気配?と騎士道
俺は自分が許せなかった。
阿呆すぎるだろ俺……
眼前の敵を取り逃がしてしまった。
俺の存在もばれたし、王気のスキルもバレた。
神器の特徴もバレたし、下手したら神眼もバレた。
何よりルキウスを仲間にする目的もバレた。
ジェガン達の時とは違い、怒りもなく冷静であった。
魔力もまだ余裕があった……にも関わらずゼータを取り逃がしてしまった。
神眼で能力までは分からないが、門の神器があったのは確認していたのに……
一時は首元に刃を当てていたのに……
阿呆みたいに迂闊だった……
レイナのこと言えないな、俺に阿呆属性追加だ……
嘆いても仕方無いので気持ちを切り替え、先程声のした後方上空に目をやった。
上空には飛翔するサラと腕にぶら下がるローゲ?だったか……蛙人族の老人の姿があった。
2人は俺達に近づきゆっくりと地面に着地した。
同時にローゲは勢いよくルキウスの元に駆け寄った。
「ひめ……陛下~!」
ローゲは言い直した。
「爺? 爺なのか!?」
ルキウスは驚いていた。
ルキウスは倒れていた体をゆっくりと起こした。
ローゲはそれを支えるようにしてルキウスはそのまま座り込んだ。
「まさか生きて爺にまた会えるとはな……生き恥をさらした」
ルキウスは苦笑した。
「何をおっしゃるのですか陛下……」
ローゲの瞳から涙が止めどなく溢れた。
ローゲがルキウスに駆け寄っている間にサラは俺の元に歩み寄ってきた。
「竜斗さん、ご無事ですか?」
サラは笑顔で尋ねてきた。
その顔にはこれっぽっちも心配の色はなかった。
「ああ、大丈夫。ただ……」
「ただ?」
「ゼータとか言うSランクの奴を取り逃がした……」
「まぁそれは……」
サラは口に手を当てた。
ローゲは今の会話を聞いていて、驚愕した。
「かなりの情報が……」
「ゼータを退けたのですか!?」
ローゲが俺の声を遮ってきたので少し吃驚した。
「あ、ああ……追い詰めたんだけど最後逃がしちゃった」
「…………」
ローゲは口をパクパクさせていた。
「信じられませぬ……ゼータといえば六花仙が一人、薔薇のゼータ……あやつを追い詰めるなんて……」
「いや、追い詰めたなんて言葉では生温い。あれはまさに一方的であった……清々しいほどにな」
ルキウスは思い出したかのように笑った。
「まぁその辺の話も後だな。取り敢えずゲートの神器は発動できそう?」
俺はサラに尋ねた。
「大丈夫です。ルルさんが設置した、固定されている門は3ヶ所で、後1ヶ所は自由に設置が可能です」
サラは問題ないと答えた。
すでにガオウ達のところに門を一つ設置してきたみたいだ。
「ならガオウ達がいるところまで頼む」
「分かりました」
サラは頷くと神器を発動させた。
「さてと……」
俺は言いながら、取り残された兵士達に目を向けた。
「ひっ!?」
等と各所で悲鳴があがった。
失礼な……
「た、助けて下さい!」
「見逃してください!」
「許してください!」
「もう……もう……」
兵士達は懇願していた。
自分達の上司が逃げ出す程の相手(俺)に敵うはずはないと。
土下座をする者や、項垂れる者、どうすれば生き残れるかを各々が考え、実行していた。
彼らをどうこうするつもりは全くないのだけれど。
俺は兵士達に向かい足を進めると、突如兵士達が光だし、その場から姿を消した。
「な!?」
辺りを見回し、一瞬何が起きたか分からなかった。
するとルキウスが知っていたのか説明してくれた。
「恐らくゼータが転移の神器で兵士達を強制転移させたのだ。あいつはああ見えて兵士達を大事にしていたからな……」
「そんな神器もあるのか……」
「ああ。あいつは転移のスペシャリストだ。確か確認しただけでも4つは転移系の神器があった筈だ」
「凄いなそれ……」
「確か迷宮から脱出出来る神器も所持していた筈だ」
「そ、それは是非とも欲しかったな……」
俺は先程斬り落としたゼータの腕を確認した。
付いてる神器は2つ。
神眼では何の神器か分からなかった。
取り敢えず回収しとくか……
これでこの場ですることは何もなくなった……
傷ついた竜人族の兵達は、それぞれのドラゴン達の亡骸を抱え門をくぐった。
次いでルキウスとローゲ、白竜ハクラも門をくぐった。
俺はふと後ろを振り返った。
「…………」
誰かに見られてるような……
「竜斗さん、どうかされました?」
サラは両手を前に出し、ゲートを発動させたまま俺が見つめる方に目を向けた。
「いや、何でもない」
俺はそう言い残しサラと共にゲートをくぐった。
◆
ー誰も居なくなったゼータの居城周辺ー
「危ない危ない」
「気づかれたかな?」
「いや、大丈夫だと思うよ」
「でも彼、最後こっちに振り向いたよ」
「だね、気配は察したのかも」
「次はもっと気をつけよう」
「それがいいね」
「それにしても彼……強いね」
「強い」
「強い」
「強い」
「何者なんだろ?」
「どうやら人間みたいだよ」
「人間は分かるけど強すぎる……どうみてもSランクを超えてる」
「【薔薇】が子供扱いだったね」
「それに彼と薔薇の会話聞いた?」
「聞いた」
「聞いた」
「えっ? 何のこと?」
「彼が【竜騎士】を仲間にするって話……」
「あ~それか~……」
「どう思う?」
「なんとも言えない」
「だね」
「薔薇を惑わすための作戦かも知れないし」
「もう少し様子を見てみようよ」
「彼を判断するにはまだ情報が足りない」
「そうだね」
「【渡り鳥】と一緒に居たのも気になるし」
「そうなると本当に彼何者なんだろ?」
「分からない」
「判らない」
「解らない」
「でも彼……いい人間だったね」
「……」
「……」
「……」
「……ごめん、早計だったね」
「まぁその辺りも、ね」
「でも……」
「彼なら」
「彼なら」
「もしかしたら」
「もしかしたら」
「僕の・・うと・・・けて・・る・・」
「僕の・・うと・・・けて・・る・・」
そう言い残し空中に漂う何かの気配はなくなった。
◆
ドラグナー国、南方周辺
平原に陣取り、その場には俺、ガオウ、サラ、そしてルキウス……そして4人を取り囲むようにしてドラグナー国の民たち50人ばかりが居た。
皆、座り込みその様子を固唾を飲んで見守る。
「サラ、ここ平原のど真ん中だけど大丈夫?」
俺は胡座をかいたままサラに尋ねた。
「はい、問題ないです。占術眼でもここら一帯は安全領域になっています」
サラは正座したまま答えた。
占術眼で見ると安全領域はうっすら青く光り、危険領域だと景色が真っ赤に染まるそうだ。
そしてここら一帯は現在青く光ってるそうだ。
因みにだがレイナは今までこの占術眼の力を使ったことがないらしい。
正確に言えば使ったことがないと言うより使えなかったみたいだ。
どうやら【魔眼<王>】は全ての魔眼を使えるといっても、使用するための条件がいるみたいだった。
それは他の特殊スキル所持者が、能力を使用している所を視なければならないらしい。
ただし一度覚えたら後は好きなだけ視れるという羨ましい超絶スキルだ。
レイナ曰く、【千里眼】所持者にも会ったことがないらしく、レイナが一番視たいスキルらしい。
情報収集において千里眼程、役に立つスキルはないらしい。
「よし、なら早速で悪いんだけど……マモン・ルキウス・ドラグナー! 俺達は貴女を仲間にするためにここに来た!」
俺は力強く言い放った。
周りにいたドラグナー国の民達がざわつき始めた。
戸惑いを隠せない様子だった。
「…………」
ルキウスは目をつむり胡座をかいたまま、腕を組んでいた。
するとおもむろに小さく手を挙げた。
それを見た民達は話すのをやめ口を閉じた。
場は静まり返った。
「……仲間とは?」
ルキウスは静かに聞いてきたが、その眼は鋭く俺を睨んでいた。
「俺達は魔族の国を1つに纏めようと思ってる」
俺もまた堂々と答えた。
「そ、それは…!?」
ルキウスの隣にいたローゲが叫ぼうとしていたが、ルキウスが牽制した。
「魔族の国を1つにか……出来るのか?」
ルキウスは再び尋ねた。
「俺達は出来ると思ってる、ただ……」
「ただ?」
「その為には強い魔族が必要だ。国を守るためにも、人間に対する抑止力としても、アーク帝国の六花仙みたいな」
「なるほど……だがこう言ってはなんだが私のランクはAランク。お前にとっては足手まといにしかならぬぞ?」
俺は首を横に振った。
「違うな、あんたのランクはSSランクだ」
「!?」
皆は俺の言葉に驚いていた。
「……馬鹿にしているのか?」
ルキウスの眉間に皺がより更に俺を睨んできた。
俺は目をつむったまま首を横に振ると、ゆっくり目を開いた。右眼を金色に輝かせて。
「も、もしや……その眼は……し、神眼なのか?」
ローゲは恐る恐る尋ねた。
「ああ」
「神眼?」
ルキウスは知らない様子だった。
「ま、魔眼と言われる特殊スキルの頂点に君臨する魔眼……それが神眼なのです。あらゆるものを見通し、その者の本質をも見破るとも言われています。その瞳は金色に輝くと……」
ローゲはゴクリと唾を飲み込みながらルキウスに説明していた。
「まぁ、あらゆるものってのはちょっと言い過ぎなんだけど……他の魔眼にはない魔物の弱点や、人の潜在的なランクを視ることが出来るんだ」
俺は軽く神眼の説明に付け加えた。
「……その神眼とやらで視た私はランクがSSあると?」
「ああ、因みにだけどここにいるガオウとサラも潜在ランクがSSある」
「ほう」
ルキウスはガオウとサラに目をやった。
「付け加えるなら……我と、ここにはいないが後2人は既にSランクだ」
黙っていたガオウも口を開いた。
そして7人のSSランクの魔族を集めることも説明してくれた。
「……お前達の言いたいことは分かった。魔族の限界であったAランクを超えたこともな……」
ルキウスはまた目を閉じ考え事をしていた。
「……最後にもう一つだけ聞かせてくれ」
ルキウスは尋ねてきた。
「何?」
「竜斗、お主が強いのは分かった。命も救われた。感謝もしている。それでも敢えて言わせてくれ……私に人間の下につけと?」
ルキウスの全身から魔力が立ち込める。
竜人の威圧が俺達3人を襲った。
サラの額からは汗が流れた。
ガオウは微動だにせずギリギリ耐えた。
そして俺は納得した。
なぜレイナが指揮系統を2つにしたのかを……言葉では分かっていたが本当の意味で理解できたのはこの時が初めてだった。
先程のルキウスの言葉通り人間の下につきたくない者にはレイナの名前を出せばいいのだ。
そうすれば少なくとも自分達は人間の下についてないというプライドは守られる。
「違うな……確かに俺はリーダーみたいな位置にいるけど、正確にいうなら、アルカディア国の国主はレイナだ。俺の下につくと思うのは勘違いだ」
「レイナ……? まさかっ!? 魔戦姫レイナのことか!?」
ルキウスの放たれていた魔力が一気に収縮されていった。
「あ、ああ……そうだけど」
食い気味に尋ねてきたルキウス少し驚いた。
「ふっ、ふははははははははははっ!! そうか! やはりか!」
信じられないくらいに大きく笑うルキウスを見て1番驚いていたのはドラグナー国の民達であった。
その表情は、今までルキウスの笑った所など見たことがないという感じであった。
「姫様を知っているのか?」
ガオウが尋ねる。
「いや、会ったことはない。だが手配書を見て興味はあった。私が1番会ってみたいと思っていた女性だ。ふふっ、そうか……あの者が治める国か……」
「ルキウス?」
笑い声が収まると俺はルキウスに尋ねた。
「……分かった。竜斗、お主の仲間になろう。いや、私でよければ是非仲間にしてくれ!」
ルキウスは笑って答えてくれた。
「陛下!?」
ローゲは立ち上がった。
「悪いな爺……もう決めた、私はこの者達の仲間になるよ」
「ですがっ!?」
「それにあの壊れた国を見てくれ……私に王としての器はない、人の上に立つ資格はないよ」
ルキウスはローゲの言葉を遮ったが、その顔は少し寂しげだった。
「……分かり……ました……」
ローゲは黙った。
ルキウスに王の資質が無かったわけではない。
国が崩壊したのもルキウスのせいではない。
出来ればこれからも自分達を導いて欲しいと願った……と、同時に敬愛する人にこれ以上の重荷を背負わせたくないという気持ちもあった。
そうした思いがローゲにこれ以上の言葉を出させなかった。
ルキウスは小さく笑った。
そして俺に向き直ると深々と頭を下げた。
「一つだけ願いがある…………仲間にしてもらうのに図々しい願いではあるが、出来れば我が民達もアルカディア国の民にして頂けないだろうか? お主達の目的が私なのは分かった……仲間になるのも了承した……だが……私にはこの者達を見捨てることもできないのだ……頼む!」
「ああ、いいよ」
「この人数で押し入るのは迷惑だと分かっている! お主達は私以外はいらないと思うかもしれないが、出来ることは何でもする! だからっ……えっ……今……なんて?」
「ああ、だからいいよ……てか元々そのつもりだったし」
俺は軽くあっさり答えた。
ガオウも構わんといった感じで笑っていた。
サラも口を手で押さえ小さく微笑んだ。
「い、いいのか?」
「最初に言ったろ? 魔族の国を1つにするって」
ドラグナー国の皆はお互いの顔を見合わせた。
その顔は戸惑いつつも笑顔であった。
「ははっ……恩に着る」
ルキウスは苦笑し感謝してきた。
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
そしてその場は歓喜に包まれた。
暫くして落ち着くと俺ら3人以外はみんな同じ形に座り直した。
なんだ急に?
「では改めて……我が名はマモン・ルキウス・ドラグナー! 命を救って頂いた恩に報いる為にも貴公……いや、アルカディア国に生涯この命捧げると誓おう!!」
「「この命捧げます!!」」
ルキウスを含む全ての民達が片膝をついて胸に手を当て大声で誓いをたてた。
その眼は鋭く、だが希望に満ちている眼差しであった。
うわ~これが騎士道……なのか?
ガオウやサラは平然としていたが俺はどうすればいいか分からず、なぜか恥ずかしさで一杯だった。
◆
【マモン・ルキウス・ドラグナー】(20)
種族
【竜人族】
クラス
【竜騎士】 潜在クラス【龍王騎】
ランク
【A】 潜在【SS】
先天スキル
【属性<水流>】【身体強化】【威圧】【竜鱗】
後天スキル
【騎乗】【ーー】【ーー】
神器
【ドラゴンテイル】<槍/水/?/A>
【壊】【壊】【壊】【壊】
【ーー】【ーー】




