日記とショーマ・前
二話同時投稿します。
『気付くと俺は見知らぬ土地にいた』
「う……こ、ここは……?」
確か……妹と口論になってそれで……っ!?
そうだ!!
「とも……っ!?」
勢いよく起き上がると、俺は我が目を疑った。
隣で倒れていた筈の妹の姿はない。
おまけに今いる場所は、家でもなく、病院でもなく……
まるで放り捨てられた様に、綺麗で広大な平原にいた。
「な、なんで……?」
アフリカ……?
いやいや、そんな筈はない……
でも……だったらここは……一体どこなんだ?
日本にこんな所があるとは到底思えない……
俺はゆっくりと起き上がった。
「痛っ…………くない?」
さっきまであんなに頭痛がして意識が朦朧としていたのに、嘘のように痛みがなかった。
それに、こころなしか体も軽い……
「!?」
バ、バカな……
更に我が目を疑った。
あんなに出ていた腹が無い……だと?
ダルダルの脂肪の塊が綺麗さっぱり無くなっていた。
寧ろ引き締まって、格好いい部類の体型だった。
着ている服は、ゲームの初期装備みたいな服。
心臓を守るくらいの大きさの胸当て。
そして指には、綺麗な指輪が3つ嵌められていた。
『現状が把握出来ないまま俺は……少しでも情報を得ようと宛もなく歩き出すことにした』
「と、兎に角……誰か人に……」
焦っていたが、同時にもしかして……とも感じている。
まるで小説の様な……
まさか、な……
『1時間くらい経った頃……俺は街を発見した』
『この街こそ、俺の運命を変えた街……王都クラフトリア』
『街に近づくと、鎧を着た門番がいた』
『マジで武装しているので、恐くてたまらなかった……』
『今でこそ、英雄の父とか言われているが……この時は恐くて恐くてたまらなかったのを覚えている(笑)』
「あ、あの~すみません……」
俺は勇気を振り絞って門番に近づき話しかけた。
「ん? おお~帰ったか! あまりに遅いから心配したぞ!」
門番さんは気さくな人だった。
ん?
もしかして、知り合いか?
「えっと……あの……」
「どうした? 目的の魔物は倒せなかったのか?」
いっ!?
ま、魔物……?
この人、何言ってんだ?
「そ、それが……寝ててすっかり……」
俺は適当に話を合わせることにした。
「ん、そうなのか? そんなんでこの先やっていけんのか? 聞いてるぞ、勘当されたってな」
勘当?
なんの話だ?
『その時の俺には、門番の話している内容の意味が分からなかった』
『門番と少し話をしていて、俺の考えは確信へと至った……』
『間違いない……』
『俄には信じられなかった……』
『だが……』
『見知らぬ土地、見知らぬ街、見知らぬ人、魔物という単語、そして……』
『俺じゃない俺……』
『そう……』
『俺は異世界に転生したのだと……』
オタク知識様様だが、受け入れ難い事実だった。
「まぁ兎に角、めげずに頑張れよ……おっと、後、酒場のオヤジに依頼失敗の報告しにいけよ」
「あ、ああ……そうするよ」
『門番との会話が終わると、俺は取り敢えず街に入る事にした……』
『そこでも俺は戸惑いを隠せずにいた……』
『ゲームのような世界……街……』
『人の着ている服も……見慣れてるような、見慣れない様な感覚だった』
「ゲームかよ…………と、取り敢えず酒場は……」
酒場を探しながら真っ直ぐに進み、大広場に辿り着いた。
「あれ?」
酒場らしき建物は見当たらなかった。
俺から見て、東にも西にもまだ建物があり、どっちに行けばいいかも分からなかった。
おまけに、北の方角にはお城まで見える……
「ま、まじで……ほ、本当に……?」
疑心暗鬼だったが、もはや疑う余地もなかった。
俺はラノベみたく、異世界に来てしまったのだ……
「マジかよ……どうすりゃいいんだ……」
こんな時普通なら、お姫様か女神様が現れる筈では……?
貴方を勇者召喚しました……とかさ。
『今で言う【大広場】で途方にくれ、項垂れていたら、突如声をかけられた』
『今の俺を知る人物だった』
『それが、俺の運命の出会いだった……』
「お帰りなさいませ、ご主人様」
?
誰?
「帰りが遅かったので心配しましたよ」
黒髪の女性だった。
ただ……
彼女は……
「えっと……何かのコスプレ?」
思わず口に出してしまった。
でも仕方ない……
だって彼女の頭には角があり、腰ぐらいの位置には羽があり、お尻からは尻尾が生えていたのだから。
「何を仰っているのですか、ご主人様?」
「はい? ご主人様?」
彼女は首を傾げているが、俺の方がもっと首を傾げた。
訳が分からない……
「ま、まさか……私をお捨てになるおつもりですかご主人様!?」
彼女はいきなし、勢いよく俺にしがみついてきた。
「ごふっ!?」
なんて突進だ。
俺は押し倒されてしまった。
「な、何だいきなり!?」
「私をお捨てにならないで下さい、ご主人様!!」
ごはっ!
こ、殺される!
なんて力で締め上げてくるんだ、この子!
や、やばい……
と、取り敢えず……
「わ、分かった……す、捨てないから……だから……は、放してくれ……し、死ぬ…………」
「っ!? も、申し訳ありませんご主人様!」
彼女は勢いよく俺から離れた。
本当に死ぬかと思った……
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」
咳き込んでいると、彼女は背中を擦ってくれた。
顔が近い……
よく見たらかなりの美人さんだった。
てか、なんかいい匂いもする……
「ん?」
美人さんなのだが、変だ……
彼女の着ている服は、お世辞にも良いものではない。
ここに来るまでに街の中を行き来していた人達と比べても、かなり粗末なものだった。
所々破れていたり、ほつれていたり……
髪はボサボサで、肌も汚れて、おまけに傷だらけ……
ボロボロだった……
「て、傷っ!?」
彼女の額からはうっすらと血が流れていた。
他にも、既に血の痕が乾いてる箇所もあった。
一体いつから……
「ああ、大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫じゃないだろ……」
彼女はあっけらかんと答えた。
「なんで、手当てしないんだ……?」
「…………ですが、ここで待っている様に命じられたのはご主人様ですよ?」
はい?
俺が?
いやいや、そんな筈は……
そうか、この体の持ち主か……
彼女はマジで不思議そうな瞳で、こちらを見つめている。
「にしても、なんでこんなに傷だらけなんだよ……」
「? それはここで待っている間に、人間達から石を投げられたりしたからです」
は?
なんだって?
「なんで逃げなかったんだ?」
「……それは、ご主人様が依頼をこなす間、私をここで待たせて、依頼から帰って来た後、痛め付けられた私を見て楽しむためでは?」
どんな下衆だよ……
それに、何なんだこの子……
痛め付けられて、放置されていたのに、俺?の事をご主人様って……
ん?
「も、もしかして……君は……俺の、奴隷……とか?」
「今更何を仰っているのですかご主人様? 私はご主人様に買われた日からずっとご主人様の奴隷ですよ?」
マジかよ……
嘘だろ……
本当にあるんだ……
奴隷って……
『彼女は俺の奴隷だった……』
『出会った時の彼女はボロボロの衣服を、腰に紐を巻いてベルト代りにしていた……』
『いや、服と呼べる代物ではなかった……』
『彼女の綺麗な黒髪はボサボサで、肌も荒れ、傷だらけだった……』
『首には、首輪の神器がされていた……』
「えっと……」
俺は言葉を詰まらせた。
なんて説明するか……
俺は別人です……とか?
いやいや、門番も俺の事を知っていたみたいだし、知りませんじゃ通用しないだろう……
それに勘だけど……
こういう奴隷って、ご主人様を間違えたりとかしないのでは?
多分、人違いではなく、本当に俺の奴隷なんだ……
でも俺はこの子の事を何も知らない……
そうだ!
『俺は記憶を無くしたのだと彼女に伝えた』
『気づいたら草原で寝ていたのだと……』
『これなら色々と都合がいい気がした』
『だが彼女は疑いの眼差しを向けていた』
『本当に何も知らないのだと、何度も何度も伝えた』
『必死さが伝わったのか、彼女は徐々に納得し始めた』
「では、本当に何も覚えておられないのですね……」
「ああ、そうなんだ。ごめんね……」
会話が途切れて、重たい空気が流れる。
「分かりました……ですが、記憶がなくなってもご主人様はご主人様です! 私がご主人様にお仕えするという事に変わりはありません!」
わーお……
すげぇなこの子……
なんて奴隷根性だ……
てか、寧ろさっきより活き活きとしてる気がする。
「では僭越ながら……私がご主人様のステータスをお教えしましょう」
ん?
ステータス?
「ご主人様のお名前は、【ショーマ・ハラーマ】様。この国に代々仕える名門貴族、ハラーマ家の五男で…………失礼なのですが、先日……お屋敷を勘当させらてしまいました……」
あ、ステータスってそういう事ね。
てっきりゲームみたいなステータスかと思った。
て、あれ?
貴族……?
勘、当……?
『彼女は凄く申し訳なさそうに俺の事を教えてくれた』
『ふふ、今でもあの時のやり取りが思い出される……』
『ショーマ・ハラーマ』
『ホウライ王国、名門貴族ハラーマ家の五男……だった……』
『庶民を馬鹿にしていた屑野郎……』
『親の金を使いたい放題の屑野郎……』
『お城に仕えず、家で女を侍らせていた屑野郎……』
『兄弟に勘当させられた屑野郎……』
『所持品は、家から盗んだ神器3つと僅かな路銀とこの子だけ……』
『今でいうギルドの前身、街の酒場に時折来る依頼をなんとかこなして生活していた』
『それが転生時の俺のステータスだった……』
「マジかよ……どんな屑なんだよ俺……」
「そ、そんな事は……」
そもそもこんな俺になんで奴隷なんか買えたんだ?
しかも、話を聞く限り俺は相当な屑だ……
金がないなら真っ先にこの子を売りそうだけど……
やはり……この子の体が目当てなのか……?
痩せ細っているが、出ているところは出ている……
「私は小さい頃にハラーマ家に買い取られ、以来、ずっとショーマ様のお世話をさせて頂いております」
「はは、君も大変だな……俺みたいな屑に仕えるなんて……」
「そんな事はありません!」
「!?」
意外にも彼女に怒られた。
その否定の言葉が何故か凄く嬉しかった。
「小さい頃……ショーマ様に一度だけ褒められたのです……【お前は体が丈夫だな……よし、今後一生俺の盾になって俺を守れよ!】と……」
…………はい?
「いや……それ褒めてないと思うよ……」
「そんな筈はありません! ちゃんと体が丈夫だって褒めてるじゃないですか!」
あれ?
この子、もしかして……おバカさん、なのかな?
『ふふ、彼女は自分の境遇を卑下していなかった……』
『俺の奴隷である事に誇りを持って生きていた……』
『俺には勿体ない女性だった……』
『本当に……』
『勿体ない女性だった……』
「あ、そういえば……君の名前まだ知らないや……」
「あ、そうでした!」
彼女は少しだけ改まると、咳払いを1つした。
「私の名前はリーナ。【リーナ・サタン】です、ショーマ様。種族は魔人族で、ショーマ様の盾であり、奴隷です」
彼女は誇らしげに名乗っていた。
『それが……』
『彼女、リーナとの出会いだった……』
『運命の出会いだった……』