久々と恋落
なんだこの回……
「こ、ここは……」
レイナは自室で目を覚ました。
あれから丸一日、目を覚まさなかったレイナとルキ。
レイナは自室で横になり、ルキは以前俺がドラゴン戦後にお世話になった部屋で休んでいる。
「ここはレイナの部屋だよ」
「竜斗……様……?」
レイナはまだ若干寝ぼけてるみたいだ。
俺はレイナの額に当てていた温くなったタオルと冷たいタオルを取り換えた。
「ひゃ!?」
レイナは冷たいタオルに吃驚し可愛い声を挙げた。
自覚があったのかレイナの頬は紅潮し、掛けてあった布団を顔の辺りにまで引き上げた。
「可愛い」
俺は小さく笑みをこぼした。
「…………いじわる」
レイナは布団で顔一杯隠した。
俺は布団越しにレイナの額があるであろう位置に手を添えた。
「でも良かった……レイナとルキが無事で」
「…………」
レイナは思い出したかのように勢いよく布団から顔を出した。
「そうです! ルキは!? ルキは大丈夫ですか!?」
レイナは心配そうに声をあげ、体を起こした。
「だ、大丈夫だよ……ルキも今は部屋で休んでる」
「良かったです……」
レイナはそっと胸に手を当て、安堵した。
俺はそんなレイナの額にデコピンした。
「痛っ!?」
レイナは両手で額を押さえた。
「全く、無茶しすぎ……手合わせなのに本気になりすぎだよ……下手したら本当に大事になってた……まぁルルの【復元】があるからとか思ってたんだろうけど」
レイナは目を反らした。
マジか……
確かにあの時の2人は目が本気だった。
多分、本当に復元とか治癒とか考えてなかったのだろう。
レイナ恐ろしい娘……
俺はゆっくりと手を出し、レイナの顔の前に持っていった。
レイナはまたデコピンが来ると思ったのか、ギュッと目をつむり身構えた。
俺はレイナの頭の上にそっと手を置いた。
「竜斗……様?」
俺はレイナの髪を優しく撫でた。
「もう、あそこまで無茶すんなよ……やるなら俺にしろ」
「……はい」
レイナは照れたように呟いた。
暫くレイナの頭を撫でていたら、レイナが俺の手を優しく握ってきた。
「レイナ?」
「……だったら今、竜斗様が私を無茶苦茶にして下さい」
レイナが顔を赤らめて意味不明な事を言ってきた。
マジで意味がわからん。
でも……
レイナが目を閉じて唇を少しだけ差し出してきた。
可愛い婚約者がここまでしてきたなら、後は俺も唇を重ねるだけだった。
今度こそ2人きりの……久々のリップでスライムな時間だ。
◆
私は今ベッドで横になり休んでいる。
魔戦姫と戦った後、そのまま気絶し、この狭い部屋に運ばれたそうだ。
まぁ後で聞いたところ、彼女の今のクラスは魔戦姫ではなく魔神姫になっているそうだ。
するとコンコンッと部屋の外から誰かがノックをする音が聞こえた。
私はゆっくりと上半身だけ体を起こした。
「どうぞ」
返事をした後、部屋に入ってきたのはゼノという堕天族の男だった。
竜斗をリーダーとする私の仲間だが、私はこいつの事があまり好きではなかった。
男らしくないというか、のらりくらりとしており、いつもヘラヘラ笑っている印象だ。
今度、竜斗の世界ではこいつみたいな奴を何て言うのか聞いてみようと思う。
本当にだらしない奴にしか見えなかった。
ただ、余り他人の外見の事は言いたくないのだけど……本当に今まで見たことがないほどの顔立ちが整った男だった。
「大丈夫ルキちゃん?」
ゼノはいつものヘラヘラした感じではなく、真面目に私の事を心配してる……そんな声だった。
そして若干距離が近かった。
「……ああ、もう平気だ」
不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
顔は赤くなっていないだろうか?
くっ、不覚だ……
「良かった……悪かったな、俺のせいでルキちゃんが姫さんと戦うことになって……」
「いや、いいんだ……レイナと1度戦ってみたかったのは事実だ……ドラグナー国にいた時から彼女の事が気にはなっていたのだ」
冷静に冷静に……
「ならいいんだが……」
よし、大丈夫だ!
平常心で話せるなルキ!
私は自分に言い聞かせた。
「ちょっとわりぃ、椅子がないから少し腰掛けさせてくれ」
ゼノは不意にベッドに腰掛けた。
私に背を向ける感じで、顔だけが私の方を振り向いていた。
こ、こいつは斜め後ろ45度もカッコいいのか……
全方位死角無しのイケメンだった。
って、私は何を考えてるんだーー!!
落ち着け……落ち着け、私!!
「そういえば……」
「?」
「昔、姫さんもあんたの事気にしたことがあったな。同い年で王になった女性の魔族の事を」
「レイナが?」
「ああ、『自分にはまだそんな覚悟が出来てないのに、彼女は同い年で国を率いる覚悟を決めたんだ』……そう言ってたな」
「…………」
私はドラグナー国にいた時の事を思い出して、小さく笑った。きっとこの時の私の笑顔はかなり無理をしてたと思う。
「……そうだ! ララちゃんが淹れてくれた紅茶があるけど飲むか?」
ゼノはどこからともなく、紅茶の入ったポットとカップを2つ取り出した。
どうやら気を使わせてしまったようだ。
私はニコりと微笑んだ。
「ああ、頂くよ」
しばしの沈黙の中、私とゼノはララ殿が淹れてくれた紅茶を飲んだ。
少し心が暖まるのを感じた。
「……美味しい」
私は紅茶の入ったカップを両手で添えるようにして持っていた。
「そいつは良かった」
ゼノは相変わらずベッドに腰を掛けて、足を組んで座っていた。
ただ紅茶を飲む仕草はどこか上品だった。
「私は……不甲斐ない王だったよ……父上や先祖が守り抜いた国を僅か数年で放棄してしてしまった」
「…………」
「私は多分レイナに対して尊敬と嫉妬の念を抱いていたんだと思う。同じ年で同じ懸賞金を懸けられてるにも関わらず、人間達から隠れて暮らせる実力に……尊敬の念を抱いた。同時に嫉妬もな……」
ゼノは黙ったまま私の話を聞いてくれた。
その私に対する微笑みはお伽噺にでてくる天使の様に慈悲深いものに見えた。
「そうだな……過去は変えられない。俺も似たような過去がある。そんな時、姫さんとガオウのおっさんに拾われたんだが……でもな、未来は変えられると思うんだ」
「!?」
「俺は今この国の為に戦える自分を誇りに思う。最初はAランクの自分を嘆いたが、竜斗がこの国に召喚されてから、確実に未来は……運命は変わってきてる。俺はそう確信してる」
「ゼノ……」
「それにな、姫さんも竜斗も強いと言ってもまだまだ危なっかしい、俺達がしっかり支えてやらないとな」
「……そうだな」
「だからルキもそんなに自分を責めるなよ。過去が変えられないなら、皆で一緒に未来を変えればいいんだ」
私は小さく頷いた。
そしてこの時の私はどうかしてたと思う。
ゼノの言葉がひどく心に響いた。
何故か私の眼からは涙が零れた。
私は焦って涙を拭おうとしたが、それを見たゼノがそっと私の頬に手を当てた。
「ゼ……」
ゼノは頬に手を当てたまま、親指だけで私の涙を拭った。
そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
「なっ、ちょ、ゼノ……貴さ……」
ちょっ、ちょっと待ってくれ!
なんだこの流れは!
有り得ん!
ま、まさか……このままキ、キ、キ、キ、キ、キ、キキ、キ、キ、キ、キ、キスをするのか!?
うわーー動いてくれ私の体!!
だ、だめだ……ち、近い……ゼノの顔が……唇が……近い……
私は震えながら、私をゼノに預ける覚悟を決めた。
唇が重なる瞬間、不意に扉がノックされた。
「!?」
ゼノは私からゆっくりと距離をとり立ち上がった。
「ど、ど、ど、どうぞ……」
私は多分耳まで顔が真っ赤だった筈だ。
「失礼しますッス」
入ってきたのはドワーフ兄弟の弟のカルという者だった。
「どうした?」
ゼノがカルに尋ねた。
「お休みの所失礼するっス……自分とラス兄があるものを作ったんすけど遂に完成したんで、是非皆さんに来てほしいッス」
「……了解だ。姫さんと竜斗には?」
「レイナ様と竜斗兄貴のところには、ラス兄が呼びに行ってるッス」
カルは意気揚々と答える。
私とゼノは顔を見合わせた。
「くくっ」
「ふふっ」
私とゼノは小さく笑った。
「?」
カルは首を傾げた。
「「多分(ラスの奴は)死んだな」」
私とゼノの声はハモった。
ふとゼノが私に手を差し出してきた。
「行くかルキ」
私はゼノの手をとった。
「ああ」
私はゼノと一緒に小さな部屋を後にした。
多分この時に私の心はゼノに堕ちたんだと思う。
この時の作者はどうかしてたと思うッス。
もう1話か2話書いたらいよいよ書きたい話の1つ(シリーズ)に入ります。