魔眼と兄貴
マナさんから神珠を譲り受けて、袋の神器【1783】に入れようとしたが、入らなかった。
入らないというより、拒否されているような感覚。
試しに神器【森羅万象】を【1783】に入れようとしたが、これも拒否された。
マナさんに尋ねてみたら、普通の物はいくらでも入るみたいだが、袋の神器と同ランクかそれ以下の神珠や神器までしか入らないそうだ。
人や家は?と尋ねたら、そんなことを聞かれたのは初めてだと言われた。
試したら普通に無理だった。
確かに人にもランクがあるから分かるが、家はどうなの?と思った。
入りそうな気はするんだけど、ある程度の大きさまでらしい。
ランク【ZERO】の袋の神器があれば行けそうな気がする。
まぁそれなら際限なく吸い込めるもんな……常識的に考えれば無理か……
神珠は神眼では視れないので、後でララに視てもらおう。
そして先程のマナさんとの会話で気になったことを聞いてみた。
「【魔眼<人>】って何ですか?」
「確か特殊スキルの1つで、人の名前、種族、クラス、ランクが視れるそうです」
「へ~~、そうだ! 【観察眼】ってのは知ってますか? 先日出会ったあまり思い出したくない連中が確か【観察眼】がどうのこうの言ってたんすよ」
「能力としては同じです。人間だと【観察眼】で、魔族だと【魔眼<人>】みたいですよ。私もあまり詳しくは分からないのですが……」
「いえ、助かりました」
俺は特殊スキルについて整理してみた。
◆
【魔眼<人>】・【観察眼】は人の名前、種族、クラス、ランク。魔物のステータス。
【魔眼<地>】は迷宮の種類、フロア、位置。
【魔眼<天>】はスキル名称、スキル能力。
【鑑定眼】は神器・神珠の名称、属性、種類、能力、ランク。
【占術眼】は危険察知能力、安全地帯、未来予測(ある程度なら)。
【魔眼<王>】は上記や他の特殊スキルの能力全部。但し魔力消費がパネェらしい。
【神眼】は人の名前・種族・クラス・ランク・スキル名称、所持神器の名称・種類・ランク、魔物のステータス。
※【神眼】のみ人の潜在クラス、潜在ランク、魔物の弱点。
が、視えるみたいだ。
◆
ガオウの奴、最初の迷宮の時、使わなかったな……
シューティングスターの報告でEランクだと安心してか使わなかったっぽい。
そういえば、あの時ちゃんと視てればランク【ZERO】だと気付けたのか?
それともEランクって表示されてボスモンスターの部屋に入るまでは分からないのだろうか?
後で聞いてみよう。
そして俺は(こっちの世界での)家を後にして、城に向かった。道中当然魔族の人とスレ違うが、別段みんな俺を避ける様子もない。
会釈をすればちゃんと返してくれる。
機嫌を損ねさせたくないから、俺に合わせてくれているのかは謎だが……でもボブさんとジュンちゃんは俺に気を使った様子はなかった。
ならば皆俺の事を少しは認めてくれているのかな?
◆
竜斗はそんなことを考えていたが、実は魔族の国民は既に竜斗の事を認めていた。
それは数日前のソラちゃんとのやり取りがあったからだ。
竜斗がマナさんと話した時も、そんなことでと思ったが、それは魔族にとっては衝撃的なことだったのだ。
こっちの世界での魔族に目線を合わせて、優しく労るように接する人間は存在しなかったからだ。
スレイヤ神国の女王は魔族を忌むべきモノとして捉えている。
アーク帝国の皇帝は、魔族を戦争の使い捨ての駒としか見ていない。
ホウライ王国の国王は魔族を玩具として愛でてはいるが、それは人間として自分達が上位の種として考えているからだ。
当然、人間達のそうした態度は、魔族もすぐに分かる。
ゆえに竜斗の魔族に対する接し方が、自分達の知っている人間とは異なるものだということにも気づいたのだ。
アルカディア国の魔族達は極端な話……竜斗を人間としては見ておらず、良い意味で【竜斗】という種族として捉えていたのだ。
◆
まぁそんなこんなで城に着いた俺は、兵士に案内されて会議室に向かった。
扉を開けて一番に視界に飛び込んできたのは、久々の【ご褒美】だった。
「ごっ、む……」
やはりスライムアタックは強烈だった。
尋常ならざる速さで突撃してくるのに痛みは一切なし!
むしろ柔らかく、フニフニでフワフワなのだ。
「竜斗様! 大丈夫でしたか?」
レイナが心配してくれていたようだが、全然大丈夫じゃない……痛みは無いのに、息が出来ず苦しい。
「もが、もが……も、が……」
俺は昇天しかけた。
「ご、ごめんなさい、竜斗様!」
レイナは勢いよく俺から離れた。
「がはっ……だ、大丈夫……危うく死にかけたけど……」
視線を上げると皆集まっていた。
部屋の真ん中には円形のテーブルが置いてあり、均等の間隔で椅子が5つ置かれていた。
レイナ、ガオウ、ゼノ、サラ、ララ、ルル、少し離れてドワーフらしき魔族が2人、入り口には見張りとしてシューティングスター、そして俺を含めた計10人。
「うむ、1人死にかけたがこれで全員揃ったな」
ガオウが珍しく冗談を言いながら、全員が集まったことを周知させた。
「え、ええ、そうですね……」
レイナが恥ずかしそうに答える。
ララ、ルル、ドワーフの2人、シューティングスターを除き席につくと、今後のアルカディア国の方針(目的)について話し出した。
「では、早速本題ですが、ずばりアルカディア国は竜斗様の提案された通り、魔族の国を1つに纏めます」
レイナはあっさり答えた。
「いいのか?」
俺は聞き返した。
「ええ、竜斗様が提案された時からずっと考えていました。竜斗様の提案された内容にはいくつも問題があった為、最初は【否】として考えていたのですが、サラ達のお陰で解決できそうです」
「問題?」
俺は正直かなり甘い考えで、魔族の国を1つにしようとしていた。
いや、甘い考えというよりも、ほぼ何も考えていないのに近い。
SSランクを7人集めて魔族を1ヶ所に集めれば国防が楽になるんじゃね、ぐらいの考えだ。
「まずは魔族が現在どれほど存在しているかです。例の2国を除き、そのほとんどが魔族間の交流もなく、細々と暮らしています。下手をしたらここアルカ大森林内にもいくつかあるかも知れません」
「いや、姫さんそれはないな。アルカディア国はずっと昔からあんたの先祖が守ってきた国だ。広大で未開、尚且つ神聖な霊峰アルカの麓になるから人間が攻めてこなかった、おかげで数百年間俺達はアルカ大森林をゆっくりと調べてこれたんだ。結果ここにはアルカディア国しかないとわかっている」
ゼノが口を開いた。
「分かっています。私が本当に言いたいのは、それぐらい時間をかけなければ、細々と暮らす魔族の国や集落は見つけられないということです」
レイナもきちんとわかっていた。
「た、確かに……」
ゼノは口ごもった。
ゼノ迂闊!
「一番いいのは俺達がここにいるって世界に教えるのがいいんだけど、それをしたら魔族だけじゃなく人間もくるか……どうする?」
「それはサラが解決してくれました。各国や集落を渡っていたサラたちの一族は、細々と暮らす魔族の者達の位置をある程度把握しています」
「はい、その辺は大丈夫です。私達の情報網を使い、そういった所には使者を送りましょう」
サラは淡々と答える。
「お願いします。ですが強制ではないときちんと伝えて下さい。住み慣れた地を離れたくない者もいるかもしれませんので……」
「恐らくそれはないでしょう。隠れて暮らす魔族のほとんどが非戦闘員です。みないつ人間に捕まるのかという恐怖に怯えています」
「……分かりました。なら受け入れは、いくらでも歓迎であると伝えて下さい」
「了解です」
サラはレイナに一礼する。
「次に土地と家です。ハッキリいって完全に作る側が人手不足です。土地もあり材料もあるのに、全くと言っていいほど人が足りていませんでした」
「ん? でした?」
俺は疑問に感じた。
過去形?
「はい。今まで建築が進んでいなかったのは人手不足が原因です。しかしそれも彼等2人が解決してくれそうです」
するとサラの後ろに立っていた2人のドワーフが少し前に出て、サラの両脇に立つように並んだ。
「俺はドワーフ族のラスだ」
「同じく弟のカルだ」
「…………」
なんか2人合わせてアライグマみたいな名前だな……
背が高い方が兄のラス。声も高く、気持ち弟の方よりスラッとして見える。
弟の方はいかにもといった職人気質溢れる人物だった。声もかなり低い。
「あれ? もしかしてあの時、蹴られてた……」
「はい。あの時は本当に助かりました、竜斗の兄貴」
弟のカルが答える。
あれ?
聞き違いか……今、兄貴って言ったか?
「俺達は、俺達が蹴られた時、怒ってくれた竜斗の兄貴に惚れやした。是非兄貴と呼ばしてくれ」
「いや……もう呼んでるから……」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「はっ?」
俺は戸惑いの色を隠せなかった。
何故に感謝?
「えっ?」
向こうも戸惑っていた。
「なんでお礼?」
「え……呼んでもいいことを承認してくれたのかと……」
疲れる……どんな勘違いだ……
「あっ……いや、もう兄貴でいいです……」
「あっざーーす!!」
「あっざーーす!!」
俺は部活の後輩が出来た程度に感じることにした。
「……は、話を進めますね。この兄弟は造形などに関しては、他に類を見ないほど才能が特化しております。もちろん建築に関しても。1人で10人分以上の働きをします」
サラさんが説明してくれた。
「もしかしてあの水洗トイレを作った2人ですか!?」
俺は勢いよく立ち上がった。
「は、はい。そうですが……」
サラは俺の勢いに若干戸惑っていた。
「す、すみません興奮して。でもあれは俺のいた世界のトイレに凄く似ていたので、是非会ってみたいと思っていました。あれはいいトイレです」
「兄貴に褒められると照れるっすね」×2
「俺のいた世界の物を2人に作ってもらえたらって考えていました」
「勿論です。兄貴のお役に立てれるなら」×2
「ま、まぁその話は後で。取り敢えずこの者達が治水も建築もしてくれることなので、そちらも大丈夫です」
サラが話す横で、俺はゆっくりと椅子に座った。
「分かりました。これで魔族の受け入れは可能です。食料も広大な土地に畑、森の食物もあるので恐らく大丈夫です」
レイナが答える。
「次にSSランクの魔族を集める件だな」
ガオウが口を開いた。
「現在人間と争っている2国。1つが竜人族の女王が治めるドラグナー国、女王の名は【マモン・ルキウス・ドラグナー】だ。2つ目が機人族の王が治める機械国、王の名は機械王【ベルフェゴール】……ここは機人族しかいないと言われている」
「2人ともAランクか?」
俺はガオウに尋ねた。
「勿論だ。竜斗お主が言っていた、神話の悪魔王の名を冠しSSランクになれる可能性があるのは恐らくこの2人だ」
「説得出来そうか?」
「難しいな。だが、ルキウスの方はプライドは高いが力を示せば説得に応じるかもしれん。あそこはアーク帝国と同じで実力至上主義だ。此方の力を示せば……」
「わかった。ベルフェゴールの方は?」
「あそこは現状無理だ。人間とも他の魔族とも関り合いを持とうとしない。魔族に攻撃しないだけで完全に非協力者だ」
俺はサラの方を向いた。
「サラさん、【ベルゼバブ】と言う魔族に心当たりは?」
「残念ながらないですね。私が知る限りでもAランクの魔族は、レイナ姫、ガオウさん、ゼノさん、ルキウス女王、機械王ベルフェゴール、それと及ばずながら私だけです」
「ちなみにだけどこの6人はみな人間から懸賞金がかけられてるぜ」
ゼノが爆弾発言をぶち込んできた。
「は?」
俺はみんなに視線を合わせた。
しかし誰1人俺に視線を合わせようとしない。
こいつら……
「ちょっと待ってくれ! アルカディア国は人間から隠れて暮らしてきたのになんでレイナ達が懸賞金をかけられてるんだ?」
「それは俺達が魔族を救うためにちょくちょく人間達と戦ったからだ」
「だから隠れて暮らしてきたんじゃないのか?」
「ああ、それは姫さんの父親……先代までの話だ。姫さんが国主になってからはかなり派手に暴れてる」
「えっ、ならレイナは女王?」
「はい。ですがまだまだ若輩ゆえ戴冠式を行っておりません。ですから皆もまだ私を姫と呼んでおります」
「いや、まぁそうなんだけど……そういうことじゃなくて……」
俺は手で顔を押さえて俯いた。
「………………」
「竜斗様?」
「スレイヤ神国が、アルカ大森林に軍派遣するの絶対レイナ達のせいだよ」
俺はレイナとガオウとゼノに視線を合わせる。
が、3人とも目をそらす。
こいつら確信犯だったな……マジで先が思いやられる……
「……で、どうされますか?」
レイナが恐る恐る俺に尋ねてきた。
「当然、先ずはドラグナー国だな。そこの女王ルキウスを仲間に引き込もう。ついでにSランクの迷宮を見つけてサラさんとルキウスにSランクになってもらう」
「でしたらドラグナー国に赴くのは、竜斗様、ガオウ将軍、サラの3人ですね」
「えっ? レイナとゼノは?」
「私達には魔族の受け入れや、【ベルゼバブ】という者がいないかの情報収集、機械国やスレイヤ神国の状況も調べなくてはならないので残ります」
「ルルは? 正直、治癒師はいて欲しいんだけど?」
「それならサラ様が治癒の神器をお持ちです。私にもやるべきことがあるので今回は……」
俺はサラを見た。
「確かスキルに【治癒】はなかったと思うんだけど……」
「あれは治癒力を高めるスキルですので、ルルさん程ではないですが私にも可能です。特殊能力【復元】はありませんが【状態異常解除】の神器をルルさんから借りるので多分大丈夫です」
「分かりました」
これで俺達の目的は決まった。
まずはドラグナー国に行きルキウスを仲間にする。ついでにSランクの迷宮を見つけてサラとルキウスをSランクにする。
レイナ達は魔族の受け入れや情報収集。
それが済んだら、ベルフェゴールを仲間にするかSSランクの迷宮だな。
忙しくなりそうだ……
おっと、それと神珠の鑑定だな。




