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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第十章【帝国】
260/318

大戦と先遣


新章です。




 天使の襲撃から一月と数日が経ち……季節も冬から春へと、穏やかな気候へ移り変わっていた。



 ホウライ王国とスレイヤ神国との国境は山々が聳え、両国にとって天然の要塞となっていたのに対し……

 ホウライ王国とアーク帝国の国境には何もなかった。


 その代わりに、かつて英祖ショーマが提案した【万里長壁】と呼ばれる横に伸びる巨大な壁が両国を別け隔てていた。

 しかし、その巨大な壁も多数の抜け穴があり、そこから他国へ侵入する者もいる。

 かつて王国の奴隷だったリリスとアザゼルも、その1つを通りアーク領へと逃げたのであった。





【万里長壁・50区画】



 横に伸びる壁の丁度中間に位置するその区画の頂上にて1人佇む女性がいた。

 見た目は少女のようにも見えるが、実年齢はその倍以上あった。

 女性は胴着を着ており、髪は正面から吹く風に靡いていた。



「マスター、少し休まれては?」


 そんな女性へ近づく男性の姿があった。

 男性は声を掛けながら女性の隣へと並んだ。



「そうはいかん……いつ帝国が攻めてくるか分からんからな」


 女性はただ真っ直ぐに前を向いていた。

 視線の先はアーク帝国。



「しかし、宣戦布告から一月……本当に来るのでしょうか?」

「ラガン……そんなことでは、まだ私から一本取れないぞ」


 女性は一瞬だけ口角を上げた。


 王国三大行事の1つ、闘王祭……

 ラガンと呼ばれる男性は毎年闘王祭後に必ずマスターと呼ぶこの女性に勝負を挑み、ぼろ負けした後で修練の旅に出る。

 しかし、今年に限ってはそうもいかなかった……



「…………」

「嫌な風だ……帝国から邪悪な風が吹く……戦は近い」

 

 女性に【感知】のスキルはない。

 戦士としての経験か、女性としての勘だけで答えていた。

 だがその勘は滅法よく当たる。



「しかし毎日張り詰めすぎです……今の内に少しだけでも休んで下さい……」


 ラガンは心配していた。

 女性にいつもの余裕が無いことを……

 今までにも大きな戦や小競り合いは度々あったし、闘王祭でのバトルもある。

 しかしどんな時でも、マスターと呼ぶこの女性から笑みが消えることはなかった。

 常に強者としてどこか心に余裕があった。

 だが今の女性からはそれが無かった……


 ラガンはそれを心配していた……



「…………ふ、そうだな、なら少しだけ見張りを代わってくれ」

「マスター……」


 女性もそれに気づいた。

 いや、気づかされた。

 部下であるこの男に心配され、どれだけ自分に余裕が無かったのかを……



「何かあれば直ぐに連絡しろ。ザイルとガイスも配置させる。小さな異変も見逃すなよ」

「了解で…」


 女性が振り返りその場から立ち去ろうとした時だった。



「ミロクさん! あれを!!」

「!?」


 ラガンは帝国の方を指差し叫んだ。

 ミロクは慌てて壁の頂上から身を乗り出すように、険しい表情で帝国側を凝視した。



「く、来たか……っ!」



 ミロクの視線の先は黒く染まっていた。

 まだ遥か彼方だが、大地も空も、どす黒く染まっていた。

 しかもそれらが徐々にこちらへと近づき、横へと拡がっているように見えた。



「な、なんて数だ……」


 それらは、Aランクでありギルド【拳武】の副マスであるラガンを以てしてビビらせるのに充分であった。

 ラガンの体が僅かによろける。



「っ、至急王都へ伝令しろ!! ジオ王とエンマへこの事を伝えろ!! 私は駐屯中の軍を……っ!?」


 それらを見てもミロクはまだラガンよりマシだった。

 冷静に指示を出し、【万里長壁】より王国側にて待機している軍を展開させようとしていた。

 だが……



「殺……」


「「!?」」


 突如2人の目の前に魔物が現れ、城壁の端に脚を着けると、既に攻撃体制に入っていた。

 2人は接近されていた事すら気づかなかった。



【茨木童子】


 Sランクの【鬼種】。

 真っ白な長い髪に、二本の鋭い角を生やし、美顔で、着物を着た出で立ちだった。

 その手には既に鉄爪の神器が発動されていた。



「なっ……!?」


 ミロクは戸惑った。

 こんな時に魔物の襲撃……

 だが本当に偶然なのか……



「鬼業・羅城門!!」



 だがミロクの戸惑いなどお構いなしに、茨木童子はミロク目掛けて鉄爪で斬りつけた。

 両腕を同時に交差させながらの斬撃は、ミロクだけでなく横にいたラガンも同時に斬り飛ばした。



「がはっ!」

「ぐわぁっ!!」


 2人はそのまま、王国側へと落ちていった。




「ふん、つまらんな……外界の者とはこの程度か? これでは地下に幽閉されていた鬱憤は晴れんぞ……」


 茨木童子はそう呟くと指をパチンと鳴らした。



【千鬼夜行】


 Aランクの鬼種で、一鬼いるだけで百鬼へと分裂する鬼種だった。

 それらが転移してくるように空中から現れた。



「いけ千鬼、手始めにこの壁の下にいる人間共を皆殺しにしろ」


「「げぎゃーーーー!!!!」」



 茨木童子の指示で、千鬼夜行は一斉に王国側へと飛び出す。



「……人間とは愚かな生き物だな。同族同士で潰し合うなど……」


 茨木童子がそう呟き、やる気を無くしていた時だった。




「天羅零拳・千金散華……」



 その声と共に、飛び出した千鬼夜行は全て、無数の金色の拳に撃ち落とされた。



「なっ!?」


「やはり帝国の先遣隊か……よもや魔物を軍に投入してくるとはな……」



 茨木童子が驚く中、どこからかそんな声が聞こえた。

 茨木童子は王国側を見下ろす様に身を乗り出した。

 しかし……



「油断大敵だ」


「!?」


 茨木童子が見下ろした時には、既に遅く……

 茨木童子は巨大な拳に、覆い被さるように包み込まれていた。



「バカな!? 俺の一撃を受け……」

「天羅零包・紅撃」


「て……」


 茨木童子は一瞬にして握り潰された。



 万里長壁の上に、ミロクは跳躍した。

 その腕にはラガンが抱えられていた。



「しっかりしろラガン」

「う、ギルマス……」


 ラガンは傷だらけで、ミロクも額から少しばかりの血を流していた。

 ミロクはそれを乱暴に拭った。



「急いで王都へ伝えろ、敵は魔物も投入してきているとな。私は軍を展開させてあれらを迎え撃つ」

「う、は、はい……」


 ラガンは抱え下ろされると、よろけながらその場を後にした。



 ミロクは歯軋りしながら帝国を見つめる。


「開戦か……!」




◆◆




「ありゃりゃ、茨木童子は殺されたか……」


 薄暗い部屋の中で、1人座り込む男の姿があった。



「Sランクの鬼だぞ……」


 その少し後ろに立つ別の男の姿もあった。

 男の肌は他の者より焼けていた。



「う~ん、どうやら例のSSランクの人間みたいだね」


 座り込む男はどこか楽しそうに呟いた。



「……この体の母親とやらかもな」


「ヒヒ……この体も何も、今はもう完全にアンタだろ?」


 男たちは他愛のない会話をする。



「お前達、集中しろ。油断していると足元を掬われるぞ」


 更に別の女性が2人の前に現れた。



「は、すみません……」


 褐色の男は、女性に頭を下げる。



「ヒヒ、僕のスキル【天隷】は完璧。僕に操れないヤツはいないですよ」


 座り込む男は下卑た笑いを浮かべる。



「我は直に【天災】を発動させにいく……そっちは任せたぞ」


「はっ」


「ヒヒ、アンタがアレを使ったら一瞬で全部終わっちゃう……少しは僕らにも楽しみを残しといて下さいよ」



「…………」


 女性は無言のまま、その場を立ち去った。




「今の態度は失礼だぞ……あの方は、」


「分かってますって、まぁ僕は魔族を殺せればそれでいいんで」



「……体は馴染んでるのか?」


「勿論。この肉体の前の奴とも波長が合うのか……すっげ~馴染むっす」



「…………天原竜斗が出れば、我も戦場へと赴く」


「了解、【凶軍】は僕に任せてよ」



「…………」


 若干の不安を覚えながらも、褐色の男もその場を後にした。



 その部屋には座り込む男だけとなった。




「ああ、この戦争が終わったら早く会いたいな~。ダコバスとも約束したし楽しみだな~」


 男は鼻歌混じりに楽しそうに呟く。



「どんな事して遊んであげようかな~」


「姉妹同士で殺し合わせるのもいいな~」


「恋人がいれば、そいつを殺させるのもいいな~」


「どれがいいか迷うな~」



「ねぇ」


「ララちゃん」

「ルルちゃん」



「【天闇のラジエル】の名に懸けて、最高に楽しい殺し合いをさせてあげるからね」




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