狂気と合成
「初めましてジオ王子。私は堕天族の……」
目の前に立つ女性に心奪われた。
名乗っているが、もはや耳に入ってこない。
綺麗で美しく、奴隷なのに凛としていた。
ホウライ王国は魔族博愛主義だ。
奴隷制度は昔からあるが名ばかりの制度であった。
それは英祖ショーマの時代で一気に緩和したからだ。
魔族の為に戦い、魔族とパーティーを組み、魔族を側室に迎える等、魔族と共に歩んできたからだ。
ショーマがホウライ王国の王女と結婚しても、それは変わらなかった。
寧ろ正室である王女の方が魔族のための政策を執り行ったと歴史の書にも記されていた。
それでも時たま、身売りされる魔族や、彼女の様に奉仕に来る魔族はいる。
一目惚れだった。
俺には彼女が神に見えた。
この世界唯一の神アルカ……きっとアルカ様は彼女の様な姿をしているのではなかろうか……そう思わずにはいられなかった。
直ぐに彼女を傍に置かせた。
直ぐに彼女を愛でた。
彼女も嫌がる様子はなかった。
幸せだった……
だが……
直ぐに飽きた……
そして暫くすると、また同じような出会いをした。
今度は綺麗な指をした女性だった。
また同じ様に愛でた。
そして……
また飽きた……
彼女らを嫌いになった訳ではない……
寧ろ好きな気持ちに変わりはない……
だが何故か、そう思った瞬間から彼女らを抱くことは無くなった。
そんなある日だった。
俺は気づいた。
何故、彼女の指は彼女の指ではないのだ?
もしそうなら今よりもっと美しいのに……
そんな衝動を抑えることが出来なかった。
俺は嫌がる彼女らの腕を切り落し交換した。
言葉が出てこなかった……
なんと美しいのかと……
血に濡れる彼女は涙し嗚咽し地面を這いずる。
それでも美しかった。
余った方に興味はなかった。
泣き叫ぶが耳障りで仕方なかった。
直ぐに棄てた。
俺は彼女を愛でた。
愛でて、愛でて、愛でて、愛でて、愛でて、愛でて、愛でた。
恐怖で竦む表情も唆られた。
幾ら愛でても飽き足りなかった。
これだと直ぐに気づいた。
その瞬間目覚めた。
神の腕と呼ばれるスキル【合成】に目覚めた。
俺は悟った!
これが俺の宿命なのだと!
アルカ様が俺にそうしろと命じたのだと!
スキル王気も目覚めた!
<解放>になる事なく、一気に<覚醒>へと至った!
王になるべくしてなったのだと!
それから王都、王国に住まう魔族を集めた。
献上する貴族共には適当な褒美をとらせた。
だがそう上手くはいかなかった……
合成する毎に彼女は次第に劣化していった。
そして遂にただの肉の塊と化した。
また棄てた……
違ったのだ……
美しいだけでは駄目なのだ……
体には相性も必要だし、何より合成に耐えられる程の強い体でなくては……
そんな時に噂を耳にした。
アーク帝国領にある機械国に絶世の美女アリス・ベルフェゴールという女性がいる事を。
美しさは定かではないが、強い肉体である事に間違いはない。
実力主義であるアーク帝国の皇子が愛でる程らしいからな。
直ぐに命令した。
アリスを連れてくるように。
俺の剣の指南役でもあり、ギルド【風林火山陰雷】の【風のクウマ】と呼ばれる四傑に……
特に興味はなかったが、何となく違和感は感じていた。
最近どうも様子がおかしい事に。
だがどうでもいい……
俺の興味は魔族だけだ。
失態だった……
あのクウマが俺の命に逆らってアリスを殺したのだ……
とんだ誤算だった……
しかも当の本人はギルドを追放させたのに悪びれた様子もない。
本当に人が変わった様だった。
俺は【塔】を建造し、暫しの間クウマを監禁させた。
四傑さえも監禁させる俺に誰もが恐怖した。
これで逆らう奴等はいなくなるだろう。
だが俺の魔族集めは滞った……
帝国のアーサー皇子の、機械国アトラスの怒りを買った為だ。
奴等はことある毎に王国を攻めてくる。
面倒だった……
もっとだ、もっと魔族を集めなくては!
貴族共に命令し更に集めさせた。
なのに……
今度はスレイヤ神国が宣戦してきた。
魔族迫害を掲げる国だったが、ある日を境に迫害は抹殺へと変わった。
信じられん暴挙だった。
滅ぼすか……?
いや、面倒だ……
それに、いらないのだったら貰えばいいだけだ。
貴族共を使ってあちらの魔族を横流ししてもらえばいい。
「ジオ、最近魔族を集めているそうだな……あまり良い噂を聞かぬが……」
「余に構うなエンマ、それよりもっと魔族を保護しろ……スレイヤ神国の行動は目に余る。余の元に魔族を集めろ」
魔族を保護する為に奴隷売買にエンマを一枚かませた。
しかし次第にエンマは口答えしてくる様になった。
本当に面倒だ……
力だけ受け継がれた穢らわしい血が……
真の王に逆らうとは……
面倒だが、もっと慎重に事を運ぶか……
俺はオークションで魔族を扱うように命じた。
秘密裏に貴族共から魔族を買った。
効率は悪いが集まりはそれほど悪くない。
後は邪魔な四傑共を適当に国境や各地に配備させておけばいい。
時間はかかるが、問題ない。
問題ない筈だった……
ある日、大臣でもある貴族共が妻を娶れと言ってきた。
その伴侶を創っているのに……邪魔な奴等だった。
貴様らの中古を買ってやってるのは誰だと思っている。
面倒な奴らだ。
今後一切口を出さないのを条件に、人間から妻を選出した。
四傑の守護神、ミランダと呼ばれる幼い女だ。
あの老いぼれ、守護神トーマスの弟子で優秀だそうだ。
大臣共も満足している様だった……
どうでもいい……
本当に面倒だ……
そしてナンバーと名付けてから46人目……
遂に成功すると確信に至った。
彼女は突如【神眼】に目覚めた。
ステータスが視れないが、古い文献にある【金色に輝く瞳】に間違いない。
やはり俺は正しかった。
あと少しだ……
「お、王よ……民は重い税に苦しんでおられます……どうか、どうかお慈悲を……」
「黙っておれミランダ、余に逆らうのか?」
「そ、そのような……」
「煩い奴だ……そこまで民を想うのなら【塔】で祈っておるがいい!」
「ジオ王っ!?」
「王に逆らいし逆臣として、民を見捨てた王妃として、その地位を剥奪するぞ!」
「……も、申し訳、ありません……」
クウマは政……
ミロクは国境……
エンマは魔物討伐……
ミランダは塔……
貴族共も口出しできぬ……
あと少しだ……
あと少しで……
あと少しで完成する!
俺の最高傑作が!!
人が神を創るのだ!!
もう誰にも邪魔はさせーー
◆
気づくと俺は殴り飛ばされていた。