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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第九章【王国】
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愛馬と花園


新章にしようか迷ったのですが、取り敢えず今回までが【王国編】です。

今回は皇帝視点のお話です。




 俺は今夢を見ている……



 いつからだろう……


 愛おしい夢が悪夢に変わったのは……


 俺達は誓い合った……


 いつかこの世界を1つにすると……


 そしてその時こそ一緒になると……




「アリス……」



 目の前に立つ女性の名を呼ぶ……


 彼女は微笑みながら振り返る……


 彼女はあの日のまま変わらず美しい……



 旧き友アトラスの妹……


 だが今の俺の隣に、二人はいない……



 あの日……


 王国が俺から全てを奪った……


 人も魔族も彼女の想いを踏みにじり裏切った……


 赦せない……


 護ると誓ったこの世界が憎くて仕方ない……


 もういい……


 疲れた……


 彼女のいない世界に未練はない……



 全部……壊してやる!!





「とも……か……」


 不意に目が覚めた。

 気付くとベッドに寝ており、うまく力が入らない。



「陛下、お目覚めになられましたか!」


 すると聞きなれた声が俺を心配していた。



「セツナ、か……?」

「はい、我が王よ!」


 彼女は一定の距離まで近づいてきた。



「俺は……寝ていたようだな……?」

「はい、お倒れになられてから一月も……」


「む、そんなにか……」


 自分でもよく生きていたなと感心する。

 最近はずっと体調がよくなかった。

 何度か吐血したこともあった。

 最後に気を失ってから一月か……


 だが何故だろう……

 未だに力は入らないが、妙に落ち着けている。

 体調も……悪くない。




「む、誰だ?」


 不意にセツナ以外の気配を感じた。



「お初にお目にかかる、皇帝よ」


 褐色の肌の男が、セツナの少し後ろから現れた。

 誰だ?

 だがどこかで見たことがあるような……



「陛下、この者がスキルを用いて陛下を癒しておりました」

「そう、か……」


 一瞬、感謝の言葉を述べようとしたが何故か言葉に出来なかった。



「ではセツナ……我はこれで……」

「ええ、ご苦労様です」


 そう言うと男は退室していった。


 この国のナンバー2を呼び捨てか……

 何者だったのだ?



「奴は何者だ?」


 セツナに問いただした。



「……へ、陛下を治せる者を探してきました。彼は……山奥に住んでおり世情に疎い者です……」

「そうか」


 嘘だな。

 相変わらず嘘が下手な奴だ。

 まぁ、何か事情があるのだろう……詮索は野暮か。



「それで……戦の準備は?」

「はっ。【天宮軍】、【天災】共に万事整っております」



 あれらを制御させてみせたか。

 セツナの評価を更に1つ上げねばな。

 本当に俺には勿体ない右腕だ。



「神国に動きは?」

「ありません。少し警戒が強いように感じますが、問題はないかと」


「王国は?」

「我が国との国境にて軍を展開させております」


「悟られたか……?」

「恐らく……ただ、軍自体は以前から展開されており、こちらの作戦にまでは気づいていないようです」


 ん?

 嘘……か?

 


「予定通り、か……」

「左様です」



「なら……」

「はい、後は陛下次第に御座います」



 いよいよか……

 これで全て終わるな……


 人も、魔族も、大地も、空も……

 生きとし生ける者全てに平等なる死を……


 アリス……

 これで全て終わる……




「……少し一人にしてくれ」


 そう呟くと、セツナは一礼し部屋から退室した。

 それを見届けてからゆっくりと上体を起こした。



「っ」


 まだ力が入らず、体が少し震える。

 だが……楽になったのは確かだ。

 セツナの治癒のスキルでも治せなかったのに……

 あの褐色肌の男、一体どの様なスキルを……?



「まぁ、どうでもいいか……」


 どうせもうじき全てが終わる……

 気にしてもせんないことだったな。


 アリスはいない……

 アトラスとは袂をわけた……

 六花仙も3人を残すのみ……

 もう何もない……



 いや……

 そう言えば、アリスの探し人がいたか……


 だがこの数年手がかりすら掴めなかった……

 もはや無駄な事だろうな……


 アリスは、英祖ショーマを気にしていたが既に死んでいる。

 それにその息子の英雄トーマもこの世にいない……

 他に可能性のある人物はいない……


 これで……

 王国を滅ぼせば思い残すことはないな。



「智歌……俺も直にそっちへ行く……」


 俺はそう呟くと、ベッドから起き上がった。



「セツナ、リリーメル、ゼロマル!」


 俺はそう叫ぶと服の仕舞われている棚へ向けて歩きだした。

 最後にあの場所は見とかなければ……



 着替えを終え廊下へ出ると、先程呼んだ3人が片膝を着けて頭を垂れていた。



「最後に見に行く場所がある、付き従え」


「はっ」

「はい」

「御意」


 俺は3人を付き従えて【天城】の廊下を闊歩した。



 思えば、六花仙は本当によくやってくれた。

 願わくば軍を離れて欲しかったが……

 ゼータとオロス、イルミナはどこか遠くの地で平穏に暮らしてくれればいいが……

 セツナは最後まで俺に付き添うと言った。

 リリーメルはセツナを尊敬しているから軍を離れないだろうな。

 ゼロマルは……智歌のせいだな。

 忍者だったか?

 こいつも酔狂な奴だ。

 俺なぞに忠誠を誓わなくてもよかろうに……




「【魔軍】はゼロマルが指揮しろ、【破軍】はリリーメルだ」


 俺は歩きながら今後の指示を出す。

 二人は小さな声でそれを承諾した。

 む……



「【凶軍】はどうするか……」

「恐れながら……先程の者と同様、優秀な人材を見つけたのでその者に管理させようかと……」


「ふむ、そうか……」


 信じられんな。

 セツナが言うのだから間違い無いのだろうが……

 あれらを制御出来るのか……何者だ?



「【破星】と【凶星】は?」

「それも、です……ある、王国に恨みのある者があれらを制御させてみせました。私に任せて貰えれば、その者に直接指示を出します」


「そうか……なら【天災】はセツナ、お前に一任する」

「はっ」



 この国にもまだそれだけの逸材がいたか……

 治癒に長けた褐色の男に、凶軍を制御出来る者、それに【天災】を操れる者、か……

 能力でいえば【六花仙】を超えているな……

 だがこれで全てが整った……

 後は……開戦するだけだな……


 それで……終わる。





 暫し考え事をしながら、勝手知ったる我が城を歩き、俺は城の外へと出た。


 目指すは城の近くに建てられた、ある建物……

 小屋と呼ぶにはあまりに綺羅びやかで豪華な建物だ。



「暫くぶりだな、元気にしていたか?」

 俺は僅かに微笑みながら、その小屋にいるモノに尋ねた。


「ブルルルル……」

 そいつは少し嬉しそうに鳴く。



【黒曜皇馬】



 Sランクの【馬種】の魔物だ。

 人の倍を遥かに超えるデカさ。

 体の表面は黒銀に輝き、見るものを圧倒する美しさだ。

 迷宮で出会い、今まで共に戦地を潜り抜けてきた、俺の愛馬だ。


 何故だろうな……

 スキル【服従】もないのに、何故かこいつは俺に懐いた。

 騎乗を許したのは俺と智歌のみ。

 全く……

 魔物にも酔狂な奴がいると、今でもそう思う。


 そういえば……

 ドラグナー国には【竜種】がいるんだったか?

 馬種は人間に懐き、竜種は竜人族に懐く、もしかしたらそれがこいつらの【特性】なのかもな。



 俺は愛馬の体をそっと撫でる。

 相変わらず綺麗だ。



「すまない、最後に【あの花園】を見に行きたい……また俺を乗せてくれるか?」


 智歌が死んでから何故かこいつは走るのを辞めた。

 背に乗ることは出来ても、こいつは走らない。

 Sランクゆえ世話係以外の奴は近づかないし、こいつに命令出来る者などいない。

 とんだじゃじゃ馬だ。


 だが、最後にもう1度だけ……

 俺をあの花園へ連れていってくれ……



「…………ブルル」


 黒曜皇馬は首を下げた。



 いいのか?

 自問自答しながら俺は愛馬の背にまたがる。



「!!!!!!」



 すると黒曜皇馬が今まで発したことのない声を出した。


 まさか……

 また共に駆けてくれるのか?

 駄目なら、3人を連れて行こうと思っていたが……

 杞憂だったか。



「直ぐ戻る、暫し留守を任せる」

 手綱を握りながら方向転換し、3人を見下ろす。



「「はっ」」


 3人が頭を垂れたのを確認すると手綱をギュッと握りしめた。

 黒曜皇馬はそれを感じると、久方ぶりに駆け出した。


 スキル【跳躍】があるからか、その脚力は凄まじく、瞬く間に帝都が視界から消えた。



「ははっ、相変わらず凄まじいな」


 俺もこいつもSランクだ。

 だが本当に戦えば、俺は一瞬で負けるだろう。

 実際こいつを止めれたのは、アリスしかいなかった。


 アリス……



 そんな事を考えていたら、目的の花園へと到着した。

 帝国三大景観の1つ、【アークの花園】。

 季節に関係なく様々な花が咲き乱れる場所で、北にある【機械国】との丁度中間地にある。


 黒曜皇馬は到着すると、その歩みを緩めた。

 告げてもいないのに、こいつはゆっくりと目的の場所まで歩く。

 まだ覚えてくれていたか……



 花園を抜けるとそれはあった。

 緑の草原にぽつんとそれはあった。

 一本だけ立つ名も無き木と、小さな泉。


 アリス……いや、智歌との思い出の地だ。


 父である先代皇帝の目を欺き、よく城から抜け出してきた。

 セツナとゼータが隠れて付いてきた来た事もあった。



「いい風だ……」

「ブルル……」


 空気の澄んだ気持ちのいい風が吹く。



「…………」

 少しだけ迷う。


「智歌……これで良かったか?」


 俺は約束を違えた。

 和平ではなく、争いの道を選んだ。

 だが……


「説教なら、そっちに行ってから聞いてやる」


 後悔は……ない。

 あの日、全てを滅ぼすと決めた。

 俺を止める者もいない。

 だから……



「智歌……愛していたぞ」



 俺は最後にそう呟き、花園を後にした。





まだ描きたい奴等が結構いるのですが、あまり大筋と関係ない話は書きたくないもので……


取り敢えず次話より新章突入です。


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