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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第二章【羅刹と夜叉】
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羅刹と夜叉 後編


2話同時投稿です。




 静寂の中、構えたまま対峙する3人。



 ルキの額から汗が頬をつたって畳の上に滴り落ちた。



 先に攻撃を仕掛けたのはサラだった。

 神器【百花繚乱】を回転させ何度も夜叉姫に斬りかかる。

 その光景は風と水の演舞だった。


 夜叉姫も躱そうとするが、風と水の余波が襲い掛かり徐々に捉えられ、服が切り刻まれていった。


「くっ」

 夜叉姫はなんとか神器【銀鶴】で捌こうとしていたが、捌ききれずバランスを崩した。

「しまっ……!」



 夜叉姫の隙を見逃さずサラは渾身の一撃を振るった。



「秘技 花鳥風月!!」



 サラの一撃により夜叉姫の胸は一閃された。

 まるでス〇IIの〇ガットみたいに……夜叉姫は膝から崩れ落ちた。


「が、はっ……」

 夜叉姫は吐血した。


 選手交替といわんばかりに、すかさずルキが神器【ドラゴンテイル】を突き出した。


「な・め・るなっ!!」

 夜叉姫は渾身の蹴りをルキ目掛けて放つ。



 誰もがルキに蹴りが当たったかに見えたが、夜叉姫の蹴りを受け止めたのはサラだった。


「なっ!?」

「残念でした」


 サラは笑顔で答えるが夜叉姫の神器【銀鶴】の能力【衝撃】により吹き飛ばされる。

 それをガオウが瞬時に回り込み、サラを受け止めた。



「あ、ありがとうございます」

「なに、構わん」


 2人とも笑顔だった。


 どうやらルキの転移の神器によりサラと場所を入れ換えたようだ。

 ルキは結構鬼畜なことをする。

 サラとルキの間ではお互い了承済みのようだったみたいだけど。



「も、もう一人はっ!?」

 夜叉姫は辺りを見渡すがルキを見つけられずにいた。


「こっちだ」

 夜叉姫の背後からルキの声が聞こえた。


「っ!?」

 夜叉姫はバッと後ろを振り返ろうとするが、



「遅い!! ドラゴンノヴァ!!」


 ルキの神器【ドラゴンテイル】には水と風が螺旋を描くようにして纏われていた。

 そして鋭い一撃により夜叉姫の脇腹は貫かれ壁際まで轟音と共に吹き飛ばされた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 ルキは息を切らし、そのまま畳に倒れこんだ。


 俺はすかさずルキの元に駆け寄った。


「ルキ!!」

「竜斗……あ、あいつは……ボス……は……?」


 ルキは限界だったがそれでも夜叉姫のことを気にしていた。

 俺は倒れている夜叉姫の方に目を向けた……どうやら夜叉姫は倒れたまま気を失っているようだ。


「大丈夫だ……消えてないけど気絶してる、ルキ達の勝ちだよ」


「そうか……良かっ……た……」

 ルキはそのまま気を失った。



 そして神眼が、2人がSランクになったことを教えてくれた。

 サラはまだ信じられないといった様子だった。

 起きたらルキにも教えてあげないとな。


 ガオウがサラとルキを抱えて壁の方まで連れていった。

 サラは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。


 そして夜叉姫も羅刹王に抱えられて反対の壁まで運ばれていった。



「す、すみません……生き恥を晒しました……」

 羅刹王の腕の中で夜叉姫は気がつき、己を恥じていた。


「問題ない、後は任せよ」

「はい……あなた様……」



 羅刹王がそっと夜叉姫を座らせると、そのまま刀の神器【神鳴】を発動させた。


 俺も神器【絶刀・天魔】と【森羅万象】を発動させた。


 俺と羅刹王は左手で刀の鞘の部分を握って、帯刀したまま部屋の間の中央まで歩き対峙した。

 誰が決めたわけでもなく、俺と羅刹王は一対一の勝負をすることにした。



「羅刹だ」

 羅刹王は名乗った。


「天原竜斗だ」

 俺も名乗り返した。



 そしてそのままお互い右手で柄を握り、ゆっくりと刀を抜刀した。

 お互い鞘を投げ捨てると左手も柄を握り、2人とも【中段の構え】をとった。



「行くぞ」

「来い」



 刹那、刀がぶつかり合った。

 そのまま鍔迫り合い(つばぜりあい)をしながら、お互い力を緩める気はなかった。



「やるな」

「そっちこそ」



 刀で弾いて間合いをとるが、お互い間髪入れずにそのまま斬り結んだ。

 その後は……斬っては弾き、斬っては受け流し、斬っては躱して、を俺達は繰り返した。



 俺は小さく笑った。



「何が可笑しい?」

 斬り結びながら羅刹王は尋ねてきた。


「いや……やっぱ刀はいいなって……」


「……異論はない」

 羅刹王も小さく笑ったように見えた。



 俺は小さい頃から読んできた漫画を思い出した。

 いつだって漫画の主人公や剣士は戦いの渦中にあって、ギリギリの戦いをしてきた。


 そして今まさに俺はその真っ只中にいる。

 読んでどれだけ興奮したか分からない命懸けのバトルを今この瞬間俺は体験している。


 それは剣道の試合とも違い、こっちの世界に来てからの冒険とも全然違ったものだった。

 そんな興奮が俺の口元を少しだけ緩めた。



「ふっ」

 今度は羅刹王がハッキリと笑った。


「何が可笑しい?」

 俺は羅刹王に尋ねた。


「楽しい勝負に水を指して悪いが、お前に勝機はない! 勝つのは我だっ!!」


 お互いの刀が弾きあうと、動きが止まった。

 そして羅刹王は構えを変えた。

 柄を両手で握り顔の右側面に寄せ、右手を右耳より上の位置まで持ってゆき、剣先を上に突き出した。



 八双の、構え……?

 違う!!



 俺は即座に違うと理解した。

 限りなく酷似しているが、あれは……それよりまだ刀を天高く突き出した……



【示現流 蜻蛉の構え】



「チェストッッ!!」

 羅刹王が叫ぶと神器【神鳴】の刀身から一気に雷が放電され、豪剣が降り下ろされた。



 俺は咄嗟に刀で受け止めようとして後悔した。

「しまっ……!」


 しかし、その判断は遅く俺は刀ごと畳に叩きつけられた。


「がはっ……!」



 意識が遠くなりそうにながら、必死で意識を繋ぎ止めていた。


 示現流は一の太刀……

 受け止めちゃ……

 ダメ、だ……った……




「竜斗っ!!」

 ガオウの咆哮にも似た叫びが俺の意識をハッキリさせてくれた。



 俺は腕に力を込め必死に起き上がった。

 羅刹王は攻撃することなく何やら考え込んでいた。



「はぁ、はぁ、はぁ、示現流の……矜持か…………?」


 示現流は一の太刀を疑わず、二の太刀は要らずと言われる剣技で、一撃目に全身全霊を込める。

 そんな羅刹王が二撃目を繰り出してこなかったのなら、それは納得が出来た。


「ぺっ…」

 俺は口の中の血を吐き出した。



 羅刹王は未だに自分の刀を見つめていた。


「仕留めたと思ったのだがな……?」

 羅刹王は自分の一撃が確実に俺を捉えたにもかかわらず、仕留めそこなったことを疑問に感じていた。



「はぁ、はぁ、はぁ……悪いな【地属性】で防がせてもらった」


 俺は咄嗟に【森羅万象】の能力で【絶刀・天魔】に【地属性】を付加させて防いだ。

 おかげでなんとか神器【神鳴】の威力を殺すことが出来、口の中を切る程度で済んだ。



 はい、嘘です!

 雷の威力は殺せても、豪剣の威力は殺せず全身ボロボロです!

 完全に痩せ我慢で立ちました!



「なるほど、地属性か……それが、その刀か手袋みたいな籠手の属性か」

「……まぁな」



 ヤバイと思った。

 こいつ強い……

 魔物に神器を持たせたらこんなに強いのか……

 サラとルキはよく、こんなの倒せたな……



「はぁ、はぁ、はぁ…………ふっ」

 俺は息を切らしながら小さく笑った。


「……まだそんな余裕があるとはな」


「いやいや、何言ってんの? 俺の足見てよ、生まれたての小鹿のように足プルプルさせてるだろ? 痩せ我慢に決まってんじゃん」

 俺は震えてる足を羅刹王に見せつけた。



「な、なるほどな……しかしお前みたいなやつは初めてだ……属性にしてもそうだが自分の事を簡単に敵に教えるとは……」


「まぁな、それよりさ……」

 俺はすっと羅刹王の持つ刀の神器を指差した。


「?」

「俺が勝ったらその神器俺にくれよ」


「なに?」


「いや、その神器だけじゃなくて、夜叉姫の方の具足の神器もくれ」

 俺は壁に(もた)れかかり脇腹を抑えたまま座り込んでいる夜叉姫に視線を送った。


 夜叉姫は驚いた。

「なっ!? 馬鹿を申す……」


 羅刹王が小さく手を挙げ制止させた。

「なら、我が勝ったらお前の神器を戴こう」


「おう、俺のと言わず全員の神器をやるよ」


「!?」

 ガオウとサラも驚いた顔をしていた。


 ルキは気を失ったままだった。

 起きたら発狂しそうだな。


 俺はガオウに目配せした。


「ったく……絶対に勝てよ竜斗!!」

 ガオウは呆れたが俺の勝利を信じてくれた。

 俺は握り拳をガオウに突き出した。



 そして再びお互い対峙した。



「次が最後だ」


「おう、いい加減愛しい彼女に会いたいからな」

 俺はスラ……レイナの顔を思い出した。


「ふっ、それは我に勝てなければ不可能だぞ」


「勝つのは俺だ、問題ない」


「その体でか? いいだろう、最高の一撃をくれてやる!」

 羅刹王は不敵に笑った。



 羅刹王は再び同じ構えをとった。

 刀身からは異様なほどの放電が為されていた。

【蜻蛉の構え】+【雷属性】


 俺は羅刹王と似た構えをとった。

 蜻蛉の構え程ではないけど、右手を右耳辺りに持っていき、刀を突き上げて構えた。

【八双の構え】+【地属性】



 お互いジリジリと間合いを詰めた。



 そして間合いに入った瞬間、2人とも力強く足を1歩踏み出した。

 お互いの豪剣が空を裂いた。



「雲耀の太刀っ!!」


「八双・地の位 重地架(じゅうじか)!!」



 互いの袈裟斬りが交差した。


 刹那、お互いの刀で十字が描かれたが、片方の刀は持ち主の手から離れ、片方の刀は相手を斬り裂いた。




「…………ごふっ」

 斬られた方は血を吐き、そのまま畳に両膝をつけた。



 そんな羅刹王を俺は見下ろした。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


「竜斗……お前の勝ちだ……」


「……おう」



 俺はそのまま、仰向けになり倒れこんだ。



 やった……

 やった!

 勝てた……

 俺は……

 こいつに、勝った!!


 俺は勝利を噛み締めた。

 ハッキリ言って差は属性による相性しかなかった。

 剣の腕だけでいったら完全に負けてた。



 暫くすると羅刹王が声を掛けてきた。

「止めをさせ」


「いやいや、今の俺見てよ……1歩も動けないって……もう少し待って……はぁ、はぁ、はぁ……」



「ふっ……やはりお前は変わった奴だ」

 羅刹王は小さく笑い、仰向けになり倒れこんだ。




 ちょっとして、ガオウが駆け寄ってきた。


「無事か竜斗よ?」

「見たらわかるだろ? これが大丈夫そうに見えるか?」


「見えんな……どっちが勝者か分からん」


「いや、それはどう見ても俺だろ」

 俺は冗談っぽく言ってみた。


「まぁギリギリだったな」


 確かに。



 更に暫くしてサラからの治癒を終えたルキと、サラも駆け寄ってきた。


「すまない竜斗」

 いきなりルキは謝ってきた。


「何が?」


「いや、本来ならこの迷宮のボスモンスターは私とサラ殿が戦う予定だったのに……」

 ルキは気絶したことを申し訳なさそうにしていた。


「いや、あいつは多分2人じゃ勝てなかったと思う……俺もギリギリだったし」


 俺達は羅刹王の方に視線を送った。

 見たら、夜叉姫が脇腹を抑えながら羅刹王に歩み寄っていた。



「……負けてしまいましたね」

 夜叉姫は笑っていたが、なぜか晴れ晴れとした顔をしていた。


「すまない……奴らは……強かった」

 羅刹王も後悔はしていない、そんな顔だった。


 夜叉姫は優しい笑顔でニコッと微笑んだ。

 そして羅刹王と自分の指から神器を取り外した。



「約束だ!」

 夜叉姫は2つの神器を放り投げた。


 ガオウがそれを片手で受け取った。


「……勝負だからな」

 ガオウは少しだけ納得していない感じではあった。


 剣の腕だけで言ったら俺は完全に羅刹王に負けた。

 勝負に勝てたのは属性のおかげだけど賭けは賭けだ。


「分かっている」

 夜叉姫もそれは分かってるみたいだ。


 どんな言い訳をしても勝ちは勝ちで、それ以上は戦いを冒涜すると感じたみたいだった。



 俺と羅刹王はお互いに支えられながら体を起こした。



「竜斗、お前達の勝ちだ……今度こそ我らに止めをさせ」



「う~ん…………やだ!」

 俺は少し考えてキッパリと断った。



「なっ!?」×5

 俺以外の全員が驚いた。


「なんかあんた達の事気に入ったし殺したくないかな……それに神器も2つ貰えたし、別に止めを刺す必要はないよな?」


「だ、だが竜斗、こいつらを倒さなくては迷宮からは出られんぞ!?」

 ルキは俺の発言に驚いたみたいで、かなり取り乱していた。


「だったら迷宮の階層が増えたら、次の階のボスモンスター倒せばいいんじゃね?」

 俺はナイスな提案を出した。


「しかし……」

 羅刹王もルキと同じ様に納得できない顔をしていた。


「ああ、もうっ! 俺がそう決めたの! はい、この話はこれでお終い! 俺がリーダーなんだからみんな言うこと聞くように!!」



「ふふっ」

「ふっ」

 サラと夜叉姫は小さく笑った。


「やはりお前は不思議な奴だ」

「竜斗さんは私達とは考え方が違うので、出会ってから驚きしかないです」


 サラと夜叉姫の2人が笑っているのを見てガオウも折れた。


「やれやれ……なら次の階層は我が戦おう」

 ガオウも納得してくれた。


 そりゃそうだ。

 なんせガオウの新神器は1回も戦闘に使用されなかったのだから。


 納得出来ない感じだったのは、頭の固そうな羅刹王とルキの2人だけだった。

 「だが……」とか「しかし……」とか呟いてたけど無視を決め込んだ。



 【百畳の間】に穏やかな空気が流れた。


 すると……

 突如俺達の上空に光る神珠が2つ現れ、みんなの体が消え始めた。


「「っ!?」」

 俺達はみんな驚いた。



「……どうやら迷宮が攻略を認めたようだな」

 羅刹王が呟いた。


「羅刹王!?」

「まさか我等が死んでいないのに、迷宮を攻略されるとはな……」



 どうやら迷宮を攻略したみたいだ。

 羅刹王と夜叉姫は迷宮と共に消えようとし、俺達は恐らく入り口に転移しようとしていた。

 しかし羅刹王達を倒しきれていないのに、更に神珠が2つ手に入ったのは僥倖だった。



「……なんか、あんたら2人とはまた会いそうだな」


「ふっ、次は我が勝つ」

「何言ってる、次も俺が勝つ」



 俺達はみんな笑っていた。



 そして……順々に転移されていった。





 気づくと迷宮は跡形もなくなっていた。

 手には神器が2つ、神珠が2つ握られていた。


 俺はどこまでも澄み渡る空を見上げた。



 そして俺達は……

 アルカディア国に帰るため、ゆっくりと転移門まで歩き出した。




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