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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第十章【帝国】
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アーク帝国とホウライ王国⑫



 空は黒雲。

 緑の草原は焼野原になり、土と砂は風に舞っていた。

 もはや戦場にて神器を奮う者は殆どいなかった。

 気を失っていた者は徐々に目を覚まし、生き残った者は固唾を飲んでこの戦の終焉を見守る。





「これで、終わりにする……」



 俺は呟いた。

 絶刀・天魔とは別の刀の神器をその手に握り締めて。

 そして【森羅万象】に代わる新たな神器も発動させた。



【虚空神刀・竜魔】<刀/無/属性無効/SS>

【天地神明】<籠手/炎水風雷地/付加/SS>



 虚空神刀は、黒色メインで所々銀色が散りばめられている。

 天地神明は、見た目森羅万象とさほど変わらない。

 強いて言えば前よりもっと黒く、革の手袋みたいだった森羅万象とは違い、肌にピッタリとくっついているゴム手袋みたいに薄いものだった。

 柄を握る感触が以前より直に伝わる。



「…………」



 レイナは黙したままだ。

 ただ相手を見つめる眼差しは鋭い。

 手と脚には新たな神器が発動されている。



【虚空神刀・魔竜】<薙刀/無/属性無効/SS>

【銀麗歌】<具足/次元/衝撃/SS>



 レイナの虚空神刀は銀色メインで黒色が散りばめられている。俺のとは色の割合が反対だった。

 銀麗歌は前の銀鶴と大して変わらない……

 ただ放つ魔力量は以前と桁違いで、レイナの全力に耐えられる程だ。



 俺とレイナの対・天使用の神器。

 絶刀・天魔が攻めの神器なら、この虚空神刀は受けの神器だ。

 ガオウ達と同じで天使達は皆、属性を持ってる。

 それも最上位の属性スキル。

 それを封じる為の属性無効の神器だ。



 対して皇帝とサンダルフォンは何の神器も発動させていない。


 サンダルフォンのステータスを視ると以前と所持している神器が違った。

 ランクZEROもランクSSの神器も外されている。

 どれもランクS以下の神器ばかりだ。

 まるで……

 天使ではなく、帝国の六花仙【桜花】セツナとしてここにいるみたいだ。


 そして皇帝だが……意外にもランクはS。

 真王ジオと女王ディアネイラはランクAだった。

 王の中での単純な強さだけでいうと3人の中で1番強い。

 あ……レイナがいるか。


 それと皇帝の頬を掠めたアトラスの銃弾。

 SSランクになったアトラスの攻撃が掠めた程度なのを不思議に思ったが、近くにサンダルフォンがいたので納得した。

 雷属性が無効化されたのだろう。




「人間の小僧と魔族の娘よ、見事だった。まさか俺の作戦がお前達2人に阻まれるとはな……」



 皇帝は俺とレイナに言ってるが、視線は俺達の後ろのアトラスの方をちらちら向いていた。

 余程気になるらしい。



「国としての勝敗は決したが、俺はまだ死んでおらん! この戦を終わらせたいなら俺を殺してみろ!」



 なに……言ってんだ……っ!


 俺の拳が更に強く握られる。


 だったら……最初からそうしろよ……っ!

 敵も味方も巻き込んで……

 魔物までけしかけて……

 勝敗なんか無いような戦略なんかたてんじゃねーよ……っ!



「お前はっ!」


 俺が何か言い切る前にレイナがそれを止めた。

 片手を俺の前に出すと、少しだけ俺より前に出た。


「レイナ……?」


 レイナは俺に向いてニコリと微笑むと、更に鋭く皇帝を睨んだ。

 う……こ、怖い……



「初めましてアーク帝国・皇帝、アーサー・アーク・ベオウルフ王よ……私はアルカディア国・女王、レイナ・サタン・アルカディアと申します」


 レイナは敬意を示しながら一礼する。



「魔族の王か……その様な国がこの世界にまだ有ったとはな……」

「はい……アルカ大森林にて数百年、細々と暮らしております」


 嘘つけ!

 とは、流石に空気をよんで突っ込まなかった。



「それで? それが、どうした?」

「はい。何故このような凄惨な戦を仕掛けてきたのか尋ねたく思っております」


 レイナの問いに皇帝は小さく鼻で笑った。



「簡単な事だ、全て滅する為だ」

「全てとは?」


「言葉の通りだ。人も、魔族も、魔物も、迷宮も、大地も、空も、世界全てだ」

「……愚かな」


「何?」

「それでは何も残りません。いえ、悲しみだけがこの世界に残ってしまいます」


「それが、どうした」

「……何故……何故っ! 何故このような戦を! 人も魔族も解り合えます! 手を取り合えば世界は……平和で、優しい世界になるのに!!」


 レイナの塞き止めていた感情が爆発した。

 ずっと冷静に保っていたが限界だったようだ。

 レイナの悲しい叫びだけが戦場に響いた。



「お前こそ愚かだな」

「!?」


「人と魔族が解り合える……だと?」

「はい。現に私達は……」


「だったら……だったら何故アリスは死んだ!! 彼女ほど世界の平和を望んだ者はいなかった!! 解り合えるなら何故彼女は死ななければならなかった!!」

「それは……」


「教えてやろう魔族の王よ! アリスを殺したのは人間と魔族だ!! 手を差し伸べた彼女の想いを踏みにじり! 裏切り! 人に売ったのは魔族達だ!!」

「…………」


「機人族だった彼女は同じ魔族に裏切られたのだ!! そして! その魔族達を(そそのか)したのは死神クウマだ! 王国が! いや、人間が彼女を殺したのだ!!」

「…………」



 皇帝の……悲しいまでの怒りの叫びが耳に残った。

 アトラスから大体は聞いていた……

 でも皇帝の怒りがここまでだとは知らなかった……

 それほどまでにアリスを……



「人と魔族が解り合える事などない! いや人間同士でさえ解り合えないのだ!! だから俺は決めた!! 愚かな人間も、魔族も、全て滅ぼすと!!」

「それはっ!! それには理由が……っ」



 レイナが言おうとした瞬間だった。

 皇帝の隣にいたセツナがレイナ目掛けて斬りかかってきた。

 剣の神器の刃には雷が纏われていたが、レイナが薙刀で受け止めると雷は消えていった。



「黙れ! 愚かな魔族よ! 最早この様な問答に意味などない! 陛下の道を妨げるものは全て私が排除する!!」

「くっ! 貴女は!!」


 セツナの攻撃の勢いに押され、2人はその場から少し離れていった。

 セツナ……サンダルフォンが俺ではなくレイナを相手に選んだって事は、よほど皇帝にレイナを近づけさせたくなかったといえる。

 ランクで言えば俺の方がレイナより強いと分かっているのに……




 俺は数歩だけ進んで皇帝に近づいた。



「まだ何か言いたいことがあるのか?」


 皇帝は先程とは変わって冷静さを取り戻していた。



「いや……まぁあると言えばあるけど……取り敢えずあんたは俺がぶっ飛ばす」

「ふっ、それでいい」


 皇帝は小さく微笑んだ。

 やっぱりだ……

 皇帝は死ぬ気なんだ……



「あんたは……殺しすぎた。別に多いからとか少ないからとか言うつもりはない。俺だって同じ人間を何人も殺してきたし」

「お前の方が話が分かるな」


「だから……俺は……お前は殺さない、絶対に罪を償わせる」

「何?」


 皇帝は怪訝そうな顔をしたが、俺は言葉を続けた。



「多分、あんたのこの下らない戦を止める言葉を俺達は持ってる。でも……これは俺のエゴだけど……俺は、あんたをぶっ飛ばさないと気が済まない!」


 俺は一瞬にして皇帝の間合いに詰めた。

 ただその速度は、知る人から見たらいつもより全然遅い動きだった。



「抜刀・地の位 地飛沫!」

「!?」


 地属性を刃に付加させて、黒曜皇馬とかいう魔物の前脚を狙って刀を振り抜く。

 だが黒曜皇馬は両の前脚を上げてそれを躱した。

 いや……躱させた。



「くっ!」


 皇帝はバランスを崩しそのまま落馬した。

 受け身を取り顔をこちらに向けた瞬間には、既に俺は皇帝の目の前に立っていた。



「っ!」

「八双・風の位 暴風殺!」


 刃を反対にして峰で袈裟斬りを放つと、皇帝は槍の神器を発動させそれを受け止めた。

 その槍はルキの突撃槍の形状とは違っていた。

 ルキのがドリルみたいな形状の突撃槍だとしたら、皇帝のは柄が長い大剣みたいな形状だった。



「貴様っ……なぜ刃を……っ!」

「言ったろ、アンタは殺さないって」


 皇帝はしゃがんだまま必死に堪えている。

 鍔迫り合いは完全に俺が押し勝っていた。



「ぐ、く……な、舐めるな!」


 皇帝は力を込めて俺を払い除ける。

 そうなる様に仕向けてるから俺は楽々躱して飛び退く。



「!」


 飛び退いた先には前脚を上げた黒曜皇馬がいた。

 そしてそのままの勢いで俺を踏み潰しにきた。


「悪いな」


 神眼があるし、所詮Sランクの魔物……俺の相手じゃなかった。

 俺は回転しながら躱すと、黒曜皇馬の真横に立ち、そのまま胴体目掛けて柄の先を突き出した。

 黒曜皇馬は悲鳴を上げながら吹っ飛ばされていった。


 そして再度皇帝を見つめ直す。

 皇帝は俺を睨み付けながら、ゆっくりと立ち上がった。



「貴様……それだけの力がありながら何故手を抜く!」

「どこの世界に兎を全力で狩る獅子がいる」


 まぁ俺が知ってる言葉とは若干違うけど、ここは挑発しておく。



「ぐっ……」


 案の定、皇帝は歯軋りしながら俺を更に睨み付ける。



「俺の全力が見たいなら……俺に殺されたいなら、お前の本気を俺に見せてみろ!」


 俺は同時にありったけの王気を放つ。

 だが、流石の皇帝だ……

 俺の王気に当てられても微動だにしない。



「王気まで持っていようとは…………いいだろう、お前は俺の最後の相手に相応しい! 俺の、アーク帝国・皇帝の本気を見せてやろう!!」


 皇帝は槍の先を俺に向けて構える。

 柄を片手で持ち、空いた手を刃に添える。

 体は半身になり、前側の足を前に出して低くしゃがむ。


 あ、この構え見たことある。

 俺の好きな漫画の、新撰組の隊長の構えと一緒だ。

 だったら零距離に注意しないとな。

 それならと俺は再び刀を納刀して居合いの構えをとる。

 左足を前に出したら奥義になるけど、慣れないことはしないでおこう。



「本気には本気で答えてやる」

「ふ、望むところだ」


 俺と皇帝は互いに小さく微笑んだ。




「天宮王陣・皇輝剣槍(ロイヤルセイヴァー)ッッ!!」


「抜刀・灼の位 セルシウス!!」




 皇帝が文字通り突撃し、俺はその場で迎え撃った。

 天地神明で選んだのは【炎と風】の二属性。

 皇帝の神器が白く輝いているのに対して、俺の刃は橙色に輝いていた。



 皇帝の槍と俺の刀がぶつかり、凄まじい衝撃となった。




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