感謝と夜明け
すみません、レインバルトのスキルが7つあったので【速度上昇】のスキルを抹消しました。
2016/11/20
荒れ地にてキャンプをし、2日が経過した。
地面が硬くて寝れなかったのもあるが、俺はなんだか気分が落ち着かず、夜が明ける前にテントから出た。
外はまだ暗く空気は冷たかった。
外に出ると、簡易のテーブルと椅子が置いてあり、そこにはゼノが1人で見張りをしていた。
テントは3つ設置しており、俺とゼノとナスカ、レイナとネム、ルルとリリスに別れて寝ていた。
「交代にはまだ早いぜ」
ゼノは皆を起こさないよう小さな声で喋った。
「ちょっと目が覚めた」
俺も小さな声で返事をしテーブルを挟んでゼノの向かいの椅子に腰掛けた。
ゼノはテーブルに置いてあるポットから淹れたての、湯気が出ている暖かい紅茶をコップに注いで俺に渡してくれた。
「ありがと」
俺はゆっくりと口に持っていき、火傷しないよう、ちょっとずつ紅茶を口にした。
「……どう思う?」
不意にゼノは俺に質問してきた。
「……今日だな」
漠然とした質問に俺は、少し間を空けて答えた。
「やっぱりか……」
「ああ、なんとなくだけど来るなら今日の気がする」
「……皆を起こすか?」
「いや、まだいいと思う」
俺は紅茶を啜りながら答えた。
「今はまだ大丈夫ですよ」
不意に声がし、俺とゼノは声のする方へ振り向いた。
そこには毛布を肩に掛けたままのレイナが立っていた。
「ごめん、うるさかった?」
「いえ、大丈夫です。皆もまだ眠っています」
レイナは答えながら俺の隣の椅子に腰掛けた。
ゼノはレイナにも紅茶を淹れて渡した。
「ありがとうございます」
レイナもフーフーと息をかけながら、ゆっくり紅茶を口にした。
「もしかして占術眼?」
俺はレイナに質問した。
「はい」
レイナは簡単に答えた。
どうやら、【魔眼<王>】で【占術眼】の能力を使ったみたいだ。
聞くと今はまだ大丈夫なようだが、遠くから何かが近づいてくるのは感じてるみたいだ。
あれ?
サラより使いこなしてないか?
「次は私が見張るんでゼノは休んで下さい」
「いいのか?」
「はい。恐らく今日は戦いになると思うので、ゼノも少しだけでも休んで下さい」
「了解だ」
ゼノは自分の使っていたコップを簡単に洗うと、そのままテントに入っていった。
「竜斗様もまだ休んで下さい」
レイナは俺にも休むよう促してきた。
「……もう少しレイナと一緒に居たらダメ?」
俺は優しくレイナを見つめた。
「!?」
レイナは照れて頬を赤くしていた。
折角2人きりになれたのだから、もう少し一緒にいたかった。
空気が冷たく身震いしたら、レイナは自分に掛けていた毛布を俺に掛けてきた。
それだとレイナの体が冷えるので、1つの毛布で2人の体を包むようにした。
レイナは更に顔を赤くしていたが、多分俺の顔もかなり赤かったと思う……
某天空の城のワンシーンを思い出した。
そんなアホな事を考えていたら、レイナはそっと顔を俺の肩に乗せてきた。
「レイナ……さん?」
キスもしてる間柄なのに俺は急に緊張してきた。
肩に全神経が集まるのを感じた。
「……ありがとうございます」
不意にレイナは感謝してきた。
「急にどうした?」
「いえ、ふと思っただけです。竜斗様が来てから色々ありましたが、魔族の国……アルカディア国は凄く安定してると思います。だからそのお礼です」
「ああ、そういうことか……でもまだまだだよ。スレイヤ神国の追跡者を撃退しないと、【バアル・ゼブル】を仲間にしに行けないしね」
「そうですね……まだ【ベルフェゴール】もいますしね」
「だからお礼にはまだ早いよ」
俺達の最初の目的はSSランクになれる魔族を7人集めつつ、魔族の皆も集めて国の地盤を今より固めることだ。
次にレイナ達にはSSランクになってもらい更に国の戦力を強化する。
最後に出来るかは分からないけど人間との共存だ。
そういう意味でも、ネムとナスカは架け橋になってくれる筈だ。
多分俺だと、皆どこかで異世界の人間だからって思う筈。
あの2人から徐々に、人間と魔族との共存を意識してくれる人達が増えていってくれたら良いんだけど……
そうならなかった時は、アーク帝国にホウライ王国、スレイヤ神国とは戦争だな。
一応俺も人間な訳で、人殺しが好きな訳じゃない。
無駄な殺生はしたくない。
ただ、俺が今までに殺した人間達の事を考えても、何故か罪悪感を感じない……
心のどこかで、俺が殺した人間達は変わらない人間だと感じたからかもしれない。
だからと言って殺していい理由にはならない……か。
レイナのお礼は、俺のそんな気持ちに気付いての事だったのかもしれない。
人殺しを自分だけで抱え込むなという……まぁ全部自分の都合のいい解釈だけど。
更にレイナは俺の手を握ってきた。
周りからは毛布に隠れており見えないが、レイナはそっと俺の手を握ってくれた。
俺もレイナの柔らかい手を握り返した。
何度かモゾモゾしながら最終的には絡ませるようにして手を握り合い、お互いの体にもたれ掛かった。レイナの髪は凄くいい匂いがした。
俺、臭くないかな……?
俺とレイナはそのまま、前方の空を見上げていた。
辺りはうっすらと明るくなってきた。
◆
あの後、しばらくして皆も順々に起きてきた。
俺達は軽く朝食を摂った後、テントやテーブル等を片付けて袋の神器にしまった。
皆、無言だった。
レイナとゼノは知っているが、ルルやリリス、ネムとナスカには、今日にでも追手が来るかもしれないという事は伝えてない。
それでも4人とも、何となく感じていたのかもしれない。
俺達はそれぞれ、軽くストレッチをした。
俺は腕を伸ばして骨を鳴らした。
レイナは屈伸運動をしており、ゼノは首を回したりとしていた。
ルルは目を閉じて、両手を前で組んで微動だにしなかった。
ネムとリリスは祈るようにして手を組んでいた。
ナスカは……大剣の神器でガチ素振りしていた。
張り切りすぎだな……止めておくか……
ナスカのガチ素振りを止めさせると、俺は目を閉じ瞑想した。
どれぐらいの時間そうしていたか分からない……
気づくと完全に夜が明けていた。
「……来たか」
俺は目を開けて小さく呟いた。
大勢の青く統一された鎧を纏う騎士達と、目が覚める様な蒼く澄んだ鎧を纏う1人の騎士に、俺達は取り囲まれた。
対して俺達は、ネムを守るようにして小さな円の陣形をとった。
「まさか、隠れもせず待ち受けているとはな」
蒼い騎士は、他の騎士より1歩だけ前に出てきた。
「隠れて意味あんのか?」
俺も1歩だけ前に出た。
「ふっ、そうだな……我がスキル【追跡】の前には無意味な行為だ」
「だろ? なら真正面からぶつかるだけだ」
「……ふっ、潔し! 名乗ろう! 我が名は【七極聖】が1人、水王レインバルト!! 神国女王の蒼き騎士だ!!」
「…………長い。なんて?」
俺は小さく呟いた。
するとゼノが説明してくれた。
「スレイヤ神国のSランク者だ。【七極聖】っつって7人しかいないSランクの騎士だ。【水王】ってのは属性を意味してんだ」
ゼノもそうだが皆警戒を切らさず、レインバルトや他の騎士から目を離さなかった。
俺を除いて……
「つまり、あいつは自分で水属性使いますって宣言してんのか?」
俺は少し後ろにいるゼノに振り向いた。
「……ま、まぁな」
「…………」
レインバルトは黙ったままだった。
「ふ~ん……なら【雷属性】だな」
俺はレインバルトに向き直った。
「ふっ、そんな簡単にいくかな?」
レインバルトはまた小さく笑った。
「ふっ」が多いな、この人……
「まさか、純度100%の水だから絶縁体になって雷効きません……とか言わないよな?」
「…………」
やべ~図星だったか……?
居た堪れない空気が流れた。
「き、貴様…!!」
すると、レインバルトの近くにいた1人の名も無き騎士が叫んだが、レインバルトは小さく手を上げ、制止させた。
「よい……小僧、名は?」
「天原竜斗だ。生憎あんたらや、アーク帝国みたいに大層な称号はないんで、ただの剣士だと思ってくれたらいいよ」
「その割には、自信満々だな?」
「まぁね、正直負ける気はしない」
俺は小さく笑った。
「いいだろう」
レインバルトも小さく笑った。
お互い微動だにしなかった。
静寂に包まれる中、後方でナスカとネムは僅かに息を飲んだ。
俺とレインバルトは互いに向かって一気に駆けた!
「神器、発動!!」×2
同じタイミングで、俺とレインバルトは神器を発動させた。
俺は、【神鳴】<刀/雷/放電/S>と、【森羅万象】<籠手/炎水風雷地/付加/S>を発動させた。
レインバルトは蒼い剣の神器を発動させた。
ついでに【神眼】でレインバルトのステータスも視ることにした。
◆
【レインバルト・アクアス】
種族
【人間】
クラス
【七極聖・水王】
ランク
【S】
先天スキル
【属性<水>】【耐性<水>】【剣才】
後天スキル
【追跡】【半減<雷>】【統率力】
神器
【聖剣・水王】<剣/水/?/S>
【聖盾・水王】<盾/水/?/S>
【聖鎧・水王】<鎧/水/?/A>
【地の果てまで】<腕輪/水/?/A>
【??】
【??】
◆
なんか水族館みたいな名前だった。
そして一瞬にして俺達はお互いの間合いに入り、急ブレーキで静止した。
土煙が舞う中、瞬間、俺はレインバルトと目があった。
俺は腰を落として【居合いの構え】をとり、レインバルトを見上げた。
対するレインバルトは剣を両手で握りしめ高々と振り上げており、俺を見下ろしていた。
レインバルトは俺目掛けて一気に剣を降り下ろした。
「水王激流斬!!」
同時に俺も刀をレインバルトの腹目掛けて、一気に抜刀した。
【居合の構え】+【雷属性】
「抜刀・雷の位 武御雷!!」
俺とレインバルトの神器が交差した。




