抵抗と増援
アルカディア城門にて、魔族と人間による激しい攻防が繰り広げられていた。
「うおおおおおっっ!!」
先陣をきったガオウが斧の神器【グラヴィトンバスター】を振り回していた。
対抗する人間達は為す術なく吹き飛ばされるか、ボロ雑巾のようにグシャグシャにされていた。
「ひいいぃぃぃぃ……」
「げばぁぁ……」
「ぐべっ……」
人間達も必死に抵抗しようとしたが、ガオウやシューティングスター、第1小隊の面々を前に力尽きていった。
「オークスさんの指示を思い出せ!! 賞金首は4、5人で取り囲めっ……て……」
仲間に声をかけていた人間の前には既に斧を振りかざしていたガオウが立っていた。
「ひいい!?」
悲鳴を挙げる人間をガオウは容赦なく斬り伏せた。
状況は完全にガオウ達が優勢であった。
人間達は人質を使おうとしたが、ガオウ達の覚悟は変わることなく、人間達に刃を向けた。
無情ともいえる決断だったが、それが功を奏したのか人間達は戸惑い、結果的に人質数名は誰一人傷つかずに人間達の手から離れた。
その勢いのままガオウ達は攻撃の手を緩めることはなかった。
結果、城門内での攻防戦はガオウ達が勝利した。
「はぁ、はぁ、はぁ、やったぞ……」
愛槍【ハーヴェスト】を握り締めるシューティングスターは勝利を噛み締め呟いた。
横たわる屍は全て人間達で、魔族の被害はゼロであった。
「おおっっ!!」
「おおっっ!!」
「おおっっ!!」
魔族達による勝利の雄叫びが上がった。
各々神器を何度も高く掲げた。
そんな一瞬を狙ったかのように、その場に突如、紫電が走った。
「雷神の収穫祭!!」
嫌な声と共にその場にいた魔族全員を雷が襲った。
勝利の雄叫びは一転して、魔族の悲痛な叫びへと変わった。
雷によるダメージもあったが、それ以上の強力な能力により魔族達は誰一人動けず地にひれ伏した。
ギリギリ片膝をつき、抵抗出来たのはガオウだけであった。
「ぐぅぅ……しまった……油断、した……っ!」
勝利への油断がガオウに【捕縛】の所有者の存在を一瞬忘れさせてしまった。
この攻撃はそんなガオウを襲う絶好のタイミングと言えた。
「流石Sランク、俺様の攻撃に耐えるとはな~それに、【捕縛】にも抵抗してやがる」
「ぐっ、貴様の……仕業か……」
ガオウは声のする方へ、【捕縛】に抵抗しながらゆっくりと振り向いた。
「あぁ、てめぇは【地属性】か。それで俺様の雷に抵抗出来てんのか」
「ふっ、ジェガンよ【雷属性】が仇になったな」
「けっ、だが竜人の雌には効果抜群だったけどな」
「…………」
城に入ってきたのはオークス、ジェガンそして白いローブに身を包むバアルだった。
「き、貴様らはあの時の!?」
「おぉ思い出してくれたのか、獣のクセに記憶力はいいみたいだなぁ~」
「ふんっ、グラブル!」
オークスは腕輪の神器を発動させて、ガオウに手を翳した。
「がはっ……!」
瞬間、ガオウは地面にひれ伏した。
雷、捕縛、重力がガオウを襲う。
だがガオウはそれでも立ち上がろうとした。
「おいおい、なんて野郎だぁ~これでも動けるのか……」
ジェガンは呆れていた。
「流石Sランクだな……」
オークスは小さく笑った。
「何呑気な事言ってんだオークスの旦那ぁ~てか、俺ら二人でこれなんだから……最初から部下に勝ち目なかったんじゃねぇのか?」
「ふっ、だが勝利に酔いしれた瞬間は隙だらけだったであろう?」
「……ったく、喰えないおっさんだぜ」
(こいつら部下をダシに使ったのか……最初から殺らせる気で……)
バアルは心の中で呟いた。
この2人が最低なのは知っていたが、まさか部下を犠牲にするとは思わなかったのだ。
「……で、どうするんですか?」
バアルはオークスに尋ねた。
「何がだ?」
「残ったのは僕達3人だけですけど…………もうひと…もう一匹、賞金首はいましたよね? それに他の魔族を捕らえるのも骨が折れますよ?」
「それなら心配ない」
そう言うとオークスは別の神器を発動させた。
突如3人の後方に門が現れ、ゾロゾロと人間達が現れ出した。
「「なっ!?」」
この光景には流石のジェガンとバアルも驚いた。
「驚いたか? こんな事もあろうかと、別の奴らを待機させていた」
「おいおい一体何人いやがるんだぁ…………ん? こいつらまさか……」
「気づいたかジェガン」
オークスはニヤリと笑った。
「よ~オークス、ジェガン、バアル。随分と楽しそうだな」
門より現れた1人が3人に声をかけてきた。
「……マッシュか」
ジェガンは嫌そうな顔をして、声をかけてきた男を見つめた。
「おいおい、俺らはオークスに頼まれてここまで来たんだぜ。援護しに来たのにその態度はねぇ~だろ?」
マッシュは笑いながらジェガン達に近づいた。
マッシュがジェガン達に近づくと、他にも2名程がジェガン達の下へ集まってきた。
ぞろぞろと現れた人間達は皆、ギルド【魔族狩り】に属するメンバー達であった。
更にジェガン達に近づいたマッシュ含む3名は、それぞれが各組の幹部であった。
そしてそんな彼らの後ろに控える総勢200名の人間達。
少数精鋭で構成されていた【ナーガ組】と違い、3組は大人数の組であった。
ランクは【D~B】と様々であったが、今のアルカディア国にとっては絶望的な数字といえた。
「なっ!? ま、まだこれだけの……人間が……」
ガオウはその数に絶望しながらも、必死に立ち上がろうとした。
「? なんだまだ抵抗する魔族がいんのかよ……おい、お前ら!」
マッシュはガオウを見た後、部下数名に合図を送った。
部下数名も腕輪の神器を発動させ、一斉にガオウに向けて手を翳した。
その瞬間、重くのし掛かる重力に抵抗していたガオウは遂に地面に這いつくばり立ち上がれなくなった。
「ぐっ……」
「言われた通り、【重力操作】出来る奴らを何人か連れてきたぜオークス」
「悪いなマッシュ」
「なに、きっちり分け前をくれりゃ~構わね~よ」
「それなら大丈夫だ、この城にはまだ魔族が沢山いるからな」
「へぇ~そいつはいいな……おい、聞いたかお前ら! この城にはまだ魔族がいるそうだ! 探してこい!!」
人間達は歓喜の雄叫びをあげながら、一斉に我先にと魔族を探し出した。
「なら俺らも魔族狩りと洒落込むか」
マッシュと残りの2人の幹部もゆっくりと城の中を進んでいった。
◇
マッシュ達がその場に居なくなるのを確認し、彼らが連れてきたメンバーが捕らえた魔族達を城の外に運び出すと、ジェガンとオークスは小声で話し出した。
「おいオークスの旦那、あの3人にも声をかけたのか?」
「ああ」
「いいのかよ、俺達の取り分がごっそり減るぜ?」
「なんだ金が欲しかったのか?」
「…………いや俺は、あの餓鬼に復讐できたらそれでいい」
「なら問題ないな」
「旦那はいいのか?」
「なに、構わんさ。金なら後で吐いて捨てるほど手に入る。これが終われば俺達は【最高幹部】だからな」
「!?」
「当然だろ。これ程の仕事を取り仕切ったんだ。間違いなくギルマスの目に止まる」
オークスはニヤリと笑った。
「……マッシュ達もダシに使うのか?」
「駒としては優秀だからな。俺は、お前とバアルがいれば充分だ」
「ったく、本当に喰えないおっさんだ」
ジェガンも呆れたように笑い返した。
ジェガンとオークスはゆっくりと城を出てゆき、街の中央へと向かった。
それを確認するとバアルは何重にも鎖の神器で巻かれたガオウに近づいた。
「ごめん、でもまだ諦めないでくれ」
バアルは小声で話した。
「?」
「直に竜斗とレイナ姫と僕の本体がここに来る」
「!? お前はっ……」
ガオウは驚き一瞬声がでかくなった。
「しっ! 中には【聴力】持ちの奴もいる、喋らず頷いてくれたらいい」
「…………」
ガオウはコクリと頷いた。
「ルキウスや街の中央でまだ捕らえられてる皆には既に伝えてある」
コクリ
「僕らが来るまで暴れずになんとか耐えてくれ」
コクリ
「……ありがとう」
「1つだけよいか?」
ガオウも小声で話すとバアルは頷いた。
「貴殿はバアル・ゼブルか?」
その質問にバアルは小さく笑い頷いた。
その反応を見てガオウも小さく笑った。
少しして1人の人間が近づいてきた。
「バアルさん、その獣人を城の外に運びたいんですが……」
「あ、ああ、すまない」
「いえ」
そういうと人間達はガオウを無理矢理歩かせるように城の外に連れ出していった。
(もう少しだけ耐えてくれ……)
バアルは心の中で呟き、負傷している魔族を治癒していった。
怪訝そうにその光景を見つめる他の組のメンバーを見て「商品だから」というと、納得してもらえた。