風と炎
短めです。
【竜斗視点】
俺は迦楼羅を握り締め、強く実感してた。
この刀は良い!
【銀叉】には申し訳ないが雲泥の差があった。
レイナとガオウは後方に下がり、固唾を呑んで見守っている。
これならいけるか……?
突如迦楼羅から炎が噴き出す。同時に俺はドラゴン目掛けて走り出した。
迦楼羅の炎をブースター代わりにし、徐々にその速度は増していった。
◆
【??視点】
ドラゴンは目の前の人間達をしっかりと見据えていた。
自分の尾を防ぐ獣人、【風のブレス】を切り裂く魔人、そして【風のブレス】を受けてなお立ち上がる人間。
--面白い!--
自分は何のために存在しているのか……この迷宮と呼ばれる場所で幾度となく門番として訳もわからず、相手を屠ってきた。
相手は紙クズみたいに一撃で地面に転がった。正直退屈だった。息をするようなただの牽制、それだけで侵入者はただの塊へとなったのだから。
ある時1人の若者と戦った。
彼は強かった。
Sランクの人間は幾度か狩ったことがあったのに、彼は同ランクでありながら一線を画した。
トウマと呼ばれる英雄だった。
長い闘いの末、遂にドラゴンは英雄と呼ばれた男に打ち勝った。
彼は嬉しかった。
--楽しかった! そうだ! 我はツヨキモノと闘うために存在しているのだ!!--
ドラゴンは【強者と闘う】……それこそが己の存在理由だと確信した。
そして現在、目の前にいる人間は、トウマと違い何度も自分の攻撃で吹き飛ばされていた脆弱な生き物。しかしそれでも立ちあがり、炎の神器をその手に携え、異様な程の魔力を放ち、金色の右眼が自分を捉えていた。
--面白い、この人間は面白い! こいつを……喰らいたい!!--
人間は炎を後方に撒き散らし自分に向かってくる。
瞬間、人間の姿が消え、右手に痛みが走る!
一閃
ドラゴンの体から血が吹き出す。
辺りを見回すが人間の姿を捉えきれない。
ドラゴンはここで生まれて初めて、人間の姿ではなく魔力を捉えるようにした。
斬られた右手を意にも介さず振りかざし、人間目掛けて切り裂く……が、これも躱された。
そしてまた一閃、ドラゴンの体に痛みが走る!
それを長い時間、幾度も繰り返した。
相手の攻撃によって何度もドラゴンの体は斬り裂かれるが致命傷には至らない。
人間でいうなら、紙で手を切った程度の感覚。ドラゴンは確信した。
ーーこの人間の攻撃で自分が死ぬことはないとーー
自分の攻撃は当たらないが、いずれはトウマみたいに力尽きると……ドラゴンは持久戦を覚悟した。
すると人間の方も、「何百でも……何千でも斬ってやる!」と訳の分からない言葉を喋り攻撃を繰り返してきた。
ーー面白い! こいつも我と同じ事を考えているーー
更に幾度こうした攻防が繰り返されただろう。ドラゴンの体からは大量の血が吹き出し、人間は息を切らしていた。
お互い満身創痍であった。
一瞬、人間のバランスが崩れた!
ドラゴンはこの好機を見逃さなかった。
今までの牽制のような攻撃を止め、渾身の一撃を人間に喰らわせた。
◆
【竜斗視点】
やべ-……ミスった……
幾度となく繰り返した攻撃により、体力も底を尽きかけていた。
瞬間、体を支えきれなくなりバランスを崩した。
ドラゴンは渾身の一撃を俺目掛けて繰り出してきた。
なんとか致命傷は避けるように躱したつもりだったが、左手は吹き飛ばされ、ただの肉塊と化し、俺は壁に叩きつけられた。
俺は左手があった場所を抑えるが血が止まらない。
「竜斗様!!」
後ろでレイナが泣きながら叫んでいた。
ヤバイ……と思ったがドラゴンの2撃目は飛んで来なかった。
「あいつも限界か……」
ボソッと呟き、血を抑えるのを止め、迦楼羅を握り締める。
そして迦楼羅を天高く振りかざす。
片手による【上段の構え】。
俺は無意識にありったけの魔力を迦楼羅に込める。
迦楼羅から上空に炎が噴き出し巨大な刃を形成してゆく。
ドラゴンも全ての空気を吸い込むんじゃないかと言わんばかりの勢いで辺りの空気を吸い込み、巨大な空気の塊を顔の前に造り出す。
--勝負--
お互いの最大の攻撃がぶつかり合う!!
◆
【レイナ視点】
私とガオウ将軍は嵐の中に身をおいているような感覚だった。
巨大な空気の塊【風のブレス】と巨大な炎の刃【迦楼羅刀】がぶつかり合う。
そして遂に2つの巨大なエネルギーは破裂した。
華美であり、尚且つ巨大な空間とも言えるボスモンスターの部屋はその原型を留めておらず瓦礫の山へと化していた。
私が目を開けるとそこには、一刀両断され消え行くドラゴンの死体と、刃が折れ壊れた迦楼羅を片手に瓦礫のなか立っていた竜斗様の姿があった。
竜斗様がこちらに振り向き一言呟かれた。
「……や……やった……よ…………」
竜斗様はそのまま眠るように瓦礫の中に倒れていった。