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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第八章【闘王祭】
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王都と嘔吐



「ま、間違いない……これは、イカルガの神器だ……」



 サクヤさんは震える手で【神鳴】を見つめる。

 何度も何度も、神鳴を隅々まで確認する。



「これをどこで……?」



 俺は説明した。

 昨年……帝国と神国の中間辺りに位置する【城の迷宮】にて、羅刹と夜叉の【鬼種】が持っていたことを。

 そして、その後は俺が使用していたことを。


 ついでに全部説明した。

 俺の事も、レイナの事も……


 話終えた後、3人は唖然としていた。

 信じ難いのか、直ぐには飲み込めなかった。



 長い沈黙を破ったのはサクヤさんだった。



「…………ありがとう」

 サクヤさんは小さく呟くと、神鳴をギュッと抱き締めた。


「サクヤさん?」


「2人のお陰だ……またこうしてイカルガに会えた……」

 サクヤさんは泣き崩れた。



 キョウとユイがサクヤさんの傍によると、言葉は発さずに俺とレイナに向けて首を横に振った。

 それを見て、レイナは俺の肩に手を添えた。


 コクリと頷いてから、俺とレイナは3人を残してギルド本部を後にした。






 ギルド本部を出た俺とレイナは暫く王都を散歩した。

 夜風は冷たく、外灯や家の中の灯はどこもまだ点いていた。


 真っ直ぐ西に向かって歩き、王都の中央辺りの【大広場】まで出た。


 闘王祭後でまだ皆騒いでいるかと思ったが、意外にも静かだった。



「これからどうしますか竜斗様?」



 レイナのこの問いは今すぐの事ではなく、これから先の事を聞いているのだと分かった。

 俺は少しだけ思案してから口を開いた。



「そうだな……取り敢えずはまだ王国にいるつもり。ガルデアとフィラと話す事や聞きたい事があるし」

「そうでしたね」


「それに……」

「それに?」


「まだ何も解決してない」


「?」

 レイナは僅かに首を傾げた。


「俺は……この国の王様に会わなくちゃいけない」

「…………それは、魔族の事ですか?」


 レイナも薄々気付いてたみたいだ。



「この国、ホウライ王国は一見華やかに見えるかもしれないけど、多分それはこの王都だけだ」

「そうですね」


「地方に派遣されてるギルドは沢山あるし、奴隷についても調べないと」

「…………やはりオークションですかね?」


 俺は頷いた。


「ああ。リリスとアザゼルがなんで逃げ出したかだ。二人共最初は人間である俺を怖れてた。きっと余程の事があったんだ。出会った時なんか凄く痛め付けられた痕があったし……」

「表向きは魔族博愛を掲げ、裏では奴隷としていた……という事ですね」


 俺はまた頷いた。



「きっと全て、この国の王様に原因があるように思う」

「……分かりました。私は竜斗様についていきます」


 レイナはニコリと微笑んだ。



「でも、どうやって会うかだな……」

「そうですね……ミロクさんやトーマス様に取り計らって貰いますか?」

「そうだな……いてっ!?」



 レイナとどうするか悩んでいたら、突如、誰かがぶつかってきた。

 割りと広い場所で話していたのに、何故ぶつかってくる?

 ぶつかった相手は、その場で尻餅を着いていた。

 小汚ないフードとマントを被っており、誰かは分からなかった。



「す、すみません……!」

 今まで聞いた事の無いような透き通る女性の声だった。

 女性は慌てているのか急いで立ち上がる。


「ほ、本当にすみませんでした……!」

 女性は逃げるようにしてその場から立ち去っていった。


 俺とレイナはそれを黙って見送った。



「……凄く綺麗な声でしたね?」

「…………」

「竜斗様?」

「…………気持ち、悪い」


 俺は吐き出しそうになって手で口を押さえた。

 やばい……

 食べ過ぎたかも……


 そんな俺の背中を、レイナは優しく擦ってくれた。

 本当に申し訳ない。



 すると、先程女性が来た方向から今度は何人かの兵士達が走ってきた。



「おい、アンタ達! さっきここにフードを被った女が来なかったか!」

「汚い格好で……って、天剣と拳姫!?」

「うおっ、マジか!?」

「す、すげぇ……」

「と、闘王祭観ました! 俺、めっちゃ感動しました!」



 俺はレイナに背中を擦られながら兵士達を見つめた。

 何?

 こっちは吐きそうなんだけど……



「て、おい! そんな事より!」

「あ、そうだった!」

「す、すみません……さっきこっちに女性が来ませんでしたか?」



 ん?

 もしかしてこれは……テンプレの予感か!

 どうするか……態度が悪かったら教えないが、割りと良い奴らっぽいしな……

 でも、さっきの女性が逃げるとか訳ありっぽいな……

 どうする……

 う……そんな事より吐きそう……



「もしかして、凄く綺麗な声の方ですか?」

 俺が吐き気と戦っている中、レイナが兵士達に尋ねた。


「そ、そうです!」

「見たんですか!?」


 兵士達は食い気味にレイナに尋ねる。



「その方で合っているかは知りませんが、先程ここを通ってあちらに走っていきましたよ」

 レイナは女性が走り去った方向とは逆を指差す。


「ほ、本当ですか!」

「すみません!」

「助かりました!」



 兵士達は物凄く感謝しながらレイナが指差す方向へ走っていった。




「…………なんだか、悪いことをした気が……」

 兵士達が良い奴らだったからか、レイナは罪悪感を感じたようだ。


「いや、いいと思うよ。俺もレイナと同じことをしたと思う」

「ですが、何だったのでしょう……?」


「さあ……う、おえぇぇ……」


 遂に吐いてしまった……

 婚約者の前で……

 最悪だ……



「よしよし」

 レイナは優しく背中を擦り続けてくれた。


ごべん(ごめん)……」




 こうして俺とレイナの闘王祭は、俺が嘔吐するという結果で幕を閉じた……





申し訳ありません。

やはり今回までを【闘王祭編】にします。

次話より、新章【王国編】にします。

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