天体と真王
「そんな……嘘だろ……」
俺は嘆いた……
連れ去られたと思ってたカルラくんは、既に天使となって俺達と対峙している……
まだ助けられると思ってた……
行方さえ分かれば、見つけ出して救い出したのに……
でも、もう無理だ……
「ラファエル……っ」
歯ぎしりしながら、カルラくんを見つめる。
いや、天使ラファエルを……
「会いたかったぞ天原竜斗、今一度我と戦え!」
ラファエルから圧倒的な魔力が放たれる。
それは、最早カルラくんではないと物語っていた。
「カルラ……」
ミロクさんが弱々しく呟く。
「竜斗……あれはカルラなのか?」
「…………はい、でも中身は全然違います」
俺は一瞬だけ答えようか悩んだ。
「エンマから聞いた……もしや天使、なのか?」
「…………はい」
「どうすればカルラを助けられる? 昨晩からの戦いで分かったが、正直私ではカルラには勝てん……尋常じゃない強さだ……」
SSランクのミロクさんが勝てないとか……
神器は大した事ないのに……
「ふむ、お前が天原竜斗か……」
別方向から現れた銀髪の女性が、腕を組んだまま近づいてくる。
「誰だ?」
「あの女性……見覚えがあります。兜を被っていましたが間違いありません。光王ハクアです」
レイナが答えてくれた。
そうか、彼女が神国戦から行方不明になっていた……
でも……俺の神眼は違うと気づいてる。
「天使メタトロン……」
「いかにも」
◆
【メタトロン】
種族
【天使】
クラス
【七大天使】
ランク
【ZERO】
先天スキル
【属性<天光>】【天翼】【天剣】【天瞬】
後天スキル
【天智】【天撃】
特殊スキル
【天眼】
神器
【天光剣】<剣/光/衝撃/ZERO>
【聖剣・光王】<剣/光/巨大化/S>
【聖盾・光王】<盾/光/守護/S>
【聖鎧・光王】<鎧/光/守護/A>
【光王隊】<腕輪/次元/転移/A>
【聖光剣】<剣/光/分裂/A>
【??】
◆
なんだコイツ……
こいつだけ【天速】が【天瞬】になってる……上位スキルなのか?
それに……分かる……
この中じゃこいつが1番ヤバイ……
「天智メタトロンだ」
「……ああ、分かってる」
「ふむ、神眼か……それに本当にレアスキルだらけだな……流石は異世界転生者」
「!? どうしてそれを……」
「我がアルカ様より授かったスキルの名は天智……我は全てを知る者だ」
「アルカ……様?」
「この世界唯一の神だ、異世界人よ」
そうか……そうだよな……
神話の天使が実在してるんだ……神様もいて当然か……
なら、そいつが……?
「お前の考えなら分かるぞ天原竜斗よ……そうだ、我ら天使はアルカ様の【神託】の下、悪魔の血を引く魔族を根絶やしにしている」
「!?」
そうか……ならそいつが全ての元凶か……
「……でも1つだけ間違ってるぜアンタ」
俺は小さく頬笑む。
「なに?」
メタトロンは少しだけムスッとした顔をした。
「俺は転生したんじゃない、転移……【召喚】されてきたんだ。この体は正真正銘、俺のだ」
「…………」
?
メタトロンは黙りこんだ。
「……有り得るのか? 異世界を繋ぐ転移……魂だけならいざ知らず、肉体も……? 神器、いや迷宮を媒体に? いや、有り得ん……肉体ごと次元を、世界を越えるなど……ランクZEROでも不可能だ……」
メタトロンはブツブツと小声で何か呟いている。
「メタトロン様……検証はまた後でお願いしますよ、ふふ」
メタトロンの反対側から現れてきた奴が不気味な笑みを浮かべる。
フードを被っており、口元しか見えない……
「クウマ……っ!!」
エンマさんが歯軋りする。
「あいつが……」
アトラスの妹、アリスを殺した四傑の1人……
◆
【ウリエル】
種族
【天使】
クラス
【七大天使】
ランク
【ZERO】
先天スキル
【属性<天地>】【天翼】【天剣】【天速】
後天スキル
【天羅】【天動】
特殊スキル
【天眼】
神器
【天槍メテオ】<槍/地/巨大化/ZERO>
【天剣オロチ】<剣/地/分裂/ZERO>
【天盾メドゥーサ】<盾/地/石化/S>
【天扉】<扉/次元/転移/S>
【天迷宮】<腕輪/次元/脱出/S>
【クロノス】<鎌/地/即死/S>
【??】
◆
こいつもふざけてる……
ランクZEROの神器2つに……
なんだよ能力【即死】って……翔兄が作ったのか忘れたけどホウライ王国に伝わる四神器の1つ……英雄トウマが使ってた神器クロノス。
「貴方が天原竜斗……ですか。まさかこの様な少年に我々の計画が遅らされるとは……」
ウリエルは強そうなのに、何故か俺を見て歯軋りする。
「計画……?」
「こちらの話です……」
メタトロンと違ってウリエルはあまり話さないタイプの様だ。
「なっ!?」
突然だった。
俺は刀の神器【絶刀・天魔】を発動させて、そいつの拳を防いだ。
「無駄話は不要! 我と戦え天原竜斗!!」
ラファエルは叫ぶ。
籠手の神器は発動させてないのに、ラファエルの拳は重く、気を抜いたら一瞬で押し負けそうだった。
「アンタそればっか、だな!」
俺は力強く刀を振るった。
ラファエルは飛び退き、俺の攻撃を躱す。
「ふふ、いいぞ……そうでなくては……あの時よりも遥かに強くなっているな」
斬れていたのか、ラファエルは拳から流れる血を舐める。
「そりゃどうも……」
でも、どうすればいい……
このままやって、もし勝てたとしても……
それはカルラくんを殺……
ガブリエルの【天啓】があれば、ゲームを持ち掛けるのに……
どうやったらラファエルの魂をカルラくんから引き剥がせる?
次元属性で魂だけを斬るか?
そんなこと、出来るのか?
ガブリエルの時は魂だけだったけど……
もしカルラくんも傷つけたら……
でも、それしか思い付かない……
やるしか、ない……
「……考え事は纏まったか?」
ラファエルは微笑する。
お見通しかよ……
「悪いが……ん?」
ラファエルは攻撃しようと構えようとしたが、突然動きを止めた。
「ふむ……限界か?」
するとラファエルの具足の神器がボロボロと壊れだした。
「なんとか抑えて戦っていたが、低ランクでは限界か」
嘘だろ、おい……
低ランクの、しかも魔力を抑えて、エンマさん達をここまでボロボロにしたのかよ……
「大丈夫かラファエル?」
全然声のトーンを変えずにメタトロンはラファエルを心配する。
「問題ありません」
ラファエルは足が無くなったのに、平然としている。
スキル【天翼】のお陰か、姿勢は変えずにその場に浮いている。
「スキル【天体】!」
ラファエルの体が光出す。
「何だ!?」
「ぐうぅぅぅぅぬぅううううっっ!!」
ラファエルは自分の体に力を込める。
そして……
驚愕の光景を目にした。
「「なっ!?」」
「ふぅ……」
ラファエルは地面に足をつけると、ゆっくりと姿勢を正した。
カルラくんに足が!?
しかもそれだけじゃない……
カルラくんの黒髪は地面まで伸び、体も細身だが筋肉質になり、顔も大人びている。
まるで何年も年を取ったみたいだ……
「これぞアルカ様より授かりし我がスキル【天体】! あらゆる傷を癒し、あらゆる破損を修復し、肉体をも成長させる我がスキルだ!」
声も変わった……
いや、カルラくんの声というより、ラファエルの声なんだろう……
もはや、別人だった……
「貴様、よくもカルラを!!」
ミロクさんが、ラファエルに向かって駆け出す。
「……お前に用は無い」
「黙れ! 天羅零拳!!」
ミロクさんの拳がラファエル目掛けて突き出される。
だけど……
「その技は効かん」
「なっ!?」
ラファエルは素手でそれを受け止める。
嘘だろ……
「我が肉体は最強、神器など不要だ……」
ラファエルの拳に魔力が込められる。
「我は【天風のラファエル】! 人の子よ、その身に受けるといい……我が拳技を!!」
空いてる拳がミロクさんの腹に突き出された。
「がはっ!!」
ミロクさんの体が、くの字に折れる。
そしてミロクさんは、そのまま城の方まで吹き飛ばされた。
城の方まで建物を壊しながら……
「ミロクさんっ!?」
「な、なんて威力だ……ミロクはSSに至っているのだぞ……それを……」
エンマさんの体がワナワナと震える。
でも仕方ない……
だってミロクさんのスキルを視た時に俺は、この人神器いるのか?と思った。
そのミロクさんをあんな簡単に……
「人の身でSSに至っているのだ、誇るがいい……だが我々の敵ではない……」
そしてラファエルは俺とレイナをチラッと見つめた。
「その我を天魔戦争で破壊したサタン、そして迷宮で我を破壊した天原竜斗……」
「くく、その2人と再度拳を交えれるとは……」
ラファエルは小さく笑う。
「レイナ、エンマさんは皆を護って……カルラくん、いやラファエルは俺が相手をする……」
俺は2人に指示を出す。
本当なら皆を護る為に創った魔名宝空……それを使う魔力すら惜しい。
「分かりました……ではメタトロンは私が引き受けます」
レイナはメタトロンを鋭く睨んだ。
「サタンか……いいだろう」
メタトロンは組んでいた腕を解き初めて構える。
「了解だ……ならクウマは俺が相手をする」
エンマさんがクウマと対峙する。
「ふふ、貴方の手の内はわかっていますよ」
ウリエルは変わらず余裕そうにしている。
俺対ラファエル。
レイナ対メタトロン。
エンマさん対ウリエル。
そしてその場にいた兵士達の皆には街に散って、皆を助けに行くよう指示した。
きっと逃げ遅れてる人や、怪我をしている人が沢山いるからと。
街もまだ至るところで燃え盛っている。
◆◆
「うっ、くっ……な、なんて強さだ……あれが、本当の力かっ!!」
城の方まで吹き飛ばされたミロクは、ゆっくりとだが体を押さえながら立ち上がった。
「カルラ……今……助けに行くぞ……っ!」
息子を助けようと必死に起き上がった母ミロクであったが、傷は深く、その場で地面に膝をつける。
「くっ……」
ミロクはそのまま街の方を見渡す。
王都クラフトリア……
昨年、機械王アトラスが攻めてきた時でさえ、ここまでの被害は出なかった。
それが……火の海と化していた。
歴史ある王都が……自分の息子によってここまでにされるとは未だに信じられなかった。
「一体何があったというのだ……カルラ……」
天使に転生させられたのは知ってる……
だが母として信じたくなかった……
「無様だなミロク……よもや四傑が敗けているのか?」
「あ、あなたは!?」
気づくとミロクに声をかける人物がいた。
「まぁ今の余には何も言う権利はなかったな……くくっ」
声をかけた人物は鎖で繋がれており、その場から動けずにいた。
こんなところまで吹き飛ばされたのかとミロクは思った。
そこは城の最奥……
罪人を捕らえておく牢獄であった。
今はミロクが吹き飛ばされてきた事により、辺りは瓦礫の山と化していた。
「ジオ王……」
「どうした? また帝国が攻めてきたか?」
ミロクに声をかけたのは、先日捕らえられたばかりの罪人……
ジオ・H・クラフト……
この国の元・王であった……
ミロクは少しだけ躊躇ったが、ジオに昨夜から起こっている事を話した。
何故話したかは分からない……
だが何か対処する方法があるのではと……藁にもすがる思いでジオに話した。
「クウマが裏切り……天使ときたか……神話の話をされても困るのだがな……くく」
「全て事実です……見たら分かる通り王都は奴等によって火の海……エンマも私も持ち堪えるので精一杯です……今は竜斗とレイナが援護にきてくれましたが……」
ミロクから2人の名を聞いてジオは小さく笑うのを止めた。
「そうか、あの2人もいるのか……まぁ当然か……」
ジオは少しだけ思案するように黙りこむと、ある提案をミロクに持ち掛けた。
「余の鎖を解けミロク」
「なっ!?」
「天使だか何だか知らんが、この国は余の国だ、好き勝手させるなど虫酸が走るわ」
「何をバカな事を!?」
「いいのか? この現状を見れば一目瞭然だ。このままではこの国は奴等に滅ぼされるぞ。それに余ならナンバーズに命令できる」
「彼女らを!?」
「どうせ近くに隔離でもさせておるのだろう? 奴等の見た目では外には出られんからな……まぁそれは余のせいだが……」
ジオは最後、少しだけ申し訳なさそうに呟いた。
ミロクは考えた。
ジオを解放して良いのかと……
確かにナンバーズはまともに喋ることが出来ないし、意思疎通も困難であったが、ジオの命令なら聞くだろう……
だがSランクのミラの結界すら破るというナンバーズ……
その彼女らをジオの指揮下に置くのはあまりにリスクが高かった……
「安心しろ、戦いが終われば再び拘束されると約束するし……ナンバーズにも天使だけを攻撃する様に命じるつもりだ」
「その言葉を素直に信じろと?」
「信じる信じないはお前に任せる、それに余は…………」
「…………」
ジオは口を噤んだ。
ミロクは知らない……
ジオには、もはや反抗する意思などない事を……
ジオは変わった……いや、竜斗とレイナと出会って変えられた。
そして……ミロクは決断した。
◆
「すまないお前達、これが本当に最後の命だ……余と共にこの国を救って欲しい、頼む……」
「「………………ぁう、ぁ……」」
ジオは深々と頭を下げる。
そこには、かつての振る舞いはどこにもなかった。
1人の王として、1人の人間として、目の前にいる者達に懇願する。
ミロクはジオを解放した。
英断だったかは分からない……だが少しでもこの国の助けになるのならばと……
牢獄の少し離れた場所にある隔離部屋……
快適とは言い難いが、今はそこで穏やかに過ごしていたナンバーズ……
ジオの実験による被害者達……
彼女らは困惑した……
もう記憶も意志もほとんどない……
それでも僅かに残るジオへの恐怖心……
そのジオが今、自分達に命令ではなく頼んでいる。
ジオの口調はまだ少し高圧的ではあったが、彼女らにしてみれば、それは青天の霹靂であった。
「「ぉう、ぉ(王、よ)……」」
「!?」
ミロクは驚いた。
目の前でジオと対峙していた彼女らが、膝をつけ、頭を垂れたからだ。
「「あぅぁお(貴方の)、おぉう(望む)、あぁい(ままに)……」」
「お前達……ありがとう……」
ミロクはジオが涙している様に思えた。
きっとジオは命令していない……
本心でお願いしたのだ……
そしてナンバーズはそれを受け入れてくれた……
そこには、かつて愚王と呼ばれた王はいなかった……
美しいまでの主従関係……
「今の貴方だったら……仕えるのも悪くなかった……」
ミロクは少しだけ昔を思い出し微笑した……
「よし、では行くぞ!!」
ジオは先頭に立ち、広場を目指す。
「はい、我が王よ!」
「「ぁいっ!!」」
その後ろにはミロクとナンバーズが付き従う。
この国唯一のSSランク、ミロクが再度……
Sランク級の強さを持つナンバーズ、10名が新たに……
そして、この国の真の王が……
国を救うために立ち上がった。