ツルツルと分身体
短めです
アルカ大森林に、30名程度の者達が集まっていた。
正確にはアルカディア国の城壁の少し離れた森の中にて、屈強そうな猛者達が息を潜めて待機していた。
全員がギルド【魔族狩り】の【ナーガ組】のメンバーであった。
格好は皆バラバラで統一性はなく、鎧を身に纏う者もいれば、上半身裸の山賊や盗賊を思わせる風貌の者もいた。
性別は全員が男で、むさいオッサンばかりであった。
1つ言えることは当然この中に魔族はおらず、人間だけで構成されたメンバーであった。
指揮をとるのは、彼らの副リーダーであるオークス・ホークだった。
「よし、全員集まったな」
オークスは野郎共を見ると全員がいることを確認した。
横には彼をサポートするジェガン・メサイアと、白いローブに身を包むバアル・ゼブルの姿あった。
オークス、ジェガン、バアルはAランクで、残りの野郎達も全員がBランクという驚異のメンバーであった。
その指には全員が持てるだけの神器がはめられており、ランクも全てB以上の物であった。
「オークスさん……」
すると1人の男がオークスに声をかけた。
「どうした?」
「魔族に動きがあります」
彼にはスキル【千里眼】があり、アルカディア国内を常に監視していた。
そしてサラ達が動き始めたことも全て視ていた。
「気付かれたか……」
「いえ、まだ漠然とした対応で、我々がいることも、なんとなくの様子です」
「……ナーガさんがいればスキル【聴力】で、あの城の中の声も聞こえたんだがな……」
オークスはつい愚痴を溢した。
メンバーの中にはスキル【聴力】を持つ者もいるが、ナーガ程ではなく城の中の声までは聴くことが出来なかったからだ。
もし、この場にナーガがいれば、オークスの作戦実行のタイミングは更に完璧となっていただろう。
「ど~すんだ~オークスの旦那ぁ~、止めるのか~?」
ジェガンはニヤニヤとしながらオークスに尋ねた。
「愚問だなジェガン、この程度問題はない」
オークスのツルツル頭がキラリと光った。
「なら行くか」
「そうなるな」
オークスも不敵に笑い、再度メンバーを見渡した。
そして、どこぞの艦長みたく右手を前に翳した。
「これより作戦を実行に移す! 無抵抗な魔族は生かしたまま捕らえよ! 賞金首の三匹が出てきたら決して1人で戦うな! 必ず4~5人で囲むようにして戦え! いいな!!」
「歯向かう魔族は?」
厳つい野郎の1人がオークスに尋ねた。
「……当然、殺せ!」
オークスのこの言葉にメンバーから歓喜の声が上がった。
さながら世紀末のザコキャラの如く。
同時にメンバー達は一斉にアルカディア国の防壁目掛けて突撃し始めた。
メンバー達が突撃してから数分後、ジェガンはゆっくりと歩を進めた。
「お前も、出るのか?」
オークスは腕を組んだままジェガンに声をかけた。
「あぁん、ダメか?」
「いや、作戦実行になんら支障はない」
「ならギルド名らしく、俺様も魔族狩りに参加するぜ」
「……魔力は温存しろよ、お前の狙いは…」
「分かってる、あの小僧と戦うまでは遊び程度だ」
「ならいい、直に俺とバアルも出る」
「了解だぁ~」
ジェガンはその場を後にした。
するとオークスはバアルの様子がおかしいことに気づいた。
「どうしたバアル? さっきから黙ったままだぞ?」
「あっ、いえ……何でもないです……」
バアルはハッとなり、冷静に何でもないように振る舞おうとした。
「ならいいが……」
オークスもそれ以上は言及しなかった。
(そんな……まさか……こんな時にリリスが見つかるなんて……)
バアルは心の中で動揺した。
本体がジェガンの狙いでもある天原竜斗に負けたこと、そして妹のリリスも見つかった事を、たった今、念話にて連絡を受けたからだ。
(どうする……この場から立ち去るか? いや、僕はアルカディア国の民になった……ならギリギリまでこいつらを欺いて、いざという時に皆の盾になればいい……)
「おい、バアル俺達も行くぞ」
不意にバアルはオークスに声をかけられた。
「は、はい」
(そうだ……こいつの作戦では捕らえた魔族はすぐに転移させずに、天原竜斗が来るまではその場で捕らえたままにするみたいだし、本体達が到着するまではなんとか僕が……)
バアルは意を決した。
(僕が皆を守るんだ! 1人でも多くの魔族を!!)
そして、バアルの分身体は覚悟を決めオークスの後に続いた。