アーク帝国とホウライ王国④
キリが悪かったので短めです。
神世歴300年……ある1人の偉大な冒険家がいた。
彼の名は、【神眼のアルキウス】。
天魔戦争が終結してから、人間の中で初めて英雄として讃えられた人物であった。
彼は一冊の本を後世に残した。
それは……【魔物大全】。
今の世に出回ってる魔物を綴った本と、何ら遜色のない本であった。
そこにはEランク~SSランクの魔物の殆どが記されていた。
彼は人類史上最初にSランクへと至った人物であった。
彼にはスキル【神眼】と【空間把握】があり、能力【脱出】の神器を所持していた。
彼は世界に現れては消える迷宮を探索し続けた。
勿論、SSランクの魔物とまともに戦った訳ではない。
愚直なまでに臆病で、迷宮50階層【ボスモンスターの間】に入ると、即座に撤退し続けた。
当時の人々は彼を蔑み罵った……
【嘘だ!】
と。
仕方なかった……
当時の世界に生きる人でSランクは彼1人……
Sランクの迷宮を進める猛者など他にいなかったからだ。
誰も彼の本を証明出来る者がいなかった……
だが、それでも、彼ほど偉大な人物はいない。
後の世に何人も現れる事となるSランク者……
強さを追い求め最後にSSランクの魔物に挑んだ彼ら……
彼らは知ることとなる……
アルキウスが残した本に書かれていた事は事実だったと……
それで命を救われた者も何人かいた……
そしてアルキウスは本当の意味で英雄となる……
彼が残した魔物の【特性】や、図解は本当だったと……
そして、その【魔物大全】の最後にはこう書かれていた……
【SSランクの魔物とは絶対に戦ってはならない……】
【あれは、迷宮に巣まう悪魔だ……】
【人が侵してはならない領域の生き物だ……】
【人よ……】
【何人も踏み入れるべからず……】
【アルキウス・H・クラフト】
◆◆
突如、戦場の空に黒雲が立ち籠めた。
そこから舞い降りるように、1体の巨大な蛇が降臨する。
【尾を呑み込む蛇】
アルキウスが残した【魔物大全】にも記されている神話の化け物。
人々は空を見上げる。
そして絶望する。
足は竦み、体は震え、手から握り締めていた神器を力なく地面へと落とす。
戦場は静寂に包まれる……
涙する者、嗚咽する者、股を濡らす者、そして……神に祈る者。
だが誰も言葉を発さない……
ただただ空を見上げる……
そして……ウロボロスが大きく口を開き、自身の尾を呑み込み、1つの大きな輪になった瞬間だった。
◆◆
【王国側】
真っ先に我に返ったのは英雄エンマだった。
「っ!? 全員、伏せ……っ!?」
エンマが戦場にいる全員に聞こえるよう叫ぼうとしたが、既に遅かった。
見えない衝撃が人々を襲う。
地面に巨大な亀裂が走り、視界を完全に覆う程の巨大な土煙が壁となって噴き上がる。
それを理解できた者は誰1人いない。
かつてそれを直に喰らった獅子族がいた。
彼はその一撃で瀕死の重傷となった。
彼に隠れた才があったからこそだが、普通なら絶命していた。
ウロボロスの属性は【次元】。
巨大な体から繰り出される、見えない尾による一撃。
その一撃で沢山の命が一瞬にして事切れる……
戦場は一瞬にして混沌と化した。
王国兵は悲鳴を挙げ逃げ惑う。
ウロボロスが何かしたのは分かってる……だが何をしたのかは分からない。
だから本能に従いその場から逃げ出した。
「くっ、まさか……魔物大全にも記されているウロボロス、なのか?」
エンマはその場から逃げる事はせず、冷静を保とうとしながら、ウロボロスを見上げる。
「エンマ、無事か!?」
ミロクがエンマの傍に駆け寄る。
「ああ、なんとかな。だが……っ」
「分かってる。帝国め、よもやSSランクの魔物を迷宮から解き放つとはっ!!」
エンマとミロクは歯軋りする。
この戦況を変えるにはどうすればいいか考える。
だが結論は1つしかなかった。
「「……アイツを倒さなければっ!!」」
エンマとミロクの声がハモる。
二人は互いの顔を見合わせると、ほんの僅か苦笑した。
「ミロクは先ず兵達を後退……させ……」
エンマがミロクに指示を出しながら辺りを見回した時だった。
「……囲まれて、いるのか?」
「ああ、先程トーマス様が仰っていた。どうやら我々に逃げ場はないようだ。皇帝め、私達をいたぶるつもりらしい」
王国兵は囲まれていた。
後ろは壁。左右は破軍と魔軍。前は凶軍。
そして上空には神話の化け物。
逃げ道はなかった。
「ならやはりアレを倒すしかないようだな」
「ああ、先程の魔物同様アレは私達にしか倒せん」
2人は頷くと駆け出した。
エンマは剣に、ミロクは拳に、ありったけの魔力を込める。
最早出し惜しむ気はない。
2人にとって過去最高難度の対魔物の試練が始まった。
◆◆
【帝国側】
「アルキウスの遺した魔物大全……まさしく神話の化け物だな」
皇帝はウロボロスを後方から見つめる。
「いかがいたしますか? アレらの準備も万事整っております」
セツナは尋ねる。
帝国側の作戦は幾つかの段階に分かれていた。
第一段階が、魔物を先頭にした侵攻。
第二段階が、十凶を疎らに転移させ戦場を撹乱。
第三段階が、王国軍の包囲とウロボロスの転移。
そして第四段階が……
「まぁ待て。王国の四傑は人類最強の存在……奴らがどこまで抗えるか見届けても遅くはない」
皇帝は少しだけ楽しそうだった……セツナにはそう感じた。
「御心のままに……」
セツナは小さく呟いた。
だが……結果は変わらない。
◆◆
【王国側】
ウロボロスが戦場に舞い降りてから数十分後……
ついに……
王国軍の心は折れた……
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそっ……!!」
エンマは地に伏しながら必死に立ち上がろうとした。
「かはっ……つ、強すぎる……!!」
ミロクは【万里長壁】の壁に叩き付けられていた。
壊れた壁の残骸に手を乗せ力を込めると、ミロクも必死に起き上がろうとしていた。
2人は満身創痍だった……
纏う鎧も服もボロボロで、体の至るところから出血していた……
それでも……
自分達がやらなければと、心を奮い立たせ、起き上がる……
だが……
もはや王国軍に、ウロボロスへ抗う術は無かった……
ウロボロス戦の詳細は次話にて執筆?中です。
省いた訳ではないのでご安心を。