即位と宣誓
【襲撃編】エピローグ?です。
次話より新章【神国編】のつもりです。
レイナが王になると宣言した日の夜、俺はレイナの私室に2人でいた。
部屋の中には荒らされた跡がまだ残っていた。
「レイナもついに王様かぁ~」
俺は部屋にある椅子に腰掛けていた。
「ふふっ、意外ですか?」
レイナは飲み物をカップに注いでいる。恐らく紅茶だと思われる。
「う~ん、最初にあった時に「魔族の王」って名乗ってたから別に今更かな」
「あ、あれは緊張から気持ちが少しおかしな方向に……ちょっと大袈裟に自己アピールを……」
「そういえば、最初に契約持ち掛けてきた時の笑顔もメチャ怖かった……」
思い出しただけで身震いしそうだ。
「うぅ~、それも言わないで下さい」
「まぁ、この国での魔族の次期王には違いないしね」
レイナの可愛さも堪能したので、からかうのはこれくらいにしとかなくては。
「あっ!? 契約と言えば条件はまだなのですか!」
やっちまった!
時既に遅し!
「えっと~それは……まだと言いますか……ゴニョゴニョ」
俺は焦って口ごもる。
「ふふっ、冗談です。もうここまできたら逆に凄い条件を期待してます」
「レイナさん?」
「私は、竜斗様が「世界征服するから手伝え!」と言ってきても驚きませんよ」
ブッーー!?
俺はレイナが淹れてくれた紅茶を飲もうとして吹き出した。
「世界征服ってそんなのするわけ……」
「からかわれた仕返しです。でも私は竜斗様の出す条件なら、どんなことをしても叶えるぐらいの覚悟は出来てますから」
レイナは優しい笑顔で微笑んでくれた。
「レイナ……」
「竜斗様……」
俺はレイナと、そっと唇を重ねた。
今日のは紅茶の味がした。
そのまま近くにあったベッドにレイナを押し倒して寝そべり、人生で2度目のコトをしようとした。
だが先程の出会いの会話が頭に残っており、気になっていた事を思い出してしまい、つい口に出した。
「そういえば神器【変わる世界】って、どうやって手に入れたの?」
「…………あれは元々この城に安置されていた物だそうです」
折角のムードが台無しになり、レイナは少し拗ねたように答えた。
「そうなんだ……じゃあこの城も?」
「はい。誰が建てたのかも分からない物だそうです。数百年前の私のご先祖様が見つけて、それ以来住まわして頂いてます」
「数百年前って神話の頃から?」
「あっ、神話はそれより遥か前です。ここに国を興したのは二百年くらい前だったかと……」
確か神話の説明してくれたのはゼノだったな。
今度、もう少し詳しい神話の年を聞いてみるか。
「ついでにもう1ついい?」
「……なんでしょうか?」
「SSランクの迷宮って放置してたらどうなるの?」
「確かある程度の日数、魔物を排出したら自然と消えたと思います」
「そっか、ありがと」
てっきり永久に魔物を出し続けるのかと……それはないな。
そしたら今頃この世界は魔物だらけになってるだろうし。
「では私からも……竜斗様の事を教えて下さい」
一緒に寝そべっていたレイナは体を起こした。
「俺?」
「はい。私たち一応、婚約しているのにお互いの事をあまり知らないなぁと」
「別にいいけど特に何もないよ」
「なんでもいいのです」
俺も体を起こして、レイナの隣に座る感じになってお互いの事を話した。
兄貴と姉貴がいること。
小さい頃から剣や刀が好きなこと。
学生で剣道部に所属してオタク?で女子にモテなかった事等……
「嘘ですね」
レイナが俺の話を否定してきた。
「えっ?」
「竜斗様がモテないのは嘘ですね」
「いや、でも俺……彼女出来たことないよ? 最近だと女子と話した記憶もないし……」
「それはきっと、オタクですか? それが受け入れられなくて竜斗様と話すのを遠慮していたんですね。竜斗様がモテない訳がないです」
「そうなの?」
「絶対そうです。そんなことで竜斗様と距離を置くなんて馬鹿な女性達です」
怖い。
レイナの顔が怖い。
「……でも、そのお陰でレイナの婚約者になれたのかも。もし彼女いたら、やっぱ躊躇うと思うし」
「その辺りは感謝しなくてはですね」
少しだけレイナの表情が和らいでくれた。
「なら次はレイナの事教えてよ」
「そうですね、私は……」
レイナも自分の事を教えてくれた。
一人っ子で小さい頃から近くにガオウとシューティングスターがいた事。
ある日、倒れていたゼノを拾ったこと。
ララとルルを奴隷商人から救ったこと。
ホウライ王国のSランク者と対峙してマナさんの旦那さんが死んだ事。
親の世代が戦いで殆ど死んだ事。
等々……
「……重いよ!」
「そうですか?」
「まさかの事実が目白押しだったよ!」
思わず突っ込みを入れてしまった。
「それにララとルルが極度の人間嫌いなのも分かったし」
「う~ん……奴隷だった魔族は割といますよ。ララとルルにはまだ他に理由があるのです」
「そうなの?」
「はい。ですがそれは私から言うことではないので2人から聞いて下さい。竜斗様でしたら2人も教えてくれると思います」
「少しだけ聞くのが恐いな……」
「そうですね、2人にとってはツラい過去だと思います」
「分かった。今度、覚悟して聞いてみるよ」
「はい」
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
レイナが返事をすると扉から何人かが入ってきた。
「失礼します、姫様」
先頭で入ってきたのはララ、続いてルルとサラであった。
「どうしました?」
「即位式での衣装の寸法合わせを……」
ララは言いながらちらっと俺を見てきた。
「……! じゃあ俺は行くね。ガオウ達も準備してるだろうからそっち手伝ってくるよ」
我ながらよく気づけた。
過去の俺なら言われてから気づいたと思う。
レディの寸法合わせに男が居るわけにはいかないからな。
「はい、ではまた明日」
「おやすみ、レイナ」
「おやすみなさい竜斗様」
レイナとお休みの挨拶を交わし、俺が3人の横を通りすぎ部屋から出るとララが一言呟いた。
「ご配慮痛み入ります」
サラはニコニコ微笑んでいた。
「お楽しみを邪魔してすみません」
ルルは、
「変態のくせによく気づきましたね」
俺が振り返って部屋を見つめるとルルが既に扉を閉め始めていた。
ルルは扉が閉まる直前に、悪戯っ子みたいに舌を出しながら微笑んでいた。
「…………」
ちょっと可愛いいと思ったのはレイナに内緒にしとこう。
俺が廊下を歩き出すと、レイナの部屋からルルの声が聞こえた。
「痛いですよ~、姫様ぁ~……」
恐らくレイナにチョップでも喰らったかな?
その微笑ましい光景が簡単に思い描けた。
さて、ガオウでもからかいに行くかな。
◆◆
数日後、即位式が執り行われた。
皆に聞くと、実際はもう少し豪勢に執り行われるそうだが、割と質素に簡単に済まされた。
【王の間】にいるのは主要メンバーくらいで、他は誰もいない。
ローゲからレイナの頭に王冠が載せられる程度。
服装も殆どいつも通り。
綺麗なドレスみたいなのを着ているのはレイナだけであった。
赤と黒を基調にしたドレスで、なんでもアルカディア国の色だそうだ。
どこのバスケ部だと思ったが、神聖な儀なので黙っておこう。
王冠を授けられたレイナは、皆から軽く拍手を受け、そのまま城の外まで歩き出した。
皆も黙って綺麗に並んで、後ろをついて歩いた。
因みに俺は最後尾。
そして城の外まで出ると、突然の歓声に一瞬耳を塞いだ。
「わーーーレイナ様ーー!!」
「レイナ様バンザーーーイ!!」
「レイナ様ーーー!!」
「新女王万歳!!」
「女王様ーー!!」
「レイナ様ーーー!!」
「キャーーー!!」
…………
…………
…………
…………
等々、歓声が鳴り止むことはなかった。
まだ街は破壊されたままだ。
城の前だけ瓦礫などか撤去されており、そこにアルカディア国の魔族全員が集まっていた。
亡くなった兵士の家族や友人もいる筈なのに皆、明るく笑顔でレイナの即位を受け止めていた。
レイナがスッと小さく手を上げると、全員が一斉に黙った。
「皆さん、レイナ・サタン・アルカディアが今日、この日をもって、この国の王となりました。先代である父が亡くなり、直ぐにでも王位を継げと言う声はありましたが、私は王として皆を導く重責に耐えきれず、いつまでも姫という立場に甘え、今日まで逃げてきました」
所々で「そんなことない」等、声が挙がっていたが基本的には皆、静かにレイナの言葉を聞いていた。
「ですが、私も覚悟を決めました! 先祖がこの地に国を興し、人間に見つからず平穏に暮らせていた時代は終わりました。先日の襲撃で何人もの、兵士の命が奪われました。私は悟りました。【魔族の国を安定させる】。皆さんも知っての通り、これは私の夢です。この夢を叶えるためには、私達も一歩勇気を出し進まなければならないことに。逃げて、隠れるだけではダメです。戦わなければ、私達はいつまでも怯えて暮らさなければならないのです」
皆は少しだけ不安そうな顔をしている。
「そして忘れないで下さい。それは決して人間を滅ぼすことではないということを。今の私達には人間を滅ぼす力はありません。ですが、【魔族の国を安定させる】為には必ず人間達と摩擦が生じる筈です。その時、取り合えるはずの手を突き放せば、人は簡単に争いを起こすのです」
皆は真剣にレイナの話を聞いている。
「過去の事を水に流せとはいいません。ツラい思いをした人もいます。でも少しだけ……ちょっとだけ勇気を出して一歩踏み出し歩み寄ってみて下さい。そうすれば絶対にもっと楽しく、輝ける未来が待っている筈です」
「レイナ・サタン・アルカディアはここに誓います。私は逃げずに、ずっと皆の命を背負っていきます! ですから皆さんも逃げずに少しだけ勇気を持ってみて下さい。これが王としての私のただ1つの願いです」
…………………………皆黙ったままだ。
誰一人声を発さない。
レイナの演説は心に響かなかったみたいだ。
レイナの肩が少しだけ落ちたのを感じた。
瞬間、沸き上がる歓声が国中を包んだ。
「女王様ーー!!」
「女王様ーー!!」
「女王様ーー!!」
「女王様バンザーイ!!」
「女王様バンザーイ!!」
「女王様万歳!!」
「女王様万歳!!」
「女王様万歳!!」
「レイナ様ーーー!!」
「レイナ様ーーー!!」
もの凄い歓声だった。
漫画的にいうなら、「ワァァ」で表現されるだろう。
レイナが手で顔を覆っているのが見えた。
恐らく嬉しくて泣いているのだろう。
俺も拍手でレイナを称えていた。
すると、いつの間にか横に来ていたガオウとゼノに挟まれ腕を掴まれた。
「ゼノ? ガオウ?」
俺はキョロキョロ2人の顔を見た。
2人は悪戯っ子みたくニヤッと笑っている。
嫌な予感がする……
気づくと最後尾にいた俺の前は開けていた。
前にいた全員が両脇に寄り、道を作っていた。
その全員がニヤリと笑っている。
嫌な予感がする……
俺の腕を掴んでいたゼノとガオウの手に力が込められるのが分かった。
そして一気に俺は前方に放り投げられた。
気づくと俺は大歓声の目の前、レイナの真横に立っていた。
「竜斗様?」
レイナは知らなかった顔をして驚いている。
なら犯人はレイナ以外全員か……
そして皆の歓声がゆっくりと静かになっていった。
「竜斗様だ……」
「竜斗様だ……」
「竜斗様だ……」
うって変わって皆がざわつき始めた。
「竜斗様も何か一言!!」
誰かが爆弾を放り投げてきやがった。
皆も何かを期待している目でこっちを見始めた。
これはヤバい……
何言っていいか分からん……
えっと、えっと……
てか、俺、何か言わないとダメなのか?
ヤバい…………
逃げ出したい…………
するとレイナがそっと手を握ってくれた。
レイナは優しく微笑んでくれた。
すると、何故か心が落ち着いてきた。
俺は皆を見渡した。
「えっと……俺は……人間です。知ってる人も知らない人もいるかもだけど……異世界の人間です」
知らない人も少しだけいたみたいで、驚いてる人が何人かいた。
「俺は……魔人族であるレイナと契約しました。と言ってもまだ条件は提示してないから(仮)なんだけど……」
何人かはクスクス笑っている
「俺はレイナに【魔族の国を安定させるのを手伝ってほしい】と言われました。俺は決めました。レイナの為に戦うと。でもレイナはこうも言いました。【出来たら人間と手を取り合っていきたい】と。俺とレイナの契約……婚約はその架け橋になると思ってます」
皆は固唾を飲んで見守ってくれてる。
「これから、人間と沢山戦うと思います。でも戦わないですむ人間も少なからずいる筈です。今回、俺の他にネムリスとレインバルトがこの魔族の国に来ました。これは世界にとっては小さい一歩だけど、俺達にとっては大きな一歩です」
「ジェガン達のように、魔族を傷つける人間もいます。てか、この世界はそういった人間だらけです。でも2人のように歩み寄れる優しい人間も少なからずいるという事を忘れないで下さい」
「……俺達は変われる。魔族も人も変われる。だから皆で少しだけ勇気を出して、少しだけ世界を変えていこう!」
シーン……
…………ヤバい、メッチャくさかった……
どこの大統領だよ……
恥ずかしくて死にそうだ……
誰か……
頼むから何か言ってくれ!
そして、この日1番の歓声が沸き上がった。
見渡すと、全員が拍手をしていた。
レイナも、ガオウも、ゼノも、サラも、ルキも、バアルも、ララも、ルルも、ローゲも、小隊長の四人も、マナさんも、ソラちゃんも、ルークも、リリスも、レインバルトも、ネムリスも、ナスカも、ラスも、カルも、ボブおじさんも、ジュンちゃんも。
……とにかく全員だ。
俺は嬉しくなった。
完全には人間の事を受け入れられるとは思っていない。
その場の雰囲気で拍手してる人もいる筈だ。
それでも皆、変われると俺は強く確信した。
そして皆を見て改めて心の中で誓った!
もう誰も傷つけさせない!
皆の為に強くなってやる!
心も技も体もだ!
そうだ!
どうせなら……
異世界で最強を目指してやる!!