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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第九章【王国】
254/318

霊園と桜花


久々夜き……更新です。




 王都クラフトリアには大粒の雨が降り注いでいた。

 建物を燃やす火は沈静化され、悲しみだけが今なお残っていた。


 天使達の強襲により、被害は甚大だった。

 直接的に攻撃された訳ではないが、誰かを(いぶ)り出すかの様に建物は破壊され、それに巻き込まれた人達は少なくなかった。

 そして街は半壊し、瓦礫の山と化している……


 破損してない機能している建物内には優先して貴族が避難し、簡易テント内には多くの一般市民が身を寄せ合っていた。

 救助活動や瓦礫の撤去作業はギルドに属する面々や、王国騎士達が降り止まぬ雨の中、作業に追われていた。


 俺は……


 護れなかった……




 王都内の北西部にある、【塔】の裏手側にある【霊園】。



 そこで俺は黙祷を捧げる……


 俺の右腕を力強く抱き締めるレイナ……


 もう反対側の腕には、シロが抱きついてきている。

 雨で分からないが大粒の涙を溢して、泣き崩れるのだけは必死に堪えている。


 宿でお留守番をしていたシロは、宿で働く従業員さん達と避難していたそうだ。

 ギルマス・サクヤさんが用意した避難場所は安全で、特に怪我とかもなかったようだ。

 そして天使達が去ってから合流し、今は一緒にここにいる。



 1つの小さな墓前……


 墓とは名ばかりの、壊れた瓦礫から寄せ集めただけのモノ……


 そこに花を添えるジオ王……



「…………」


 ジオ王は片膝をつき、黙したまま、優しい眼差しで墓を見つめる。

 墓の下に眠るのはナンバーズ、8名……

 生き残った2名は、ジオ王の少し後ろに立っている。



「ありがとう、そしてすまなかった……いずれ立派な墓を建てさせてやるからな……」


 ジオ王は最後に小さくそう呟くと、すっと立ち上がり、そして何を見据えているのか鋭い眼差しのまま、振り返った。

 頬をつたう雨が涙みたいに見える……




「ジオ王……」

 いつからいたのかミロクさんはすっと現れ、ジオ王に近づいた。


「分かっている……だが今の余にはやるべきことがある……罪は後で償う」

「しかし……」


「ならお前は天使を……いや、あの屑共を野放しにしておく気か?」

「そのような……」


「お前達は戦うことだけに専念しろ、政は余が引き受ける」

「!?」



 ジオ王の衝撃発言にミロクさんは目を見開いて驚いていた。

 すると俺の後ろから、エンマさん、ミラ、トーマスの爺も現れた。

 申し合わせたかの様に、雨も徐々に小降りになってきた。



「ジオ、お前の罪は消えんぞ……」

「分かっておるエンマ、だがこれは余の贖罪だ。ナンバーズを造り、(あまつさ)えそのナンバーズを死地に(おもむ)かせたのだからな」


「ジオ王……」

「天使共はこの世から消さねばならん。余が造った(したこと)とはいえ、ナンバーズをモノ呼ばわりしたのだからな」


 いやいや、あんたも失敗作とかなんとか言ってたくせに……

 完全に棚上げだ……


「それに、そなたの息子もクウマも助けねばな」

「ジオ王……」


 ジオ王は優しい眼差しでミロクさんを見つめる。




 雨も止んでくると、雲の隙間から僅かに陽が射し込んできた。

 スポットライトのように、四傑を照らす。


 するとジオ王の様子が一変した。

 ジオ王の眼が、今までとは違う……鋭いけどどこか優しい眼差しとなった。

 そして四傑を見つめると、彼らも察したのか姿勢を正した。



「ミランダ・ノエル・アレイア」

「はっ!」


「そなたに四傑【聖女】の名を新たに授ける。国民の治癒を優先し、王国に仇なす外敵は駆除しろ!」

「聖女ミランダ、慎んでお受けいたします」



「トーマス・エルダー」

「ふぉっ!」


「老齢なのは分かっている……だが、王国の窮地だ……そなたには【守護神】の座に返り咲いてもらい、王国を外敵から守護して欲しい」

「ふぉふぉ、守護神トーマス慎んでお受けいたしますぞい」



「【英雄】エンマ、【拳聖】ミロクよ」

「「はっ!」」


「早急にスレイヤ神国に使者を送れ。物資の援助を頼み……それと、天使共について話し合わねばならん」

「「はっ!」」


「先程言った通り、政は余と貴族・大臣共で執り行う。お前達は……王国に迫る脅威を打ち払え!」

「「はっ!!」」



 身震いした。

 これがジオ王のもう1つの顔、いや真の顔……

 あの四傑を畏怖ではなく従わせている。


 ジオ王も変わった……

 威圧的だったが、それは威厳へと変わり……高圧的だったのは、王者としての佇まいへと変わった。




「天原竜斗……」

「ん?」


「それと……レイナ・サタン・アルカディア」

「はい?」


 不意にジオ王は俺とレイナに話しかけてきた。



「お前達には感謝している……愚王である余から、それと天使達からと、2度も王国を救ってくれた」

「救った、か……」


「そんなお前達にこれ以上頼むのは心苦しいが、頼む! 今一度ホウライ王国の為に、その力を貸して欲しい!」

「おう」


 俺は即答した。



「……いいのか?」

「まぁね。てか、カルラくん達を助けないとだろ」


「聞けば、アーク帝国に向かうと聞いたが?」


 いつの間に……

 誰から聞いたのやら……


「サンダルフォンが言ったことを信じるなら、行けるわけないだろ」


 サンダルフォンは言った。

 近々攻めてくると……

 それを放って帝国に行ける訳ない。



「本当に助かる……」

 ジオ王だけでなく、エンマさん達も俺に礼をした。



「でも、ピンチだけどチャンスだ。ガブリエルが生きているなら、あいつのスキル【天啓】で天使から皆を解放出来る」

「理を無視するスキルとやらか……」


 俺は頷いた。


「あいつとのゲームに勝った時、あいつはディアネイラの体から魂だけ出てきた。それが出来ればカルラくんだけじゃなくてクウマって人も助けられるかもしれない」


「メタトロンは、ナンバーズを狙うと言い残しました……恐らくシロちゃんも標的にされます」

「それにジオ王、あんたもだ」


「余が?」

「当たり前だろ。スキル【合成】を持ってて、メタトロンに喧嘩売ったんだ……あんたも間違いなく標的だ」


 自覚ないのかよ……

 あんだけ睨まれてたのに……



 つまり……攻めてくるなら返り討ちにしてやる!

 メタトロンとウリエル、サンダルフォンとラファエル、それとガブリエルを……

 その5人を一網打尽にしたら残るはミカエルとラジエルの2人だけだ。


 おまけにガブリエルの【天啓】を使えば、もしかしたら全員助けられるかもしれない!



「だけど……」

「ええ、問題もありますね」


 皆気づいてる様だった。

 敢えて俺が言う必要はないようだ。



 サンダルフォンは、アーク帝国・六花仙の1人、【桜花】セツナでもある。

 つまり……王国にとって、本当の敵は六花仙と帝国の軍団、それと皇帝だ。


 アーク帝国を相手にしながら天使も相手にしないといけない訳だ……

 Sランクの六花仙に……

 ランクZEROの天使が5人……


 ホウライ王国と違い、常に2国を攻め続けてきた軍事力……

 それが王国1つに集約される……

 帝国と天使……一体どれ程の力なのか想像もできない……



 力が足りない……

 このままじゃダメだ……

 ガブリエルを倒し、ラファエルに勝ち、ウリエルを斬った……でもそれは一対一の話で、それじゃダメだ……

 そう……天使7人を同時に相手しても勝てる力がいる!



「……皆に話しておきたいことがある」


 俺は言いながらレイナに視線を向けた。

 レイナは優しい眼差しで、コクリと頷いてくれた。


 既にレイナには話してある。

 俺はここにいる皆に、今俺がしたい事を話した。




◆◆





「着きましたよ」

 サンダルフォンは自分の住まう屋敷に、仲間達を案内した。


 アーク帝国・帝都……

 天城を囲うように建てられている、6つある六花仙専用の屋敷。

 今現在は、3つの屋敷が主不在となっている。

 その内の1つ……【桜花】。



「助かる……」

 部屋に案内されたメタトロンは、ゆっくりと部屋の真ん中に置かれている椅子の1つに腰掛けた。


「やはり、相当ご無理をされたみたいですね……今何か飲み物でも淹れましょう」

 サンダルフォンは席をはずした。



「大丈夫か?」

「す、すみません……」


 肩を貸していたラファエルは、ウリエルをゆっくりとソファへと横たわらせた。



「スキル天た……っ!」

 ラファエルはウリエルの傷を癒そうとスキルを唱えるが、突如頭を抱えてよろけた。


「無理をするなラファエル……お前も今は休め」

「だ、大丈夫ですメタトロン様……それよりウリエルの傷を……」


 傷は無かったがラファエルも満身創痍であった。

 未だ馴染まぬ体で何度もスキルを唱えた事で、限界に来ていた。



「スキル【天癒】」

 すると、お茶うけを持ったサンダルフォンが現れスキルを唱えると、優しい光がウリエルの体を包み込んだ。


「これは……?」

「ふふ、ラファエルさんの【天体】程ではありませんが、私にも治癒のスキルがあります」


「た、助かります……」

 ウリエルは礼をすると、そのまま眠りについた。



「ラファエルさんは?」

「我はいいです……」


 サンダルフォンが治癒を促すが、ラファエルは拒否した。


「すぅぅぅ、ふぅぅぅ」

 ラファエルは勢いよく地面に座り込み、大きく呼吸した。


 メタトロンとサンダルフォンは、ラファエルが自身の体を休めているのだと気づいた。



「ふふ、乱暴な休み方ですね」

「…………」


 メタトロンは呆れ、サンダルフォンは微笑した。



 不意にメタトロンは何かの気配を察した。


「……なんだこの気配は? 地下か?」

「流石メタトロンお姉様気づかれましたか……これが帝国の切り札です」


 サンダルフォンは淹れたお茶を自分とメタトロンに手渡すと、メタトロンと向かい合う位置の椅子に腰掛けた。



「そういえば、この国の皇帝とやらが攻めるのであったな……」

「ええ」


「近々と言っていたがいつ頃だ?」

「…………」


「どうしたサンダルフォン?」

「すみませんお姉様……私は嘘をつきました」


「何?」

「いえ、本当なら今頃はホウライ王国を攻めている筈でした……」


「何かあるのか?」

「この国の皇帝の体調が宜しくないのです……」


「なるほど、指揮者不在か……」

「私の【天癒】で癒していましたが、それも限界で……」


「ならラファエルの【天体】を使えばよい」

「はい」


「だが今ラファエルに無理をさせるわけにもいかんな」

「そうですね……私には分かります、未だラファエルさんの精神と肉体には僅かにズレがあります」


「だろうな……我がこの肉体に馴染むのに1ヶ月はかかった」

「はい、つまり……」


「王国への戦は1ヶ月後か……」

「申し訳ありません……そうなります……」



「なら帝国の戦力を全て教えろ」

「え?」


「我が分析してやる。王国(あのくに)は完全に滅ぼさなければならない。我が手を貸してやる」

「……分かりました」



 サンダルフォンはメタトロンに、アーク帝国の戦力を全て教えることにした。



「なるほど……」

 メタトロンは顎に手を当て思案する。


「ふふっ、中々じゃないか……人間とは実に面白い……だから迷宮がざわついていたのか……」

 メタトロンは皇帝の作戦を興味深そうに考察する。


「人間で構成された部隊【破軍】、捕らえた魔族で構成された【魔軍】、それと地下の【凶軍】を合わせた……【天宮軍】」


「そして広域殲滅型神器【凶星】と、一点集中攻撃型決戦神器【破星】の……【天災】か」


「【()宮軍】と【()災】か……名前も気に入ったし、この作戦なら全て(・・)滅ぼすことが出来る!」

 メタトロンはスッと立ち上がった。



「して、皇帝の体調以外に問題はあるのか?」

「【凶軍】と【破星】が……」


「だろうな……ふむ、破星は我が見てやる」

「お姉様が!?」


「光属性の使い方を教えてやる。凶軍は……ラジエルを転生させろ、それで解決出来る筈だ」

「た、確かにラジエルさんのスキルがあれば……」


「肉体は確保出来ているのだろう? ウリエルが復活したら一緒に迷宮へ行け。迷宮の場所は【天智】で教えてやる」



「お姉様……」

 サンダルフォンは驚いた。

 もしかしたら自分よりメタトロンの方がこの戦争にやる気を出していることに。


「…………」

 ラファエルは聞き耳を立てたまま瞑想を続ける。

 ラファエルの頭の中は竜斗との決着しかなかった。


「ジオ王め……見ていろ、貴様も穢らわしい魔族も全て滅ぼしてくれる!」


 メタトロンは眉間にシワを寄せ、眉を吊り上げた。

 だが、かつてないほど勝利への確信もしていた。





皇帝のいないとこで進む作戦……


あと数話でいよいよ王国編も終わりです。

次の章は……当然、帝国編ですかね。



おまけ話……

シロちゃんとナンバーズは完全に後付けです。

書いてたら勝手に出てきました。

いや……ジオ王の設定は最初から考えていたのであながち……

ですが、ふと出てきたキャラです。

残ったナンバーズの二人にも名前をつけてあげなくちゃ!


補足も1つ……

以前の話を直してて気づきました。

リリスとアザゼルを追っかけていた奴等の存在……王国は魔族博愛なのに……完全に勢いで書いてた証です。

すみません……

というわけで彼らは独立ギルド【魔族狩り】のメンバーという事にしました。

彼らのパーティーの活動は王国な為、帝国領に無断で入るのを恐れてた!

て、事にします!


忘れてた・気になる方は、46話【逃避行と救済者】を。


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