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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第三章【襲撃】
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怒りと疾走




 アルカ大森林の北東部、荒野を駆け抜ける影が3つ。


 2つの影は自身の(はね)(はね)を羽ばたかせ空を飛翔し、残った1つの影は作られた羽で暴風を撒き散らして地面を疾走していた。

 向かうは南西の森。

 この世界最古にて最大の神聖な森、アルカ大森林。

 いや、正確には神聖なのは隣接する山脈【霊峰アルカ】なのだが、この際それは置いておく。



 空を駆ける1人、バアルは冷静に自身の分身体が寄生している人間から入る情報を逐一2人に伝えていた。


 もう1人、空を駆けるレイナはバアルから状況を聞きながら、自身が治める国の民の安否を心配していた。 


 そして地面を疾走する、黒髪で右眼が金色の少年は怒りの表情を顕わにしていた。

 その耳に入るバアルからの情報は右から左へ通り過ぎていった。

 耳に残る情報はただ一つ、ジェガン・メサイアの名前だけであった。



◆◆



「くそっ、くそっ、くそっ!!!!」

 俺は駆けながら喚き散らした。


「りゅ、竜斗様……」



「くそっ、くそっ、くそっ!!!!」


「落ち着け竜斗!!」



「くそがああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 俺は叫んだ。

 しかしその叫びは誰にも届くことはなく空に掻き消え、音だけを残した。


 すると突如、俺が発動していた神器【魔名宝空】(マモルモノ)が掻き消え、俺は盛大にすっころんだ。


「ぐわっっっ!?」

 俺は地面に倒れこんだ。


「竜斗様っ!?」

 レイナが飛翔を止め俺の元に駆け寄ってきた。


「……魔力切れか」

 バアルは冷静に状況を判断していた。


「少し休みましょう竜斗様」


「…………くそおぉぉぉぉぉ!!!!」

 俺は思い切り地面を殴りつけた。





 俺はその場に座り黙りこんだ。

 そんな俺を余所にレイナとバアルは、今の現状を話し合っていた。



「……随分冷静なんだな」

 俺は2人の態度が気に入らなかったのか、つい愚痴ってしまった。


「竜斗様……」


「…………」

 バアルは何も喋らなかった。


「皆が殺されてるのに2人は平気なのか?」


「そんな平気な訳がー!?」

 するとバアルがレイナの言葉を遮った。



「平気だったら何だって言うんだ」

 バアルが冷たい一言を放った。


「何だと」

 俺は立ち上がった。


「今アルカディア国で死んだ魔族は兵士だけだ。一般人に被害は出ていない」


「バアル、お前……」


「彼らは兵士だ、死ぬ覚悟は皆出来てる筈だ」



 俺はバアルのこの言葉にカチンときた。

 足早にバアルに歩み寄るとバアルの胸ぐらを掴んだ。


「それが同じ魔族の…仲間に対して言う言葉か!!」

僕ら(・・)はずっとそうやって戦ってきた!!」



 俺が言い終わると同時ぐらいにバアルは俺より更に強い言葉で返してきた。

 その言葉は重く俺は何も言い返せなくなった。



「仲間が死んで平気? ふざけるな! 平気な訳ないだろ!!」

「…………」


「……それでも人間は強い! 力も数も僕らより遥かに強い! だから少しでも多くの魔族が生き残れるようにしてるんだ! 僕らは……僕らはそうやって何百年間、人間と戦ってきたんだ!!」


「……バアル」

 俺はいつの間にかバアルの胸ぐらを掴んでいた手を離していた。



「竜斗まさかお前、レイナ姫との契約……【魔族の国を安定させるのを手伝う】が簡単に出来るとでも思ってたのか?」



「!?」

 正直思っていた。


 【七大悪魔王】も6人集まった。

 国も強化されてきた。

 魔族の皆も集まってきてる。

 SランクもSSランクの迷宮も攻略した。

 【六花仙】と【七極聖】も数人撃退した。

 人間である、ネムとレインバルトとも和解出来た。


 間違いなく国は安定してきてる。

 それなのに……それが、たかがBランクの人間数十人に国が崩壊しかかってる。


 俺はそれが、悔しくてたまらないんだ。

 俺の手が届かないところで何も出来ず、ただ事態が悪化していくのを聞くのが嫌なんだ。



「レイナ姫だって……ここにいないゼノやルルさんだって平気な訳ないだろ……」


 そうだ。

 俺やバアルと違って3人はずっと前からアルカディア国に住んでたんだ。

 昨日今日の話じゃない。


 俺はレイナに顔を向けた。

 レイナの顔は不安で胸が張り裂けそうな程、焦燥の色を見せていた。

 俺はそんなことにも気づいていなかった。


 レインバルト、ネム、ナスカと合流してるゼノ、ルル、リリス、それに一緒に行動してるバアルの村にいた人々だってアルカディア国が心配に決まっている。

 真っ先に国に、仲間の元に向かいたい筈だ。



 それなのに俺は2人に当たり散らしてしまった。



「…………ごめん」

 俺は小さく呟いた。


「竜斗様……」

 レイナはそっと優しく俺を抱き締めてくれた。


「レイナ……?」


「ありがとうございます竜斗様……魔族の皆を心配して下さって」

「でも……」


「分かっています。無くなった命はどうしようも出来ませんし、竜斗様の所為ではありません」

「…………」


「ですが……竜斗様が怒りに我を忘れて魔力が切れた状態で敵と戦ってしまっては、救える命も救えなくなってしまいます」

「…………うん」


「ですから、きちんと魔力を回復させて状況を整理しつつ、アルカディア国に着いた時に最善の手が打てるようにしましょう」

「…………うん」


 俺は少しだけ落ち着けた。

 レイナは俺を抱きしめながら、背中をポンポンと叩いてくれた。



「ごめん、僕も言い過ぎた」

 するとバアルが俺に謝ってきた。


「バアル……」

「でも分かってくれ竜斗、人間と戦うには絶対に君の力が必要なんだ。そんな君が、さっきまでの状態だと僕らも不安になる……」


「いいんだバアル……どう考えても俺が悪いし、2人のおかげで少しだけ落ち着けた……改めて状況を整理しよう」


「竜斗……」

 バアルも今の俺を見て安心したのか小さく笑った。



 うん、気持ちを切り替えるんだ。



 まずゼノ、ルル、リリスは……村にいた十数人を連れてレインバルト、ネム、ナスカと合流してからアルカディア国に向かっている。

 レインバルトが強力な転移系の神器を持っていればいいんだけど、少なくともゼノとレインバルトがアルカディア国に到着するのは俺達より後になりそうだ。



 アルカディア国を攻めこんでいるのは、ギルド【魔族狩り】の1つのチーム【ナーガ組】。

 最高幹部でありリーダーのナーガはいないみたいだ。


 変わりに指揮をとるのは相当頭の切れる男、【ナーガ組・副リーダー】オークス・ホーク。

 それとバアルの分身体が寄生している治癒士と、以前俺が仕留め損ねたジェガン・メサイアだ。

 要注意はオークスとジェガンの二人だが、残りのメンバーもオークスが鍛えてきた猛者らしい。


 ついでに言うとジェガンは神器を全て新調したらしい。

 どれもAランクはあるらしいが能力はバアルも知らないみたいだ。



 肝心のアルカディア国側はアザゼルとテトラが負けて捕獲され、ルキがジェガンの能力で【捕縛】されたみたいだ。

 【捕縛】、【寄生】、【服従】なんかのレアスキルは相当厄介だ。

 Sランクのルキが負けるなんて。


 今は夕刻で、人間側の方も攻めるのを一時中断してるみたいだ。

 俺はそんなことにも気づいておらず辺りを見渡した。



「竜斗様?」

 そんな俺にレイナが心配そうに尋ねた。


「いや、さっきバアルが言ったみたいに【魔族の国を安定させる】のって難しいんだな…………俺分かってなかったよ……」

「竜斗様……」


「なんかさ……どこかゲーム感覚で仲間を集めて皆が強くなれば、それでクリアとか……俺……そんな風に考えてたよ…………」

「竜斗……」



 アルカディア国に着いて俺はどこまで冷静でいられるだろうか……

 怒りで我を忘れそうだ……

 でもこの感情をどうすればいいか今の俺には分からないし、無くしちゃいけない感情だとも思ってる……



 俺は夕焼け空を見上げて小さく呟いた


「もっと強くなりたい……心も体も…………」





「……行こう竜斗、アルカ大森林まであと少しだ!」

「行きましょう竜斗様、皆を助けに!」



 俺は2人を見つめた。

「ああ」



 魔力がある程度回復すると、俺達は再び駆け出した。

 今度は魔力を温存しつつ、暗い夜の中をアルカディア国に向けて疾走した。



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