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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第二章【羅刹と夜叉】
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真祖と枯渇



「いま……喋った?」

 俺はヴァンパイアを見てつい呟いた。


「あら? 高貴なる私の言葉を聞き取れる人間がいるなんて珍しいこともあるのね」

 吸血鬼はクスクスと笑っていた。


 俺は皆の方に振り向いた。

 視線が合うと皆に尋ねた。


「えっ、もしかして皆には聞こえないの?」

 俺は恐る恐る尋ねた。


「何を言っておるのだ竜斗? ちゃんと聞こえておるぞ」

 ガオウにもちゃんと聞こえていたみたいだ。


 サラとルキも頷く。


「どういうこと?」

 俺は吸血鬼に視線を戻した。


「アハハハハッッ、本当に人間って単純! からかってみただけなのに、真に受けちゃって!」

 吸血鬼は高笑いしていた。



 うわ~……

 うぜ~……


 俺はどうやって、この喧嘩を買うか悩んだ。

 どうせなら吸血鬼がイラッてくるような喧嘩の買い方がいい。

 俺は刀を持ったまま腕を組み少し考えた。



「アハッ、黙っちゃったよ……どうするの? ねぇどうするの?」



 う~ん……

 俺は無視して考えていた。


「竜斗、作戦はどうする?」

「…………」


 ルキの言葉が聞こえず、そのまま考えていた。


「竜斗?」

「……ああ悪い。あいつ弱点【水】だから予定通り2人がかりだな」


 俺はルキに呟いたら、そのまま喧嘩の買い方を考えていた。


「えっ、ああ……了解した」

 ルキは俺がなんでもないように答えた事に若干戸惑っていた。



 吸血鬼はその言葉が聞こえたのか、ピクッとなり、笑うのをやめた。


「弱点が水ぅ……2人がかり……だと?」

 吸血鬼の表情がみるみる豹変していった。


「に、人間風情がぁぁぁぁ!! たったの2人で私を倒せるとおもってんのかぁぁぁぁ!!」

 突如吸血鬼の怒号が【庭園の間】に響き渡った。


 俺を除いた3人が身構えた。


「うわ、沸点低っ!」

 まだ喧嘩の買い方に悩んでいたのに、あの程度でキレるなんて。


「上等だよ人間! やれるもんならやってみな!」

 吸血鬼の額に血管が浮き上がってきた。

 そして腰にぶら下げていた刺突剣(レイピア)に手をかけ、軽く振り始めた。



 俺も【絶刀・天魔】を納刀したまま鞘を腰の辺りあて、柄の辺りに手を添えた。


【居合の構え】


 そして【森羅万象】で【水属性】を付加させた。


【水属性】



 吸血鬼は刺突剣の剣先を突き出すようにして俺に向けた。

 脚には力を入れており、いつでも突っ込んでくる気満々であった。

 俺は更に足を広げ腰を落とした。

 ガオウはサラの前に出て、いつでも庇える体勢に入った。

 ルキも【薔薇の盾】で身構えた。



ーージャリーー



 静寂の中、ふと誰かの砂利を踏む音が聞こえた。

 同時に吸血鬼は刺突剣を突きだしたまま、勢いよく突進してきた。

 神眼が<解放>されているからかは分からないが、吸血鬼の動きが更に遅く感じた。



 遅いな……



【居合の構え】+【水属性】


「抜刀・水の位 五月雨(さみだれ)



 俺はスキル【神速】で、吸血鬼から見て左側に瞬時に回り込み、一気に絶刀・天魔を横薙ぎに振り抜いた。

 吸血鬼は真っ二つになり地面に転げた。



「ぎゃああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 吸血鬼の切断面からは異様な程煙が出ており、そこから再生されていくが、あまりの痛みにのたうち回っている。


「なばっ……い゛っ゛体……何が……!?」

 吸血鬼が何やら言いかけていたが、俺が眼前に立っているのに気づくと恐る恐る俺の方を見上げた。



【脇構え】+【水属性】


 俺は吸血鬼の真横に立って、剣先を低くし、刀を構えていた。



「……や、やめろ……や、やめて……くださ…」

 吸血鬼は命乞いし始めた。



「【陽金・水の位 雨邪鬼(あまのじゃく)】!!」


 俺はそのまま一気に地面を抉るように刀を振り上げた。



「いぎゃっ!?」

 吸血鬼を反対側の階段まで吹き飛ばした。

 辺り一面を彩る見事な枯山水は無惨な光景へと様変りした。



「凄いというか……容赦ないな……」

 ガオウが呟いた。


「まぁ、あっちが喧嘩売ってきたんだ……これくらい当然だろ」

 俺は刀の峰で肩を叩いた。


「ルキ、あいつが仕掛けてきたら、ドラゴンテイルで脳天ブチ抜け」

 俺が小声で話すと、ルキは頷きゆっくりとドラゴンテイルに魔力を込めていった。



 俺は吸血鬼に向かってゆっくりと歩き出した。



「ひっ、ひぃぃぃ……!」

 吸血鬼は恐怖し震えていたが、再生が間に合わず動けずにいた。



「なんだ、この程度か? ガオウが躊躇ってたから、どれ程かと思ったんだけど……本当に水属性が弱点なんだな」



「それは違うぞ竜斗! 吸血鬼が弱いのではない、お前が強すぎるんだ!」

 離れた所からガオウが大声で否定してきた。



「違うってガオウ! 吸血鬼って種が弱いんじゃなくて、単純にこいつ(・・・)が弱いって言っただけだよ!」


 俺は【こいつ】の部分を強調してガオウに返した。

 そして吸血鬼を見てほくそ笑んだ。


 吸血鬼の震えは恐怖から憤怒へと変わった。



「く、糞餓鬼がぁぁぁぁああああっ!!」

 吸血鬼の眼は怒りで血の色みたいに真っ赤に染まった。


「喧嘩はさぁ……こうやって売るんだよ」


 そう言い放ったが、剣道とオタクしかしてこなかった俺は喧嘩なんかしたことない。

 当然、喧嘩の売り買いなんか分からず雰囲気で言ってみただけだった。


「……終わりだな」

 俺は小さく呟き、絶刀・天魔を納刀した。


 それを見て吸血鬼は小さく笑った。


「……お前が、なっ!」

 吸血鬼は自分の流れ出た血を固めて真っ赤な簡易刺突剣を作成して俺に向かって突きだした。


 吸血鬼にとっては突如目の前で消えたかのように、俺は横にスライドするようにしてそれを躱した。



「なっ!?」

 吸血鬼の眼前には突如、巨大な突撃槍が飛び込んできた。


「ロ〇ヤルセ〇バーだとっ!?」

 それを見た俺はワクワクが止まらず、つい叫んでしまった。


「ドラゴンノヴァ!!」

 ルキの叫びと共に、水を纏った神器【ドラゴンテイル】が吸血鬼の頭蓋を貫いた。


 違った……

 吸血鬼は叫び声をあげることも出来ず、頭が丸ごと消滅した。

 体だけが残され再生されることもなく、ゆっくりと煙となって消えていった。



「ロ〇ヤルセ〇バー……」

 俺は残念そうに呟いた。


 俺の呟きを聞いたルキは不思議そうな顔をしていたが、上手く説明できそうにないから、そのままにしといた。

 【ベルゼバブ】を仲間にしたらなんとしても技名はダ〇ルイン〇クトにしてもらおう。





 俺達は迷宮【37階層】で最後の休憩をとることにした。

 寝所までは用意しないが軽く食事を摂りつつ談話していた。


 休憩していると、俺はふと何かを思い出しそうになった。

「あれ……?」


「どうかしましたか、竜斗さん?」

 サラが気になり尋ねてきた。


「いや、何か【ベルゼバブ】って他に呼び方があったような……」

「そうなのですか?」


「ああ、何だったかな……翔(にい)なら知ってるだろうけど……ダメだ、思い出せない……」

 どうしても俺は思い出せなかった。


「……そうだな、呼び方が違うなら我らは検討違いな奴を探してることになるからな」


 ガオウに言われ若干レイナ達が気の毒になった。

 下手したら全然関係ないやつを探してもらってることになる。


「そいつに何か特徴はないのか?」

 ルキに言われ更に悩んだ。


「特徴か……特徴って言っても、俺のいた世界の神話と皆は全然違うからな……強いて言えば【蝿の王】だったかな?」


「蝿か……なら【蟲人族】か?」

「蟲人族?」



 蟲人族はかなり臆病で決して自国からは出てこない種族らしい。

 理由は人間にあった……外見的にいえば、それほど人間と違いがないのにも関わらず、名前にある蟲というだけで忌み嫌われていた。

 ただでさえスレイヤ神国から魔族は忌み嫌われているのに、蟲人族はそれが更に顕著だった。

 労働という面でも他の種族より身体的に非力な為、アーク帝国でも奴隷にされることなく殺されることが多いらしい。


 ホウライ王国でさえ、虫の羽や触角が生えているような種族はあまり好まれず、一部の人間にしか愛でられなかった。



「なんか酷いな……」

「そうだな……人間でいう希少的なものなら姫様の魔人族や、ゼノの堕天族が挙げられるが、別の意味で蟲人族は数が少ない」


 ガオウが嘆いていた。


「比べることではないのだが……恐らく人間に最も忌み嫌われている種族が蟲人族だ」

「そうなのか?」


「ああ、我らからしたら魔族はみな仲間で、姫様も優先的に助けようとされているのだが、中々見つけることができぬ……アルカディア国には一人もいないからな」


 ガオウに言われて気づいた。

 そういえば見た記憶はないな。


「ドラグナー国にもいなかったな」

 ルキのいたドラグナー国にもいなかったみたいだ。


「私達は1度だけ蟲人族のいた集落を訪れたことがありますが、2度目に訪れた際は誰もおりませんでした。場所を移したか……或いは人間に……」

 サラは、それ以上は何も言わなかった。



 その場の空気が重くなったので俺は話題を変えた。



「そういえば吸血鬼にもスキル【枯渇】があったな。レイナにもあるけど、【枯渇】って何?」



 サラとルキの表情が一気に変わった。


「レイナには【枯渇】があるのですか!?」

「竜斗よ、それは本当か!?」


 2人が俺を問い詰めてきた。


「あ、ああ……そうだよなガオウ?」


 2人はガオウに振り向いた。


「ああ、持っておられる……」

 ガオウは悲しそうに頷いた。


 2人は項垂(うなだ)れ、更に空気が重くなった。



「……ねぇ【枯渇】って何?」

 俺は恐る恐る皆に尋ねた。


「……マイナススキルだ」

 ルキが答えてくれた。


「マイナススキル?」

「そうだ……なんの力もない、ただ在るだけで死に直結する様なスキルの事を、我々はマイナススキルと呼んでいるのだ」


「……それが【枯渇】?」

 俺は唾を飲み込んだ。


「……ああ。【枯渇】は魔力が(から)になると必ず死ぬ。それだけのスキルだ」

「……どういうこと? 魔力って空になったら死ぬんじゃないのか?」


「違うな……我らが以前お主に説明しただろ。魔力はなくなると下手(・・)をしたら死ぬというもので、絶対という訳ではない。お主が以前、人間に【森羅万象】で無理矢理付加させ殺せたのは、ある意味で運が良かったからだ」

 ガオウが説明してくれた。


「あれって上のランクの神器を使ったら最悪死に至るって言ってなかったか?」

 俺は過去の説明を思い出した。


「すまん、我らの説明不足だ……同じことなのだ……自分より上のランクの神器を使うことはそれだけ魔力の消耗が激しく、一気に(ゼロ)になる……それにより最悪死に至るのだ……」


 だが人は魔力が0になっても簡単には死なないし、ゆっくりだが自然と回復する。しかし【枯渇】は0になった瞬間、回復することもなく即、死が待っている。



「なっ!?」

 俺は立ちあがった。


 初めての迷宮攻略の際、ガオウがレイナを止めようとした理由が分かった。

 自分より上のランクSSの【変わる世界】で俺を呼んだ後に、迷宮攻略とか自殺行為だ。


 普段であればレイナにはスキル【魔皇】があるから、そう簡単に魔力がなくなることもないし、0にさえならなければ魔力は自然と回復する。


 それでも俺は憤りを感じた。

 帰ったらレイナにお仕置きだなと心に決めた。



 俺達は各々、迷宮の階層が増えるのを待った。

 サラとルキは魔力を回復させつつ、ゆっくりと精神を集中させていた。


 俺とガオウは軽く手合わせしていた。

 体を動かさないとなんだか堪らなく不安になってきた。

 最初はガオウに「集中出来てない」と注意されたが、次第に落ち着いてきた。



 ふと地面が揺れ、迷宮がSランクになったことを告げた。


 俺達は顔を見合わせ、物を片付けてからボスモンスターのいる間を目指した。




 レイナに会いたいな……


 俺は心の中でそう呟き、俺達は【37階層】を後にした。





 ミーハーであり、世代的にも作者は〇メガモンが好きです。


 次回『羅刹と夜叉』


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