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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第二章【羅刹と夜叉】
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失意と寄生




 フードを被った男は洞窟の階段をゆっくりと降りていった。

 階段を降りきると目の前には木で出来た扉があり、男は片手で押すようにして開けた。



 中には人が何人か入れるほどの空間があり、そこに3人の男の姿があった。

 1人は自分と同じようにフードを被り、顔を見せないようにしている優男だった。

 もう1人は腕を組み、黙ったままの武骨そうな男。

 そしてもう1人は片手がなく、イライラを辺り構わずわめき散らしている男だった。男は近くにあった物を蹴飛ばし、少しでも怒りを沈めるようにしていた。



「くそがっ!!」

 男は更に近くにあった物を壁に叩きつけた。


 フードを被った優男の身体が一瞬ビクリと動いた。


「やれやれ荒れているな」

 入り口から入ってきたフードを被った男は、様子を伺った後、呟いた。


「ボス……」

 武骨そうな男は入り口に立っている男に気づいた。


「その様子だとSランクにはなれなかったようだな」

 このボスと呼ばれた男の発言で、片手の男の怒りは頂点に達した。


「喧嘩売ってんすかぁ~ボス……」

 その声には怒気が含まれていた。


「事実であろう?」



ーブチッー



「上等だぁぁぁああ! その喧嘩買ってやんよ!!」

 片手の男は勢いよく立ちあがるとボスの胸ぐらを掴んだ。


 優男はオロオロしており、武骨そうな男はやれやれといった態度をとっていた。


「いい加減にしろジェガン」

 武骨そうな男はジェガンの肩を掴んだ。


「離せオークスの旦那! 喧嘩を売ってきたのはボスの方だ!!」



 しばしの沈黙が流れた。



「ちっ」

 ジェガンは掴んでいた手を離し、オークスの手を振りほどいた。


 優男はホッと肩を撫で下ろし、オークスは1つ溜め息をついた。


「仕方あるまい、こればかりはどうにもならないことだ」

 ボスは呟いた。


「……く、そ、がぁぁぁぁあああああ!!!!」

 ジェガンは叫んだ。




 数日前に、ここにいるジェガンとオークス、そして優男のバアルは他2名を合わせた計5人でSランクの迷宮に向かった。

 彼ら3人はAランクで他2名はBランクというパーティーであったが見事Sランクの迷宮を攻略したのだ。


 他2名は残念ながらボスモンスター戦でその儚い命を散らしたのだった。

 しかし、迷宮を攻略した3人は誰1人Sランクになることはなかった。

 つまり潜在ランクがAまでで、今のランクが限界だったのだ。


 ジェガンのイライラはこれが原因だったのだ。



「くそったれが……」

 ジェガンは俯き嘆いた。


「Sランクの神珠は手に入ったのだろう?」

 ボスは3人に尋ねた。


「はい」

 オークスは答えるとバアルに合図を送った。

 バアルは懐から2つの神珠を取り出した。


「能力は?」


「えっと、確か……

種類【杖】属性【炎】能力【形状変化】ランク【S】

種類【杖】属性【光】能力【守護】ランク【S】

です」



「そうか……確かギルマスは【光属性】の神器をコレクトしていたからな、なんなら私が高く買い取るぞ?」


 バアルとオークスは顔を見合わせた。

 ジェガンにも視線を送るがどうでもいいといった態度をとっていた。

 バアルは【光属性】の方の神珠をボスに手渡した。


「金は後日、渡しにくる。せめてAランクの相性の良い神器を買うといい」

 ボスは部屋から出ようとした。


「あ、あの……」

 バアルはボスを呼び止めた。


「なんだ?」

「あっ……このもう1つの神珠は?」

「ああ、そっちはいらん。ギルマスも私にも無用の長物だ。他の組にくれてやる必要もないし、お前たちで好きにしろ」



【ギルド魔族狩り】

 彼の言うギルマスとは当然、3国のギルド会議にも参加した、アーシャ・スレイヤルのことだった。

 そしてボスと呼ばれるこの男は【魔族狩り】の最高幹部の1人で、ジェガン達3人が所属する組のリーダーであった。


 彼は人の身でありながら、スキル【聴力】や【読唇】などといった、諜報に長けたスキルを所持していた為、アーシャから重宝されている男だった。

 特殊スキルは開眼していなかったがアーシャは【千里眼】を会得するのではと期待していた。


 そんな彼の組に所属するジェガン、オークス、バアルも気に入られていた。

 ジェガンにはレアスキル【捕縛】、バアルにはレアスキル【復元】があった。

 そしてオークスという平凡ながら指揮能力に長けた【統率力】のスキルの持ち主もいたからだ。



「まぁなんだ、俺を含めた全ての最高幹部がAランクで止まっているし、お前達ならすぐに最高幹部の一席に加えられるであろう……気休めだがな」



 ギルド魔族狩りにはSランクと言われる存在はただ1人しかいない。

 ギルドマスター【アーシャ・スレイヤル】だけであった。

 当然誰もがこぞってSランクを目指したが、誰1人Sランクになれた者はいなかった。

 それはジェガンやオークスも例外ではなかった。


 だがジェガンの怒りはそんな理由ではなかった。

 最高幹部の地位に興味はなかった。

 いや少し前ならそれは間違いなくあったのだが……今のジェガンにとっては、自分をこけにした竜斗への復讐だけであった。


 しかし自分にはSランクという才能の壁を超えることができなかった。

 ジェガンは未だその現実を受け止めきれずにいたのだ。



「そういえば……お前が復讐したい相手か分からんが、【薔薇のゼータ】が何者かにやられたそうだ」

 ボスはジェガンの方を向いた。


「!?」

 ジェガンとオークスは驚いた。


 この世界で彼を知らない者などいない。

 自分達がなれなかった世界最高ランクのSランク者であり、実力的にはアーク帝国のナンバー3には入る実力者であったからだ。


 しかしバアルの驚きは少なかった。



「ほう、Sランクの機密情報でも驚かんとはな……」

 ボスはバアルを見つめた。


「あっ、いえ……驚きすぎて呆気に取られていただけです……」

 バアルは焦ったように取り繕った。


「オークスどう思う?」

「多分ですが……恐らく竜斗と呼ばれたあの小僧の仕業かと」


「ふむ、ギルマスも同意見だ。ただ憶測で物事を判断するなと言われたので、その小僧に関してはSSランクの機密情報になった。他の組にも知らされてない情報だ。不用意に他の者に話すなよ」


 ボスは3人に念を押し、薄暗い洞窟を後にした。





「くくっ、あの糞餓鬼は【薔薇のゼータ】を倒したかも知れないのに、俺様は惨めにAランクか……」

 ジェガンは這い上がれない絶望の中にいた。


「諦めるのか?」

 オークスはジェガンに尋ねた。


「何?」

「確かに我々はSランクになれなかった。だがそれがどうした! 私は最高幹部の地位まで登り詰めるぞ! お前はどうするんだ? Aランクだからと復讐を諦めるのか!?」

 オークスはジェガンの胸ぐらを掴んだ。


「旦那……」

 ジェガンは呆気にとられたが、その眼には次第に活力が宿ってきた。


「そうだな……あの糞餓鬼の後悔する顔を見るまでは死んでも死にきれねぇ……」

 言ってることは最低だがジェガンの目に野望の火が灯った。


 オークスは小さくほくそ笑んだ。


「よし、部下達の情報によればある魔族の一団が【霊峰アルカ】の麓に向かっていたのを見たそうだ」

「あの餓鬼もか?」


「いや、人間の姿は発見できなかったそうだ。だが俺の予想では、その魔族共も奴の仲間であり、そこから【アルカ大森林】に転移したのではと考えている」


「なるほどぉ~、ありえるな」

 ジェガンの口調は徐々に通常に戻ってきていた。


「作戦を立てる必要があるが、既に部下達にはあの辺りを偵察しに向かわせた。何日かかるか分からんが奴等は絶対にまた現れる」

 オークスは確信していた。

 そしてジェガンもオークスの言葉に頷いた。



「……ジェガンさん、オークスさん……」

 バアルは2人に尋ねた。


「どうしたバアル?」


「この神珠はどうします?」

 バアルは余った神珠を手に取っていた。


「……我らには不要だ。金にして調達資金にするぞ」

「う、売れますかね?」


「…………」


 バアルの懸念も最もだった。

 Sランクの神珠なんか扱えるものがおらず、普通の人は金を払ってまで手にいれたいとは思っていなかった。

 それに同業者に売り捌くのも危険であった。

 Sランクの神珠を売るということは自分がSランクじゃないと認めているようなものだったからだ。

 属性による相性の問題もあったが、その属性に適応していないという情報も与えている訳で、情報の漏洩は少しでも下げるべきであった。



「なら上手いことお前がなんとかしろ」

「えっ!? 自分がですか?」


「当然だ、言い出しっぺだろう」


「…………」

 バアルは失言だったと後悔した。



 オークスとジェガンは洞窟内で復讐への作戦を考えていた。


 バアルはひと声かけた後、邪魔をしないようそっと洞窟を後にした。







 バアルは階段を上がり地上に出た。

 そこはスレイヤ神国の領地内で、とある荒れ地の洞窟であった。

 外に出たバアルは耳に手を当て誰かと話し始めた。



「上手くいったね」

「だね」


「あいつら気づいてないよ」

「そうだろうね、迫真の演技だったもん」


「それより、ボスは?」

「あぁボスならギルマスに会いに行ってるから、もうこの周辺にはいないよ」


「なら良かった、あいつにはスキル【聴力】があるからね」

「気をつけないとね」


「そっちはどう?」

「えっと……こっちは今、【薔薇のゼータ】と一緒に東に向かってる」


「えっ!?」

「ゼータ、あの人間に敗けたから国外追放だって」


「皇帝はやることが派手だね」

「そうだね、今はエルフの女の子に寄生して同行してるよ」


「……アーク帝国にはいなかった?」

「うん。ゼータの近くで情報は集めてたけど、それらしい蟲人族はいないって……もしかしたら……」


「やめろ!」

「やめろ!」

「やめろ!」


「でも……」

「あいつは……リリスは……妹は絶対生きてる」


「絶対生きてる」

「絶対生きてる」


「ごめん……取り敢えずゼータにくっついて行ってみるよ」

「うん」


「で、そっちは?」

「こっちは今ホウライ王国に着いたよ。何やら騒がしいみたいだけど、情報を集めたらまた連絡するよ」


「……やっとホウライ王国に入れたね」

「そうだね。スレイヤ神国にもアーク帝国にも手掛かりがなかったからね。残ってるのはホウライ王国だけだ」


「だね」

「それでそっちはどうするの?」


「Sランクの神珠も手に入れたし、1度本体に渡しに戻るよ」

「良い神珠だった?」


「杖の神珠で、属性も炎だったよ」


「やったね」

「やったね」


「僕には最高の神珠だ」

「そうだね。あのゴミみたいな2人はAランクみたいだけど、本体からSランクになれたって報告があったよ」


「僥倖」

「僥倖」


「で、その後は?」

「もうこのギルドにも用はないかな。ぼちぼち宿主から離れようと思う」


「治癒士だし、勿体ないよ」

「そうだよ、リリスに何かあった時は役に立つよ」


「…………」

「…………」

「……ごめん」


「でも、そうだね。不測の事態を考えるなら治癒士はとっておくべきだね」

「そういえば、そっちにも近くに治癒士がいなかった?」


「ああ、兎人族の女の子だね。でもランクはそっちのが上だから、やっぱり残した方がいいと思うよ」

「了解、それでどう?」


「何が?」

「その国だよ」


「ああ、いい国だよ。色々な魔族がいるし、明るくて華やかな国だよ」

「そっか……役得だったね」


「でもこの国にも蟲人族はいなかったよ」

「そっか……残念だったね」


「本体からも1度戻れって言われたから名残惜しいけど戻るよ」

「了解」


「……いつか行きたいね」

「えっ?」


「リリスを見つけたら一緒に行きたいね。その……アルカディア国に……」


「そうだね」

「そうだね」

「そうだね」


 そう言い残すと3つの気配はその場から消えた。



 バアルはゆっくりと空を見上げた。


「リリス……どこにいるんだ……兄ちゃんが絶対見つけてやるからな……」


 バアルは頬を掌でパンッと叩き、泣きそうな気持ちを必死にこらえ、本体と呼ばれる元へと歩き出した。




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