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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第十章【帝国】
275/318

アーク帝国とホウライ王国⑭


一部、訂正しました。




 レイナとサンダルフォンとの戦いは決着した。

 サンダルフォンは、腹部を貫かれて殴り飛ばされた。

 レイナの方は、サンダルフォンを倒した後、眠るように気絶した。


 途中、嫌な感じがしたけど恐らく大丈夫だろう。

 ガオウや皆が、レイナに駆け寄って介抱してるし無事を信じよう。

 取り敢えず……



「あっちは決着が着いたな」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……そう、か……」



 息を切らしながら皇帝はチラリとレイナ達の方を見たが、直ぐに視線を俺へと戻した。



「何故だ……何故、俺を殺さん……」


 皇帝は小さな声で尋ねてきた。



「…………分かってるだろ。俺もお前も殺した人達の分を償なって、きちんと生きないといけない。人を殺したから、死んでもいいなんてフザけた覚悟は間違ってる。誰かを殺したのなら、その分きちんと生きるべきだ」



 うん。

 これが俺の今の答えだ。

 償う方法は未だ分からないけど、命を投げ遣りにするのは違うと思う。

 勿論、償うなら殺していい理由にはならない。

 けど、精一杯生きて償い続けるべきだ。



「成る程…………だが、俺を生かしても再びまたこの世界に戦禍を広げるぞ! 何年、何十年掛かろうが! アリスを殺した罪は、必ず世界に償わせる!!」


 世界に復讐する……それが皇帝の答えだった。

 俺はその答えを聞いて、必死に抑えていた感情が溢れ出した。



「そんなこと……そんなこと! 本当に智(ねえ)が望んでると思ってんのか!!」

「っ!? と、智ねえ、だと……? お、お前は……」


 まさか、嘘だ……皇帝はそんな顔をしている。

 体を震わしながら一歩後退した。

 だから俺は、俺の名を皇帝に告げた。



「俺の名前は、天原竜斗。天原智歌は……俺の姉ちゃんだ!」


「なっ!? バカ、な……バカな……そんなこと……あり得ん……何年も……探し続けたのだぞ……」



 皇帝は更によろめいた。

 そして、俺の読みは当たっていた。

 もしかしたら勘違いかもと思ったが、皇帝の反応で全てが当てはまった。



「アリス・ベルフェゴールは智姉なんだろ?」

「…………そん、な…………」


 俺の問いを無視して、皇帝は力なくその場に座り込んだ。

 俺は皇帝の傍に歩み寄った。



「なぁ、あんた……智姉は確かに口は悪かったし、直ぐに兄貴と喧嘩してたけど……本当はすごく心配性で優しい人だって知ってんだろ? そんな智姉が……こんな……こんな下らない争いを、本当に望んでると思ってんのか!」

「っ……」


 俺は皇帝を見下ろしながら説教した。

 皇帝は僅かに体を震わせたが、それ以上の反応はなかった。



「前にアトラスにも言ったけど……智姉は、生き方に後悔する人じゃない……確かに味方にも人間にも裏切られて殺されたかもしれないけど……世界を憎む様な人じゃない」


「だったら!! だったら、誰が! 誰がアリスの無念を! 誰が智歌の無念を……晴らすというのだ…………」


 皇帝は俺の服を力強く握り締めるが、ズルリと滑らすように力なく離していった。

 瞳からは涙が零れ落ちていた。



「人間を殺したら? 死神クウマを殺したら? アリスを裏切った魔族を根絶やしにしたら? 世界を壊せば? そんなことで智姉が返ってくるとでも思ってたのかよ!!」

「……!」


 俺は皇帝の胸ぐらを掴んで立ち上がらせると、そのままおもいきり顔を殴り飛ばした。


「っ!!」



 そして倒れた皇帝に馬乗りになると、また、胸ぐらを掴んだ。



「あんたがやるべきだったのは、世界への復讐なんかじゃない! あんたが! あんたこそが!! 智姉の意志を継いで、世界を1つにしないといけなかったんじゃないのかよ!!」

「お、俺は……俺は……」



 皇帝からも、俺からも、大粒の涙が零れていた。


 死んだ智姉が可哀想だ……

 1番愛してた人が、1番智姉の期待を裏切った……

 世界を1つにするのではなく、世界をゼロに壊す道を皇帝は選んだ……

 そんなの……

 智姉が可哀想だ……



 俺は込み上げてくる怒りを抑えられず、もう一度皇帝を殴り飛ばそうと、拳を振り上げた。

 だが……



「それくらいにしておけ竜斗……」


「アト、ラス……」



 振り返ると、アトラスが俺の振り上げた腕を掴んでいた。

 そしてゆっくりと首を横に振った。

 それを見て俺は腕に込めていた力を抜き、立ち上がりながら皇帝から数歩離れた。



「竜斗、お前の拳は人と魔族の希望だ。俺やこいつの様な愚かな奴を殴るには勿体ないぞ」

「ん……」


 アトラスは優しく俺を諭してくれた。

 俺は涙を拭いながらコクリと頷いた。



「…………久しいな、我が友アーサー」

「アトラス……お前は……」


「愚かな選択をしたなアーサーよ。お前はアリスの想いを踏みにじったのだ」

「俺は……俺は……っ…………唯、アリスの事を……」


「分かっている。俺も同じだ。お前と同じ様に道を踏み外しかけたが、ここにいる竜斗に諭された」

「…………」


「今でも、他の魔族や人間を許せないし、許そうとも思わん……」

「アトラス……」


「だが、アリスは……お前の愛した女性は、俺の最愛の妹は、竜斗の姉なら、全てを許すのではないか……俺はそう思っている」

「…………」


「だから護ろうと決めた。魔族も人間も、この世界もな」

「アトラス……俺は……」


「今ならギリギリ、アリスなら許してくれるさ。俺と……いや、俺達と共に別の道を歩み直さないか?」


 アトラスは優しく微笑み、皇帝に手を差し伸べた。



「俺は……俺は………………うおあああああっっっっ!!!」


 皇帝は手で顔を覆い、仰向けになったまま、叫ぶように泣き叫んだ。



 それを見て俺とアトラスは、小さく微笑んだ。


 終わったんだ、と。

 でも沢山の人達が死んだ……

 皆、死んでしまった……

 勝者も敗者もない、ただただ虚しい戦だった。

 そして生き残った俺達は、どんな形であれ、その罪を償わなければならない。


 それに、ほんの小さな、まだ確信のない、微かな希望……

 以前、サンダルフォンの言った事を信じるなら、皇帝にもまだ救われる道が残ってる。




「ところで……」

「ん?」


 気づくとサラが俺に近寄ってきていた。



「何故、あそこから大勢の人達の気配がするのでしょうか?」

「え?」


 サラは、【破星】の攻撃で死んだ皆がいた辺りを指差した。

 それと同時だった。



ードンッー



 まるで爆発するように、地面が上空へと吹き飛んだ。

 まさか……!




「な、なんとか助かったな……」

「ああ、危うく生き埋めになるところだった……」


 吹き飛ばされた地面から出てきたのは、ミロクさんとエンマさんだった。



「い、生きてた……ははっ、皆……生きてた……」


 嬉しくて震える。

 すると、二人に続いて続々と死んだと思ってた皆が這い上がってきた。

 ザイルのおっさんに、マツゲくん、ギルド【風林火山陰雷】の皆に、帝国兵の奴等もだ。

 皆、生きてた。



「ふむ、どうやら戦も終わったようだな」

「知らない魔族がいるな……竜斗が伝言を頼んだ仲間か?」


 ミロクさんとエンマさんは戦場を見渡しながら冷静に状況を分析している。

 すると2人目掛けて勢いよくミラちゃんが抱きついた。


「うわ~んっ!!」


「ミ、ミラ!?」

「お、おい止せ!」


「ふえ~ん……皆さん無事で良かったです……本当に無事で、良かったですぅぅ…………えぐっ、えぐっ、ぐす……」


 ミラちゃんは年相応に嬉しそうに泣きじゃくっている。

 こらこら、またジオ王の護衛を忘れてるな。

 まぁ、後ろからジオ王やトーマス老も近づいてきてるから、多目に見るか。


 ん?

 更にその後ろに見たことある魔物の姿があった。

 羅刹王と夜叉姫。

 レイナの言ってた事は本当だったんだ……



 徐々に皆が集まり出す。

 王国も帝国も、魔族も皆一ヶ所に集まり出した。

 魔族の中にはドラグナー国の者もおり、涙しながらルキと感動の再会を果たしている。

 王国兵やギルドの皆も生きてる事を喜びあった。

 そして帝国は……



「陛下!」

「陛下、ご無事で!」


 女騎士と忍者みたいな奴が皇帝の体を支えている。



「すまん……リリーメル、ゼロマル……俺は……っ」


「何故謝られるのですか!」

「そうです! 謝るのは敗けてしまった我らの方です!」


 どうやらリリーメルとゼロマルは【六花仙】らしい。

 全然見なかったな……

 あ、レイナが倒したんだっけ……



「ん?」


 久しぶりに見る顔を見つけた。

 そいつは普段と違い真面目な表情で、俺の傍を横切り、皇帝へと近づいた。



「お久しぶりです、皇帝陛下」


 そいつはバッと片膝を着いて頭を垂れた。



「ゼータ……か……」

「はい、皇帝陛下……」


「ゼータさんっ!」

「ゼータ殿! 何故、貴殿が!!」


 リリーメルとゼロマルが声を荒げるが、それを皇帝は制止させた。



「お前がここにいると言うことは……そちら側についたのか?」

「…………いえ、正確にはアルカディア国です。私はここにいる竜斗ちゃんに敗れ、レイナ王の元に下りました……今回は、竜斗ちゃんの仲間である魔族をここに転移させた、それだけです……」


 前に、皇帝陛下を裏切らないと言っていたゼータ。

 だから今回は戦闘には参加せず、転移だけに集中した。

 それでも、それはゼータにとって許しがたい行為だった様だ。



「そうか……」

「申し訳ありません皇帝陛下……誓いを破り、陛下に背いた愚かな騎士に罰を……っ!!」


「よい……頭を上げよ、ゼータ」

「陛、下……?」


「よくぞ、彼らを呼び……愚かな俺を止めてくれた……お前の変わらぬ忠義に感謝する」

「陛下……っ!!」


 ゼータは涙を流しながら、再び頭を垂れた。

 同時に、生きていた全帝国兵も皇帝に向けて一礼した。

 それは、まさに王に仕える美しい騎士達の姿だった。



「止めるのだ……俺は……俺は……お前達を…………っ」


 皇帝は懺悔しようとした。

 が……



「初めて会うな、アーサー王よ」

「ジオ王、か……?」


 今度はジオ王がゆっくりと近づいてきた。

 その後ろには四傑の、エンマさん、ミロクさん、ミラちゃん、トーマス老の姿があった。



「今回の戦には勝者も敗者もない、そうだな?」

「…………そう言ってもらえると幾分か助かるな」


「余もかつて過ちを犯し、今は愚王として王国に全てを捧げておる」

「そうか……」


「そなたにも必ず償う道はある。それまで命を噛み締めて生きるべきだ、皇帝よ」

「そうだな……決して償いきれるものではないがな……」


「陛下……」

「アーサー王……」

「陛下……」


 皆から悲壮な表情が浮かんでいた。




「あーーーー終わった、終わった! ホント疲れた! 帰って、たらふく飯食いて~!」



 俺は高らかに叫んだ。



「竜斗、お主……」

「緊張感の欠片もねぇな」

「ふふ、竜斗さんですから」

「やれやれ」

「全く、疲れたのはこっちだよ」

「竜斗、お前……」


 七大悪魔王6人は呆れていた。



「本当にお前がいてくれて助かったぞ」

「全くだな」

「は、はい……お二人のお陰で戦争は終わりました」

「フォフォフォ、老体にはちと堪えたわい」


 四傑が感謝してくる。



「陛下、立てますか?」

「ああ」

「ゼータ殿も手を貸して下さい」

「了解よ、ゼロマルちゃん」


 六花仙が皇帝を労る。



 その瞬間、穏やかな空気が流れ、ここにいた全員からほんの小さな笑みが溢れた。

 それは伝染するように、皆へと広がっていった。


 決して許されるべき事ではない。

 それでも、これから皆で歩める道を、皆で探すしかない。

 だから俺は……


 狡いことなのは分かってる……

 それでも……

 今だけでも……

 例え仮初めでも……

 皆から笑顔が見れるのならと……

 【王気】を使ってしまった。



 そんな中、ジオ王が皇帝に話しかけていた。



「それに我らの本当の敵は別に在る、そうだろう? これからは手を取り合って……」


「待て……一体、何の話だ……?」




◆◆



【??側】



「魔力徴収率……85%! くく、これなら充分だ!」

 メタトロンは勝利を確信するように微笑んだ。


「やれやれ、帝都に住まう人間が死んでしまいますよ」

 だがウリエルは止める気などなかった。


「ヒヒ、みんな絶望するかな~?」

 ラジエルは楽しそうに笑う。



「ラファエルは?」

 メタトロンは尋ねた。


「直に帰ってくるかと……」

「ヒヒ、あいつら吃驚するだろうね。僕達の本当の目的を知ったら、ププ」


「なら……我らも出るぞ」

「了解です」

「了~解」


「絶望せよ! 穢らわしい魔族と、それに与する者共よ! 天の裁きを受け、大地に還るがよい!!」





戦争が終わって直ぐに、人々から笑顔が出る筈はなかった。

そんな簡単に相手を許せるのであれば、世界に戦争なんて起こらない。

だから竜斗は怒りや憎しみ、悲しみの連鎖を王気によって、ほんの小さな笑顔に変えた。

それは洗脳に近い行い。


ただ……

竜斗は願った……


【互いにほんの少しだけ許してあげよう】


そう願い、静かに王気を放ったのだ。

それは人として許されざる行為なのかもしれない……


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