探索と悲哀
俺達は転移の神器を使い、一気にホウライ王国から真北にある迷宮の前へと現れた。
「ありがとね」
俺は目の前の女性に感謝の言葉を送る。
「い、いえ……お役に立ててなによりです……」
女性ルシーダさんは、赤面している。
ルシーダさんは王国騎士の1人で、エンマさんをずっと補佐してる人らしい。
3国のギルド会談でもよくエンマさんの転移係をしているとの事だ。
ふむ、俺の予想ではエンマさんに気があるな……
二人とも独身らしいし……
「ではルシーダ、後の事を頼みます」
「はいミランダ様。後ほど治癒士と数名の兵士を連れて、この近辺で待機しております」
ミラが頷くと、ルシーダさんは転移していった。
「さてと……」
目の前に聳える、塔の迷宮を見上げる。
この中に皆が……
早く助けないとな。
「竜斗様、【人色珠】が黄色です」
「なら、まだ生きてるな」
レイナが人色珠を確認する。
青なら誰もいないか、既に死んでるかだ。
でも黄色ならまだ中に人がいる事になる。
「クウマのランクはS……5人全員いるなら、下手したら後1人しか入れない」
レイナとミラがコクリと頷く。
「でももし天使ならランクはZERO……3人は入れる事になる」
「そうですね」
まぁ他にも色々なパターンがあるけど、今は考えてる暇もない。
「迷宮に入る順番は俺、ミラ、レイナでいく。いい?」
「はい」
「大丈夫です」
俺達は迷宮へと足を踏み入れた。
◆
「……と」
迷宮に入るといつも思う。
ただ建物に入ったのではなく、本当に別世界にいるという感覚。
まぁ直ぐに慣れるけど……
すると……
ミラ、レイナの順に二人も迷宮へと入ってきた。
「最悪だな……」
「「…………」」
俺が嘆くと、レイナとミラは黙り込んだ。
想像したくない最悪なパターン……
その1……クウマはやはり天使だった。
その2……クウマは天使ではないが、犠牲者が出ている。
もう、そのどちらかしかなかった。
「……行こう」
俺は神器【天魔・絶刀】を発動させた。
「……はい」
ミラの顔は少し悲しげだった。
それでもなんとか気丈に振る舞おうとしている。
「了解です」
レイナは魔眼を発動させた。
予定通り、レイナにはあらゆる魔眼を駆使してもらう。
どこにいるかも分からない皆を隈無く探さなければならない。
占術眼に千里眼……
マッピング出来る、神器やスキルがあればいいのだが……
普通の迷宮攻略より骨が折れそうだ。
俺達は迷宮を進み出した。
◆◆
「ルナ! おい、ルナ!」
「ルナさん、目を開けて下さい!」
「う、う……ん……」
竜斗達が入った迷宮の奥にて、3人は目を覚ました。
先に目覚めたザナード、ファナの必死の呼び掛けで、漸くルナも目を覚ました。
「こ、ここは……?」
「ルナさん……!」
横たわり上体だけを起こしたルナに、ファナは抱きついた。
「良かった……本当に良かったですわ……」
ファナは涙を流し、力強くルナを抱き締めた。
「ファナ……」
珍しい事だったが、ルナも余程心配させたのだろうと、ファナを優しく抱き返した。
「! そうだ! カルラくんは!?」
ルナは辺りを見回した。
「分からん……気づいたら俺達3人だけだった」
「そ、そんな……」
「クウマ様……いや、あいつらが連れていったに決まってる!」
ザナードは歯軋りした。
「それで……どうします? ルナさんも目覚めた事ですし、今後の事を考えなくては……」
ファナは不安そうに尋ねた。
「私達……まだ迷宮にいるのね……」
「ああ……しかも、あれから何日経ったのかも分からん……」
「迷宮脱出の神器はクウマさ……あの人が持っていましたし……」
沈黙が流れる。
「……進もう」
意外にも迷宮を進もうと提案したのはルナだった。
「ですが、私達にAランクの迷宮など……しかも、もしかしたらSランクになっている可能性も……救援を待った方が良いのでは? この階なら魔物はいませんし……」
「いやルナの言う通りだ……迷宮は戻ることが出来ない。もし救援を待つ間に迷宮がSSになったらどうする?」
「そ、それは……」
「ああ、俺達は消える……迷宮と一緒にな……」
ザナードのこの言葉に、二人は身震いした。
「大丈夫……きっと助けはくる……でも何もしないで消えるのは嫌……私はカルラくんにもう1度会いたい……」
ルナは優しくファナを抱き締めた。
「ルナさん……そうですわね……仮にも王国貴族である私達が何もしないで消えるなんて真っ平ですわ……それに……」
「それに?」
「私はここを出たら告白します……カルラさんが好きだと!」
「「なっ!?」」
ファナの眼差しは真剣だった。
「……と、兎に角、もう少し休んだら進もう……」
ザナードはそういう話に慣れておらず赤面した。
「ええ」
「それにしても、あいつら何だったんだろ……」
ルナは震える自分の体を必死に抑えた。
今しがたまで居た恐怖の存在……
あんなのがいるなんて想像もしていなかった。
「……多分だけど、カルラに何かした女性はアーク帝国の【セツナ】だと思う」
「「えっ!?」」
「……聞いたことある特徴だったし、多分間違いない……」
「ならクウマ様……クウマは帝国と繋がりが!?」
ザナードは首を横に振った。
「分からない……分からないが、良くない奴らだって事はよく分かる……」
「そうですわ……カルラさんをあんなに苦しめた奴らが良い奴らな訳がありません!」
「そうだ、ね……」
ルナは自分のお腹を擦った。
確かにお腹を貫かれた。
よく覚えていないが、カルラの攻撃を防ぐ盾にされたのは覚えてる。
なら一体誰が……?
傷痕1つないお腹を見つめた。
「カルラくん……」
気丈に振る舞っていたが、ルナは踞り小さく呟いた。
「「…………」」
15歳の少年少女達に重く冷たい現実がのし掛かる……
Aランクの迷宮攻略……
奪われた親友……
得たいの知れない連中の存在……
救援は本当に来てくれるのか……
重たい沈黙の中、3人はほんの僅かな時間、心と体を休めた……