるか!当てたのは私だけど。
「あ、あの、大丈夫です…か?」
そんな私に気弱そーな声がかけられる。さっき叫びで驚いたのか尻餅ををついた状態で美しい銀髪の小柄な少女、いや美少女が心配そうな表情で私を見上げていた。
どくん
可愛い。とても可愛い。すげぇ可愛い!!なにこの可愛い生き物!!!持って帰りたいんですけど!!!!お持ち帰りで!!テイクアウトでお願いします!!!!!く、ダメだ…可愛すぎて目眩がする…
「だ、大丈夫ですか!?」
少女があたしの肩を抱きかかえて支えてくれる。
あ~ヤバい。これはヤバい…これ以上は死ぬ。心臓が死ぬ。
「え、ええ。大丈夫だから。私は大丈夫だから心配しないで大丈夫だから。うんほら大丈夫」
テンパりすぎでしょあたし。何回大丈夫って言ってんだ。
「な、なら良かったです…えっと…」
くっ!テンパり過ぎて引かれたか?ああクソこういうのは苦手なんだよ!!もっと雑誌で口説き文句とか覚えとくんだったよ!
「あーえっと、あたしは川崎忍!シノブって読んでくれていいから!!」
とりあえず自己紹介だ自己紹介!!いやまてこういうときは警官らしく役職とかも名乗るべきじゃね!?完全にプライベートの時の自己紹介だったぞ今の!
「わ、私はカレンって言います…」
「カレンちゃんか。可愛らしい名前だねうん」
あ〜名前まで可愛いいなぁ
じゃなくて!!とりあえずカレンちゃんも納得してくれた?っぽいし役職とかはあとでするとして。まずは状況確認だよな。そもそもなんでこんな美少女に助けられてるんだ?幹線道路のど真ん中だったはずだぞ?他の大人は何してんだよ?それにサイレンの1つも聞こえやしないし消防の連中は何してんだ?タンクローリーとの事故だぞ?というか暗いな?昼過ぎだったはずだぞ?
あたしは気づいた。
ここが幹線道路のど真ん中ではないことに。
排ガスの曇りなんて一切無い透き通った爽やかな風が頬を撫でる。
花や樹液の甘い香り。豊満な土の匂い。
周りをもう一度見回す。
薄暗いこの場所をランタンの光が照らす。
苔生した岩や土。頭の上にはツタ植物とおおきな木の根っこが見えている。
我が愛馬は隣で転がっているが、タンクローリーはどこにも見当たらない。それどころか車一台すら、あたしとこの美少女以外の人間すらも見当たらない。
なんだこれ?洞窟?なんで洞窟?そんなモノが近くにあったか?聞いたこと無いぞこんな秘境。
どう見ても道路が陥没したように見えない。苔むしていてまるで遠い昔から存在していたかのようだ。絶対にさっきの事故でできたものではない。天井もしっかりしているし落っこちたわけでもないだろう。
なんだここは。あたしが住んでいた場所とは全く違う。まるで別の世界みたいな。まさかジャングルの奥地にでも瞬間移動したのか?あたしの愛馬は空でも飛べたのか?
「あ、あの!ちゃん付けは…ちょっと…」
カレンちゃんの声で我に返った。
落ち着け取りあえず落ち着くんだ…息をすってーはいてーすってーはいてー
「あーごめん。ところでだけどさ、ここどこ?」
冷静になった頭で考えた結果、思考を早々と放棄して目の前の美少女に尋ねることにした。あたしなんかが悩むより聞いたほうが早いわな。
「はい?えっと、日本ですけど…日本の大阪って呼ばれてたところです…」
そりゃ日本に決まってるよなぁ。瞬間移動なんてするわけねぇし…、ん?
「あ、あの動けるなら外に出ませんか?ここじゃ暗いですし、気づいてないだけでどこか怪我してるかもしれません…」
「そ、そうね。取り敢えず外に出ましょうか。ちょっと待っててね」
隣でひっくり返ってた「山賊」の状態を軽く確認してみる。薄暗いのでハッキリとはわからないけど外傷は立ちごけした程度にしかついてないしミラーも折れてない。派手に事故ってた気がしたんだけどなぁ。って無線機だけピンポイントにぶっ壊れてるじゃねぇか…。
まぁいずれにしてもこんな洞窟みたいなところじゃ置いておくしかないか。
「カレンちゃんおまたせ」
「あの、ちゃん付けは…」
「じゃ案内よろしく!あたしじゃ迷うだろうし」
とりあえず土地勘ありそうななカレンちゃんに丸投げする。
「あ、はい。こっちから出られるはずです」
歩きながらチラチラとカレンちゃんを眺める。いやーこんな可愛い娘とこんな人気の少ないところで二人っきりって最高だな…
「あ、あの…不安、なんですか?」
「へ?」
「その、不安そうに私をチラチラみてたので…」
「い、いやー気のせいじゃないかなぁ」
いやその不安ではなく、ニヤけるのを必死でこらえてるわけで…
「お、お気に障ったならごめんなさい!見慣れない格好ですし、遠くから初めてこの辺りにきて迷われたのかなって…」
うぐ…こっちはいかがわしい目で見ていただけなのに…!己の心の醜さがああ!!
「い、いや一応近くに住んでるはずだから多分。」
心の中で叫びながらなんとか平静を装って応答する。天使が存在するならきっとこの娘そっくりなんだろう。
「なら、どうしてこんな所で倒れてたんです?あ、話せたらで良いですけど」
うむ…正直に話したところで「バイクで事故ったらいつの間にかここに倒れてました」だとただの頭おかしい奴みたいだしなぁ…だからって話さないってのも不審だし…
「バイクで事故ったらいつの間にかここに倒れてました」
あたしの脳みそじゃ考えても無駄だと3秒で悟ったので正直に話す。純粋そうなこの娘ならワンチャン信じてくれるかもだし。いややっぱり無理かも…
「じ、事故って…!ほんとうに体は大丈夫なんですか!?無理はしないでくださね!動くのが辛いなら村からすぐ人を呼んできますから!!」
本気で心配そうな表情でまくし立てられた。うわこの娘チョロい。一人で出歩かせたらそっこうで誘拐されるんじゃね?とあたしまで不安になってきたぞ。あぁ…凄い保護したい…
「大丈夫だから!平気!平気だから」
余計な奴を呼ばせてなるものかと必死に怪我もなく元気なことをアピールする。いや実際そうなんだけど。
「というか、近くに人が住んでるんだ。」
「はい。私が住んでる村がここから一時間ぐらい歩いたところにあるんですよ」
「あ、歩きで一時間…」
もうそれバス使いたくなる距離なんだけど、まぁ通ってないんだろうなこんな辺鄙なとこには。取り敢えず人がいるなら電話で本部に連絡ぐらいは取れるでしょ。
「これ登ったらもう外ですよ」
「ワオウ」
歩きで一時間とかヘでもねぇな…これに比べたら。
3メートルぐらいにぽっかりと大きな穴が空いておりそこから一本のロープが垂れ下がっている。そしてカレンちゃんは間違いなくこのロープを指差して「これ」と言ってる。
「えっと、これ登るの?」
「そりゃまぁそのためのロープですけど?」
マジかよ…
「死ぬかと思った…」
「だ、大丈夫ですかシノブさん?」
「うん、大丈夫、だから、ちょっと、まって…」
必死で呼吸を整える。マジで死ぬかと思った。一日に2回も死ぬかと思うのは初めてだ。登り切れたのは、先登ってくれたカレンちゃんのおみ足のおかげ。
「ふぅ…」
息を整えて周りを見回す。ふぅ~太陽が眩しいぜ。
ん?
「なにこれ?」
「シノブさん?どうかしました?」
目の前に広がってるのは緑に覆われた街だった。
植物に埋め尽くされたあたしの街だ。
異世界と言ったな。あれは嘘だ。
親父がイヤホンに凝りだしたみたいです。ユニ○クメロディーのイヤホンが2つ増えてので視聴してみました。普段使ってる、マイクで有名なメーカーのミドルクラスがゴミみたいでした。絶対に親父を許しません。