アーク帝国とホウライ王国⑤
更新空いてしまいました、ね。
オリンピックを観ていたのと、何故か短編を書いていたからです。
一万字程度なので、もしお暇なら読んでみて下さい。
【王国側】
「クラフト流剣術奥義・次元殺界!!」
無数の刃の牢獄。
四傑エンマの放つ最大の剣技。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ!」
エンマは上空を見上げながら歯軋りする。
自身最大の剣技が空に浮かぶウロボロスに、かすり傷しか負わせられない。
だが、全く効かない訳ではなかった。
「……っ天羅零掌!!」
そんな中、すかさず四傑ミロクはウロボロスの体目掛けて高く跳躍し、掌底をウロボロスへ叩き込む。
ウロボロスの体が僅かに揺らいだ。
「どうだ……?」
「ああ、全く効かない訳ではなさそうだ……」
ミロクが地面へ着地すると同時にエンマは尋ねた。
ミロクも攻撃が効く事にほんの少しだが安堵した。
だが……
「だが、思った以上に骨が折れそうだ……」
「ああ、なんて防御力だ。【亀種】並みだ。流石はSSランクと言った所か……」
「なんとか弱点が分かればいいのだが……」
「……エンマ、魔物大全は?」
ミロクの問いにエンマは暫し思い出す。
「…………確か、【尾】だった気が……?」
正解であるが、今のエンマには記憶が曖昧で半信半疑だった。
「成る程、だから咥えて隠した訳か……SSランクと言えど弱点を攻撃されるのは嫌とみえる」
ミロクは見上げながら微笑む。
「なら……」
「ああ、エンマはあの顔を斬り飛ばせ。奴が尾を離した瞬間、私の掌底を思い切り叩き込む!」
2人の作戦は決まった。
2人は頷き合う。
2人は全身全霊の魔力を神器に込める。
エンマは2つの神器、王より借りている【宝雷】と四神器の1つ【高天原】に。
ミロクは四神器の1つである籠手の神器【釈迦】に。
「行くぞ!!」
「おう!!」
「クラフト流双剣術奥義・次元宝雷!!」
エンマは今まさに最強の剣術を編み出した。
無数の剣刃と、1つの巨大な光剣。
それがウロボロスの顔を襲う。
ウロボロスの顔は斬り刻まれ、最後に強烈な一撃が真っ直ぐ振り下ろされた。
「グ、グガッ…!」
流石のウロボロスも呑み込んでいた尾を口から離す。
だがまだ足りない。
「ダメ、か……」
エンマは膝を折る。
「続けーーーーっっ!!」
「「うおーーー!!」」
戦場から誰かが叫んだ。
それに呼応し王国全ての兵士が神器をウロボロスへ翳す。
そして、ありったけの攻撃がウロボロスを襲った。
自分達の攻撃が効かないことは分かってる……それでも勇敢に戦う2人の勇姿を見て奮い立たない者はいなかった。
無数のミサイルの様に、遠距離からの攻撃がウロボロスへ浴びせられる。
そして遂に……
ウロボロスの顔が完全に尾から離れた瞬間だった。
「行けっ! ミロク!!」
満身創痍だがエンマは叫んだ。
「これが我々の一撃だ!! 天羅零掌・仏陀!!」
ミロクのありったけの力を込めた、最大の掌底がウロボロスの尾へ叩き込まれた。
叩き込まれた箇所は破裂するように飛散した。
ウロボロスの肉塊や血が下にいた者へと降り注ぐ。
誰もが確かな手応えを感じた。
「や、や……」
「やっ……た……?」
「やったのか?」
「やった……」
「やった、ぞ……」
「「やったぞーーーー!!」」
王国軍は歓喜の声に包まれた。
疑心暗鬼だった王国側だが、次第に確信へと変わり、遂にやったのだと、誰もが喜びあった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
地面に膝を着けるミロク。
もはや立ち上がる力が無い程に、ありったけの力を込めた。
「流石はミロクだ」
喜び合う兵士達の間からエンマが現れると、ミロクは微笑んだ。
「み、皆のお陰だ……」
「そう、だな……これで流れはこちらに来る」
エンマ達は満身創痍であったが、勝利を予感させるには充分な戦果だった。
だが……禍々しい魔力はまだ戦場から消えていなかった。
「お、おい……あ、あれを……!」
1人の兵士が空を見上げて指差した。
その声は戦場によく通った。
そして誰もが空を見上げた……瞬間だった。
見えない一撃が戦場へ放たれた。
◆◆
【帝国側】
「流石は四傑、流石は三国最大のホウライ王国だ。だが……」
「はい、何も変わりません……」
皇帝とセツナはただただ戦場を眺める。
王国側は歓喜に震えていたが、2人からして見ればある意味滑稽だった。
努力と勇気は買う……だが、何も変わらない。
「神話の……SSランクの魔物を完全に倒す事など……不可能だ」
皇帝が言い終えた瞬間だった。
大地に亀裂が走る。
ウロボロスが最初に転移して来た時と全く同じ。
そしてそこにいた王国軍は呆気なく吹き飛ばされ、宙を舞い、その命を散らした。
◆◆
【王国側】
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそっ……!!」
エンマは地に伏しながら必死に立ち上がろうとした。
「かはっ……つ、強すぎる……!!」
ミロクは【万里長壁】の壁に叩き付けられていた。
壊れた壁の残骸に手を乗せ力を込めると、ミロクも必死に起き上がろうとしていた。
2人は満身創痍だった……
纏う鎧も服もボロボロで、体の至るところから出血していた……
それでも……
自分達がやらなければと、心を奮い立たせ、起き上がる……
だが……
ウロボロスは無傷だった。
あれだけの攻撃を……王国軍全ての力を合わせた攻撃が全く効かなかった。
正確には効かなかった訳ではない……ミロクの攻撃は確かに弱点である尾を捉えた。
そして尾は破裂した……だが同時にウロボロスのスキルである【高速再生】が発動し、破裂した先から修復は始まっていた。
ただ、後少し……
後少しだけ完全に倒す為の威力が足りなかった……
もはや王国軍に、ウロボロスへ抗う術は無かった……
◆◆
【帝国側?】
ウロボロスは戦場を見下ろす。
そして、まるで飽きたかのように口を開ける。
それは弱点である【尾】を晒す自殺行為であった。
だがウロボロスは意にも介さない。
ここに自分を倒せる者がいないことを悟る。
だから……口を開き自身最大でもある攻撃の1つを繰り出す。
【龍の咆哮】……龍種にはブレスと呼ばれる技がある。
自分の属性の魔力を口元に集め、相手に向けて一気に放つ、殲滅系の技だ。
【蛇種】の【特性】は、龍の力の一旦であるブレスもどきを使える事にある。
先天スキルにある【毒】とを混ぜた、【蛇の息吹】。
それが今、ウロボロスの眼下にいる人の群れへと落とされる。
それは息吹というには余りにかけ離れた、まるで唾液を垂らすようだった。
◆◆
【王国側】
「ダメっ!!」
万里長壁の上にいたミラは戦場に向かって飛び降りた。
ウロボロスが落とそうとしてるモノがどれ程ヤバいモノか見ただけで分かったからだ。
どれだけの犠牲者が出るかわからない……そう思ったら自然と体が動いた。
「フォッ!?」
近くにいたトーマス老はそれを止める事が出来なかった。
2人の任務は王の守護と侵攻に対する防衛……ミラはそれを放棄した。
そして今、万里長壁にはSランクの鬼種がまだ2体いた。
命令違反だった……
だがトーマス老は心の中で思った……
王国は敗ける……と。
だったら好きにさせても良いのでは……と。
「なんだ、諦めたのか?」
「ふぉ!?」
そんなトーマス老の心の内を読んだ様に口を開いた羅刹。
「ふふ、あの者達は諦めませんでしたよ?」
「…………」
微笑みながら夜叉は思い出す……誰か達を。
それはトーマス老には知らない事だった。
「……お前さんらはもう抵抗しないのかのぉ?」
トーマス老は2体に尋ねた。
「アレが……ウロボロスが出てきた時点で勝敗は決している」
「ええ、そして私達はあなた方に負けました……もはや成り行きを見守るだけです」
「…………ほうか」
トーマス老的には勝ったと思っていない。
ミラが結界で動きを封じ、自分が羅刹の手を貫いただけだ。
そしてミラが居なくなった事で、今は2体を封じる結界は解除されている。
まだ戦いは終わっていないが、2体はこれ以上攻める気がなさそうだった。
「…………」
トーマス老は空を見上げ眼を閉じた。
後は運を天に任すしかないと……
◇
「はぁ、はぁ、はぁ、ダメ……間に合わないっ!」
ミラは一生懸命駆けた。
ウロボロスは禍々しい何かを口から落とそうとしている。
皆を守る為にも少しでも近くに……だが、
「守護神ミラか?」
「……お前はこれ以上行かせん」
「!?」
ミラは急ブレーキで止まる。
眼前に自分を立ち塞ぐ者が現れたからだ。
「キキョウに、ゼロマル……」
装いからミラは2人を六花仙だと判断した。
「この戦は我々の、いや皇帝陛下の勝ちだ……諦めろ」
キキョウはミラを諭す。
「嫌です! 私は四傑・聖女ミランダ! 私の魔力が尽きぬ限り、皆は私が護ります!!」
ミラは諦めない。
「聖女、だと……? どういう事だ?」
キキョウとゼロマルは知らない。
死神がいなくなり、四傑のメンバーが代わっている事に。
「退いてください!!」
そんな2人を他所にミラは一喝する。
「……よく分からんが、諦めろ。ウロボロスは誰にも止められん……無駄に命を散らすな」
無口なゼロマルが今日は饒舌だった。
「い、嫌です! 私には、私達にはまだ希望が……っ!?」
そんな無駄話をしている間に、遂にウロボロスから【毒の息吹】が戦場へと滴り落ちるように放たれた。
「嫌ぁああああっっ!!」
ミラの悲痛な叫びが響く。
◆◆
【帝国側】
「終わりだな……」
皇帝は眼を閉じ呟いた。
「その様ですね」
セツナも呟く。
巨大な毒の塊が放たれた。
それに耐えれる者など極僅か。
勝敗は決した。
「作戦を第四段階に移行しろ」
「はっ」
皇帝はセツナに次の作戦を指示する。
それを受けたセツナは通信の神器を発動させた。
だが、セツナの動きが止まる。
「……どうした?」
「………………ます」
「?」
「何か…………来ます…………?」
セツナは万里長壁を凝視した。
自身のスキル【天眼】が何かを捉えた。
だが何かは分からない。
それが王国側からもの凄い速さで迫ってくる……ただそう感じた。
「ま、まさか……」
すっかり失念していた。
セツナは報告し忘れていた自分の間抜けさを後悔した。
愛する皇帝の最後の戦……
その事だけを考え、作戦は全て上手くいっていた……
だから彼らの存在を忘れていた……
天使サンダルフォンではなく、桜花セツナとして振る舞っていた事が仇となった。
「彼らが…………来ます…………っ!」
セツナはゴクリと唾を飲み込んだ……




