アーク帝国とホウライ王国⑧
キリが悪いので、少し短めです。
【帝国側】
「なんてフザけた奴だ……たったの一振りで……っ!!」
桜花セツナは巻き起こる粉塵を、腕で顔を庇うようにして遮った。
そして目を細めて、少し遠くにて立つ少年を睨み付ける。
計り間違えた……
内心そう呟いた。
王国との一戦で、彼の弱点に気付いた……これでいつでも倒せると高を括っていた。
だが……今の状況ではそれが出来ないし、仮にしたとしても警戒されれば何の意味もない。
彼の……天原竜斗の強さを計り間違えた。
◆
「む、来たか」
皇帝は僅かに微笑むが、直ぐに冷静になり口角を下げる。
「いつでも撃てるか?」
「は、はい! いけるそうです!!」
皇帝の問いにセツナは答える。
だが、ソレは、未だ戦場には姿を現していなかった。
ただ、遥か後方にて一瞬だけキラリと光った。
気付いている者は未だ誰もいなかった……
◆◆
【王国側】
竜斗が前方の魔物を一蹴したが、左右では激しい攻防が繰り広げられていた。
戦場は混戦を極めていた。
血と汗と涙が飛び交い、死屍累々たる有り様だった戦場は更に激化していった。
そんな中、1人の女性が戦場を舞う。
魔族の王、レイナ・サタン・アルカディア。
彼女は神器を発動させずに、次々と帝国の奴隷となっている魔族を解放していく。
首輪に腕輪、鎖の神器を乱暴に粉砕していく。
解放された魔族は戸惑いその場に立ち尽くす。
「次っ!」
更に範囲を広げて、どんどん壊していく。
そんな中、1人の兵士がレイナの蹴りを槍の神器で受け止める。
「…………」
「ぐっ、なんと強烈な蹴りだ!!」
レイナと兵士は混戦の中、対峙する。
兵士の腕は痺れているのか、僅かに震える。
「抵抗しないで下さい、直ぐに解放して差し上げます」
「ふ、捕縛されている身だ……無茶を言う」
兵士は苦笑する。
かつて人間に捕獲され奴隷となり、今では自分の意思で戦うことすら出来ない身……
苦笑する他なかった。
「竜人族、ですか……」
「まぁ見た通りだ。そっちは、珍しい魔人族の様だな……」
「もしかして、ドラグナー国の竜騎士ですか?」
「っ!? お前……何故それを……?」
レイナの問いに兵士は驚いた。
久しく聞かなくなった言葉だったからだ。
「ふ、お前が竜騎士という言葉を知っているだけで報われる……」
「どういう意味です?」
「最早、竜騎士も我が祖国ドラグナーも滅んだと聞いている……我の竜もかつて戦で薔薇のゼータに殺され、今ではその憎き帝国の操り人形だ……」
「…………」
「だから、我が誇り【竜騎士】という存在をお前の……いや、貴女の様な人の記憶にあるのなら……これ以上の喜びはない……」
兵士は一筋の涙を流した。
「はぁ……」
レイナは兵士と違い戸惑っていた。
兵士の感傷についていけなかった。
「な、何故そのような顔をする!?」
兵士はレイナの呆れた顔に憤慨する。
自分の誇り高い思いが伝わらないのかと!
「あの……確かにドラグナー国は滅んだかもしれませんが、ルキもローゲも、ルークくんも無事ですよ?」
「え、な、えっ……!? ル、ルキウス様が……ローゲ様が……ルーク様が……ご無事……え?」
兵士が困惑する中、レイナは兵士の背後に一瞬で回り込んだ。
そして、廻し蹴りで兵士の首に発動されている首輪を粉々にした。
「なっ……!!」
「ルキは今……我が国【アルカディア国】で最強の竜騎士として、共に戦う仲間であり、私の友です」
兵士は勢いよく振り向いた。
レイナは兵士と目が合うとニコリと微笑んだ。
「ですから諦めないで下さい。この戦が終われば魔族は全て私の国で保護します。貴方の、竜騎士の、魔族の誇りを捨てないで」
レイナはそう言い残すと再び、戦場を駆け巡った。
「…………俺は、俺はまた、ルキウス様の元で、戦えるの、か……?」
兵士は久しぶりに自分の意思で握り拳を作った。
それは戦士の決意。
竜騎士の誇り。
魔族の覚悟だった。
「皆、聞けーー!! 魔族はまだ終わっていない!! 王国に、いや! あの方に続けーーっ!! 帝国に、我らを長年苦しめた帝国に魔族の誇りを思い知らすのだーーっっ!!」
兵士はレイナに向けて槍を翳した。
それを見たレイナはニコリと微笑んだ。
兵士は一瞬でレイナの虜になった。
それが儚い恋とも知らずに……
(女神の為に……!)
兵士はレイナによって解放された魔族を引き連れ、未だ帝国に囚われている仲間を助け出した。
それは波紋のように徐々に徐々に拡がっていった。
「す、凄いレイナ様……こんなあっさり魔族の皆さんを……」
解放されていく魔族を見てミラはまたしても息を呑んだ。
「わ、私達もレイナ様に続くのです! 魔族の皆様を帝国の呪縛より解放するのです!!」
「「おおおおっっ!!」」
ミラの指示で王国兵も魔族の解放に尽力する。
◆
形勢は一気に王国へと傾き出す。
【凶軍】は竜斗によりその数を半分に減らした。
【魔軍】はレイナとミラにより次々と解放され、王国側へとつく。
【破軍】は必死の抵抗を見せるも、四傑の2人に手も足も出なかった。
戦はまだ終わりを見せなかったが、優勢なのは誰がどう見ても王国だった。
誰もが時間の問題だと、そう感じた瞬間だった。
戦場を貫くたった1つの巨大な光の流星……
魔物も人間も魔族も……
その場にいた全ての種族が一瞬にして半分となった……
緑が茂る草原は焦土と化し……
空は煙と灰で黒く染められ……
そこに築かれていた骸の山は跡形も無くなり……
2国を隔てる壁は地平の彼方まで簡単に貫かれた……
一点集中攻撃型決戦神器、【破星】。
アーク帝国の大戦における第四段階。
ウロボロスによって王国兵を薙ぎ倒した後、それら諸共纏めて消し飛ばす神器であった。
種類は【大砲】、属性は【光】、能力は【巨大化・圧縮】。
帝国に属する者全ての魔力をかき集める多重発動のSランクの神器。
集められた魔力の光を圧縮し、ウロボロス並みに巨大な筒から一点に向けて発射される攻撃は、世界を簡単に壊す程の威力だった。
それは……
決して人が犯してはならない領域だった……
何故でしょうね……?
シリアス展開なのに巫山戯たくなってしまいます……(頑張って抑えます!)
【破星】のイメージは……コロニー〇ーザーとビー〇マン(懐かしい!)を足して2で割った感じです。
さて、この章もあと少しです……(多分)
ただ決着後のシーンはまだ考えてません。
キャラクターは、ほぼ出尽くした感じです。
何となく作者の中で終わりに近づいていってます。
読んで下さってる方々、もう暫くお付き合い下さい。