戦士と戦死
私は名も無き騎士の1人です。
生まれはスレイヤ神国の平民です。
小さい頃にお目にした【七極聖・風王】様に憧れて、毎日毎日家や街の中で鍛練に励みました。
時には街の外に出て、迷宮から這い出てきた魔物を退治したりして怒られたのを記憶しています。
退治と言ってもEランクの魔物だけですけど……
幸いにも私には特殊スキル【観察眼】があったので、魔物のランクを見分ける事が出来ました。
そんな私ですが……25歳の今年、ようやくスレイヤ神国の【聖都・スレイヤ】で毎年行われる、軍の入隊試験に受かりました。かなり厳しい試験で、20の時から受けて今年漸く受かりました。
女王護衛軍でもある、【風王隊】や【雷王隊】には入れませんでしたが、【水王レインバルト】様の【水王隊】に入ることが出来ました。
嫌みに聞こえるかもしれませんが、私にはそこそこ才能があるみたいです。
普通なら【七極聖隊】に入るには、【名も無き隊】……所謂一般兵士で構成されている【本軍】から徐々に名を挙げていかなければなりません。
【本軍】とは名ばかりで、実際には【七極聖隊】の下に位置し、才能の無い者、或いは才能が開化していない者達で構成されています。
5回もの入隊試験に落ちた私ですが、6度目に受けた後はそのまま、【水王隊】に配属が決まりました。
1年の間でランクが1つ上がったのとスキルを会得したのが大きいように感じました。
ですが、私の夢は【風王隊】に入り、【風王クリスティーナ】様に仕えることです。
レインバルト様には悪いのですが、これは小さい頃からの夢であり、どうしても譲れない自分のたった1つの小さな野望なのです。
そして、この度アーク帝国とホウライ王国との戦争の最中、極秘裏の任務に参加することになりました。
仲間内から話を聞くと、女王自らの命でもあるそうで失敗は許されないとのことです。
どうやら【本軍】に所属していた数名の騎士達が、その極秘裏の任務に失敗したみたいです。
水王隊の副隊長様から直々にお声が掛かり精鋭部隊に組み込まれました。
【水王隊】ですから当然ですね。
これは好機でした。
ここで任務成功に一躍貢献できれば、女王護衛軍に……あの人に近づけると思いました。
実際に任務に参加すると、【ダーラの町】北東の荒野にて逃亡者2人がいました。
情報通りネムと言う名の貴族の女性と、魔人族の雄です。
私の【観察眼】で確認したので間違いないです。
ただ、女性の方には違和感を感じました。
貴族の方なのに名前がネムだけと、長ったらしくないのです。
それにどこかで見たことのあるような顔立ちでした。
包囲が完了すると、生意気な人間の子供がしゃしゃり出てきました。
体つきはしっかりしてるようですが、まだどこか幼さの残る黒髪の少年でした。
歳は17、18くらいでしょうか?
今から大人になろうとしている美少年です。
羨ましい……
ゴホンッ……え~ハッキリと言って彼が1番怪しいです。
他にも魔人族の雌に、堕天族の雄、蟲人族の雌、それに兎人族の雌がいましたが、彼だけ異常でした。
何故なら【観察眼】が彼にだけ働かないのです。
魔力切れではないのに、彼だけ視ることが出来ません。
それに仲間達が気付いたかは知りませんが、一瞬右眼が金色に輝きました。
恐らく特殊スキル所有者ですね。
しかし私の知る限り特殊スキルの中に眼の色が変わるなんて魔眼はなかったように思います……少し嫌な予感がします。
そしてレインバルト様と、天原竜斗と名乗る美少年が最初に斬り結んでから数十分……現状は最悪です。
2人はお互いに、未だ1歩も退かずに斬りあっています。
私よりも年下の少年が、あの【水王】様と互角に戦えているだけでも驚きなのに、どう見てもレインバルト様が押されてるように感じます。
そして肝心の私達、取り巻きの騎士達は貴族の女性を捕らえようと、魔族と混戦状態にあります……いや、混戦ではなく虐殺に近い気がします。
何故なら……
信じられない事に……
目の前で仲間の騎士達を一撃のもとに倒す2匹の魔族は……
あの、レインバルト様と同じ【Sランク】なのです……
そんな魔族、視たことも聞いたこともありません。
誰かが昔、魔族の限界は【Aランク】と言っていた気がします。
しかし、目の前の2人は間違いなく【Sランク】です。
Aランクの騎士達が次々と軽々と易々と倒されていくのですから……
光と闇の双剣に斬られるか、白銀に輝く具足に蹴られて破裂していくかです。
能力【破裂】かと思いましたが、【鑑定眼】や【魔眼<天>】を所持していた仲間が、「【衝撃】だ!」と叫んでいたので、能力【衝撃】なのでしょう。
更に他の騎士が、「気を付けろ! スキル【崩拳】を持っているぞ!!」と叫んでいたので、事態は一層深刻です。
能力【衝撃】で吹き飛ばされ、スキル【崩拳】で一撃死……まさにクラス【魔神姫】の名に相応しい強さでした。
逃亡者を捕らえるどころか、近づくことすら出来ません。
仲間達も、もう殆んどが息をしていません。
綺麗な青き鎧がどれも真紅に染まっています。
しかし、誇りあるスレイヤ神国の騎士が逃げ出すわけには行きません。
しかも我々は栄誉ある【七極聖・水王隊】の騎士なのですから。
例え、負けると判っていても……
私は愛剣【クリスティナ】の神器を発動させました。
仲間達からは「キモい」とか馬鹿にされましたが、今では良い思い出です。
もう……
誰も立ってはいないのですから……
私は1人、愛剣を強く握り締め高く振りかざし、全身全霊の一撃を【レイナ・サタン・アルカディア】に向かって降り下ろしました。
しかし彼女は軽く躱します。
私が最後に視た光景は、綺麗な女性による綺麗な一蹴りでした。
「クリスティーナさ…」