解読と小箱
そういえば、ブクマ200突破してました。
有り難う御座います。
「氷牙!」
ヒュースはゼノ目掛けて跳躍し、両手で握り締めている長剣の神器【凍紫】を振り降ろした。
「ちっ」
ゼノは小さく舌打ちしながら、これを躱した。
「氷爪!」
地面に着地したヒュースはそのまま、ゼノ目掛けて逆袈裟斬りを放った。
「っ!」
ゼノは辛くもこれを躱した。
「氷刃!」
ヒュースは畳み掛ける様に連続突きを放った。ゼノは後方に大きく跳躍し、ヒュースとの距離をとった。
「どうした堕天族? 避けてばかりでは私に勝てんぞ」
「…………」
「やれやれ、今度は黙りか……」
ゼノは口を開かなかったが、頭の中では凄い量の独り言を呟いていた。
(【神眼】で視える力………先ずは【潜在ランク】だけど、これはないな……竜斗が嘘のランクを言う筈がない。次は【弱点】だな……だがこれもないな、これは魔物に対してのものだ。なら後はなんだ?【潜在クラス】か?…………これは1番関係ないな。称号や二つ名みたいなもんだ。他には…………あっ!?)
「…………ははっ」
ゼノは額に手を抑え、小さく笑った。
「……急にどうした?」
「悪い悪い、俺の間抜け具合に呆れただけだ」
「意味が分からんな?」
「気にすんな、あんたのスキルが判っただけの事だ」
「!? 冗談も休み休み言え」
「いや、間違いない。初めは、スキル【合魔】か【氷属性】かと思ったんだけど、どうやら違うっぽいしな」
「…………ほぅ」
ヒュースはニヤリと小さく笑った。
「次に考えたのは幻覚系のスキルだ。サラさんが会得した【黒夢】みたいに氷の幻を視ていたと思った。これが一番有力だったんだがな」
「それで?「だった」と言うことは今は違う訳であろう?」
「ああ」
いつしかお互い攻撃の手を止めていた。ただ二人とも神器を握り締める手が緩むことはなかった。
「どうみてもあんたの【氷属性】は存在してる、決して幻覚ではない。なのに何故あんたからは【氷属性】が視えないのか?そもそも【水と風】のスキルすらないのに、どうやってるのか……」
「お前……そうか特殊スキル【魔眼<天>】の所持者だったな……」
「ああ、だがこの【魔眼<天>】がいけなかった。なまじ視える分、あんたのスキルに騙されたわけだ」
「……確かに魔眼系と私のスキルは相性が悪いからな、お前が戸惑うのも無理はな「それだよ」い……」
ゼノはヒュースの言葉を遮るように口を挟んだ。
「?」
ヒュースは首を傾げた。
「……俺は1度そのスキルを視た事がある……てか、あんたと同じスキルの所持者を1人知っている……いや、正確には今は2人か……」
「なんだと?」
「当ててやろうか、あんたのスキルを……」
「…………」
ヒュースはゴクリと息を呑んだ。
「あんたのスキルは、特殊スキル【邪眼】だ」
ゼノは剣を握り締めながら、右手を突きだし、人差指だけをヒュースに向けた。
「…………何故解った?」
ヒュースは少しだけ黙ったあと小さく口を開いた。
「あんたんとこの大将と戦ってる、俺らの大将は【神眼】を持ってる」
「なっ!? 神の瞳……だと? あの人間が?」
「ああ、神眼には邪眼を見破る力もある……だから正確に言うなら、あんたはスキル【属性<風・水>】と【合魔】をきちんと所持してた訳だ。それを【邪眼】で偽って相手に視せてた、違うか?」
「…………」
「更に言うなら、あんたは【邪眼】を使ってアトラスのランクも誤魔化してたな?Sランクのアトラスに対して相手が油断するように、特に魔眼持ちがアトラスを視たら余計にな……」
「……驚いたな、そこまで見破られるとは……」
「全く、俺が何年Sランクの魔族を探したと思ってんだ……まさかアトラスが既にSランクだったとはな」
ヒュースは戸惑っていたが、徐々に冷静さを取り戻し口を開いた。
「で、だからなんだと言うのだ。それでお前が私の【合魔】を破った訳ではあるまい」
「あ~悪いけど俺はあんたのスキルを見破りたかっただけだ。倒そうと思えばいつでも出来る」
「……言うではないか、ならやってみるのだな!」
ヒュースは剣を握り直し、再びゼノ目掛けて跳躍した。
「氷牙!」
ヒュースは勢いよく振り降ろした。
「悪いけど男には容赦しないんでね」
ゼノは双剣をクルクル回すと逆手に持ち替え、腰を低く落として構えた。
「!?」
「双天剣技・双軸結晶!!」
ゼノはまるで独楽みたいに回転をし、光と闇の剣撃がゼノを軸に円を描きながら、何度もヒュースを斬りつけた。
「が……はっ……」
ヒュースには無数の切り傷が刻まれ、血飛沫が舞うとその場に沈みこんだ。
「ふぅ~やれやれ、(頭が)ちょっと疲れたな」
ゼノは神器を解除すると、バアルが戦闘しているであろう方向を見つめた。すると丁度バアルも戦闘を終えたみたいで、ガオウと2人でこちらを見ていた。
「そっちも済んだのか?」
「ああ」
「うむ」
ゼノが2人に声をかけると、2人はゆっくりとゼノに近づいた。
「バアル怪我してんじゃん?」
「五月蠅い!」
「なんだ怒んなよ」
「まぁ相手が多重発動してきたからな」
「そうなのか?まぁ竜斗が「油断すんな」って言ってたくらいだから、何かあるとは思ったが……」
「知ってたのか?」
「いや、俺も気づいたのはさっきだ。俺が倒したのも【邪眼】持ってたしな」
「ネムと同じスキルか……」
「ああ、お陰でちょっとてこずったかな」
3人が他愛もない会話をしていると、不意にゼータが現れゆっくりと近づいてきた。体をクネクネさせながら。
「あらん? もう終わったの?」
「……ああ、あんた(体力)は大丈夫なのか?」
「やだん、ゼノちゃんたら私の心配してくれたの?」
「殺すぞ変態野郎、竜斗が後で説教っつてたから覚悟しとけよ」
「…………マジ?」
「マジ」×3
「…………」
ゼータは全身から冷や汗が出てきて、顔色は真っ青になった。
「まぁ冗談はこれくらいにして、どこに行ってたんだ?」
「何の事、バアルちゃん?」
「惚けるな、【千里眼】で視てた。1番奥にある大きな屋敷に行ってるのを途中まで視てた」
「…………バレてたのね」
3人は指輪に魔力を込めて、今にもゼータを攻撃しそうな程、目の前の変態を警戒した。
「ストップ! ストップ! べ、別に悪巧みしてた訳じゃないのよ!」
ゼータは両腕を突きだし、両手を振って、必死に3人を制止させようとした。
「なら何故別行動をとった?」
ガオウの手には既に斧の神器が発動されていた。
「も、勿論、竜斗ちゃんの為よ!」
「?」
「りゅ、竜斗ちゃんアリスの事気にしてたでしょ? だから何か分かるかもって、あの屋敷を調べに行ってただけなのよ」
「本当に?」
バアルの手にも杖の神器が発動された。
「勿論よ。腐っても元・六花仙よ。ちゃんと収穫だってあるんだから」
「なら見せてみろ」
ゼノの手にも双剣の神器が発動され、片方の剣をゼータの首元に当てた。
「もう、3人とも物騒なんだから」
ゼータは服の中にゴソゴソと手を入れると、3人の前に1枚の紙を出した。3人はその紙を覗き込んだ。そこには綺麗な金髪の機人族の女性の顔が描かれていた。
「これは…………似顔絵か?」
「ええ、この娘がアリス・ベルフェゴールちゃんよ。1度しか見たことないし、若干記憶もあやふやだけど間違いないわ」
「ふ~ん、かなりの美人さんだね」
「あらん? バアルちゃんはこ~ゆ~のがタイプ?」
「殺すよ、あくまで一般的に見て、顔が整ってるって言っただけだ」
「いい加減その、いちいち「殺す」って発言やめてくれない? マジで怖いんですけど……」
「まぁ美人には変わりないな、皇帝が惚れるのも頷ける」
「でしょ? 流石ゼノちゃんはわかってるわ」
ヒュースはいつの間にか目を覚ましていた。身体中は傷だらけで動けず、仰向けになったまま4人の様子を窺っていた。
「あ! 後こんなのもあったんだけど……」
ゼータは更に、1つの小さな箱を取り出した。
「!?」
小さな箱を見たヒュースは目を見開き、動かない体を無理矢理動かそうとした。
「貴様っ!! その箱はアリス様の物だ!!」
ヒュースは叫んだ。口からはツツーと血が流れ、体からは再度血が舞った。
「お、おい……あんた無理すんな、まだボロボロなんだから…」
「五月蠅い! 返せっ……そ、その箱だけは…………頼む……その箱だけは返してくれ…………」
ヒュースはゼノの心配を余所に叫ぶと、次第に力なく懇願した。
「…………余程大事なものなのね」
ゼータは3人の顔を見合わせた。3人が小さく頷くとゼータは箱を開けずにそっとヒュースの目の前に差し出した。
「アリス様…………」
ヒュースはすがるように箱を受け取ると、小さな箱をギュッと抱き締めた。瞳からは大粒の涙が零れていた。
少しだけ冷静になったのかヒュースはゆっくりと体を起こすと4人に礼をした。
「すまない、恩に着る…………敵に礼をするのは変な感じだが、敗者に温情を掛けてくれた事には感謝している。それに……」
ヒュースはそっと小さな箱を見つめた。
「これは……今は亡きアリス様の大事な物なのだ。これに何かあれば私は死んでも死にきれん……」
「あらん、持ち出したアタシが言うのも何だけど……大事な物ならもっと厳重に保管しないと」
「この箱には幾重にも結界を張っていたし、部屋にも無数の罠を仕掛けていた筈なんだが……」
「ふふん、アタシは元・六花仙の薔薇よ。あれくらいの罠造作もないわ」
「なっ!? 貴様、帝国の……【薔薇のゼータ】か?」
「ええそうよ、まぁ元だけどね」
「お前らは一体……」
その時だった。
5人の横にある建物から突如、轟音と共に1人の男が吹き飛ばされてきた。
建物は大きく破壊され、吹き飛ばされてきた男も反対の建物の壁に叩きつけられ、身なりはボロボロになり、起き上がることも出来ずにいた。
「ぐっ……がっ……」
男の全身は傷だらけでヒュースの比ではなかった。普通なら意識があるのが不思議な程だった。
「なっ!? バカなっ!? し、信じられん……」
ヒュースは自分の目を疑った。
すると男が吹き飛んできた方の建物からヒョッコリと人影が現れてきた。その手に刀の神器を握り締め、刀の峰の部分を肩に当てながら、ほぼ無傷な状態で。
その場にいたヒュース以外の4人は小さく微笑んだ。
「ふぅ~、やっと終わったかな?」