白と黒
そして現在……
「それで今回の任務な訳ですね」
茂みを少し掻き分けながらルルが納得してくれた。
「そう言うわけです」
ルルの前を歩くアーシャが今までの経緯を丁寧に説明してくれた。
俺達は色々あって、漸くアルカ大森林探索を開始した。
先頭からヒレン、レイナ、アーシャ、ルル、ゼータ、俺。
こういう一列の場合、どういう順番がいいのか分からないが、敢えて先頭は回避した。
何故なら……
「わぷっ!?」
草木まみれのヒレンさんを見れば一目瞭然だろう。
草木を掻き分けるのに、四苦八苦してる。
ありがとう炎王。
流石は七極聖だぜ。
「今までの話の中で幾つか気になることが……」
そんなヒレンさんの苦労など気にもせずルルは再度アーシャに質問する。
「なんでしょうか?」
「話の中で、途中竜斗様と別れて何人かの方が天城に呼ばれてましたよね?」
「ええ、ミランダさん達は帝都守護に関して……」
「いえ、魔物である羅刹と夜叉の事です。修練の後から話に出てきてませんが……」
おお、流石はルル……ナイス質問だな。
「あの2体は……この度、【六花仙】に選ばれました」
「魔物が!?」
ルルの驚きようは半端なかった。
「そうよルルちゃん、私も六花仙に復帰したわ」
「ゼータさんも!?」
「今の六花仙は……私が薔薇、羅刹ちゃんが竜胆、夜叉ちゃんが百合で、ゼロマルちゃんが牡丹、リリーメルちゃんが桔梗よ」
「そうなんですね……ん? 桜花は……?」
当然の疑問。
「皇帝陛下には何かお考えがあるらしくって、桜花は今のところ空席よん。実質私が今の帝国のナンバー2ね、んふ」
「確か……前の竜胆と百合も見つかってるのですよね?」
「んん……オロスちゃんとイルミナちゃんね。あの二人はギルドで楽しくやるみたいよ。何か目的もあるみたいだし、皇帝陛下に謁見してわだかまりもなくなったみたいだしね」
「えっと……霊峰アルカ探索組でしたね?」
「ええ、天使との遭遇はあの組が1番高いです。なのでギルドへの報酬も破格です。相当やる気みたいなので安心してます」
「お金で釣ったのですか?」
アーシャが当然の様に答えると、ルルは少し面白くなさそうな顔をした。
いや、見えないけどね……
でも口調でなんとなく分かる。
「世界の危機とはいえ、人は目の前にぶら下がる欲に勝てないものです」
「……そうですか」
暫しの間、沈黙が続く。
それでも俺達の歩みは止まらない。
てか、こんな草むらの中で休めるか!
◇
「それで……」
「?」
アーシャは再度ルルの方へ振り返った。
「結局、今の私達のトップは誰なんですか?」
「いい質問ですね」
ルルの問いにアーシャは小さく笑った。
「アルカディアの時と同じ感じ」
「?」
この質問には俺が答えた。
「一応全体のトップはレイナと皇帝とジオ王、その補佐にヒュース。で、その下に七極聖と六花仙、四傑と七大悪魔王がそれぞれいるって感じかな」
「一応って事は……」
「ん、戦う際は俺がトップ。補佐にレイナとアーシャ。その下に七大悪魔王の皆ってところかな」
「…………またややこしい事になってますね」
否定はしません。
「ヒュース様の言った通り、竜斗様が新たな王になれば全て解決しそうですけどね……」
「まぁ悪いけど今のところ問題はないし……てか、俺は王になる気全くないから」
この話はもういい加減お仕舞いにしたいな。
◇
談笑しながら暫く歩くと、
「おっ、着いたぜ」
先頭を歩いてたヒレンが立ち止まった。
そこはアルカ大森林内にて、いくつかある拓けた場所だった。
アルカディア国や転移神器の設置場所は開拓した場所だが、ここは唯一自然にそうなっている場所だ。
後は、ラファエルがいた……いや俺が初めて攻略した迷宮跡のみ。
つまりここだけが、何もない筈なのに拓けてるのだ……それもずっと。
「私が初めてアーシャと出会った場所ですね」
「私が初めてレイナと出会った場所ですね」
レイナとアーシャの声がハモる。
前にジェガン達がアルカディア国を襲撃してきた際、あいつらのリーダー格だったオークスが逃げてレイナが最後に追い詰めた場所らしい。
オークスって奴の死体は大分前にアーシャが回収してるそうなので、仏様を見ることはなくて安心してる。
「てか本当にここなのかよ?」
ヒレンが辺りの草を蹴りながらぶつくさと文句を言う。
まぁそれはごもっともである。
「どうだろうな、でも密集してる森の中でここだけ拓けてるのはおかしくないか?」
ゼノは昔言った。
アルカ大森林を隈無く調べたって。
それも約二百年前……アルカディアが村から国に変わってからずっと。
そして、二百年経ってもここはずっと拓けてるらしいのだ。
「何故?」
思わず呟いてしまった。
特に他と変わった様子もない。
なんの影響も感じない。
感じないが……試したいことはある。
「では、手筈通りお願いします」
アーシャに言われてコクリと頷く。
そう、神眼で辺りを視てみる……それが俺達の出した答えだ。
「神眼……」
言わなくてもいいが、何故か呟いてしまった。
そして拓けた場所を神眼で見渡す。
「ん?」
なんか中央の……空間?
空間がグニャリとしていた。
少し気持ち悪くなった。
俺は皆から離れる様に歩き、それに近づいた。
そして、それに手を伸ばした。
「何かあんのか?」
「さあ?」
「私には……視えませんね」
「私もです」
俺の後ろの方で皆がなんか言ってるが、よく聞こえなかった。
何故か、集中を切らしたらそれが見えなくなる気がしたからだ。
そして、グニャリとした空間に手が触れた瞬間だった。
空気を掴む感じで手を伸ばしたからか、急に手が重たくなって俺はそれを掴み損ねて地面へと落とした。
「あった……」
間違いない。
神書だ。
トーマスの爺さんが持ってた赤色の神書とは違い白色だった。
だが、模様からも同一に近いものだと判断できた。
俺は白い神書を拾って表紙を視つめる。
【神書 世界編】
そう金色の文字で綴られていた。
「っと……」
中身が気になるが、今は即時帰還が優先だな。
俺は皆に成果を見せながら、皆の居るところへ引き返した。
皆の顔も、成果があったからか綻んでいる。
だが……
ソイツはいきなし現れた。
俺が瞬きした瞬間だった。
瞼を開いた瞬間、俺と皆との間にソイツはいた。
黒
一言で現すならソイツは黒いナニカだった。
細長く棒人間みたいな形状。
体長は2メートル、いや……膝は弧を描く様に曲がってるし、猫背みたいにグニャリと背中?は曲がっていたから、真っ直ぐな姿勢になれば4メートル近くにはなりそうだった。
辺りの空気も、俺の背筋も凍りついた。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!
「皆逃げ……っ!!!!」
絶刀・天魔を一瞬にして発動させる。
だがそれでも既に遅かった。
皆は既に斬り刻まれ、血飛沫が空に舞い、地面へと倒れ込む。
その光景が物凄くスローモーションに見えた。
いつの間に攻撃したのか全く視えなかった。
「個体名【サタン】確認」
「スキル【憤怒】の所持確認」
「プログラム【神滅】・レベル【1】・スキル【黒撃】により負傷」
「危険度【高】→【低】へと変更」
「個体種別【人間】3、個体種別【魔族】1の存在も確認」
「スキル【黒撃】により同じく重傷」
「危険度【低】維持」
「問題なし」
「捕捉対象、個体名【天原竜斗】確認」
「【神書・白】の存在を確認」
「捕捉した【神書・赤】の存在は未確認」
「危険度【極】」
「プログラム【神滅】・レベル【1】→レベル【5】へと変更」
「これより……」
「対象へのプログラム【神滅】……」
「……開始!」