怠惰とベルフェゴール
はい、恒例の予告詐欺です。
今回の話は、時系列的に前章に当たります。
なので、次話は間違いなく【神書とアルキウス】の続きを描きます。
ご容赦下さい……
アトラス視点です。
ここ……は?
見覚えのない場所……
確か、アーク帝国領の三大景観の1つ【アークの花園】に足を運んでいた筈。
暖かな風が吹き、それを肌で感じながら、ゆっくりと目を閉じた瞬間だった。
俺は見覚えのない場所に転移?していた。
辺りを見回すが一面、白銀の世界。
天使共の罠とも思い警戒したが、何故かそうではないと感じてもいた。
俺は白銀の世界をゆっくりと歩き出した。
何故か立ち尽くすのは間違いだと感じた。
彼方まで続く白銀の野……
進む方向に何かあると感じ勝手に足が進む。
?
先程から何故かとか、感じているとか、随分曖昧だなと自分で自分を笑ってしまう。
「正解だ、よく進むと決心した」
!?
無感情な声。
何故かは分からないが、俺はこの白銀の世界を気に入っていた。そんな場所に似つかわしくない、少し無気力な声。
警戒度が高まる。
「誰だ? ここはどこだ?」
「んん? まだここが何処か分からないのか?」
?
無感情な声は、どこか俺を馬鹿にするような声へと変わった。
「お前は……」
「判ったか? アトラスはベルフェゴール、ベルフェゴールはアトラス。つまり俺はお前で、お前は俺だ」
そう言われて妙にスッキリとした気持ちになった。
その瞬間、声の主が俺の眼前にゆっくりと姿を現した。
いや、まるで最初からそこに居たかの様だった。
「今代のベルフェゴールも勘がいい様だ。まぁアリス程ではないがな」
!?
目の前に座るソイツからその名が出るとは思わなかった。
「もう分かっただろ? ここは、俺達の世界だ」
納得だ。
つまり夢か或いは精神の世界とコイツは言いたいのだろう。
だが……
「で、お前は何だ?」
コイツが言うには、コイツは俺らしいが未だ少し違和感があるのも事実だ。
「んん? 言っただろ、お前は俺……」
「正確には違うのだろう。本当の事を言え」
「…………」
「何故黙る?」
「くくっ、失礼。だが本当にお前は俺で、俺はお前なんだ。まぁそうだな……強いて言うなら、俺は【怠惰】だと言えば分かるか?」
!?
そういう事か……
「どうやら納得して貰えたようだな。つまり、怠惰はベルフェゴールで、ベルフェゴールはアトラスで、アトラスは怠惰だと言うことだ」
っ……
頭の痛くなる言い方をする……
だが理解できてしまう自分がいる。
「もう少し、分かりやすくしろ……っ」
「ふむ……そうだな……ならここでは、【お前をアトラス】、【俺はベルフェゴール】と分けるか」
俺はコクリを頷いた。
「よく怠惰を目覚めさせたな。流石はベルフェゴールだ」
こいつ……
人の話を聞いていたのか?
嫌味ったらしく、分かりにくい言い方を……っ。
「まぁ俺も説明するのはまだ二度目なんだ、悪く思うな」
「二度目……?」
ベルフェゴールは頷いた。
「天魔戦争が終わり、俺達は魔族へと転生した。だが七大罪のスキル【怠惰】を目覚めさせる程の器を持ったのはお前が2人目と言うことだ」
「まさか……一人目は……アリス?」
ベルフェゴールは頷いた。
「まぁアレはイレギュラーだ。本来なら怠惰も機械王の名もお前のものだったのだが、アリスが生まれた瞬間、何故か力が半分以上あの娘に流れていったのだ」
「それは……アリスが転生者だったからか?」
「ん、気付いていたか」
「竜斗が教えてくれた」
「………………天原竜斗、か」
「?」
ベルフェゴールは長い沈黙の後、ボソリと呟いた。
「……話を戻すが、そのお陰でウリエルの眼からお前を隠す事が出来た。あの娘には感謝しなければな」
「!! それは……アリスが犠牲になって良かった、そう言いたいのか?」
カチンときた。
俺にはベルフェゴールがそう言ってる様に感じた。
「例え力が流れようと、本質はお前が俺だ。あの娘が犠牲にならなければ、当時ウリエルに消されていたのはお前になっていただろう」
「撤回しろ!!」
「……何故怒る? その感情はサタンのものだ」
「黙れ!! やはり竜斗の言う事は正しい! アリスが犠牲になって良かったのなら、やはりこの世界は根幹が間違っているのだ!」
「世界か……そうだな、この世界は間違っている」
「…………」
ベルフェゴールは納得した。
「だが、お前がウリエルに殺されていたら、本当に取り返しのつかない事になっていた。それこそ世界が終わっていたのだ」
「どういう事だ?」
「怠惰とは【すべき事をしない事】を意味する。あの娘は動きすぎた。世界を変えていく程の力が動けば、天使に悟られるのも無理からぬ事。あの娘はしなくていい事をしすぎた」
「だからクウマ……いやウリエルに殺されて当然だとでも……?」
「……お前の囮となってくれたのだ」
「っ!!」
まさかアリスは知っていたのか?
俺が動いて天使に気づかれない様にするために……
だから俺を動かさずに、自分が動いていたのか……?
「あの娘が【箱】を持っていた筈だ」
「!?」
「あれにお前の力の半分が入っている」
「なっ……!?」
その言葉に驚愕した。
箱を知っている事にでも、俺の力が入っている事にでもない。
半分という事実に俺は驚いた。
俺はSSランクへと至っている。
なのに、それがまだ半分なのか?
「……あの娘は聡い娘だった。どうやってか【怠惰】をあの箱に封印してくれたお陰で、お前は本来の力を取り戻せる。もしそのままウリエルに殺されていたら……」
ベルフェゴールは言葉を詰まらせた。
「何故アリスはその力を俺に渡さなかった……そうすれば或いは……」
助かっていたかもしれない。
いや、絶対に助かっていた。
そもそもウリエルの標的にされる事もなかった。
どうして俺なんかを庇った……っ!!
「もしSランクで、いきなり目覚めている半分の【怠惰】を得てみろ。器の出来上がっていないお前は、自分のスキルで崩壊していただろう。だからあの娘は【怠惰】を封印していたのだ」
「…………っ」
ん?
ちょっと待て!
「何故あの娘はSランクで【怠惰】が目覚めた? ベルフェゴールの話が本当なら、目覚めた瞬間アリスは崩壊していたのでは?」
ベルフェゴールは黙った。
長い沈黙が続いた。
「……………………俺には分かる。あの娘はきっとアルカ様の加護を受けていた筈だ」
「アルカ様、だと……それに、加護……?」
「…………加護、即ち【神託】だ」
「!?」
馬鹿な!?
「神託とは、天使の言うあの神託の事か!?」
「…………そうだ」
ど、どういう事だ?
天使には魔族を殺させる様に神託しておいて、何故アリスにも?
いや……
まさか……
「まさか、竜斗の言った通り……聖神アルカとは別に、敵がいるのか?」
「…………そ……は、……し……う。……は、…………カ様に…………って、……から……」
っ!?
急にベルフェゴールの声が聞き取れなくなった。
「俺にはこれ以上言えぬ……世界の真実はお前達で探せ」
「…………」
「それと……」
「?」
「最後に1つ。スキル【怠惰】は大事な人達が目の前から消える……いや、大事な人達を置き去りにするスキルだ。目覚めれば、お前は人とは異なる時間を歩むことになる」
「…………っ」
身震いした。
「悪魔であった俺だから操れたスキルだが、魔族には……無理だろうな」
「じ、時間を操るのか?」
「……少し違うな、時を操るのは神々の領域だ。だから……使うのなら覚悟して使え。俺に言えるのはそれだけだ」
すると目の前にずっと座っていたベルフェゴールは徐に立ち上がって、俺に近づいてきた。
少しボンヤリしていた姿が、ハッキリと分かる。
白銀に輝く人形……ベルフェゴールの印象はそれだった。
「アリスは……いい娘だった」
「っ! ああ、そうだな……」
ベルフェゴールが謝罪の意味を込めて言ってくれたのが分かった。
だが俺には自分で自分を慰めてる様にも聞こえた。
それが可笑しくて少しだけ口角が上がった。
◆◇◆◇
「…………目覚めた、のか?」
気づくと一面の花々に囲まれながら横たわっていた。
「…………」
暖かな風が通り抜けていく。
その風を肌で感じながら、今のは俺の妄想が造り出した幻覚だったのではと感じる。
ー兄さんー
「!?」
不意にどこからかそう呼ばれた気がした。
そうだ。
例えベルフェゴールが言った事が本当だったにしろ、俺はもう迷わん。
竜斗や皆と共に歩むだけだ。
アリスが生きているのなら、今度は俺がアリスを助ける番だ。
七大罪の1つ、怠惰……
我ながら自分にピッタリだと思ってしまった。
だが、
もう俺の時は動き出した。
今まで怠けていた分、俺は進む。
例え皆と違う時間を生きる事になったとしても、後悔はない。
その力で皆を救えるのなら!
気づくと手の中に金色の鍵が握られていた。
「アリス……」
俺は微笑んだ。
きっと、さっきの風が運んできてくれたのだと、俺はそう感じる事にした。
◇◆◇◆
【アトラス・ベルフェゴール】(40)
種族
【機人族】
クラス
【白金機王】
ランク
【SS】
先天スキル
【属性<轟雷>】【射撃】【必中】【機体】
後天スキル
【暴走】【銀線】【怠惰】
神器
【黄帝】<銃/雷/弾丸・拡散/SS>
【黄龍】<銃/雷/弾丸・圧縮/SS>
【応龍】<籠手/雷/付加/S>
【麒麟】<具足/雷/噴射/S>
【鳳凰】<胸当/雷/守護/S>
【霊亀】<盾/雷/守護/S>
【貘】<袋/次元/収納/D>
【ギルド編】【闘王祭編】【王国編】の間の約4ヶ月間に、七大悪魔王(6人)は計8つのSSランクの迷宮を攻略してます。
約、半月に一回攻略ペース……
ま、まぁ竜斗くんとレイナさんはたった2人で、数日で攻略するので多目に見てください。
予告。
これからレイナとアトラス以外も目覚めていきます。所持神器が変わっているかと思いますが悪しからず……
攻略数8×手に入る神珠3=24。
内訳はガオウ3、ゼノ3、サラ5、ルキ4、バアル3、アトラス6と、計算上は合ってるかな。
合ってますよね……?