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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第十章【帝国】
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四国同盟と本当の敵



「マジか……あれから1ヶ月以上も経ってるのかよ……」



 天城と呼ばれるこの城の廊下を歩きながら俺は嘆く。

 アーク帝国とホウライ王国との戦、天真戦争と呼ばれるあの戦が終わってからそれだけの月日が経っていた。

 少し正確に言うと既に七ノ月になっていたので2ヶ月近くになる。

 俺的にはあの直後みたいな感覚なのに、変な時差ボケみたいだった。いや、浦島効果か?


 兎に角。

 俺は今レイナと一緒にその天城を歩きながら、久しぶり?に対面する人達の元へと向かっている。

 因みに、俺とレイナの後ろにはフウタ……ではなくゼロマルとメイドのターニャちゃんが付いてきてる。



「でも本当に心配しました……ずっと寝ていたかと思えば、いきなり居なくなるんですもん」


 レイナの瞳が僅かに潤む。



「ごめんごめん、目が覚めたら腹が減ってたから」

「呼んでいただければ直ぐに頼みましたのに……」


 本当はここがアーク帝国の城なんだって事は探索中に気づいてた。

 皆がいる事も城の人達の会話から判っていたから……つい、どこまでバレずにいられるか試してたのが本音の所だ。

 まぁそれも半日と経たずに見つかった訳だが。



「まぁお陰で明日の皇帝の朝飯の肉が食えたけどね」

「…………」


 俺はターニャちゃんの方へ振り返った。


 意外にも楽しい一時を過ごした。

 しかし……

 ターニャちゃんは、俺がゼロマルを倒した後くらいから急にしおらしく(だんま)りを決め込んでいる。

 逃走中はあんなに仲良く話していたのに……あれか?

 放り投げた事を怒っているのだろうか?



「……不潔です、竜斗様」

「何故に!?」


 レイナさんが俺をジッと睨む。

 いや!

 俺だっていつまでも馬鹿じゃない!

 レイナさんがこのセリフを言う時は……いやでも、まさかな……だってまだ出会って一時間くらいだぜ……だからそんな筈は……



「相変わらず女心が分からない様で安心しました」

「なのに凄く辛辣!」


 何故か胸を撫で下ろすレイナさん。

 てか、また心を読まれた?

 う~ん、レイナさんがそう言うならそうなのかなぁ……



「ターニャ、ちゃん……?」

「…………」


 はい、無視!

 絶対違うだろ!



「はぁ、残念な竜斗様」


 はい!?

 何故にため息!?



「某でも分かるで御座るよ」


 マジかよ忍者!?

 教えろよ!

 じゃないとお前の恥ずかしい真名をバラすぞ!




「……着きましたよ」


 ターニャちゃんはやっと口を開いたかと思えば、それだけ言い残した。

 そして一礼すると、その場から立ち去っていった。

 う~ん……

 もっと仲良くなりたかったけど、まぁ仕方ないか……

 また機会があったらにしよう。



◆◆




 アーク帝国・天城4階【円卓の間】。


 廊下から見るその入口の扉は、周りの豪華な雰囲気とは違い割りと質素な扉だった。



「陛下、ゼロマルです。竜斗殿とレイナ殿をお連れしました」


 ゼロマルは片膝をついてそう告げた。

 誰も見ていないのに、なんて忠義心だ。

 徹底してると感心する。



「入れ」


 扉の向こうからそう返事が返ってきた。

 あ、聞き覚えのある声だ。



「はっ」


 ゼロマルはゆっくりとその部屋の扉を開けた。





 時間は恐らく夜の11時頃だと思われる。

 そんな時間によくもまぁこれだけの人数が起きていると素直に感心する。


 円卓の間には、多くの顔見知りがいた。


 部屋の中央はドーナツ型の巨大なテーブル。

 一番奥の……仮に北と呼称するなら、その席には真王ジオが座していた。

 東にアーシャ。

 西に皇帝アーサー。

 入口に一番近い席の南は空いていた。


 それに付随するように、【四傑】エンマさん、ミロクさん、トーマス爺、ミラの4人。

 【七極聖】ガイノス、ライガ、クリス、レインバルト、ヒレン、プリンガの6人。

 【六花仙】リリーメル、ゼータの2人。


 そして【七大悪魔王】ガオウ、ゼノ、サラ、ルキ、バアル、アトラスの6人。


 全員が席についていた。

 ゼロマルはテクテクと歩き、六花仙辺りの空いている席についた。他にもちらほらと空いている席があった。

 レイナが南の席に座ると、俺はその隣の空いている席に座ろうとした。


 しかし、気づいてしまった。

 気付きたくなかった異変。

 それは決して六花仙が半分な事にではない。



「ネムは?」


 そう、これだけの面子が揃っているのだから、この光景はあまりに不自然だった。

 本来?なら東の席に座るべき、女王ネムリスの姿がないからだ。



「それは……」


 アーシャが口を開くが、唇を噛みながら(こら)えるように黙りこんだ。

 嫌な予感しかしない。



「その辺りも改めて話す予定だ」


 皇帝が俺に、先ずは席に着くよう促してきた。

 俺は答えが聞けなかった事に不満を感じながら、渋々席に着いた。



「先ずは……」

「感謝の言葉ならいらない。それより現状を教えてくれ」


 俺は皇帝の言葉を遮った。



「貴さ……っ!」

「はいはい【桔梗】ちゃん、黙って黙って」


 怒鳴ろうとするリリーメルをゼータが宥める。

 改めて見てもリリーメルって人はどこかルキに似てる。

 金髪碧眼で容姿は似てないのだが……あれだ、真面目そうな雰囲気が似てる。

 ゼロマルは黒い装束に身を包み気配を消すことに努めてる。少し俺とキャラが被ってる。



「……そうか。それならそうだな、先ずは此度の戦は天真戦争と名付けられた」

「それは聞いたな」


「……その天真戦争だが、気になった事はないか?」

「ある。寧ろ聞きたい事はそれしかないくらいだ」


「天使ラファエルとやらについてだ」

「やっぱり……」



 アイツだけ現れなかった。

 桜花セツナ……ではなくサンダルフォンはレイナが退けた。

 メタトロン、ウリエル、ラジエルは少し朧気だが俺が退けた(・・・)

 でもラファエルだけ現れなかった。

 ガブリエルの言葉を借りるなら戦闘狂のラファエルがだ。

 絶対に何かある。

 いや、もしかしたら俺が気絶した後に現れたのか?



「そのラファエルだが、天真戦争の最中、ある国に現れた」

「…………神国か?」


「そうだ。そして、神国女王ネムリスは天使ラファエルに拐われた」

「…………そうか」


 薄々、そうだろうとは思ってた。

 アーシャ達の悔しそうな顔に、ラファエルが天真戦争に現れなかった理由もこれで納得出来た。

 そう……

 ネムリスは、ガブリエルの転生体に選ばれたのだ。

 よくよく考えたらネムリスは、ガブリエルのスキル【天啓】によって、ディアネイラの死と引き換えにスキルとランクが入れ替わってる。

 ディアネイラの妹で、スキルがディアネイラと同じなら、ガブリエルの転生体としてはこれ以上ない器だ。



「申し訳ありません、天原竜斗。私が……私達が……いえ、私にもっと力があれば……っ!」

「気にするなアーシャ。今の天使を倒せるのは単体だと俺かレイナくらいしかいない。あんたのせいじゃない」


「竜斗殿、しかし……っ!」


 今度はレインバルトが勢いよく席を立って声を荒げる。

 俺は敢えて答えず、そのままレインバルトに席に座る様促してから、再度皇帝に目を向けた。



「あと最後にもう1つ……俺が寝てた間に何か変わり事は?」

「特にはないが……」


 そう言いつつも結構な事が起きてた事を皇帝はゆっくりと順番に教えてくれた。



 先ずは4国の間に、名前を付けるなら永久平和条約的なのが結ばれた。

 今後一切の他国への侵攻をしないと誓うものだ。


 奴隷制度については、魔族の捕獲はなしとなり、きちんとした契約のない奴隷は魔族も人間も関係なくしないと誓うもの。

 ある種の職業に近いモノで、金に困って身売りした者も一定期間の奉仕活動を終えると奴隷契約は解除されるという……短期雇用みたいな物凄い緩和策だった。

 

 他にも魔族の懸賞金の撤回やらと色々と決まったみたいだが、政治的なのは難しい内容で正直覚えきれない。

 スラスラと何も見ずに言える皇帝はやっぱ凄いと感じた。

 そうして……アルカディア国、スレイヤ神国、ホウライ王国、アーク帝国の4国は、統一ではなく同盟という形で決着がついたのだ。



 つまり俺が間抜けにも寝ていた間に、レイナの夢は叶う形となった。

 でも、本当の意味でのレイナとの契約はまだ成されていない。





「他にはあるか?」

「取り敢えずは、ないかな」


「そうか、なら次はこちらの質問だ」

「?」


「いや質問ではないな……これは、お願いだな」

「?」


「我々4国同盟は、天使共を駆逐する! 我々に力を貸してくれ天原竜斗!」

「…………」


 全員が俺を見つめる。

 皆それぞれに様々な感情があるだろう。

 尊敬していた者、愛する家族に、大切な仲間……ここにいる皆はそんな大事な人達を天使達に踏みにじられた。

 レイナ達、魔族に至ってはその存在すら嫌悪されている。


 これから皆が平和に生きていく為には、天使達は絶対に倒さないといけない。

 皆の決意の灯った視線が俺に集まる。



 だが、

 敢えて言おう!



「断る!!」



 そう言った瞬間、その場にいた殆どの者達が立ち上がった。

 立ち上がらなかったのは、3国の王とアーシャの4人。



エンマ「何故だ!?」

バアル「ふざけるなよ!!」

ミロク「竜斗、カルラを見殺しにするのか!?」

ヒレン「てめぇ、ネムリス様を……っ!!」

クリス「天使に乗っ取られた人達はどうするのです!?」

ガオウ「天使と戦うのではないのか!?」

アトラス「アリスの仇は討たないのか!?」

ライガ「どういうつもりだ!?」

プリンガ「信じられない……」

リリーメル「我々の力にはならぬというのですか!?」

ミラ「竜斗様……」



 その反応は大方予想できたな。



皇帝「何か考えがあるのか?」

真王「……天使共は野放しには出来んぞ?」

アーシャ「……まさか1人で?」


 この3人は流石に冷静だった。

 だが表情を見れば、内心穏やかでない事は明白だった。

 俺は隣に座るレイナを見つめた。



「レイナ」

「はい」


「レイナが俺にした契約覚えてる?」


 俺がした契約ではなく、レイナが俺にした契約だ。



「…………魔族の国を安定させるのを手伝って欲しい、です」


 レイナは少し探るように一言一言丁寧に答えてくれた。

 俺はそれを聞いて頷いた。



「おいおい、まさか4国が同盟を結べたからその契約ってのも終わり、そういう訳か!!」


 ヒレンが怒鳴る。

 けど無視。



「確かにヒレンの言う通り、レイナの願いは叶ったと思う。こうして3国との同盟も成されたし、魔族の国はこれから安定すると思う……もう人間達から怯えて暮らす事はなくなった」

「そう、ですね……」


 だがレイナの表情は浮かない。



「でも、まだ天使はいる。あいつらをなんとかしないと、魔族は本当の意味で安心しては暮らせない。だろ?」

「……はい」



「なら何故だ!?」

「そうだ、何故だ!?」

「だからこそお前の力が必要なのだ!」

「我々に協力する気がないのか!」

「天使を倒すのではなかったのか!?」


 また皆が俺を責め立てる。

 でもまだ無視。



「でも……レイナは俺に言ったな。皆が仲良く暮らせたら……って。天使を倒して、それでレイナの夢は叶うのか? 魔族だけが幸せで、人間と天使は幸せじゃなくていいのか?」

「それは……ですが……」


 レイナは口ごもる。

 皆は俺が何を言いたいのか分からないからか、ザワザワとしてる。

 俺の想いに気づいたのはゼノだった。



「つまり……天使も護る、そういう事か?」

「ああ、ゼノの言う通りだ」



 この言葉に憤慨したのはアトラスだった。


「約束が違うぞ竜斗! 【死神】クウマは殺すと約束した筈だ!」

「でもそれだとエンマさんや王国の皆が、今度はアトラスを殺そうとする」


「ならどうするのだ!? ガブリエルのスキルとやらでウリエルを体から出せばいいだけの事だ!! なぜ奴等を庇う!! アリスの、お前の姉の仇だぞ!!」


 普段は冷静なアトラスが激昂していた。

 それだけ智姉の、アリスの事を想ってるのだろう。


 皆は黙った。

 苛立ちを隠せぬ者や、何か思案してる者等、様々な反応をしていた。

 そして、数分だけ続いたそんな静寂を終わらせたのは真王ジオだった。



「なら、お前の考えを聞かせろ天原竜斗。お前の言葉は断片過ぎて今一要領を得ない。お前は何がしたいのだ?」



 皆が静かに俺を見つめる。



「皆は勘違いしてる。いや……勘違いではないんだけど、俺達には……人間と魔族と天使には、倒さないといけない本当の敵がいる」


「「なっ!?」」


 皆が驚く中、俺は言葉を続けた。



「天使は言った、【神託】だと。なら天使達に命令?してる奴がいる筈なんだ。そいつを倒さないと魔族はずっと狙われ続けるし、人間は天使の転生体に選ばれる」


「神託……いや、ですが……そんな筈は……」


 アーシャがぶつぶつと呟く。



「どうしたアーシャ?」

「それはおかしい……神託と言うことは天使達に命令したのは【神】、という事に……」


「そうだよ」

「あ、有り得ないっ!! だって……」


「だって?」

「こ、この世界にいる神はただ一柱のみ……」


「唯一神だっけ?」

「…………ええ、唯一にて絶対の存在……その名を口にする事すら畏れ多い……」


 皆の額から嫌な汗が流れてる。

 そりゃそうだ。

 だって俺はこう言ってるのだから。



「その名は?」

「…………せ、聖神……アルカ、様……」



 この世界で唯一にして絶対の神、聖神アルカを倒そうと。





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