スライムとスライム
お気に入りの話です。自分的には最高傑作です。ハードル上げます(笑)
目を閉じて迷宮に入り、最初に飛び込んできた景色はいかにもといったダンジョンだった。
上下左右すべてが四角い石みたいな鉱物が敷き詰められ、真っ直ぐ一本の通路が続いていた。
ガオウとレイナは悠々と歩き、俺は少し後ろをついて歩いた。
通路には等間隔で壁に光る玉が埋め込まれていた。これがあるから灯りを持たなくても歩けるわけだ。
俺は【光玉】とそのままの名前をつけた。
暫く歩いていたら先頭を歩いていたガオウの足が止まった。
俺は覗きこむように前方を見つめていたら何かが動いている。
魔物が現れた!
俺の頭の中には色々なRPGの戦闘BGMが流れていた。
魔物は自分の腰ぐらいはあり、割りと大きめな丸い球体が2体だ。
丸いといってもそれらは体をぐにゃぐにゃと動かし決して同じ形を留めてはいなかった。
片方は赤色でもう片方は黄色をしていた。
まさか例のあのモンスター……
「スライム……」
「知っているのですか!?」
俺の口から魔物の名前が出て吃驚したのかレイナは尋ねてきた。
「まぁ俺のいた世界にある物語とかにはよく出てくる割りとポピュラーな魔物かな。実際には存在しないけど……」
「そうですか……竜斗様の仰る通りです。赤色のがレッドスライムで、黄色のがイエロースライムです」
「それぞれ【炎耐性】と【雷耐性】を持っている。まぁ今は関係ないが注意して戦え」
あっ、やっぱ俺が闘うのね……
心の中で(発動)と念じて、神器【銀叉】を持つ。俺は2人より前に出てスライム2体と対峙する。
さて、どうやって戦おうかな……?
普通に考えたら今までやってきた剣道で戦うべきだが、ここは可愛い婚約者が見てるし、漫画みたいにズバーンとカッコよく倒したい。
そんなことを考えていたら、2体のスライムは軽快にリズミカルな動きで跳ね出した。
なんとなくボクサーみたいな動きだった。
スライムのくせに生意気な……などと思っていたら、赤いスライムが飛びかかってきた。
油断してたせいで、ギリギリで躱せたのだが服に当たった。
服からは少しだけ蒸気みたいなのが出ており、溶けていた。
「なっ!?」
俺がレッドスライムを見た瞬間、イエロースライムも突進してきた。ギリギリで躱せたが、またしても少しあたり服が溶けた。
スライムたちは見事なコンビネーションで、交互に体当たりを繰り返し、俺に的を絞らせなかった。
俺は闇雲に剣を振るい何度も空を斬った。それはそれは拙い剣技だった。
何度も何度も剣を振って、ちょっとずつスライムに攻撃が当たり、10分くらいしてようやくスライムを倒せた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
疲れた……
動き自体はそれほど速くなかったが最初の攻撃で完全にスライムに主導権を握られた。
こっちの体勢が直らない内の波状攻撃……スライム恐るべし……
「…………」
「…………」
顔を見なくても分かる。
絶対に失望してる。
まさかスライムに10分もかかってしまうとは……恐る恐る2人の方に顔を向けると予想外の反応が返ってきた。
突如目の前に別のスライムが2匹飛び込んできた。
ーむにゅー
「もぐっ!?」
それは先程の攻撃とは違い、ただただ柔らかく気持ち良かった。
レイナが抱きついてきた。
「凄いです竜斗様! 初戦闘でスライム2体を10分足らずで倒すなんて!」
レイナのスライムの方が凄かった。
大きくて柔らかくて気持ちいい。
俺がイメージしてたスライムがそこにはあった。
この胸には勝てそうにないな……
そっと心の中でつぶやいた。
「……ふむ。剣技は拙かったが、先天スキル【軟体】と【溶解】を所持するスライム2体を初見で倒すとは中々だったぞ」
ガオウの言葉で我に返った。
2人の反応からするとランクDにしてはできた方らしい。
正直もっと簡単に倒せると思うが言い訳はしたくなかった。
油断してたのは事実だし。
話を聞くと迷宮攻略者のランク【D】≒迷宮の魔物【E】らしい。
つまり同ランクだったら魔物の方が強いのだ。
迷宮とレイナのスライムの恐ろしさを知った……
しばらく歩くとまたしてもスライムが2体現れた!
今度は緑色と青色のスライムだった。
グリーンスライムとブルースライムか……
「【風耐性】を持つグリーンスライムと、【水耐性】を持つノーマルスライムだな」
俺が心の中で呟いていたら、ガオウの言葉で驚愕した。
「えっ!? ブルーじゃないの?」
「何を言っている竜斗。【スライムの基本色は青】これは絶対不変の理だ!」
いや、不変言ってるのにさっきから色違いのスライムがバンバン出てきてるから!
心の中でつっこみ、レイナの方へ振り向いた。
「【スライムの基本色は青】です」
いい笑顔で言われた。
なんか疲れた……
項垂れていたらガオウが尋ねてきた。
「どうする竜斗よ……先程の戦闘で疲れているなら我が相手するぞ?」
「…………いや俺がやる。もう少し出来るところを2人に見て欲しいし」
神器【銀叉】を発動させ、またしても2人より前に出てスライムと対峙した。
しかし先程とは違い、今回は今までしてきた剣道で戦うと決めていた。
右手で柄の上の方を持ち、左手で柄の下の方(端)を持つ。
左足を後ろに下げ、踵を浮かせる。
神器【銀叉】の剣先を前に出ていたグリーンスライムの方に向ける。
剣道において最も基本的な【中段の構え】
「ふーーーーー」
大きく吐いて息を整え、俺は集中する。
ノーマルスライムがグリーンスライムの後ろに隠れるのを見逃さない。自分を含め3体が一直線になる。グリーンスライムがリズムをとりだす。
…………くるっ!
グリーンスライムが飛びかかってきた。
ギリギリまでひきつける。
俺にはスライムたちの動きが完全に見えていた。
右眼が熱くなるのを感じた。
グリーンスライムが剣先に当たるギリギリで、体を右に滑らせるようにし、横移動させると同時に【銀叉】を水平にし、一気に振り抜く!!
【横一閃】
グリーンスライムの体が綺麗に真っ二つになる。
すかさずノーマルスライムも突進してきたが、俺はちゃんとみていた。
また右眼が熱くなるのを感じた。
ただ先程の攻撃で勢いがつきすぎ無駄に1回転する。
しかし回転の最中、【銀叉】を左手1本で持ち、そのまま振りかぶる。
ギリギリか……
俺がそんなことを思っていると、ノーマルスライムの【突進】と俺の【袈裟斬り】がぶつかった。
刹那、ノーマルスライムの体が斜めに切り裂かれる!!
俺と2体のスライムが対峙して僅か数秒。
初戦闘の10分が嘘のように呆気ない幕切れだった。
レイナとガオウは呆気にとられていた。
「……凄い」
「こ、これ程とは……」
俺は溶けて消えていくスライムを見ながら2人の元に近づいて行く。
「スライムって分裂しな…」
「凄いです竜斗様! たった2戦目でスライムを秒殺するなんて!! これが剣道なんですか?」
俺が質問し終わるより先にレイナが質問してきた。
「えっ!? いや、どうだろ……構えや胴打ちは剣道だったけど、最後の攻撃なんかはメチャクチャだったよ。下手したらスライムの方が先に俺の体に当たってたし……」
「でも凄いです! カ、カッコよかったです……」
レイナは照れながら褒めてくれた。
ただご褒美はなかった。
俺はご褒美を【レイナの胸】と名付けた。
今後はスライムアタックを貰えるよう頑張ろう。
婚約者だけど……
「しかし見事だったぞ。流麗であり、威力も申し分なかった。これが刀であったなら更に美しかったのだろうな」
「……まぁ言い訳するなら【銀叉】が少し重かったから、勢いがつきすぎたんだけど、結果オーライかな」
「かな」じゃね~! 言い訳してしまった!!
俺は剣に関してあまり言い訳はしたくない方だった。
3年のインターハイで勝てなかったのも自分の実力が足りなかっただけで、結果的に1回戦の相手が優勝したから仕方なかったと思いたくなかった。
「さっきも思ったんだけど、スライムって分裂みたいなのはしないの?」
「ふむ……下位のスライムに【分裂】のスキルはないが、高位のスライムになると【分裂】、【合体】のスキルなんかを持つモノがいるな」
やっぱいるのか……しかもキ〇グスライムまで……メ〇ルスライムもいそうだな
その後も何度かスライムと闘い一番奥の部屋の前に辿り着いた。
扉は仰々しく重厚で、いかにもといった感じだった。
「この先がボスモンスターの部屋です。この迷宮はスライム種しかいなかったので、ボスモンスターもスライム種だと思います」
「まぁ竜斗のランクは間違いなくDより上だ。問題ないだろう。何かあれば俺が援護する」
俺は頷きガオウとレイナと目を合わせる。
ガオウも頷き、ゆっくりと扉をあける。
(キ〇グスライムかな?)と楽観的に考えていたが、この後こっちの世界でのトップ3には入る戦闘になるとは予想もしていなかった。