避難と刺突
アルカディア国の大通りは現在、大勢の魔族が城に向かい避難している最中であり、避難誘導を行うのは軍の第2小隊・隊長のガーベラ・ドレインとその部下達であった。
「急げ! 敵はすぐそこまで来ているぞ!!」
竜斗からテトラの愛称で呼ばれるガーベラは必死に叫んだ。
先程軍議を終えたばかりなのに、こんなに早く敵が来るとは思っていなかったからだ。
第3小隊からの報告では第1小隊は既に国門前にて敵と交戦しているとの事だった。
「避難状況は!?」
テトラは近くにいた部下に尋ねた。
「はっ! 未だ半数以上が城に避難できていない様子です」
「くっ……」
現在テトラがいる場所はアルカディア国の丁度中央辺りで、目の前にはまだ幾人もの民達が城に向かい駆けていた。
テトラが歯ぎしりすると、突如、轟音と共に国門が破壊されるのが見えた。
民達は足を止め音のした国門へと振り返り、その光景を見た民達の顔は恐怖に彩られていった。
「足を止めるな!!」
テトラは叫んだ。
民達は当然テトラに振り向いた。
「死にたくなければ足を止めるな!!」
テトラは城の方を指差す。
民達は城を見ると勇気を振り絞り、再び走り出した。
「そうだ! 城にはあの人達がおられる! 迷わず走るんだ!!」
テトラはまるで自分を鼓舞するかのように叫んだ。
次第に目の前から民達がいなくなるのを確認するとキッと国門の方を見つめた。
(……アザゼルは敗けたのか?)
テトラは心の中で呟くが結果は想像できた。
国門が破壊された……ならばそこを守護していたアザゼルは殺されたか、捕らえられたかのどちらかだったからだ。
「ガーベラ隊長! あれを!!」
テトラの周りには部下達が集まってきており、1人の部下が国門の方を指差した。
いつの間にか人間達が数人程、国の中央辺りまで来ており、まだ少し距離があったがテトラ達と対峙するように立っていた。
「くっ……全員構えろ!」
その場にいた第2小隊の者達は神器を発動させ身構えた。
剣であったり槍であったりと様々なものを発動させ、統一性はなかった。
そしてテトラは1人の部下に小声で呟いた。
「……奴らのランクは?」
部下の男はスキル【魔眼<人>】を発動させ、鋭く人間達を見つめた。
「ぜ、全員がランクBです……」
「ふっ…なら、あの人たちの敵ではないな」
テトラは小さく笑った。
「隊長……」
部下達は悟った。
確かにガオウやルキ、サラの敵ではない。
だが自分達にとっては脅威以外のナニモノでもなかった。
今この場にいるBランク以上はテトラだけ。
つまり目の前の人間達は全員がテトラと互角以上で、戦ったら死ぬのは目に見えていた。
「お前達……私と死ぬ覚悟はあるか?」
テトラのこの言葉に部下達は互いの顔を見合わせた。
そして清々しい程の声で答えた。
「はいっ!!!」
「よしっ! 行くぞ!!」
「「はっ!!!」」
テトラは握り締める細剣の神器を振りかざした。
細剣の柄の部分は花の形をしていた。
そして一呼吸程、間をとった。
「……第2小隊突撃!!」
テトラは号令と共に振りかざしていた剣を、相手の方に剣先を向けるようにして降り下ろした。
テトラ率いる第2小隊20名は突撃を開始した。
対する人間はBランクが5名であった。
人間達は各々神器を発動させているものの、動く気配はなかった。
(ルキウス陛下……いや、ルキウス様もこんな気持ちだったのか……)
テトラはドラグナー国に居た時の事を思い出した。
当時のテトラは兵士ではなく、ただの1市民であった。
ドラグナー国の最後はルキが数人の竜騎士達を連れて、【薔薇のゼータ】に特攻をかけるものだった。
テトラは思った。
何故、無謀な突撃をするのか?
何故、自分達は国から逃げ出さなければならなかったのか……
だが今なら判る。
あの時はああするしかなかったのだと。
そして結果的に自分達は今も幸せに暮らせている。
あの時の判断は間違っていなかった。
ならば今の自分に出来るのも、あの時のルキウスと同じように目の前の敵に突撃し、戦えない市民を守るだけだと。
確かに恐怖もある。
自分は兵士になって日が浅く、親愛なる人からの推薦で小隊長になっただけの存在……不安もある。
だが訓練のお陰か、才能のお陰か、ルキウスまでとはいかないが、テトラは他の竜騎士達と同じランクにはなれた。
今この国にいる【竜種】はルキウスの【ハクラ】のみ。
あの時生き残った竜騎士達は第1小隊に配属されている。
だが竜はいなくても彼等もまだ戦っている。
テトラは気持ちが楽になった。
そして部下の後を追うように駆けた。
今のテトラには恐怖も不安もない。
あるのは勇気と、きっと想い人が助けに来てくれるという、強い信頼の気持ちしかなかった。
(あの人はきっと来てくれる! それまでは私達がこの国を守るんだ……)
駆けるテトラの前方より、部下と人間の神器がぶつかり始めた。
テトラは更に加速するとそのまま、部下達を飛び越すように跳躍した。
その跳躍は高く部下も人間も飛び越した。
人間の背後を取り、勢いよく地面を滑るように着地すると、テトラは振り返り1人の人間に向かって突撃した。
握り締めるは細剣の神器。
【燃える竜への愛】<細剣/炎/無/B>
「守るんだああああっっ!!!!」
テトラは細剣を突きだした。
その剣先は鋭く、1人の人間の心臓を一気に一突きした。
「がはっ……そ、そんな…………」
人間はそのまま息絶えた。
テトラは細剣を勢いよく人間から抜いた。
「ちっ、油断しやがって」
人間の1人が呟いた。
それを聞いたテトラは思った。
それが仲間に対する言葉なのかと……
そして同時に、やはり竜斗が特別なのだと。
(あの人は仲間に絶対そんな言葉は掛けない!)
「……これで20対4だ! お前達、5人で1人を確実に倒せ!!」
この言葉に部下達に力が漲ると、第2小隊の勢いが増してきた。
「ちっ、魔族の分際で調子に乗りやがって……」
「格の違いを思い知らせてやる!」
人間達も只ではやられず戦いは混戦になった。
◆
国門にて第1小隊の数十人を軽く蹴散らした彼等だが、第1小隊にはアザゼルがおらず、難なく突破できた。
しかし、第2小隊にはテトラがおり奇襲とは違った為、魔族達を責めあぐねていた。
魔族の何人かを倒した彼等だが次第に疲労が見え始めた。
「行けるぞ! このまま一気に…っ!?」
残っている第2小隊も全員がボロボロであったが、テトラはいけると判断した。
だが突如テトラは攻撃の手を止めた。
辺りを見渡すと自分達とは別の気配がするのを感じた。
戦いの最中、テトラはサラと同じスキル【感知】を会得していた。
「……出てこいっ!!」
テトラは叫んだ。
その声には、自分の勘違いであって欲しいという願望も込められていた。
それほどテトラが感じた気配は嫌なものだった。
すると、遠くより無数の矢のような攻撃が第2小隊を襲った。
テトラはこれをなんとか防いだり躱したりしたが、部下達は全員傷つき倒れていった。
「だ、誰だ!?」
テトラが叫ぶように尋ねると、建物の屋根より無数の人間達が現れた。
「なっ……」
それらはテトラが感じた嫌な気配とは違ったが、絶望するには充分な数だった。
気づくと国のあちこちから煙が上がっており、建物の多くも瓦解していた。
「おいおい……何、魔族相手に苦戦してんだよ?」
「ちっ、うるせー……ちょっと油断しただけだ」
「そうだ、そうだ! お前らがもっと早く来ねーからだぞ」
「うるせーなー、建物を破壊するのもオークスさんの作戦だろうが」
「……それにしても少し遅くなかったか?」
「何かここの建物丈夫だったんだよ」
「なんだお前らも言い訳か?」
「うるせー助けたんだから文句いうな!」
人間達は国門を破壊した後、二手に別れていた。
5人は真っ直ぐ城を目指して、残りの大多数は街を破壊しながら合流する作戦だった。
この段階では逃げ遅れた魔族を捕獲するのも目的だった。
だが幸いにも今のところは逃げ遅れた魔族が捕獲された様子はなかった。
しかしテトラは絶体絶命の危機に瀕していた。
彼等は喋りながら徐々にテトラを囲むよう近づいていった。
「くっ……」
テトラは勇気を振り絞り剣を握り締めるが、その瞬間テトラの横腹を雷球が襲った。
「きゃああぁぁぁぁ!」
テトラはその威力に悲鳴を挙げた。
体は麻痺しその場に倒れこんだ。
「うっ……ううぅ…………」
テトラは微かな呻き声をあげた。
「おいおい死ぬんじゃねぇぞ、てめぇは大事な商品だからな」
「へっへっへ~」
「奴隷候補第1号だな」
「そういや~そうだな」
「(門の所の)さっきの奴等は?」
「さぁな? 生きてりゃ後で回収すればいいだろ」
「それもそうか」
人間達は下卑た笑い声をあげながら更にテトラに近づこうとした。
(こ、ここまでか……)
テトラは諦め覚悟を決めた。
だがその瞬間テトラは上空よりある気配が近づいてくるのを感じた。
その気配は上空より飛来し、瞬く間にテトラのすぐ近くの地面に激突し土煙をあげた。
「なっ、何がっ…」
テトラに1番近かった人間の1人が状況を把握しようとしたが、その瞬間訳もわからず凄まじい勢いで後方に吹き飛ばされた。
土煙が晴れていくと1人の姿が見え始めた。
「あっ……あっ……あっ……」
テトラは嬉しさの余り涙が零れた。
一瞬だけ想い人の影を見たが直ぐに違うと気づいた。
だが、その人はテトラの想い人である竜斗に勝るとも劣らないほど、テトラが信頼を寄せる人物であった。
戦場に舞い降りたのは、【龍騎士】マモン・ルキウス・ドラグナーであった。




