動向と同行
目の前には黒髪の竜人族と緑髪のエルフ、そして金髪の人間ゼータがいた。
ルキの燃えるような赤い髪と違い、黒髪の竜人族の女性は物静かそうな雰囲気だった。出会った時のアザゼルとリリス程ではないが、少し痩せ細っており、身なりはお世辞にも良いものではなかった。
エルフの女の子も似たような格好をしていた…………てか、こっちに向かって手を振っている。あれがバアルとか少し引くわ。
そしてゼータだ。以前のような鎧は着ていないし、装備している神器も大分変わっているようだ。手にはBランクと思われる神珠を手にしていた。斬り落とした腕は復元したみたいだ。
「久しぶりね竜斗ちゃん」
ゼータは不敵な笑みを浮かべていた。
「ああ、久しぶりだな…………って俺、お前に名乗ったっけ?」
俺は違和感を感じた。確か俺はゼータの前で名乗ってない筈だ。もしかしたら強制転位させて助けた部下の中に、【観察眼】持ちの奴がいて、そいつから聞いたのかもしれないが……。
「いえ、名乗ってないわね。貴方の名前は、最近ある人物と出会って聞いたの」
「……そいつが誰か聞いてもいいか?」
「いいわよ。知ってるか知らないけどギルド【魔族狩り】のギルドマスターよ」
「アーシャか……」
「あら意外ね、何となく貴方は知らないと思ったのだけど…………私の勘も鈍ったわね」
「部下達から聞いたんじゃないんだな?」
「そうなのよ、私も聞いてみたんだけど何故か貴方の事は視れなかったって言ってたわ」
「……そうなのか?」
するとレインバルトが説明してくれた。
「主には【神眼】があるからな」
「どういう事?」
「知らなかったのか?神眼には他者からの魔眼を防ぐ力がある」
「マジか!?…………あれ?でもゼノは普通に俺の事視てるぞ?」
「恐らく敵対するものには無意識で今まで防いでいたのだろう、今度ゼノ殿にも試してみては?」
「そうしてみるよ」
結果オーライ。今まで視られてるかと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。これはかなりの情報遮断になった筈だ。
(でもアーシャ・スレイヤルには俺の名前がバレてるのか……)
「ん?その青い髪……貴方まさか【水王】?」
ゼータは覗き込むようにレインバルトを見つめた。
「いかにも。まさかこのような所で【薔薇】に出会うとはな」
「誰だ?」
ゼノは知らないみたいだ。
「我も会うのは初めてだが、話を聞く限りルキのいたドラグナー国を最後まで追い詰めたアーク帝国の【六花仙・薔薇】だろう」
ガオウがゼノに説明している。
「そうか……あいつが薔薇のゼータか……」
ゼノの拳が小さく握られた。
「竜斗ちゃん以外は初対面ね、【七極聖】に【賞金首】が2人……そっちの僕は知らないわね」
ゼータは最後にバアルを見つめた。
(ん?ふたり?)
「心外だなゼータ、ずっと君のお世話をしてたのに」
バアルは小さく笑った。
「……どういう事?」
ゼータは怪訝そうな顔をしている。
「そこのエルフには僕の分身が寄生している」
「!?」
ゼータと竜人族の女性はバッとエルフの女の子を睨んだ。
エルフの女の子バアルは、ニコニコと笑いながら手を振っている。
「レアスキル【寄生】……」
ゼータは呟いた。
「ご名答」
「……私の行動を監視していたの?」
「いや、お前についていけば妹が見つかるかもと思って同行してただけさ。現にさっきまで寄生していたの忘れてたし」
バアルって意外とうっかり屋さんなのか?確か俺達がバアルの村を目指した時も【千里眼】使ってなかったし…………いや、意外でもなんでもない!バアルは間違いなくマヌケキャラだ。
(バアルにマヌケ属性を追加だな)
「まぁいいわ……七極聖が魔族と一緒なのもビックリだけど、貴方達の目的を聞いても?まさか負かした相手を追撃する鬼畜じゃあないわよね?」
ゼータはここにきて少しだけ身構えた。
「まさか……お前こそ、こんなとこで何してんだ?」
「見たら分かるでしょ、迷宮攻略よ。【服従】のスキルを会得したのはいいけど神器がなかったら何の意味もないしね」
「そりゃそうだ…………ってチョット待て!お前1人でランクBの迷宮を数日で攻略したのか?」
レイナとアーシャが出会ってからまだほんの数日しか経っていない。その後ゼータはアーシャと会ったのだとしたら、それはいくらなんでも無理だろ?
「そうよ、途中まではアーシャと一緒に迷宮を進んでたから。まぁ彼女はチョット前に転移で迷宮を出ていったけどね」
ああ、それだと納得だ。Sランクが2人ならBランクの迷宮を数日で攻略したのも、まぁ納得出来るか。
(部下を何人か引き連れてたのかもだけ……)
一瞬だった
ゼノはSランクの剣の神器【業炎魔】を発動させ、神器の能力【伸縮】を使いゼータを攻撃した。神器はゼータ目掛けて一直線に伸び、ゼータの心臓を一突きしようとしていた。
ゼータは細剣の神器を発動させてそれを防いでいた。
「……何の真似かしら?」
「何、ちょっとな……」
普段のゼノとは違い少し怒気を含んだ口調だった。
ゼノの腕は少しずつ熱を帯びていき、赤みを増していた。
「ゼノ!?」
「貴方それマイナススキルなんじゃないの?腕が火傷してるわ」
「まぁな」
「どうしたんだゼノ!?」
「悪いな竜斗、こいつはルキ達のいたドラグナー国を壊滅させた張本人だ……レインバルトと違って許すわけにはいかねぇ」
「それは……」
ゼノは歯軋りまでしている。こんなに怒ってるゼノを見たのは初めてかもしれない。止めるべきか悩んでいるとガオウがゼノの肩に手を置いた。
「そうだとしてもだ、こいつを裁くかどうかはルキの判断に任せるべきではないのか?」
「…………っ、分かった……ガオウのおっさんの言う通りだ」
ゼノは神器を解除した。相当悔しそうに。
「あら、今のでおしまい?良かったのかしら、今ここで私を倒しておかなくて?」
「勘違いすんな、変態野郎!お前は俺達と一緒に来い!ルキの前に突き出して裁いてやる!」
「あらそういうこと……でも私は転移のスペシャリストよ。逃げようと思えばいつでも可能なのよ」
ゼータはクスクスと笑っている。
なんかチョット、イラッときた。
「へぇ~ならやってみろよ」
俺は神器【絶刀・天魔】を発動させた。
「!? なっ……」
先程と違いゼータの顔から余裕の笑みが消えた。
俺は神眼でゼータを鋭く睨みつける。
「へ、へぇ~いいのかしら……ほ、本当に転移の神器発動させるわよ?この距離だと余裕で貴方の攻撃を回避できるわ」
「だからやってみろよ、お前が神器を発動させた瞬間に胴体を2つにしてやる」
「…………ごくり」
ゼータは想像したのか、顔色が悪くなっていってる。
沈黙がこの場を包んだ。
「わ、分かったわ……分かったから、その物騒な神器を仕舞いなさい……仕舞って頂戴。」
「本当か?」
「ほ、本当よ!ちゃんとルキウスに会って裁かれるって約束するわ!!」
「よし、約束だぞ。もし逃げ出したら地の果てまで追い掛けて殺してやるからな」
「本当に私が2つになりそうね…………」
「当たり前だ、俺の刀は次元を斬り裂く。転移なんかしようとしたら一瞬で斬り裂いてやるからな」
「……………………マジ?」
「マジ。レインバルト!」
俺はレインバルトの方に振り向いた。
「なんだ主よ?」
「こいつにスキル【追跡】出来る?」
「問題ない」
レインバルトは淡々と答える。
「レアスキル【追跡】…………いいわ、私が逃げ出さないって証明してあげるわ」
レアスキル【追跡】を可能にするために、レインバルトは魔力を練っている。結構、時間がかかるみたいだ。皆は静かにレインバルトの魔力が練り上がるのを待っていた。
「へぇ~えらく素直なんだな?」
ゼノが尋ねる。
「……信じるかは知らないけど、元々私は貴方達を探してた訳だしね」
「えっ、そうなの?」
「ええ、今の私は【六花仙】でも【薔薇】でもなく、ただの【ゼータ】だから……」
ゼータは少し寂しそうな顔で答えた。
「ああ、それはバアルから聞いた。」
「……そう、寄生だったわね…………」
そう言ってゼータはエルフの女の子をちらっと見た。
エルフの女の子ナナは、バアルの寄生が解除され今は気を失っている。竜人族の女性キィと、バアルが介抱している。
「で、なんで俺達を?」
「そうね……何て言ったらいいか……私自身もよく分かんないんだけど……竜斗ちゃんといたら楽しそうかな?って……」
「楽しそう?」
「ええ……今まで私は皇帝陛下の為に身を粉にして戦ってきたけど、今回の事で【六花仙】を除名されて……少しだけ旅をして、私の人生って何だったのかしら?って考えたの」
「…………ふ~ん」
ほんのチョットだけ気持ちが分かる。俺も高3の夏に剣道の試合に負けてから勉強してたけど…………その間ずっと俺の今までの練習何だったのかなって考えてた……あんなに練習したのに、それでも勝てないんだ……って。
言い訳は嫌いなのに、言い訳を必死に探して、なんかもがいてた…………って話がそれた。
「それで?」
「まぁ、それからここにいるナナちゃんとキィちゃんと旅してて気付いたの…………この子達も生きてるんだって」
ゼノが勢いよく立ち上がった。
「今更……」
「ゼノ」
ガオウが呼び止めるとゼノは、不貞腐れたように再び座り込んだ。
「そうね……私達、人間は魔族の人達をモノみたいに扱ってた。今更言っても仕方ないことだけど……それでも、この子達との旅は楽しいものだったわ……私の価値観を変えるくらいには……」
ゼータは小さくフフッと笑った。
「…………だからもし……ルキウスが許してくれたなら……私も……貴方達と共にいたいわ!」
「!?」
ゼータの目はとても真剣だった。
俺には嘘を言ってるようには感じなかった。
「分かった」
「竜斗っ!?」
「ゼノ……俺にはゼータが嘘を言ってるようには思えない。だからもしルキウスが許したら、俺はゼータを仲間にしたいと思う」
「…………分かった、だがそれはルキが許せばだからな!」
「分かってる」
ゼノにもゼータの真剣さが伝わったようだ。きっとゼータは変わったんだ。ルキが許せばきっと良い仲間になってくれる筈だ。
「で、何で俺といたら楽しそうだと思ったんだ?」
「それは勿論、貴方がイケメンで強いからよ!!」
ゼータは乙女みたいな目をし、嬉々として叫んだ。
前言撤回しよう
変態さは変わらなかったみたいだ