鬼種と占術
現在、俺は迷宮の前に立っていた。
後ろにいるのは、ガオウとサラとルキの計4人だ。
眼前に聳える迷宮は……なんと言うか城だった。
ガオウ曰く……
種類【城】
魔物【鬼種】
階層【36】
ランク【A】
の、迷宮だそうだ。
だが、どう見てもこちらの世界にあるような洋式の城ではなかった。
寧ろ日本の戦国時代に建てられた和の城だった。
ちなみにだが、実際にガオウの【魔眼<地>】で魔物の種類が分かるわけではなく、【小鬼】が出たため恐らく鬼種とのことだ。
「竜斗よ……本当に行くのか?」
ガオウは未だ躊躇っていた。
なんでも以前鬼種が出たAランクの迷宮に挑んだ時に、かなり苦戦したらしい。
「当たり前だろ……スレイヤ神国がいつ攻めて来るかも分かんないのに、迷宮の選り好みなんかしてられないだろ?」
「それは、まぁ……そうだが……」
俺は、どう考えてもこの迷宮で苦戦するとは思えなかった。
だってゴブリンだぜ。
スライムと並んでレベル1の勇者が最初に戦うようなザコモンスター、昨日のゴブリンも一撃だったし。
こっちには俺とガオウのSランク以上が2人に、サラとルキのAランクが2人。
さくっと攻略してアルカディア国に帰還したいところだ。
いい加減、スラ……レイナが恋しくなってきたし。
アルカディア国を後にして軽く1、2週間は経過している。
ちなみに他の皆にはサラが転移の神器を渡して、先にアルカディア国に向かってもらった。
サラの占術眼によれば多分問題ないみたいだし、1週間後にルルに迎えに来てもらうように頼んでおいた。
◆
迷宮の扉の前に来ると、迷宮の大きさに圧倒された。
よくよく考えたら初めての迷宮は【塔】一階だったし、2回目は地下だった為その全容が分からず、改めて迷宮の大きさに戸惑った。
「……改めて思うけど、やっぱでかいな」
「そうですね。後、数日で【Sランク】になるそうですし、【SSランク】はまだ大きいんでしょうね」
サラはあまり緊張してないようだ。
「竜斗には無様な姿しか見せてないからな、私も少しは出来る所を見せないとな」
ルキは張り切ってる。
女性陣2人がここまで言ったら後はしっかり援護するだけだ。
ガオウも溜め息を1つすると、気持ちを切り替えたのか鋭く迷宮を見つめた。
よし!
みんな覚悟が出来た。
【迷宮信号】の色は青色だ。
問題ない。
俺とガオウが開けたら後から何人か入れるため、今回はサラかルキに開けてもらうことにした。
流石に俺達4人が入った後でAランクの迷宮に1人で挑む馬鹿はいないだろう。
サラとルキがそれぞれ扉の前に左右に立ち、少し顔を見合せてから頷くと、同時に扉を押し開けた。
俺達はゆっくりと迷宮へと入っていった。
扉にあった迷宮信号を確認すると黄色に変わっていた。
◆
なんだここ?
俺は驚いた。
外見が和の城だったから、ある程度予想はしていたが……そのまんま床は木で出来ていた。
壁?は一面襖だった。
俺は恐る恐る襖を開けると、今度は床一面畳だった。
そして壁はまた襖……
どこを見渡しても、木の廊下、襖の壁、畳の部屋だけであった。
「ここはダメだ……」
俺は嘆いた。
「どうされたのです竜斗さん?」
サラが心配そうに尋ねてきた。
「いや、どこも同じにしか見えない……正しく迷宮だ……」
「そうなのですか? 私は迷宮は初めてなのでよく分かりませんが……」
「えっ!? 初めてなの?」
「はい、魔物や人間とは何度か戦ったことはありますが……基本的には部族を引き連れていたので、迷宮に赴くことは有りませんでした。寧ろ回避してましたし……」
「そりゃそうだ」
確かにサラは20人くらいを引き連れていた。
そんな数を残して迷宮攻略などできるはずもない。
聞いたところサラの持っていた神器は渡り歩いた国々で情報を渡す代わりに譲り受けた物らしい。
「で、どうする竜斗?」
ルキが尋ねてきた。
「どうしよっかな……こんだけ同じにしか見えない迷宮をいちいち探索しないといけないって考えたら、かなりめんどくさいな」
「取りあえず適当に進むか?」
ガオウが提案してきた。
それしかないのか……
どうするか悩んでいたらサラはキョロキョロと周りを見渡し始めた。
「でしたらあちらに向かってみませんか?」
サラは前方を指差した。
「なんで?」
「いえ、【占術眼】で視たところ、あちらは青色に光っていたので恐らく安全かと……」
なるほどそれも1つの手だ。
俺は軽く手をポンッと叩くとサラの提案を採用した。
俺達はひたすら歩いた。
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いた。
「魔物が出てこん!!」
俺は大声で突っ込んだ。
それどころか、流石の俺も同じところをグルグル回ってると気付いた。
だって未だに迷宮の1階層だぜ。
「えっ!?」
サラはビクッとなり驚いた。
「うん、みんな集合」
俺は皆を呼び集め小さな円を作った。
「今から会議を始めます……このまま青色の安全領域をひたすら歩くのがいいと思う人は手を挙げてください」
誰も動かない。
当然だな。
そんな狂人いる筈がない。
「多少危険だけど赤色の魔物がいるであろう領域に行くのがいいと思う人?」
ガオウとルキが手を挙げた。
「サラは?」
「えっと……竜斗さんの後ろの襖を開けて貰っても良いですか?」
俺は後ろを振り返りそのまま襖を開いた。
すると……そこには10畳くらいの部屋があり、ど真ん中には上へと続く木で出来た階段があった。
「………………サラさん?」
「す、すみません……実はですね……ずっとその部屋が黄色く視えていたのですが、黄色なんて初めて見たので……言いそびれて……」
どうやら【占術眼】は迷宮限定で、次の階層にいく場所を黄色く照らすようだ。
俺は心の中でそっと【信号眼】と呟いた。
◆
あれから俺達は順調に進んでいった。
魔物に遭遇したくない時は青色の領域、適度に戦いたい時や仕方ない時は赤色の領域、黄色の領域は階段と。
しかし【占術眼】は便利だった。
迷宮なら【魔眼<地>】が役に立ちそうなのに、俺達は専ら占術眼に頼って進んでいた。
出てくる魔物も、ランクE【小鬼】、ランクD【百々目鬼】、ランクC【食屍鬼】なんかで問題なかった。
弱点はないけど然して問題ない敵だ。
サラとルキも今のところ問題なく戦えている。
サラ……鎌の神器【百花繚乱】、属性【風】、ランク【A】
ルキ……槍の神器【ドラゴンテイル】、属性【水】、能力【噴射】、ランク【A】
2人は基本的にこの神器で戦っている。
サラは自分の体くらいはある巨大な鎌を軽々と振り回していた。
その動きは見てて異様だった。
サラ曰く、重いことは重いらしいがコツを掴めば要所だけ力を込めればいいそうだ。
ルキの神器も見てて面白かった。
水属性の噴射をバランスよく使いこなしていた。
槍の先端から水を噴射させ、相手のバランスを崩したかと思えば、柄の先端から噴射させて一気に間合いを詰めて貫く。
これで盾も発動させたら〇ュークモンみたいだな……
前衛を女性2人。
後衛を男2人と言うなんとも鬼畜な陣形であったが、まぁ2人とも気にしてないようだし問題ないだろ。
◆
俺達は半日で5階層まで来ていた。
1階層目で大分迷ったが半日で5階層ならまずまずだ。
前回も休憩込みで1日10階層だったし順当と言える……と思う。
前回は急いでるのもあったが、実際の平均はどれくらいかかるもんなんだろ?
魔族からしたら人間は強いことになってるが、それは数が多い場合で、同じ人数ならどうなんだろ?
人間の迷宮攻略の進行度が少し気になった。
SSランクの迷宮が50階層……今のペースなら最短で5日。
かなり早いんじゃないだろうか。
同ランクなら絶対魔族が強いと思うんだよな~
このペースも魔族だから早いと思うんだよな~
◆
竜斗の考えは半分正解で半分間違いだった。
同ランクなら人間より魔族が強いのではなく、潜在ランクが【SS】あるレイナ達が強いのであった……
そして当然このペースも竜斗達だから早いのであった。
◆
俺達が7階層目にくるとペースが少しだけ落ちた。
サラの魔力が無くなってきたからだ。
【占術眼】の使いすぎにより、魔力が底をつき始めた。
「少し休もう……大丈夫かサラ?」
心配してサラに声をかけた。
「…………申し訳ありません、ちょっと、限界です……」
サラはフラフラだった。
フラフラのサラの体をガオウが支える。
役得だなガオウ!
俺は表情には出さずに心の中でニヤニヤしていた。
最後にもう1度だけサラの【占術眼】で辺りの安全を確認して俺達は迷宮7階層の一室で休むことにした。