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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第三章【襲撃】
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野営と懸念



 現在、アルカディア国内は夜ということもあり、静まり返っていた。


 街は破壊され、ドワーフの兄弟が建てた物も、そのほとんどが人間の手によって壊されていた。

 国民のほとんどがアルカディア城内に避難しており、一般人に被害が出ていなかったのは幸いであった。



 街の中央にあたる噴水跡地には、二十数名の人間達が夜営を張り、陣取っていた。

 その中にはルキ、アザゼル、ガーベラを含む十数名の魔族が捕らえられていた。


「ダメですね。あの城堅くて中々侵入出来そうにありませんオークスさん……」

 1人の人間が、瓦礫の上に腰掛けている頭がツルツルの男、オークスに現状を報告していた。


「そうか……それは少々誤算だったな…………だが予想の範囲内ではある」

 オークスは城を見つめながら答える。


「捕らえた魔族に動きは?」

 オークスはそのまま、部下である男に尋ねた。


「ないですね。怪我をしてるのもありますが、全員大人しくしています。今バアルさんが商品(・・)の傷を癒してます」


「そうか……ジェガンは?」

「ジェガンさんは……」


 男が答えようとした時だった、不意に暗がりから1人の人間の声が聞こえてきた。


「ダメだな。ちょっとやそっとじゃ、あの城には侵入出来そうにねぇ~」



「ジェガンか?」

 オークスは静かに尋ねた。


「おうよ、オークスの旦那」

 ジェガンは暗がりから姿を現すとオークスの目の前に座り込んだ。


「お前でもあの城の侵入は無理か?」

「ああ……。一体どこのどいつが建てたのか知らねぇ~が、あの城だけは相当厄介だ……まるで隙がねぇ~」


「そうか……なら予定通り明朝、人質を使って魔族共を炙り出すか」



「そうだな……部下達には?」

「既に準備させている」


「はっ、準備のいいこって…………あの小僧は?」

「俺の計算ではアルカ大森林に入ったぐらいだな。ここに着くのは明日の昼頃か……早くて朝だな」


「……ったく、どうやったらそんな計算になるんだか、旦那が敵じゃなくて良かったぜ」

 ジェガンは呆れたように笑って見せた。


「簡単だ。魔族に口を割らせて、あの小僧の向かった先が分かればおおよその距離が出る。小僧の神器の能力を考えれば、自ずとそうなる。」


「…………いや、まぁ……いいか……(神器の能力も魔族から口を割らせたのか)」



 するとジェガンは立ちあがりその場を後にしようとした。


「どこにいく?」

「何、あの小僧が明日来るなら今の内にしっかり魔力を回復させておくだけさ」


「そうか、神器の能力は聞かなくていいのか?」

「別に大した情報じゃないだろ、それに本当かどうかも怪しいしな」


「……まぁな」


「くくっ、明日が楽しみだぜ……」

 ジェガンはそう言い残し再び闇の中に消えていった。



「…………くくっ、明日で俺は最高幹部の一人だ」

 ジェガンがいなくなったのを確認してオークスは小さく笑い、誰にも聞こえないような声で呟いた。




◆◆




 オークスやジェガンがいる場所から少しだけ離れた開けた場所では、捕らえられた魔族が白いローブを身に纏う治癒士から治療を受けていた。



「人間風情が情けなど……っ!!」

「しっ!」

 アザゼルが治癒士からの治療を拒否しようとすると、治癒士はそれを遮った。





「……あまり他の人間達を怒らせない方がいい」

 近くにいた他の人間がいなくなったのを確認してから治癒士は口を開いた。



「なっ!?」


「それに傷はきちんと癒すべきだ。まだ助かる望みがあるのに、それを無にするのは愚の骨頂だ」

 治癒士は小さな声で呟いた。



「貴様は何者だ? ただの人間ではないな?」

 捕縛されているルキウスが白いローブで顔を隠してる治癒士に尋ねた。


 ルキウスの体には紫の雷が小さく纏われており体の自由を奪っていた。

 だがルキウスはそれを気にもしていない感じであった。

 治癒士は小さく笑った。


「流石だね、龍騎士マモン・ルキウス・ドラグナー。冷静じゃないか?」

「ふっ、そうかお前の正体が分かったぞ。お前は……魔族だな?」


「!?」

 近くにいた魔族達は全員が驚いた。



「そうだよ。なら僕の名前も分かってるんだろ?」

「ああ。先程の戦いで名前を聞いて驚きはしたが、ようやく合点がいった」


「ど、どういうことですか?」

 訳が分からないアザゼルはルキウスに尋ねた。


「まだ分からないか……こいつの正体は我々と同じ魔族であり、リリスの兄であり、竜斗達が探しに行った者だ」

「なっ!? ま、まさか……」



「そうだ、こいつは【爆炎王】バアル・ゼブルだ!」



 ルキウスが力強く答えると、バアルはまたもや小さく笑った。



「そ、そんな……ですが、この者は人間達と行動を共にしておりますし、この者も人間では?」


「そうだな……恐らくレアスキル【寄生】の能力だろう。違うか?」

 ルキはバアルの方に向き直り正否を問うた。


「ああ、そうだよ。僕の名前はバアル・ゼブル。リリスの兄で炎を操る蟲人族だ」



 アザゼルは口をパクパクとさせていた。

 当然である……

 目の前の男が魔族であることも信じられないのに、それがまさかの想い人リリスの兄なのだから。



(えっ、嘘だろ…………ま、まさか本当にリリスさんのお兄様? あっ! 俺、お兄様に失礼な態度を……やべ~どうしよ…………えっ、でも……本当に? うわ~~何が何やらさっぱりだよ…………マジかよ…………)

 アザゼルの頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。



「君がアザゼル君だろ? ありがとうリリスを助けてくれて」

 バアルは混乱してるアザゼルを見て小さく笑った後に、アザゼルにお礼を述べた。


「えっ……どうしてそれを?」

「本体がリリスから聞いたんだ、妹に代わってお礼を言うよ」


「!? 竜斗達と合流出来たのか?」

 ルキウスはハッとなりバアルに尋ねた。


 バアルはコクリと頷いた。


「ルルさんに転移の神器を借りて、既に僕の本体とレイナ姫、竜斗の3人はアルカ大森林内に入った」


「そうか」

 ルキウスが小さく笑うと、周りの魔族達も小さく歓喜の声を挙げていた。



「だから明日には3人でここに到着する。オークス……人間達も直ぐには捕らえた魔族を転移するつもりはないみたいだし、皆も諦めないで耐えてくれ」


 バアルのこの言葉に皆の顔に力が入った。

 瞳には希望の色が灯りだした。


(竜斗様さえ来てくれれば大丈夫!)


 という想いがそうさせた。



「…………ただ1つ懸念が……」

 バアルは不吉な言葉を呟こうとした。


「懸念ですか?」

 ガーベラが不安そうに尋ねた。


「ああ…………竜斗なんだが、凄く不安定に思う……」


「どういう事だ?」

 ルキウスが尋ねる。


「怒りで我を忘れそうなんだ。今の竜斗には全くと言っていいほど心に余裕がない。魔力の残りもそうだが、後先考えない行動なんかを見ると嫌な予感しかしなくなる……」


「まさか竜斗がそんな…………」



「今はレイナ姫がなんとか落ち着かせたけど、目の前で魔族が殺されるのなんか見たらもうダメだと思う。ガムシャラに敵に突っ込んで敗けるのが目に見えてる」


「だが竜斗はランクZEROだぞ。いくら怒りで我を忘れると言ってもAランクの敵には……」

「オークスとジェガンを甘くみない方がいい!」


 バアルは強くルキの言葉を遮った。


「あの2人はとても狡猾で残忍だ。魔族の痛めつけ方なんていくらでも知ってるし、きっと竜斗を苦しめることしかしてこない筈だ」


 一部の魔族達は、「まさか……、そんな……、竜斗様に限って……」等々、呟いていた。


「竜斗は強いと言ってもまだ十代だし、魔族が死ぬ事に酷く動揺してる。今の竜斗の心は酷く脆い……」




「…………バアル、竜斗に伝えられるか?」

 ルキウスは少し考え事をした後にバアルに伝言を頼んだ。


「……出来るよ、なんて?」


「大したことではないのだが、我々なら大丈夫だと。今までもこうした戦いは何度も繰り広げてきた。お前は何も気にせず、いつも通りお前の戦いをしろと」


「…………分かった、伝えとくよ」


「頼む……」



「? 誰か来る……」



 すると、何人かの人間達がバアルを呼びに来た。


「バアルさん、ご苦労さんです」

「お疲れ様です、少し休んで下さい」


「……ああ、そうさせてもらうよ。くれぐれも魔族を傷つけるなよ」


「分かってますよ、大事な商品ですもんね」

「折角バアルさんが直したのを傷つける事なんかしませんよ」


「……ならいいんだ」


 そう言うとバアルはその場を後にした。




 誰もが心の中で呟いた。


(明日か……)



 バアルの言葉は魔族達に希望と不安の両方の感情を抱かせた。



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