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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第三章【襲撃】
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逃避行と救済者




 生い茂る木々を掻き分けて2つの影が走り抜けていた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


「ハァ……ハァ……」


 息を切らして走る2人は満身創痍だった。

 着ている服はボロボロでおよそ服と呼べる代物ではなかった。

 手足は傷だらけで、体は痩せ細っていた。

 2人はお互いの手を握りしめ、必死の思いでただひたすらに走っていた。



「あ、あそこで少し休みましょう」

 手を引いて走る男の方が声をかけた。


「…………はい」

 手を引かれて走る女の方は、反応が少し遅れてから答えた。



 小さな森の中で1つの洞窟を見つけて、2人はその中で暫しの休憩をとった。

 洞窟内はそれほど広いわけではなく、奥があるわけでもなかったが、それでも2人分には少し広い程度のスペースがあった。



「大丈夫ですか?」

 男の方が持っていた水を差し出した。


 水筒というにはあまりにもお粗末な木で出来た筒。

 その中にある僅かな水をお互いで飲みあった。


「ありがとうございます、アザゼルさんもどうぞ」

 女性は僅かな水を半分ほど飲むと、アザゼルという名の堕天族の男性に渡された水を返した。


「私は大丈夫です。先程少し飲んだので、残りはリリスさんが飲んで下さい」

 アザゼルは水を受け取らず、残りの水をリリスと名乗る蟲人族の女性に勧めた。


 リリスは知っていた。

 アザゼルは水を一滴も飲んでいないことを。

 自分のために僅かな水を全部差し出してくれていたことを。



「…………」

「リリスさん?」


「……お願いですから飲んで下さい」

 リリスは翡翠の色をした瞳を潤わせた。


 アザゼルはドキッとした。

 こんな時に不謹慎であったが、目の前にいる綺麗な女性に心奪われた。

 本来ならもっと綺麗なはずの女性が、身体は痩せ細り、肌は汚れ、瞳と同じ色をした髪も汚れていた。

 それでも瞳はキラキラと綺麗な色を放ち、じっと自分を見つめていた。


「す、すみません……い、頂きます」

 アザゼルは水を受けとると一気に飲み干した。


 リリスはニコリと微笑むと、良かったと安堵した。




 2人は洞窟内の壁にもたれ掛かるようにして、人1人分を空けて隣り合わせで座り込んでいた。



「ここはどの辺りになるのでしょう?」

 リリスは尋ねた。


「【霊峰アルカ】が左側に(そび)え立っていたので、恐らくアーク帝国領内には入っていると思います」

 アザゼルは自分達のいる場所と、以前見たことのある地図を頭の中で検証させながら答えた。


「そうですか……大分、南下してきましたね」

「そうですね……ドラグナー国までは後、半分程ですかね」


「…………」

「あっ、すみません……」


 アザゼルは失言だったと後悔した。

 これまでの長い道のりを考えたら恐怖しか出てこなかった。

 それが後、半分程もある。

 隣にいる可憐な女性には酷な道のりを想像させてしまったと。




 2人はホウライ王国の奴隷だった。


 前の飼い主は別の者だったが、お互い飽きられ奴隷オークションに出品されていた。

 堕天族と蟲人族は珍しくオークションでのトリを務めるため最後まで残っていた。

 オークション会場の舞台裏である待機所で鎖で繋がれており、会話をした訳でもない。

 それでも2人は必死に笑顔を作り、お互いの未来が少しでも良くなることを祈って、しばし心を通わせた。



ーそこに奇跡は起きたー



 突如、オークション会場に【機械国】の機人族が乗り込み暴れだしたのだ。

 混乱の最中、偶然にもお互いの鎖が外れ2人は目を見合わせた。

 後はお互いの手を引き、ただひたすらに走って、走って、走り抜いた。


 ホウライ王国は広く、領内では何度も追っ手に追われ続けた。

 何度も死ぬ目にあった。

 お互いが倒れたこともあった。

 それでも助けてくれる者など誰もおらず、自分達だけで必死の思いでここまで辿り着いた。


 アーク帝国内に来ると追っ手の勢いは減り、休める時間が増えた。

 ホウライ王国にいる間は眠れることの方が稀であった。


 2人はドラグナー国を目指した。

 というより他に頼りになる所がなかったからだ。

 魔族は皆隠れて細々と暮らしていた。

 当然居場所などわかるはずもない。


 分かっているのは【機械国】と【ドラグナー国】だけ。

 機械国は機人族以外にも排他的と聞いていたので、目指す場所はドラグナー国しかなかった。



 アザゼルのいた所は昔、人間に襲われ村は壊滅しているので、そこにいっても誰もいるはずがなかった。


 リリスの方も兄と幾人かの魔族と隠れて暮らしていたが、自分のいた所が何処なのか分からないでいた。

 兄の過保護により、集落から出たことがなく箱入り娘に近かったリリスは、兄の忠告を無視して1度だけと思い集落の外に出た。

 舞い上がったリリスは自分でも気づかぬ内に遠出をしてしまい、運悪く人間に捕まってしまったのだ。



 リリスは後悔した。

 何故あの時、兄の忠告を無視して集落を出たのかと……

 過去の自分を止めたいほどに……


 捕まった後のリリスの運命は悲惨だった。


 毎夜毎夜、下卑た中年の人間の慰み物にされ、逆らうと痛め付けられた。


 何度も泣いた。


 そして思った……決して人間は相容れない存在だと。

 あれほど迄に恐怖を体現している生き物がいるのかと。

 思い出すだけで身が縮む思いだった。




 辺りは暗くなり、2人は洞窟内にて夜を明かすことにした。

 人間に見つかる危険を恐れ、火を炊くことすら出来なかった。


 リリスは身体を震わせた。


 アザゼルはそんなリリスを見て居た堪れなくなった。

 リリスの背中に生えている蝶の様な羽はボロボロで余計に寒さを感じさせた。


 逃亡の際もスキル【飛翔】を使いたかったが2人とも人間により、羽はボロボロにされていた。


 アザゼルは自分の4枚の羽の内の、片側の2枚の羽でそっとリリスを包んだ。


 リリスはアザゼルの方に視線を向けるがアザゼルは照れ臭そうにして視線を合わせてくれなかった。

 リリスは小さく笑いボロボロの天使の羽の中で眠りについた。




 夜が明けて2人は洞窟内を後にしようとした。



 が、目の前には5人の人間が2人に立ち塞がった。



「やっと見つけたぜ!」

「こんなところまで逃げ込んでたとはな」



 アザゼルとリリスは洞窟前で人間達に取り囲まれた。


「アザゼルさん……」

「リリスさん、私から離れないで!」


 リリスは震える体でギュッとアザゼルの服を掴んだ。



「何だ何だ、朝から見せつけてくれちゃって」

「ったく、魔族の分際で手間とらせやがって」


 人間達は余裕そうにしていた。

 そこには完全に油断があった。

 アザゼルは1番隙だらけだった男に突撃し、男を押し倒した。

 すかさず起き上がり、リリスの手を取り森の中を走り出した。



「くそっ! 逃げたぞ!」

「バカが! 油断しやがって!」

「気を付けろ! ここはアーク帝国内だ!」


 男達もすかさず2人を追いかけた。




「はぁ、はぁ、はぁ……」


「ハァ……ハァ……」

(くそっ! ここまできたんだ何とか逃げ延びて……)


 アザゼルはリリスの手を引き森の中を駆けた。

 ここは森の中、何とかなるかもと思った。

 しかしそんなアザゼルの希望は眼前の光景により音もなく崩れた。


 見渡すは一面の草原。


 小さな森を抜け眼前に広がる草原は隠れるところなどなかった。

 森の中からは追っ手が迫ってきている。



「アザゼルさん……」

 リリスが小さく呟いた。


「くっ!」

 アザゼルは意を決し草原を駆けた。

 その手はリリスの手を力強く握りしめた。



 2人は、走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走り抜いた。


 しかし、そんな2人も遂に人間に追い付かれた。



「ファイヤーボム!」

 1人の人間が腕輪の神器を発動させ、2人目掛けて炎の塊を放出させた。



「ぐわっ!」

 炎の塊はアザゼルの背中を捉えた。

 アザゼルはその場に倒れこんだ。


「アザゼルさん!?」

 リリスはアザゼルに駆け寄った。


 アザゼルは苦しそうにしていた。

 焦げた背中が悲惨さを物語っていた。



 男達はじりじりと二人に詰め寄った。


 リリスはアザゼルを庇うようにして男たちの前に立ち塞がった。

 それを見たアザゼルは消え入りそうな声で呟いた。


「に、逃げてください……リリスさん……!」



「ったく、ゴミ虫共が……手間とらせやがって」

「結構アーク帝国内に入り込んだな」

「おい、もう油断すんなよ!」


「分かってるって」

 男はそう言い放ち、剣の神器を発動させた。


 そして……


「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 リリスの太股を刺した。



「これでもう逃げれないだろ」

 男はそう、ほくそ笑んだ。


「リリスさん!!」

 アザゼルは叫んだ。


「黙ってろ!」

 別の男がアザゼルの顔を踏みにじった。


「あぁ、あぁぁぁ」

 アザゼルは苦しそうに必死に痛みに耐えた。


「アザゼルさん…………お、お願いですから……やめて……」

 リリスは消え入りそうな声で必死に懇願した。



 男はリリスの髪を掴み、無造作に持ち上げた。



「きゃう……」


「黙ってろっていったろ、クソ虫が……てめぇらに発言は許されねぇ~んだよ!」

 男はリリスに顔を寄せ、言い放った。


「うっ……うっ……」

 リリスは悔しくて涙が溢れた。

 ここまで必死に逃げ延びてきたのに、ここで終わりなのかと。



「おい! さっさと行くぞ! ここはアーク帝国領内だ、いつ見つかるか分かんねぇぞ」


「分かってる、おい! さっさと立て!」

 男達は2人を無理矢理立たせた。



 男達が辺りを警戒しながら来た道を戻ろうとした時、空間が揺らいだ。



「!?」×5



 突如、空間より門が現れた。

 男達は全員神器を発動させて警戒し、全員がゴクリと唾をのみこんだ。


 現れたのは……長く白い耳をピコピコさせ、綺麗な巫女服を着た兎人族の女の子だった。




「竜斗様達は……まだみたいね」

 兎人族の女の子は耳を更にピコピコさせ、辺りを見渡した。


 女の子は人間5人と、ボロボロの魔族2人を見つけた。


「…………」

 兎人族の女の子は黙りこんで、じっと人間たちを睨んだ。



「な、なんだ脅かしやがって……」

「てっきりアーク帝国の者かと思っちまったぜ」

「しかし、こんな所に兎人族の雌がいるとはな……こりゃ貴族様に売ったら大儲け出来るぜ」

「だな、兎人族は大人気商品だからな」


 男達は一瞬だけ焦ったが、兎人族とみると一気に余裕そうにして笑みを浮かべ始めた。



「へっへっ~~、てめぇも運がなかったなウサギちゃん」

 1人の男がおもむろに兎人族の女の子に近寄った。


「に、逃げてください! 早く!!」

 リリスは叫んだ。


 見ず知らずの魔族にまで被害が及ぶのを恐れて。

 自分達のせいで、女の子の運命が悲惨なものになるのを……


「黙ってろ糞が!!」

 リリスを抑えていた男は、リリスの頬を叩いた。


「リリスさん!!」

 アザゼルが叫ぶと、更に別の男がアザゼルを殴り飛ばした。


 兎人族の女の子はピクッと眉をつり上げた。


「へっへ~観念して逃げなかったのは偉かったな。何、あいつらみたいに抵抗しなけりゃ痛い思いはしなくて済むぜ」

 男は兎人族の女の子の前まで歩み寄っていた。



「「うっ……お願い……逃げて……下さい……」」

 リリスとアザゼルは倒れながら小さく叫んだ。



「…………そこ危ないですよ」

 女の子は呟いた。


 男達は「?」といった顔をして、お互いの顔を見合わせると高笑いした。


「どう危ないか教えてくれよウサギちゃん!」



 男達が高笑いしていると、女の子は小さく溜め息をついた。




 しかし、本当に運がなかった。


 もっと早く……いや、せめてあの森の中でアザゼルとリリスを捕まえていればこんなことにはならなかった。


 本当に不運としかいいようがない。


 何故なら今日この日は、ルルが竜斗達に頼まれて迎えに来た、待ち合わせの日だったのだ。



 本当に運がなかった。




 遠くからゴーーーーーーーといった、もの凄い速さで飛翔する音が聞こえだした。



「な、なんだこの音は!?」

 その場にいる全員が焦りだした。


「私、忠告しましたよ……そこは危ないと」

 ルルはニコリと頬笑み、1歩だけ下がった。



「はっ……? ぐべらっ!?」

 突如ルルに近寄っていた男は、もの凄い速さで北上してくる得体の知れない物体の衝突により後方に吹き飛ばされた。



 ルルの前で急ブレーキで止まった物体は、自身が巻き起こした土煙が晴れると、盾の神器を解除しゆっくりと体を起こした。



「いや~参った参った……やっぱ【嵐属性】は扱いが難しいな」


「お久しぶりです、竜斗様」

「おう……ルルも久しぶり、元気だった?」


「はい、おかげさまで……ただ先程の土煙が喉の方に少々……ケホッ」

 ルルはわざとらしく咳き込んだ。


「……いや、それどう見ても嘘だろ」

「あら? バレましたか、意外です」


「……はいはい、わかりましたよ……ところでさ?」

「なんでしょうか?」


「あいつらは?」

 竜斗は人間達の方に目を向けた。


「さあ? よく分かりませんがどうやらあの人達を捕らえにきた様です」

 ルルは、リリスとアザゼルの方を指差した。



「ふ~ん、だったら……」


 竜斗は刀の神器【絶刀・天魔】を発動させた。



「ちゃっちゃと、ぶっ倒すか」


 竜斗は刀を構えて、ニヤリと笑った。




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