断罪?と討伐?
【王の間】は静まり返った。誰もが、その場に座り込んでいるゼータを見下ろした。
「…………私が言うことではないのだけれど……きちんと、けじめはつけましょう」
ゼータは言葉を選ぶように口を開いた。
きっとゼータは死を覚悟している。
ルキがゼータを許さなかった場合、一応ルキを説得するつもりではいるが、正直何て言えばいいか悩んでいる。
ルキは目を閉じたまま何も言わない。思うところが沢山あるのだろう……
重たい空気が流れる。
「……どうするんだルキ?」
口を開いたのはゼノだ。ゼノの顔もいつになく真面目だ。
「…………」
ルキは黙ったままだが、ゆっくりと目を開いた。そしてそのままゼータの前まで歩み寄っていった。
ーゴクリー
誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。もしかしたら俺だったかも知れないし、全員だったかもしれない。ルキとゼータから目が離せず、この瞬間の記憶が少し思い出せない。
それほど王の間には張り詰めた空気が流れていた。
「…………ゼータ……私は……」
ルキは精一杯の言葉を発した。
「いいのよルキウス……私は帝国の騎士として貴女と戦ってきた…………沢山の魔族を蹂躙した……貴女の父、先代のドラグナー王もこの手に掛けた。」
「…………っ」
ルキは過去を思い出したのか、ギリリと歯軋りしている。
「今ならっ…………いえ…………覚悟は出来てるわ!」
ゼータは何かを言い掛けると俯き言葉を変えた。当然ゼータにも思うところはあったのだろう。でもゼータは最後まで言わず、目を閉じて覚悟を決めた。
その瞬間だった!ルキの右拳がゼータの顔面を捉えた。
ルキに思いきり殴られたゼータは吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
「ルキ……ウス……?」
ゼータは殴られた顔を押さえながら訳が分からないといった顔をしていた。
「ゼータ!!今ので全部水に流してやる!!」
ルキの右手からは血が出ていた。ルキはお構いなしに叫んだ。
「!?」
ルルがルキを心配して駆け寄ろうとしたがレイナがそれを制止させた。
「確かにお前達帝国によって我がドラグナー国は滅んだ。だが私も、父も、死んだ騎士達も、誇り高く戦ったのだ!お前がどう思っていたのかは知らないが私達は命を懸けて誇り高く戦ったのだ!……そして敗れた………完膚なきまでにな………」
「ルキ……」
誰かがルキの名を呟いた……
「確かにずっとお前が憎かった……殺してやりたいほどに…………だが、そんなお前を竜斗は圧倒した。お前が逃げた時、私の中の何か重い鎖のような物が砕けたのだ。その瞬間何故かお前に対する憎悪がスッと無くなったんだ……」
険しい表情をしていたルキの顔が穏やかになった。
「私はあの時、戦士の極みを見た!恐らくここにいる全員が竜斗に助けられ感謝し、同時にその強さに憧れた!」
(……あれ?何だかむず痒い話になってきた……これ俺聞かないと駄目か?)
「そんな竜斗が私達を必要としたのだ。これ程嬉しいことはなかった。お前を圧倒した竜斗が、お前に圧倒された私を必要としてくれたんだ。だから私は決めたのだ!竜斗の、レイナの、アルカディア国の力になると!」
ルキは力説している。皆も何故か小さく笑いウンウンと頷いている。俺だけが恥ずかしくて、いたたまれなくなった。
「ルキウス……貴女……」
「ゼータ……竜斗はお前も必要としたんじゃないのか?」
「!?」
「じゃなかったら竜斗はきっとお前を斬っている。そうだろ竜斗?」
ルキは話を俺に振ってきた。
「かもな。何となくなんだけどレインバルトやネム、ゼータは変わったと感じた、或いは変われる人間なんじゃないかと思った。」
「そうなのですか?」
レイナが尋ねてきた。
「うん、いつからそう感じるようになったか分かんないんだけど……そう思うようになった。最初にゼータに会った時も、もしかしたら無意識に殺したくないと思ったのかも……まぁ分かんないんだけど…………」
「…………【神眼】か、或いは【王気】のスキルかもな」
ゼノが何やら考え事をしている。
「どうかな……でも逆を言うとジェガンやオークス、俺が手に掛けた人間は変わらない人間だと思った。」
俺は自分の手を見つめた。
どう理由をつけようが人殺しなのに変わりはないから……そんな俺を見て、レイナがそっと手を握り締めてくれた。俺はレイナに向かって微笑むと、小さく「ありがとう」と呟いた。
「だからなゼータ、私にお前を裁く権利なんかないんだ…………そして竜斗がお前を許したのなら私もお前を許そうと思う」
「いいのかルキ?」
「いいんだゼノ、ドラグナー国の者達は怒るかもしれないが私はゼータを許そうと思う…………甘いかな?」
「……いいんじゃないか、お前の好きなようにしたらいいさ」
「……ありがとう」
(おやおや?)
何やら二人から甘い空気が流れてるように感じた。
「……ふっ、竜の騎士は強いな」
アトラスが小さく笑った。
「アトラス?」
「……俺はどうしても許せない人間がいる。例え竜斗が言う【変われる人間】だったとしても、そいつだけは俺の手で蹴りをつけないといけない人間がな……」
「……分かってるアトラス、それが仲間になってくれる条件だしな。それに関してはお前に全部任せるよ」
「すまない竜斗」
「何度も話がそれたな。だからゼータ……その……なんだ……これからは……よろしく頼む……」
ルキは照れ臭そうにして、ゼータに手を差し伸べた。
「…………ありがと、ルキウス……」
ゼータは差し出されたルキの手をしっかりと握り締めて立ち上がった。その目に少しの涙を浮かべて。
「ゲロリ……」
ローゲからは大粒の涙が零れていた。どんな心境かは分からないが、取り敢えずは納得してるようだ。
「でも、だったら殴る必要はなくない?」
「あ、あれは……お互いが命を懸けた戦いを、自分1人が全部悪いみたいな言い方をしたからだ。」
「そうか?」
「いいのよ竜斗ちゃん……あれで許してくれたのだから、私もこれからは心を入れ替えて、粉骨砕身この国の為に頑張るわ」
「そうだな、当面は転移係だけどな」
「そ、そう……こう見えて長年帝国で指揮をとってきたんですから軍事面でも戦力面でも期待していいのよ?」
「あ~その辺はレイナと相談してくれ、俺は知らん」
「竜斗よ……」
ガオウは呆れていた。
「ふふっ、あらあら」
サラは手を口に当てて笑っている。
「宜しくね、レイナ女王陛下」
「こちらこそ宜しく頼みます【薔薇のゼータ】。Sランク者が増えて心強く思っております」
「元よ、元……」
「それでもです。作戦はまだ決めかねていますが、国の兵力としても、スレイヤ神国に対しての情報にも期待しています。」
「勿論よ…………ふふっ」
「? 何か可笑しかったですか?」
「気を悪くしたのならご免なさいね。ただ、竜斗ちゃんのハートを射止めた女性がどんな人なのかなって思っただけ」
「それで?」
「判断力、決断力、カリスマ性、強さ、美しさ、パーフェクトね」
「ほ、褒めすぎでは……?」
レイナは照れている。
「かもね、ふふっ…………あっ、でも……」
ゼータは口ごもった。
「でも?」
「…………多分ないとは思うけど……もし、この戦争に【アーシャ】が出てきたら、ちょっと不味いわね…………正直、私は彼女に勝てる気がしないわ……」
「アーシャって、ネムの姉貴?」
「姉貴って……そんな軽い言い方は良くないわよ竜斗ちゃん」
「アーシャ・スレイヤルですか……」
レイナの表情が険しくなった。
「ええ、【元・七極聖 光王アーシャ】……彼女は別格よ。」
「確か前にレインバルトも言ってたな、【英雄】【桜花】【光王】はSランクの中でも別格って……」
「ええ、Sランクなのが不思議なくらい……」
「SSランクじゃないのか?」
「別格と言っても流石に1人でSSランクの迷宮は攻略できないし……下手な戦力はかえって足手まといですもの」
「そうなんだ……」
「まぁあくまでSSランクになれるんじゃないかってだけで、成れるかは分かんないんだけど……」
「そう思うと、僕らは運がいい方だ」
「なんでだバアル?」
「竜斗の神眼で潜在ランクを視て貰えるから、兵士達も成れないランクを目指して、無理な迷宮攻略しなくていいからだ」
「確かに……」
「……でもそうなると私達も厳しいですね」
ルルが何やら呟いた。
「何が?」
「いえ、私達と言うか……姫様達がSSランクになるには迷宮攻略しないといけない訳ですが、その……」
「時間ですね」
「…………はい」
確かに。皆をSSランクにするには、皆に迷宮攻略して貰わないといけない。でも、それは時間的に見てもかなり厳しい。
迷宮を探さないといけないし、攻略のための準備もしないといけない、行って帰ってくる時間もいる。
何より大勢で行くと、国も空けないといけない。スレイヤ神国から斥候部隊が来ないとも限らない。敵が早く攻めてくる可能性もある。
どう考えても今回で皆がSSランクになるのは無理そうだ。
「あら、その事なら多分問題ないわよ」
そんな中、不意にゼータから思いもよらない言葉が出てきた。
「どういうこと?」
「簡単よ、レイナ女王達をSSランクにしたいんでしょ?」
「ああ、でもそれだと……」
「だ、か、ら……迷宮に行かなくても成れる方法が有るのよ」
「!?」
ゼータ以外の全員が驚いた。
「それはね……」
「そ、それは……?」
全員が唾を飲み込んだ。
「竜斗ちゃんを倒せばいいのよ♪」