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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第九章【王国】
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日記とショーマ・前


二話同時投稿します。




『気付くと俺は見知らぬ土地にいた』



「う……こ、ここは……?」


 確か……妹と口論になってそれで……っ!?

 そうだ!!



「とも……っ!?」


 勢いよく起き上がると、俺は我が目を疑った。

 隣で倒れていた筈の妹の姿はない。

 おまけに今いる場所は、家でもなく、病院でもなく……

 まるで放り捨てられた様に、綺麗で広大な平原にいた。



「な、なんで……?」


 アフリカ……?

 いやいや、そんな筈はない……

 でも……だったらここは……一体どこなんだ?

 日本にこんな所があるとは到底思えない……



 俺はゆっくりと起き上がった。



「痛っ…………くない?」


 さっきまであんなに頭痛がして意識が朦朧としていたのに、嘘のように痛みがなかった。

 それに、こころなしか体も軽い……



「!?」


 バ、バカな……

 更に我が目を疑った。


 あんなに出ていた腹が無い……だと?

 ダルダルの脂肪の塊が綺麗さっぱり無くなっていた。

 寧ろ引き締まって、格好いい部類の体型だった。


 着ている服は、ゲームの初期装備みたいな服。

 心臓を守るくらいの大きさの胸当て。

 そして指には、綺麗な指輪が3つ嵌められていた。




『現状が把握出来ないまま俺は……少しでも情報を得ようと宛もなく歩き出すことにした』



「と、兎に角……誰か人に……」


 焦っていたが、同時にもしかして……とも感じている。

 まるで小説の様な……

 まさか、な……



『1時間くらい経った頃……俺は街を発見した』

『この街こそ、俺の運命を変えた街……王都クラフトリア』


『街に近づくと、鎧を着た門番がいた』

『マジで武装しているので、恐くてたまらなかった……』

『今でこそ、英雄の父とか言われているが……この時は恐くて恐くてたまらなかったのを覚えている(笑)』



「あ、あの~すみません……」


 俺は勇気を振り絞って門番に近づき話しかけた。



「ん? おお~帰ったか! あまりに遅いから心配したぞ!」


 門番さんは気さくな人だった。

 ん?

 もしかして、知り合いか?



「えっと……あの……」

「どうした? 目的の魔物は倒せなかったのか?」


 いっ!?

 ま、魔物……?

 この人、何言ってんだ?



「そ、それが……寝ててすっかり……」


 俺は適当に話を合わせることにした。



「ん、そうなのか? そんなんでこの先やっていけんのか? 聞いてるぞ、勘当されたってな」


 勘当?

 なんの話だ?



『その時の俺には、門番の話している内容の意味が分からなかった』



『門番と少し話をしていて、俺の考えは確信へと至った……』

『間違いない……』

『俄には信じられなかった……』

『だが……』

『見知らぬ土地、見知らぬ街、見知らぬ人、魔物という単語、そして……』

『俺じゃない俺……』


『そう……』

『俺は異世界に転生したのだと……』



 オタク知識様様だが、受け入れ難い事実だった。






「まぁ兎に角、めげずに頑張れよ……おっと、後、酒場のオヤジに依頼失敗の報告しにいけよ」


「あ、ああ……そうするよ」




『門番との会話が終わると、俺は取り敢えず街に入る事にした……』

『そこでも俺は戸惑いを隠せずにいた……』

『ゲームのような世界……街……』

『人の着ている服も……見慣れてるような、見慣れない様な感覚だった』




「ゲームかよ…………と、取り敢えず酒場は……」


 酒場を探しながら真っ直ぐに進み、大広場に辿り着いた。



「あれ?」


 酒場らしき建物は見当たらなかった。

 俺から見て、東にも西にもまだ建物があり、どっちに行けばいいかも分からなかった。

 おまけに、北の方角にはお城まで見える……



「ま、まじで……ほ、本当に……?」


 疑心暗鬼だったが、もはや疑う余地もなかった。

 俺はラノベみたく、異世界に来てしまったのだ……



「マジかよ……どうすりゃいいんだ……」


 こんな時普通なら、お姫様か女神様が現れる筈では……?

 貴方を勇者召喚しました……とかさ。




『今で言う【大広場】で途方にくれ、項垂れていたら、突如声をかけられた』

『今の俺を知る人物だった』


『それが、俺の運命の出会いだった……』




「お帰りなさいませ、ご主人様」


 ?

 誰?



「帰りが遅かったので心配しましたよ」


 黒髪の女性だった。

 ただ……

 彼女は……



「えっと……何かのコスプレ?」


 思わず口に出してしまった。

 でも仕方ない……

 だって彼女の頭には角があり、腰ぐらいの位置には羽があり、お尻からは尻尾が生えていたのだから。



「何を仰っているのですか、ご主人様?」

「はい? ご主人様?」


 彼女は首を傾げているが、俺の方がもっと首を傾げた。

 訳が分からない……



「ま、まさか……私をお捨てになるおつもりですかご主人様!?」


 彼女はいきなし、勢いよく俺にしがみついてきた。



「ごふっ!?」


 なんて突進だ。

 俺は押し倒されてしまった。



「な、何だいきなり!?」

「私をお捨てにならないで下さい、ご主人様!!」


 ごはっ!

 こ、殺される!

 なんて力で締め上げてくるんだ、この子!

 や、やばい……

 と、取り敢えず……



「わ、分かった……す、捨てないから……だから……は、放してくれ……し、死ぬ…………」

「っ!? も、申し訳ありませんご主人様!」



 彼女は勢いよく俺から離れた。

 本当に死ぬかと思った……



「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」


 咳き込んでいると、彼女は背中を擦ってくれた。

 顔が近い……

 よく見たらかなりの美人さんだった。

 てか、なんかいい匂いもする……



「ん?」


 美人さんなのだが、変だ……

 彼女の着ている服は、お世辞にも良いものではない。

 ここに来るまでに街の中を行き来していた人達と比べても、かなり粗末なものだった。

 所々破れていたり、ほつれていたり……


 髪はボサボサで、肌も汚れて、おまけに傷だらけ……

 ボロボロだった……



「て、傷っ!?」


 彼女の額からはうっすらと血が流れていた。

 他にも、既に血の痕が乾いてる箇所もあった。

 一体いつから……



「ああ、大丈夫ですよ」

「いや、大丈夫じゃないだろ……」


 彼女はあっけらかんと答えた。



「なんで、手当てしないんだ……?」

「…………ですが、ここで待っている様に命じられたのはご主人様ですよ?」



 はい?

 俺が?

 いやいや、そんな筈は……

 そうか、この体の持ち主か……


 彼女はマジで不思議そうな瞳で、こちらを見つめている。



「にしても、なんでこんなに傷だらけなんだよ……」

「? それはここで待っている間に、人間達から石を投げられたりしたからです」



 は?

 なんだって?



「なんで逃げなかったんだ?」

「……それは、ご主人様が依頼をこなす間、私をここで待たせて、依頼から帰って来た後、痛め付けられた私を見て楽しむためでは?」



 どんな下衆だよ……

 それに、何なんだこの子……

 痛め付けられて、放置されていたのに、俺?の事をご主人様って……


 ん?



「も、もしかして……君は……俺の、奴隷……とか?」

「今更何を仰っているのですかご主人様? 私はご主人様に買われた日からずっとご主人様の奴隷ですよ?」



 マジかよ……

 嘘だろ……

 本当にあるんだ……

 奴隷って……




『彼女は俺の奴隷だった……』

『出会った時の彼女はボロボロの衣服を、腰に紐を巻いてベルト代りにしていた……』

『いや、服と呼べる代物ではなかった……』


『彼女の綺麗な黒髪はボサボサで、肌も荒れ、傷だらけだった……』

『首には、首輪の神器がされていた……』




「えっと……」


 俺は言葉を詰まらせた。

 なんて説明するか……

 俺は別人です……とか?

 いやいや、門番も俺の事を知っていたみたいだし、知りませんじゃ通用しないだろう……


 それに勘だけど……

 こういう奴隷って、ご主人様を間違えたりとかしないのでは?

 多分、人違いではなく、本当に俺の奴隷なんだ……


 でも俺はこの子の事を何も知らない……

 そうだ!



『俺は記憶を無くしたのだと彼女に伝えた』

『気づいたら草原で寝ていたのだと……』

『これなら色々と都合がいい気がした』


『だが彼女は疑いの眼差しを向けていた』

『本当に何も知らないのだと、何度も何度も伝えた』

『必死さが伝わったのか、彼女は徐々に納得し始めた』




「では、本当に何も覚えておられないのですね……」

「ああ、そうなんだ。ごめんね……」



 会話が途切れて、重たい空気が流れる。



「分かりました……ですが、記憶がなくなってもご主人様はご主人様です! 私がご主人様にお仕えするという事に変わりはありません!」


 わーお……

 すげぇなこの子……

 なんて奴隷根性だ……

 てか、寧ろさっきより活き活きとしてる気がする。



「では僭越ながら……私がご主人様のステータスをお教えしましょう」


 ん?

 ステータス?



「ご主人様のお名前は、【ショーマ・ハラーマ】様。この国に代々仕える名門貴族、ハラーマ家の五男で…………失礼なのですが、先日……お屋敷を勘当させらてしまいました……」


 あ、ステータスってそういう事ね。

 てっきりゲームみたいなステータスかと思った。


 て、あれ?

 貴族……?

 勘、当……?



『彼女は凄く申し訳なさそうに俺の事を教えてくれた』

『ふふ、今でもあの時のやり取りが思い出される……』


『ショーマ・ハラーマ』

『ホウライ王国、名門貴族ハラーマ家の五男……だった……』

『庶民を馬鹿にしていた屑野郎……』

『親の金を使いたい放題の屑野郎……』

『お城に仕えず、家で女を(はべ)らせていた屑野郎……』

『兄弟に勘当させられた屑野郎……』

『所持品は、家から盗んだ神器3つと僅かな路銀とこの子だけ……』

『今でいうギルドの前身、街の酒場に時折来る依頼をなんとかこなして生活していた』


『それが転生時の俺のステータスだった……』





「マジかよ……どんな屑なんだよ俺……」


「そ、そんな事は……」



 そもそもこんな俺になんで奴隷なんか買えたんだ?

 しかも、話を聞く限り俺は相当な屑だ……

 金がないなら真っ先にこの子を売りそうだけど……


 やはり……この子の体が目当てなのか……?

 痩せ細っているが、出ているところは出ている……

 


「私は小さい頃にハラーマ家に買い取られ、以来、ずっとショーマ様のお世話をさせて頂いております」

「はは、君も大変だな……俺みたいな屑に仕えるなんて……」


「そんな事はありません!」

「!?」


 意外にも彼女に怒られた。

 その否定の言葉が何故か凄く嬉しかった。



「小さい頃……ショーマ様に一度だけ褒められたのです……【お前は体が丈夫だな……よし、今後一生俺の盾になって俺を守れよ!】と……」



 …………はい?



「いや……それ褒めてないと思うよ……」

「そんな筈はありません! ちゃんと体が丈夫だって褒めてるじゃないですか!」



 あれ?

 この子、もしかして……おバカさん、なのかな?




『ふふ、彼女は自分の境遇を卑下していなかった……』

『俺の奴隷である事に誇りを持って生きていた……』

『俺には勿体ない女性だった……』

『本当に……』

『勿体ない女性だった……』




「あ、そういえば……君の名前まだ知らないや……」

「あ、そうでした!」


 彼女は少しだけ改まると、咳払いを1つした。



「私の名前はリーナ。【リーナ・サタン】です、ショーマ様。種族は魔人族で、ショーマ様の盾であり、奴隷です」


 彼女は誇らしげに名乗っていた。



『それが……』

『彼女、リーナとの出会いだった……』


『運命の出会いだった……』



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