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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第九章【王国】
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天風と月影



「ふはははっ、英雄の再来と呼ばれた貴方の実力はその程度ですか!!」


「くっ、クウマ……これ程とは……っ!」



 剣と剣を交えて戦うエンマとウリエルは、ウリエルが押していた。

 剣技とは程遠い、乱暴な攻撃……

 だが、そんな攻撃すらエンマは防ぐので精一杯だった。


 かつて同じSランク者として互いに高めあった2人……

 英雄として崇められたエンマ、死神として恐れられたクウマ……

 両者の実力はほぼ互角であったが、僅かにエンマの方が評価としては高かった。

 だが真実は……クウマ(天使ウリエル)の方が圧倒的に強かった。




「SSランクに近いとはいえ、所詮Sランク! 私の敵ではありませんね!!」


「ぐわっ!!」



 力を込めた一撃にエンマは斬り飛ばされ地面を転げた。

 寝転ぶエンマは息を切らし起き上がれないでいた。



「終わりですか? では私はメタトロン様の加勢にでも……」

 そんなエンマを冷ややかな眼差しでウリエルは見下ろした。



「ま、まだだっ! まだ、終わりではない……!」



 エンマは必死に立ち上がる。

 そして魔力を高めていく……

 それはSランクを超えようとしていた。



「……いいでしょう。貴方もここで叩いておかないと、後々面倒になりそうですね」


「ほざけ……クラフト流剣術の真髄はこれからだ!!」



 エンマは神器を発動させる。

 【高天原】と【宝雷】を……

 両の手に2つの神器を携え、今、エンマは限界を超えようとしていた。




◆◆




「久しいなサタン」

「私は貴女なんか知りません、それに私の名はレイナです!」



 相対するレイナとメタトロンの辺りだけ、重たく静かな空気が流れていた。



「……スキル【天撃】」

「っ崩流掌!」



 一瞬の出来事だった。

 メタトロンがレイナに向けて手を翳すと、見えない一撃がレイナを襲った。

 だがレイナはそれを掌底で横から弾いた。



「驚いたな……魔神王と怖れられ貪り食らうだけの貴様が、よもや防御するとは」

「かつての敵が教えてくれた事です、それにいちいち昔話を持ち掛けないで下さい」


「ふふ、すまんな……お前といるとどうも昔が懐かしく感じられる」

 メタトロンは微笑する。



「ならこれはどうです……」

 レイナを腰を落とし、右拳を引いて構える。

 その拳に膨大な魔力を込めて。



「魔神拳!!」


「!? 天光剣!!」

 レイナから放たれた強烈な一撃を、間一髪顔を仰け反らせ、発動させた神器で防ぐ。



「流石です、これを防ぐとは……」

 拳を突き出したまま、レイナは冷静にメタトロンを見据える。


「次元、属性……この様な使い方があるとは……」

 メタトロンの額に僅かな汗がつたう。



「成る程、【憤怒】のスキルを使わずともこの強さか……恐るべきだな」

「どうも……」



 メタトロンは驚きはしたが、焦ってはいなかった。

 それはレイナも感じていた。



「だが、今のお前に我の速さについて来られるか?」

「!?」



 刹那だった。

 レイナの背後に現れるメタトロン。

 転移に近い速さ……レイナが振り向いた時には、既にメタトロンの剣が振り下ろされていた。



「天光剣!!」

「くっ!」



 レイナは間一髪、剣の横を左の掌底で弾いた。

 だが……



「吹き飛べ」

「きゃっ!?」



 弾いた手が、衝撃により弾ける。

 その勢いのままレイナは吹き飛ばされた。



「なんとか反応は出来た様だな。だが我の【天瞬】はこんなものではないぞ」

「くっ……!」



 レイナの左手は、籠手の神器により見えないが、中は血だらけでボロボロだった。

 ランクZEROの衝撃……

 震える左腕を必死に押さえながらレイナは、なんとか立ち上がろうとした。



「どうした? かつて、あまねく悪魔の軍勢を従え、我ら天使の軍勢を屠ったお前の力はそんなものか?」

 メタトロンはゆっくりとレイナに歩み寄る。


「ですから……私はサタンではなく、レイナです!」

 レイナは力を込めると、奮起し立ち上がった。



(そうだ……それでいい……使え……あのスキルを……【憤怒】のスキルを……そして見せてみろ……どうやって制御したのかを!)



 メタトロンはレイナの本当の力を推し量っていた。

 今のままだと、確実にメタトロンの方がレイナより強く、倒すのは容易だった。

 だがメタトロンは知りたかった。

 闘王祭の最中、どうやって【憤怒】の力を抑えたのかを……

 でなければ、とっくに自滅している筈なのに……


 だがレイナは今、メタトロンと相対している……

 メタトロンは知りたかった、レイナの力を。

 かつて自分達を屠ったサタンの力を。



「どうした魔神王……本当の力を見せてみろ」

「だ、か、ら……!」



 メタトロンの言い方はいちいち腹が立った。

 冷静にと思うレイナであったが、何故か体がザワツイて仕方なかった。



「絶海・崩麗脚!!」

 近づくメタトロンに回し蹴りを喰らわす。


「まだだ、そんなものではない筈だ!」

 メタトロンは、レイナの脚目掛けて剣を振り下ろす。



 蹴りと剣撃がぶつかり合う。

 互いの神器の能力は【衝撃】……当然、2人とも吹き飛ばされる。



「くっ!」

「どうした?」


 吹き飛ばされるが、2人とも瞬時に受け身をとり、体勢を整えると、即座に相手に向かって駆け出す。



「絶死・崩龍拳!!」

「天光剣・一閃!!」



 今度はレイナの拳と、メタトロンの鋭い一撃がぶつかり合う。

 またしても互いに吹き飛ばされるが、今度は距離を置いたまま、対峙する。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「ふふ、やるな魔神王サタン……」



 息を切らすレイナに対して、メタトロンは余裕そうであった。



「…………もっと」

 レイナは呼吸を整えながら小さく呟く。

 そして静かに魔力を拳に込める。

 その魔力は、先程までとは違って暗く禍々しさが感じられた。


 僅かにだが、周辺の空気がザワついた。



(ふふ、いいぞ……見せてみろ……)



 余裕そうにしているメタトロンではあったが、意外にもギリギリであった。

 憤怒のスキルが命を奪うものなのは神話の時代から知っている。

 それを承知でレイナを挑発している。

 ミスれば一瞬にして形勢は逆転するだろうとメタトロンは感じていた。



「ふっ、我が戦いを楽しむとはな……」

 これではまるでラファエルだなと、メタトロンは微笑む。



「い、き、ます……」


 レイナは苦しそうに構える。

 強大な何かに自分の体が支配されそうなのを必死に堪えながら、レイナは鋭くメタトロンを睨んだ。




◆◆




「中段・炎の位 火紅天!!」

 竜斗の片手突きが放たれる。


「ふんっ!」

 ラファエルはそれを、左腕だけで受け止める。

 剣先はラファエルの腕を突き刺そうとするが、ほんの僅かな刺し傷と、ホクロみたいな小さな火傷のみ。


「っ、炎属性が効かないのかよ!」

「どうした! もっと本気を出せ!」



 竜斗とラファエルの攻防は徐々に激しさを増していった。

 斬る、殴る、突く、蹴る、受ける、躱す、何度も繰り返した。

 繰り出す攻撃の威力も速さも、既に常人では受けきれないものとなっていた。



「これなら!」

 竜斗は籠手の神器【森羅万象】に魔力を込める。

 そしてスキル【合魔】によって合わせた二属性を、刀に付加させる。


「八双・鋼の位 ボラゾン!!」

 炎と地属性を合わせた鋼属性の刀で袈裟斬りにて放つ。


「ぬっ!?」

 ラファエルは受け止めるのではなく、拳を突きだして迎え撃った。


 だが最強の肉体を持つラファエルの腕はへし折られた。

 竜斗はよく鋼属性を好んで使うが、今回の一撃は今までの比ではなかった。

 込める魔力が今までとは桁違いであった……だがラファエルの腕は斬り裂かれる事なく、へし折られるだけに留まった。



「くそっ、斬れないのかよ!」

「今のは見事だったぞ……スキル【天体】!」


 そしてへし折られた腕を瞬時に癒すラファエル。

 こうしたやり取りがまた何度も繰り返された。




(つえ)ぇ……」

 互いに間合いの外で相対すると、激しい攻防が少しだけ止まり、竜斗は小さく呟いた。


「ふっ、それはこちらのセリフだ……」

 ラファエルは嬉しそうに苦笑した。



 普段であれば竜斗は相手の神器に付加をかける。

 スキルに持っていない属性を強制的に付加された神器は、相手の魔力を急速に減らしていく。

 その効果に耐えられない相手は、運が悪いと死に至る。


 だがラファエルは神器を発動させずに生身で竜斗と戦っていた。

 知っていたわけではないが、それが竜斗の攻撃の手を1つ減らしている結果となっていた。


 そして天使中……最強の肉体と無尽蔵に近い体力、おまけに治癒力を有するラファエルの繰り出す攻撃は、竜斗に他の天使に付加させる隙を与えなかった。



 そんな時だった……

 空気が僅かにザワツイた。



「っ!! レイナ!?」

 竜斗はレイナが暴走しかけている事に気づいた。


「余所見とはっ!!」

 それに憤慨したラファエルは竜斗目掛けて駆け出す。

「周りに気をとられて我に勝てるとでも!」

 ラファエルは激しい突きを繰り出す。


「くそっ! しつこいっ!!」

 竜斗はそれを受け流した。

 

「もっとだ! もっと力を解放させろ! お前の力はこんなものではない筈だ!!」

 ラファエルは連続で拳を突き出す。

 ラファエルには分かっていた、竜斗がメタトロンとウリエルとも戦うよう魔力を温存している事を。



「魔名宝空・灼!!」

 炎と風を合魔させた【灼属性】の結界で、ラファエルを閉じ込める。


「結界まで使いこなすか!!」

 ラファエルは結界に閉じ込められるも、どこか嬉しそうだった。


「これなら……!」

「ふんっ!!」

 ラファエルは中から乱暴に結界を殴り付ける。


 結界は風が霧散するように散っていった。


「なっ!?」

「言った筈だぞ! 我は天風(・・)のラファエル! あらゆる風属性は俺の前では無力!!」



 竜斗は失念していた。

 天水のガブリエルと戦った時も、水属性を無効化された事を。



「喰らえ!!」

「っ!!」


 ラファエル渾身の一撃が放たれる。

 空を切り裂く様な拳……だが竜斗はそれを間一髪躱した。


 ラファエルは空振った姿勢のまま静止し、竜斗は既にラファエルの後方で距離を取って立っていた。



「これも躱すか……」

 ラファエルはゆっくりと後ろに振り返った。

「む……!?」


 ラファエルが振り返った時、竜斗は既に刀を鞘に納刀して、居合いの構えをとっていた。



【居合の構え】


「次は全力だ……悪いけどいつまでもあんたの相手をしてる暇はない」

「なら我を倒してみるんだな」


 ラファエルは警戒しつつも、その場からは動こうとせず、竜斗の攻撃を待ち構えた。

 受けきる気満々であった。


 竜斗は属性を付加させる。

 風属性を除いた四属性を……



【月影属性】


「抜刀・月影の位……」

「っ!?」


 どこか余裕だったラファエルは即座に最大の魔力を自身に込めた。



「させん! 天風絶拳っ!!」


 受け止める気でいたラファエルは先に攻撃を繰り出した。

 吹き荒れる風が纏った拳は驚異的であったが、それほど竜斗が繰り出そうとしている攻撃を警戒しての事だった。


 だが、逆にそれがまずかった……



「なっ!?」

 ラファエルは驚愕した。



「この技を警戒してくれて助かったよ」

 ラファエルの拳を、竜斗は納刀したままの刀で受け止めた。

 しかもラファエルの拳に込められていた魔力は、竜斗の刀へと流れ込む。


「月の光は反射の光……あんたの攻撃もまとめて返すぜ!」

 竜斗はその場で構え直すように、回転しながら居合いの構えをとり、そしてその勢いのまま抜刀する。



月光鏡閃(ムーンライト)!!」



 至近距離からの神速の剣閃がラファエルの体を斬り裂いた。


「がはっ……!!」

 ラファエルの体から血飛沫が舞う。



 だが……このままでは、またスキルによってラファエルは傷を癒す。

 だから竜斗はそれを上回る攻撃回数を繰り出すつもりであった……


(っ、ごめんよ、カルラくん……!)

 竜斗は僅かに躊躇ってしまった。

 


「極みの位 天空……っ!?」

「させん!! 天光剣・双閃!!」



 竜斗が攻撃を繰り出す前に、それを阻止したのはメタトロンだった。

 刀で受け止めた竜斗は、衝撃により吹き飛ばされる。


「うわっ!!」


 吹き飛ばされる竜斗だったが、魔名宝空を発動させると空中で一回転し、地面へと着地した。



「すみません、竜斗様!」

「レイナ?」


 竜斗の隣に駆け寄るレイナ。

 レイナからは、先程一瞬だけ感じた禍々しさは消えていた。


「申し訳ありません……加勢させてしまいました……」


 レイナと相対していたメタトロンであったが、魔力を込めようとするレイナの隙をついて、ラファエルの加勢に入った。

 レイナはその事を竜斗に謝罪した。




「大丈夫かラファエル?」

「も、申し訳ありませんメタトロン様…………スキル天体…」


 ラファエルを抱き抱えるメタトロン。

 ラファエルはその腕の中で、治癒を行った。


「驚異的な強さだな……ガブリエルが敗れたのも頷ける」

「……う、くっ……」


 ラファエルの治癒は先程までとは打って変わって遅くなっていた。

 竜斗はそれを見逃さなかった。




「レイナ……一か八かラファエルの魂だけを狙ってカルラくんを次元属性で斬る」

「……き、危険なのでは?」


「分かってる、でも他にカルラくんを助ける術が分からない……今なら傷ついて動けない、チャンスは今しかない」

「分かり、ました……メタトロンは私が引き付けます」


 竜斗とレイナは小声で話し合った。

 次の一撃に全てを込めて……




「まだ完全には馴染んでいないようだな……一旦引くぞ」

「まだ、負けておりません……っ!」


 メタトロンは撤退を促すが、ラファエルはそれを拒んだ。


「よせ、戦う機会ならまた与えてやる……今はお前とミカエルの方が最優先だ」

「…………わ、分かりました」


 ラファエルは悔しそうに、渋々承諾した。



「ウリエル、退くぞ!!」

 メタトロンが叫ぶ。



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