爆炎と次元
腕輪の神器【舞球炎】。
バアル・ゼブルが好んで使う炎の神器。
能力は【巨大化】。
火球の大きさを自在に操れる神器であった。
唯一弱点があるとすれば大きさに反比例して、火球の作り出せる数が減ることだ。
最初に竜斗を攻撃した拳大の大きさの火球だと、数百は作り出せた。
そしてバアル自身の最大の火球ともなると、その大きさは150センチのバアルの数倍にはなった。
現在バアルはそれを、最大で6つ作り出せる。
Sランクになったからなのか、後天スキル【魔皇】を会得したからなのかは分からないが6つである。
殲滅系トップクラスの能力【巨大化】にて作り出した火球が6つ。
辺りは当然、火の海と化す……
◆
「ふふっその程度かい?」
バアルは宙に浮き、右手を上に翳したまま不敵に笑った。
バアルの周りには巨大な火球がまだ4つ残っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそ!!」
俺は逃げ回っていた。
火球はなんとか躱していたが、どうにもバアルとの間合いを詰められないでいた。
手には神器【森羅万象】が嵌められ、右手には【水属性】が付加された神器【絶刀・天魔】が握られていた。
「水属性如きで僕の【舞球炎】の炎は防げないよ」
バアルの火球により、崖の上の林は燃え始めていた。
「ったく、バンバン燃やしやがって……風の谷の人が見たら怒るぞ」
「? 何それ?」
はい、当然知るわけないと……名作だぞ全く。
油断していたら、巨大な火球の1つが頬を掠めた。
掠めた火球はそのまま空へと消えていった。
「あ、あぶね……」
冷や汗をかきながら、掠めた火球が消えていくのを眺めた。
視線をバアルに戻すが、バアルは宙に浮いたまま腕を組み、ほくそ笑んでいた。
バアルの周りにはまだ3つの火球が残っていた。
しかし火球が半分になると周囲の熱さも半減し、なんとか間合いが詰めれそうな雰囲気になった。
でもミスったら死ぬかも…………
俺は覚悟を決めると長く息を吐き、ゆっくりと【中段の構え】をとった。
右眼の【神眼】で鋭くバアルを睨んだ。
バアルも警戒してか、組んでいた腕を解き少し身構えた。
【中段の構え】+【水属性】
「【中段・水の位 水無月】!!」
俺は力強く右足を踏み出し、同時に【絶刀・天魔】の能力【巨大化】を発動させて、バアル目掛けて刀を突き出した。
「!? くっ!」
バアルはギリギリで躱すが、俺の狙いは端からバアルではなく、後ろにある火球の1つだった。
巨大な刀に貫かれた火球は、あっという間に蒸発するようにして消えていった。
「よくもっ……!?」
消えゆく火球を見た後、俺の方に振り返るが、俺はそのまま【絶刀・天魔】を横薙ぎに斬るようにして、もう1つ火球を消し去った。
「っまた…!」
再びバアルは消える火球に振り向いた。
その間に俺は神器【魔名宝空】を発動させて、【森羅万象】の【雷属性】を付加させた。
スキル【合魔】により、【魔名宝空】を【嵐属性】にして翼を広げた。
そして力強く地面を蹴り、一瞬にしてバアルの目の前へと跳躍した。
「!?」
バアルが俺の方に振り向くが、俺は既に【絶刀・天魔】を高く振りかざしバアルの眼前にきていた。
【上段の構え】+【水属性】
「【上段・水の位 水蓮華】!!」
そのまま一気にバアル目掛けて振り下ろした。
バアルは咄嗟に躱そうとしたが、今度は間に合わず左腕が斬り裂かれた。
「がっ……くっ……」
バアルは顔を歪め、斬られた左腕の付け根部分からの出血を右手で押さえた。
やったぜ!
俺はこの時に手応えを感じて、少しだけ気を抜いてしまった。
「…っまだだ!!」
バアルが叫ぶと残っていた火球が勢いをつけ、俺に向かって襲いかかってきた。
「しまっ……!」
俺は咄嗟に【魔名宝空】の片翼で防いだ……が、完璧には防ぎきれず体の何ヵ所は火傷を負い、爆音と共にそのまま地面に落下してしまった。
「がはっ……くっ……この野郎…………」
俺は両腕に力を込めて、必死に起き上がろうとしたが中々起き上がれずにいた。
【魔名宝空】もダメージにより発動を維持できなくなった。
バアルの方も出血により、いつの間にか地面に両膝をつけていた。
顔も先程より苦しそうだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……ま、まだだ……まだ僕は……!」
バアルは必死に立ち上がると右腕に着けていた腕輪の神器【舞球炎】を解除した。
そしてバアルの体から赤々とした魔力が立ち込めていた。
「僕にはまだやることがあるんだ……こ、ここで殺られるわけには……いかないんだ!!」
バアルが叫ぶと同時に、その手には杖の神器【極烙炎】が握り締められていた。
誰もが思い描く魔法使いが持ってるような木の杖ではなく、その形状は王様が持っているようなキラキラと宝石が散りばめられた豪華な杖だった。
バアルが握り締めている杖からは、先程までとは比較にならない程巨大な炎が渦を巻くようにして放出されていた。
俺は【絶刀・天魔】を地面に突き刺して、杖がわりにして何とか起き上がった。
「マジか……」
眼前にて渦を巻く巨大な炎を見て思わず呟いた。
「これで……最後だ!」
バアルは小さく笑った。
それほどまでに自信があるのだろう。
すると渦を巻く炎の先端が、まるで龍の顔の様な形状へと変化した。
「……それが、その神器の能力か?」
「……そうだよ。これが【極烙炎】の能力【形状変化】だ。【神眼】はそんなことも分からないのか?」
バアルは少し考えて、息を切らしながら答えてくれた。
「まぁな。能力までは分かんないのだよ……」
「……何それ」
バアルは小さく笑った。
俺は【森羅万象】を解除した。
手には【絶刀・天魔】だけが握り締められていた。
目を閉じ力を抜いて深く息を吐いた。
「すううぅぅぅぅ、はああぁぁぁぁ」
深呼吸すると、ゆっくりと目を開けた。
右眼は神眼を発動させたので恐らく金色に輝いている筈。
久々に、あれやるか……
これでダメなら死ぬかもな……
心の中で呟くと、ありったけの魔力を神器に込めて、体の力を抜いた。
「……ははっ、なんだその魔力……お前本当に人か?」
バアルは苦笑いしていた。
「当たり前だろ。言っとくけど、こっちだって次が最後だ。死にたくなかったら本気でこい!」
て、殺す気はないけど……
「……いいだろう、僕の炎で焼かれ死ぬといい」
バアルは覚悟を決めたのか、今までの見ててイラッとくる様な笑みではなく、少しだけその笑みが爽やかなものに見えた。
俺とバアルは睨み合った。
静寂の中、お互いの神器からは膨大な魔力がぶつかり合っていた。
時間にして1秒か2秒すると先に攻撃を仕掛けてきたのはバアルだった。
「炎よ眼前の敵を焼き尽くせ! 【龍虫炎舞】!!」
バアルが杖を振りかざすと、渦を巻く炎は意思を持ってるかの如く、生き物のような動きをし、そのまま俺に向かって襲いかかってきた。
俺は脱力した状態から一気に刀を振り抜いた。
【無の構え】+【次元属性】
「【極みの位 終】!!」
見えない斬撃に斬り裂かれ、バアルの放った炎は真っ二つに裂かれた。
そしてそのままバアルの右腕と右足も一閃された。
バアルの体からは血飛沫が舞った。
右腕と右足がなく地面に倒れ込んだ。
俺は神器を解除して、ゆっくりとバアルまで歩み寄った。
「ぐっ……がっ……うぅ……こ、こんな……」
「…………」
はい、やり過ぎました!!
マジか……!?
え、どうしよう……
で、でも俺だってギリギリだったし……
でも正直これはないな……
うん……ない……
「竜斗様!」
すると、レイナ達が【飛翔】により崖の上に到着した。
一体今までどこにいってたのやら……
「って、なんだこれ!?」
バアルの状態と、林の焼け野原具合を見たゼノが驚いた。
そりゃそうだ。
誰だってこんな血の海と火の海を見たら驚かずにはいられない。
「兄さん!?」
レイナの手にぶら下がっていたリリスがバアルに気づいた。
レイナとゼノはゆっくりと地面に着地した。
リリスは急いでバアルに駆け寄った。
「リ、リリスなのか……?」
バアルはリリスに抱き抱えられた。
バアルは信じられないのか目を見開いていた。
「はい、リリスです……ごめんなさい、勝手に村を飛び出してしまって……」
リリスの瞳からは大粒の涙が零れていた。
「ゆ、夢じゃないよな?」
バアルの瞳からも大粒の涙が零れていた。
「はい、夢ではありません」
「は、ははっ……よ、良かった……本当に良かった……」
2人は泣きながら笑っていた。
てか、ちゃんと【千里眼】使ったのかよ……
バアルが、遠くが視える【千里眼】をちゃんと使ってリリスを捉えていたら、こんなメンドクサイ戦闘にならずに済んだのに……
まぁきちんと説明しなかった俺も悪いんだけど……
「竜斗様、大丈夫ですか?」
レイナとゼノとルルが心配そうにして、俺のところに集まってきてくれた。
「ああ、大丈夫。ちょっとバアルと戦闘になっちゃって……」
よくみたら結構俺も傷だらけだった。
体もそうだが、お気に入りの服もボロボロだった。
帰ったらマナさんに、お洒落な服を仕立ててもらおう。
「今、傷を治しますね」
ルルが神器を発動させようとした。
「あっ、いや俺よりも……バアルの……方を……先に……って……あれ?」
頭がフラフラし出した。
思ってた以上に限界だったようだ。
俺はそのままレイナの方に倒れた。
レイナはそんな俺をしっかりと受け止めてくれた。
「竜斗様!!」
「おい、竜斗!」
「竜斗様……」
「…………!!」
「…………っ」
「…………」
皆の叫ぶ声が段々と遠くなっていった。
何にせよ、これで6人目だ……
心の中でそう呟き、俺はレイナのスライムの中で眠りについた。